Big Talk

緊密な日米関係が東アジアの平和を築くVol.311[2017年6月号]

OBISCO アソシエイツ社 マネージングディレクター ジョー・オブライエン
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APAグループ代表 元谷外志雄

OBISCOアソシエイツ社のマネージングディレクターとしてアーカンソー州リトルロックを拠点に活動する国際経営コンサルタントのジョー・オブライエン氏。APAグループ代表の元谷外志雄が同氏とトランプ大統領を誕生させたアメリカの現状、今後の東アジア情勢の展望などについて語り合いました。
ジョー・オブライエン氏

アーカンソー州リトルロックに本拠を置くOBISCOアソシエイツ社のマネージングディレクター。同社は地政学的関係についての戦略分析を提供し、アメリカ国外に進出するクライアントに助言を行っている。同氏はヴァンダービルト大学で歴史経済学の学士号を、アラバマ大学ではMBAを優等学位で取得。著書も出版されており、過去にはワシントンD.C.に本部を置く国際フランチャイズ協会のサプライヤー部門トップも務める。企業での職歴としてはTCBYインターナショナルでマネージングディレクターも務め、TCBYジャパンの役員として台湾、シンガポール、タイおよびマレーシアでの事業展開も統括。コンサルタントとしては多くの日本企業を顧客に持ち、政府関係の仕事も行う。

トランプの支持率上昇は
景気上昇のための公約に
懸かっている

元谷 ビッグトークへのご登場、ありがとうございます。以前お会いしたのは、アメリカ大統領選挙の最中で、トランプ氏かクリントン氏かまだわからない時でした。私はトランプ氏だと予想していましたが、オブライエンさんはヒラリー・クリントン氏の友人ということもあって、彼女が勝つと予想していましたね。

オブライエン 代表との賭けに負けました(笑)。ヒラリーさんも私もアーカンソー州出身なので、私の選挙予想はヒラリーさん寄りに偏ってしまったようです。

元谷 ヒラリーさんとは長いお付き合いなのですか?

オブライエン 一九八五年からです。日本への事業進出を検討しており、それに際して商標保護の必要がありました。その時にまだ若かったヒラリーさんを商標担当の弁護士として雇ったのです。お堅く気難しいイメージもある彼女ですが、実際は顧客思いのプロの弁護士でした。

元谷 オバマ大統領が、アメリカは世界の警察官の役割を放棄すると宣言したことで、世界中が混乱に陥りました。今や世界は新帝国主義とも言える、力が支配する状況になってきています。こんな時代だからこそ、私はアメリカの人々は強い大統領を求めると考えたのです。それにマッチしたのは、共和党のトランプ大統領でした。

オブライエン オバマ大統領は善かれと思ってそうしたのだと思いますが、彼のグローバルダイナミクスへの見通しは甘く、近視眼的でした。ご指摘の通り、今日の国際問題において出し抜かれないようにするためには、強いというイメージを与えることが必要になります。ヒラリーさんの敗因は、①オバマ政治への幻滅、②雇用の海外への流出における多くの有権者の不満、③政治的正当性の過度の強調、そして④多くの有権者と心が通じ合っていなかった点などにあります。

元谷 またトランプ大統領は選挙資金の多くを自分で賄いました。限りある資金でどうやったら勝てるか。そこで考えたのが、暴言を吐くことでニュースになり、知名度を上げるという戦略だったのです。

オブライエン その通り。最初は自己資金で賄いましたが、支持が伸びるにつれ国民や経済界から多額の寄付も得られました。

元谷 またトランプ大統領は総得票数ではなく州ごとに選挙人を獲得するという選挙システムを熟知しており、接戦州にその力を集中しました。結果、総得票数ではヒラリーさんに負けましたが、獲得選挙人数で勝ったのです。

オブライエン ヒラリー支持は東海岸や西海岸が中心でした。接戦となったのは特にウィスコンシンやオハイオ、ミシガンそしてペンシルベニアといった通称「フライオーバーステート(飛行機で飛び越えてしまう州)」と呼ばれるニューヨークとカリフォルニアの間に位置するエリアです。これらの州をトランプ大統領は重視しました。

元谷 ‘Make America Great Again’という選挙スローガンを繰り返すことも効果的で、この言葉がグローバリズムやネット社会に取り残された人々の心を掴みました。トランプ大統領の次の目標は、再選されることです。そのためにも、選挙運動中に暴言と共に公言した公約を破棄するわけにはいきません。可能か不可能かとは別に、就任百日間は公約を実現する努力をする必要があると考え、就任直後に大統領令を連発したのです。しかし就任からまもなく百日が経過します。支持率も低下していますし、もうそろそろ現実路線に変わるタイミングではないでしょうか。

オブライエン ビル・クリントン大統領も就任百日間で支持率が大幅にダウンしました。雇用や経済の問題よりも、軍隊や社会全体における性差別の問題や、国レベルでの医療制度改革といった社会政策の変革に集中したためです。トランプ大統領の出だしも非常に困難なものとなりましたが、その理由としては、①公職未経験による不慣れさ、②ワシントンの政府職員や、ニューヨーク・タイムズおよびワシントン・ポストといったメディアによる極端な偏見、そして③彼自身の一貫性の欠如と政策への知識不足という三点が挙げられます。税制改革やインフラ改善といった人気のある政策を実行することで、支持率は盛り返すことができると思われます。ターニングポイントは、いかに雇用情勢の見通しを改善できるかでしょう。

元谷 私はトランプ大統領の頭にあるのは、大軍拡によってソ連を軍拡競争から脱落させ、冷戦を終結に導いたレーガン大統領だと見ています。同じように軍拡を行うことで、共産党一党独裁の中国を崩壊させようとしているのではないでしょうか。オバマ政権では年間五兆円の軍事予算の縮小を行い、手薄になったエリアに中国が進出してきました。

オブライエン 税制改革や、政府支出よりも民間部門に重きを置いた点でレーガン政権と共通点はあります。おっしゃる通りで、オバマ政権は中国と対峙することなく、中国に南シナ海への進出を許してしまいました。ソ連に終焉をもたらしたレーガンの政策とは違い、好むと好まざるとにかかわらず、中国を無視することはできないでしょう。

元谷 この状況を是正しようとするトランプ大統領は正しいと思います。力のバランスが平和をもたらすのであって、これが崩れると戦争になるのです。トランプ大統領に二期八年の任期があるとして、安倍首相の三期九年の任期と重なるこれからの四年間で日米関係をより緊密にし、日本もアメリカと協力すべく憲法改正を行って、真っ当に軍事的負担を担える国になるべきです。これからを非常に期待しているのですが、トランプ大統領の支持率は低下気味で、一時的なトランプ景気も終焉したのか株も反落しています。先程オブライエンさんも指摘した通り、今の世界ではどの国のトップも自国の景気を良くしないと支持率は上がりません。

オブライエン オバマ政権の八年間で経済成長率は年二〜三%と悪くはなかったですが、三%を超えたことはありませんでした。最低三%を超えるというのがトランプ大統領の公約で、目標は五%だと言及しています。株式市場は長期的には常に上昇傾向で変動するものですが、トランプ政権の最初の六十日間ですでに史上最高値を更新しました。日米軍事同盟の構成内容については、日本の憲法解釈を見直すのに時宜を得ていると言えるでしょう。

元谷 一番簡単な需要の創出は軍事費の拡大です。トランプ大統領はすでに六兆円軍事費を増加する方針を打ち出しています。重要なのは戦争にならないよう、相手国が邪心を起こしたり、逆に極端に怯えたりしないようバランスを維持した軍拡を行うことです。

オブライエン バランスの必要性については全く同感です。同時に、軍事費の拡大は軍事力を通じた平和維持のためにあるべきで、景気対策のためであってはなりません。

アパホテルを攻撃したのは
中国政府と日本のメディア

元谷 冷戦時には東西陣営ともお互い犯し難い力のバランスと緊張感があったので、平和が保たれました。しかしオバマ大統領の八年間に亘る弱腰外交で、中国はすっかり拡大意欲の権化となってしまいました。そんな中、もしヒラリー・クリントン大統領が誕生していれば、ビル・クリントン大統領時代と同様にジャパンパッシング(日本外し)が行われ、日本にとって非常に不利な展開になったでしょう。日本が攻撃されたらアメリカは日本を守るのに、その逆がないのはおかしいと主張するトランプ大統領がせっかく誕生したのですから、日米安保条約を双務的にするべく憲法改正を行い、攻撃的な兵器も配備することです。専守防衛では日本は守れません。

オブライエン クリントン大統領とオバマ大統領の外交政策について他の国々がどう思っていたかは分かりませんが、日米関係は良好であったとアメリカ国内では捉えられています。事実、アーカンソー州は全米最大のコメの産出州ですが、クリントン大統領は日本の神聖なコメ市場を無理やり開放させようとはしませんでした。日本の憲法に関する限り、もし中国の脅威がますます拡大し、そして北朝鮮との関係も過去三十年間で最も緊張している状況にあるのであれば、軍事条項が見直される必要はあると考えます。

元谷 そもそも世界に専守防衛などという軍事理論はありません。日本の憲法はアメリカ占領軍(GHQ)が作り、その後日本の左翼勢力が守り続けてきたもので、日本国民に対する欺瞞です。これを打破するためにも、トランプ大統領と安倍首相によって日米関係が緊密な状態にある間に、憲法改正を行うべきなのです。

オブライエン 二人の関係のモデルは、1980年代に「ロン・ヤス」とファーストネームで呼び合うほど親密だったレーガン大統領と中曽根康弘首相の関係に似るべく進化するかもしれませんね。

元谷 ミサイル防衛システムをどれだけ整備しても、飽和戦略として同時に多くのミサイルを発射された場合には、全てを迎撃することは不可能です。弾道弾を迎撃システムだけで防ぐという考え方は、軍事戦略的にはないのです。あるのは、やられたらやりかえす力を持つことで、抑止力を備えること。この「やりかえす力」=敵基地攻撃能力の議論がようやく国会でも行われ始めました。巡航ミサイルや爆撃機などの兵器を持たないと、第一波攻撃に続いて、第二波、第三波とやられっぱなしになりますから。

オブライエン 日本はミサイル攻撃に備え、より高い自衛能力を有するべきではないでしょうか。国際的に孤立している北朝鮮の予測不可能かつ一見して理不尽な態度を見れば、この点は特に時宜にかなっています。

元谷 将来的に日米安保を双務的にするのであれば、その通りだと思います。私は常にこういった論調でこのApple Townのエッセイを執筆しているのですが、その結果中国政府から名指しで批判されることになりました。その書籍騒動のおかげで、世界中にアパホテルの名前が広がりました。

オブライエン ウォール・ストリート・ジャーナルでも記事を読みました。中国政府がアパホテルの営業を妨害するような行為に出たのに対して、代表が一歩も引かなかったことを称賛します。

元谷 むしろ中国政府はこれで南京大虐殺カードが使えなくなりました。私の主張に間違いがあれば指摘せよと言ったのに、何の回答もなかったのですから。

オブライエン 自民族中心主義的な中国人からのクレームには、強い態度で臨むのが唯一の対処法です。

元谷 はい、それを実行しました。また中国だけではなく、日本メディアからもなぜ問題の書籍を撤去しないのかと攻撃されました。「日本人の敵は日本人」とはこのことです。

オブライエン コアな価値観について政治的影響力に妥協しないのは、トランプ大統領と代表の共通点ですね(笑)。

元谷 同業者ですから(笑)。

金正恩排除のために
米中で密約が交わされた

元谷 この騒動で「理論近現代史学」が増補版の新しい本として、扶桑社から上梓されることになりました。写真などを交えて事実を示しながら、張作霖爆殺事件が河本大佐の仕業ではなくソ連の特務機関の犯行であることや、南京大虐殺が全くの虚構であることの決定打とも言える東京裁判で南京大虐殺が南京攻略から四十四日と言われていたまさにその時期に撮影された東宝の戦線後方記録映画「南京1938年」に南京の和やかな風物に市内に貼り出された国府軍による漢奸狩りポスターに「漢奸狩り働いた者は、許すことなく殺してしまえ」や「漢奸を検挙しろ 法令を守らなくてよい 騒乱を起こせ」等が書かれていて、一日数千人が処刑されたとあり、漢奸狩りによる民間人の大量虐殺を隠すために便衣兵の処刑ストーリーに手を加えて作られたのが南京大虐殺説であると論理的に主張している。このような本当のことは、日本のマスメディアでは報道されません。それはアメリカ占領軍が作った新聞編集綱領・プレスコードを、朝日新聞が番人となって、メディア各社に今でも守らせているからです。だからどうしても左翼的になってしまう。

オブライエン 私は代表ほど南京事件について深く知りませんので、この件についての発言は差し控えます。現在、アメリカでもほとんどのメディアが極めて左寄りだと考えられています。トランプ大統領や彼の支持者たちは、特にそう考えているでしょう。

元谷 商業的なメディアは多くの人に観たり読んだりしてもらわなければならないのですが、圧倒的に人口が多いのは貧しい人なのです。ですから貧しい人に合わせて、メディアはどんどん左寄りになっていく。とはいえ、トランプ大統領にはFOXニュースという支援者がいました。日本でも産経新聞がなければ、メディア状況はもっと酷いことになっていたでしょう。

オブライエン 一方中国は経済の自由は認められてきましたが、政治や報道の自由はありません。

元谷 香港では書店店主が当局に拉致されて、中国政府の意向に従うと言えば釈放されるという事件がありましたね。今回のアパホテルの件は、英語での発信が原因かもしれません。またこれまで外務省が中国に対して強い態度をとってこなかったことも、原因の一つでしょう。トランプ大統領はアメリカファーストと言いますが、日本政府も役所もジャパンファーストになるべきです。

オブライエン 他国と効果的に協力していくためには「自国ファースト」の姿勢が必要だという点は、全く同感です。

元谷 日本を取り巻く状況は急激に変化しています。中国が拡大傾向を強めて海上進出を行い、北朝鮮がミサイル発射を繰り返しています。金正恩は、米韓合同軍事演習で自分を暗殺する「斬首作戦」の訓練も行われていると聞き、どうやって自分の身を守るかを懸命に考えたのでしょう。だから自分の後釜に据えられる可能性があった金正男を暗殺したのです。台湾の独立性を認めるような発言をしていたトランプ大統領ですが、二月に習近平国家主席と電話会談をした後、急に一つの中国を認めると言い出しました。トランプ大統領は習近平主席と取引をして、一つの中国を認める代わりに金正恩の排除を習近平主席に容認させたのではないでしょうか。

オブライエン 金正男の暗殺には驚きました。中国の後ろ盾で、金正恩に代って指導者に就任させるにはうってつけの人物だろうと思っていましたので。アメリカと中国の密約ですか…。石炭の輸入を止める対価として、また、金正恩に与える様々な圧力の対価として、中国は貿易規制の緩和を手にすると思います。確かに北朝鮮は、アメリカ本土に到達しうる大陸間弾道弾に核弾頭を装着しようと試みているようです。まだ成功はしていないようですが。

元谷 三月に北朝鮮が四発の弾道ミサイルを同時に発射しましたが、これは在日米軍をいつでも攻撃できるぞという脅しでしょう。オバマ政権の八年間で北朝鮮のミサイル技術は格段に進歩しました。オバマ大統領が早い段階で対処していれば、ここまでにはならなかったでしょう。

オブライエン ブッシュ(父)大統領からオバマ大統領に至るまで三十年間にわたり、アメリカは北朝鮮に対して「戦略的忍耐」と言える政策を保持してきました。この政策の背景には地上侵攻に対する韓国側の恐れや、当然ながら心配される日本へのミサイル攻撃、そして大量の北朝鮮難民の流入といった事態が一部にはありました。しかし、この政策がミサイル技術改善に必要な時間を北朝鮮に与えてしまいました。北朝鮮は現在、アメリカの衛星がミサイル発射を察知しにくくする固形燃料の開発に取り組んでいます。

元谷 ただ北朝鮮を巡る鬩ぎ合いは複雑です。二〇〇四年の北朝鮮の龍川駅での大爆発は、核開発を諦めない金正日暗殺を狙った中国の軍事委主席江沢民による工作であったとの見方もありこの列車に金正日が乗らなかったのは多分、アメリカが通信傍受し情報解析して伝えたのか、ロシアの工作員からの情報によって金正日は命拾いをしました。もし金正日が江沢民の思惑通り死んでいれば、中国軍が一気に三十八度線まで押し寄せてきた可能性が高いです。それを避けたいアメリカかロシアが、情報をリークしたのです。そもそも世界のメディアの認識が間違っていて、ロシアが一番警戒している国は中国ですし、北朝鮮が最も警戒している国も中国なのです。だから金正恩は中国とのパイプとなっていた叔父の張成沢を粛清したり、中国が自分の後釜にと温存していた金正男を殺害したのです。全ては自分を守るため。世界は陰謀や情報謀略戦で満ちているのに、知らないのは日本人だけです。この事実を伝えるために、私はこのApple Townを発行するなど、数々の言論活動を行っています。

オブライエン 世界が陰謀だらけなのは確かです。トランプ大統領も常時防弾チョッキを着用していますから。代表が仰るように東アジアには各国の思惑で陰謀が渦巻いています。だからこそ、信頼できる日本の評判が上がっているのです。トランプ大統領はTPPのような多国間交渉を廃して、一対一での交渉を行おうとしています。それは彼が歴史的な戦略家というより、むしろ実務的なビジネスマンだからでしょう。そして交渉相手として日本をアジアで一番信頼していると思います。

日本の改憲のためには
米からの圧力も必要

元谷 私はトランプ大統領の保護主義的な政策は、結局アメリカ国民に高い買い物を強いるだけだと考えています。自由貿易とは、世界の国々が自国が得意とする安くて優秀な製品・産品を取引し合うことです。そしてアメリカはその自由貿易のリーダーだったはず。安くて優秀な商品を買えなくなれば、トランプ大統領の支持率は下がります。早晩、保護主義的な政策を変更するのではないでしょうか。ただ陸続きのメキシコからは不法移民の他にも犯罪者や麻薬が流入してきています。この国に対しては、他とは区別をして厳しい対応を続けるかもしれません。

オブライエン トランプ大統領は交渉の手段として、国境税を課すという考えを持っていたことを思い起こす必要があります。日米間の経済的接続性の深淵を見る場合、日本は主に自動車工場の進出などでアメリカに二百万人分の雇用を創出している点に注目すべきです。一方で中国が創出しているのはごく僅かです。

元谷 それだけ日本の自動車メーカーはアメリカに貢献しているのですから、アメリカのメーカーとして、GMとかフォードと同列に扱って欲しいですね。またトランプ大統領はTPPからの離脱を宣言していますが、協定の名称を変えれば参加する可能性があると私は見ています。そもそもTPPは、中国に対抗する経済圏としてアメリカが提唱したものです。まず一旦アメリカ抜きでTPPをスタートさせ、再度アメリカと交渉、若干の要望を取り入れた上で、規定を少し変えて協定の名称を変えればいいのです。

オブライエン なるほど、そういう手もありますね。恐らくトランプ政権が一、二年後に安定してきた後に、TPPのコンセプトは異なる名称で復活させることができますね。

元谷 中国の経済統計は当てになりませんから、アメリカと日本の連携は、実質世界第一位と二位の経済大国の連携となります。リーマンショックの時には世界経済は中国の官需を中心とした経済成長に助けられましたが、中国の経済成長ももう限界でしょう。だから中国は軍事力を使った領域拡大を図っているのです。これを日米安保体制で封じ込めないと。また最近習近平主席は自らを指す言葉として「核心」を使っています。これまで「核心」と呼ばれていたのは、毛沢東と鄧小平だけ。これは従来の国家主席の任期十年では、その座は明け渡さないよという主張でしょう。習近平帝国時代の到来です。ただ中国指導部の多くは日本が軍事的に強くなることを望んでいると思います。日本が弱いと、国民からの圧力でやりたくない戦争を仕掛けなければならなくなるからです。

オブライエン 今日本はアメリカの核の傘の下で守られていますが、ゆくゆくはニュークリア・シェアリングが意味を持つことでしょう。

元谷 ただ今でもアメリカに核兵器を到達させることができる国に対しては、核の傘は存在しません。つまり中国とロシアに対する核の傘は無いのです。そして北朝鮮がアメリカに到達する核弾道ミサイルを開発すれば、北朝鮮に対しても無くなるでしょう。核の傘を信じて楽観主義に陥ると、三発目の核が日本に落ちることになります。本来であれば日本は独自の核武装をすべきですが、アメリカが絶対に反対します。であれば、アメリカがドイツやイタリアに認めているレンタル核であるニュークリア・シェアリングを日本も導入すべきだと、常々私は主張しているのです。日本は外圧でしか変わらない国なので、トランプ大統領には「ニュークリア・シェアリングを認めるから憲法を改正せよ」と、日本に圧力を掛けて欲しいですね。

オブライエン ドイツやイタリアとのバランスを取るべく、トランプ大統領ならそうするような気がしますね。

元谷 オブライエンさんもセミナーや講演が多いでしょうから、そういう時に、日本は憲法を改正して攻撃用兵器を備えて、ニュークリア・シェアリングを導入すべきだと言ってもらえないでしょうか。

オブライエン 私は常々、現実を考慮した多面的な視点を持つべきだと主張するようにしています。

元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしています。

オブライエン 今回の訪日では、狩猟生活を送っていた縄文時代や農耕生活を送っていた弥生時代にまで遡り、日本の歴史について深く知ることができました。長崎の出島で東洋と西洋の交流があったことや、その後のイエズス会の宣教師たちについても知りました。そして二十世紀に目をやると、神風特攻隊が出撃していった跡地である鹿屋航空基地史料館も訪れました。家族や祖国のことを考えて自らの命を犠牲にした特攻隊員たちには圧倒されました。日本の若者には二つのことを望みます。一つ目は、学校の教科書で読んだことを鵜呑みにはしないで欲しいということです。歴史の中の真実は一般的に認識されていることより深く、そして微妙なものです。色々な書物を読んで欲しいですね。神風特攻隊と徳川幕府二七〇年の安寧の間にある背景のバランスについて、自らの見解を持つようにすること。二つ目は、「出る杭は打たれる」という風習に注意しましょう。これは集団の平和にとっては良いことかもしれませんが、起業家精神やイノベーションには有害です。自らの内なる声に耳を傾けて欲しいです。周りの言うことなどに耳を貸さず、自らの夢を追求してください。アメリカの若者にも二つのことを願っています。一つ目は、iPadを脇へ置き、人と交わり、そしてより大きな社会の一員になって欲しいということ。アメリカ人の生活において一般的になってしまったアイデンティティ政治による孤立を避けるためです。二つ目は、権利は無条件で手に入るものではないということですね。アメリカは夢と勤労によって築かれた国です。夢はより良い将来のためにあるのです。権利を奪われた集団の一員であると考えてしまっては、何事も達成できません。社会や政府は「母」ではありません。若者の世話をするために存在しているのではないのです。人生においては、どんな災難が降りかかるかが重要なのではなく、その災難にどのように立ち向かうかが重要なのです。

元谷 若い人には可能性がいっぱいありますから、どんな災難が降りかかってもそれにどのように立ち向かうかが重要なのですね。今日は本当にありがとうございました。

対談日2017年4月3日