Essay

独立自衛を目指した第二の建国が始まるVol.295[2017年4月号]

藤 誠志

『本当の日本の歴史 
理論近現代史学Ⅱ』の書籍問題

 今年の1月15日に、Kat and Sidと称する、アメリカの女子学生と中国の若い男性が、アパホテルに宿泊して、客室に置いている『本当の日本の歴史 理論近現代史学Ⅱ』について、南京大虐殺や従軍慰安婦強制連行を否定する本が客室に置かれている、と紹介した動画を中国の微博でインターネットに投稿し、それが炎上しているというニュースが1月17日に報じられた。当の動画は2日間で6800万回視聴されたとされ、その後その数は1億回を超えたようである。本件について、「謝罪はしないのか」「書籍を撤去しないのか」などと、多くのメディアから問い合わせを受けたので、同日、当社の公式見解として、「国によって歴史認識や歴史教育が異なることは認識していますが、本書籍は特定の国や国民を批判することを目的としたものではなく、あくまで事実に基づいて本当の歴史を知ることを目的としたものです。したがって、異なる立場の方から批判されたことを以って、本書籍を客室から撤去することは考えておりません。日本には言論の自由が保証されており、一方的な圧力によって主張を撤回するようなことは許されてはならないと考えます。」とグループ公式サイトに掲載した。18日には中国外務省の外交部報道局副局長が、書籍に「南京大虐殺は事実に全く反する」と書いたことを、中国の観光客に対する公然とした挑発であるとアパホテルを批判し、ウォールストリートジャーナルやブルームバーグなど、海外のメディアもこの件を報じたことで、ニュースは世界的な広がりを見せた。アパホテル公式サイトは、サイバー攻撃と思われる異常なアクセスによって1月16日からダウンし、お客様には大変ご不便をお掛けしたが、旅行代理店の予約サイトからは変わらず予約ができたため、売上には全く影響が出なかったばかりか、1月の売上高も稼働率も過去最高を記録した。24日に中国国家観光局が代理店にアパとの取引中止を要請して以来、中国人団体のキャンセルはかなり出たが、アパホテルの全宿泊者に占める中国人客の割合は直近で約5%であり、しかも団体ではなくFIT(個人手配)が中心であったため、その影響は軽微で、多くの方々からの「応援宿泊」もあり、当社の業績に与える影響は小さかった。
 この騒動に関連して、これまで本社やホテルに二万件を超えるメール、FAX、電話やお手紙などでメッセージを頂き、そのほとんどが激励のコメントだったことは、日本が自虐史観の自縛から覚醒してきた証だと大変心強く感じた。その一方で、多くのメディアは、こうした日本国内の支持の声をほとんど取り上げず、中国国内での批判や中国政府の反応ばかりを報道し、あるテレビ番組では、具体的な根拠も示さず、「妄想」「歴史修正主義者」とレッテルを貼るようなコメンテーターの発言をそのまま流すなど、日本のマスメディアの偏った報道姿勢を大変残念に思った。また、2月19日から開催される冬季アジア札幌大会への対応についても、メディアに対して「2015年4月に選手村として全館貸切宿泊の打診があった段階で、代理店を通じて、口頭で、該当書籍だけではなく、客室内のすべての情報物の撤去の依頼をいただいていました」と説明し、その後、1月30日に、「大会組織委員会から代理店を通して、書面にて、客室内に設置する備品やアメニティ等についてご指定を頂きました。これを踏まえ、冬季アジア大会ご利用期間中は、ご指定頂きました物品以外の設置物を、一時的にホテルで保管することといたします」と説明したにもかかわらず、取材では「撤去」という言葉に固執し、まるで中国や韓国からの批判を受けて書籍を撤去したかのような報道が見られた。
 こうした騒動が日本で沈静化すると、今度は『Apple Town』2月号について、バンクーバーのユダヤコミュニティから反ユダヤ主義的な発言について批判を受けているといった報道がされるようになった。私は1984年にアメリカに住むユダヤ人の友人からノンリコースローンを使った不動産投資手法を学び、それが今日のアパグループの事業拡大の基盤となった。また、歴代の駐日イスラエル大使と親交があり、2012年に元駐日大使の招待でイスラエルを訪れた際には、ユダヤ民族の誇りであり、イスラエル建国の精神を象徴するマサダの砦を訪れて、そこで採取した石を持ち帰って机上に飾り、いつも「ユダヤの精神に学べ」と思ってきた。
 ユダヤ人に対して敬意を持ち、日本人に向けて「ユダヤに学べ」と何度も発言してきたほど、親ユダヤ的なのだが、今般「BIG TALK」の対談の一部を取りあげ、反ユダヤ主義者だとレッテルを貼られて批判を受けたことは大変残念であり遺憾である、とのコメントをユダヤコミュニティに出した。私はいつも、ユダヤ人は知恵があり、「情報や金融、法律の分野で卓越した能力を発揮している」と賞賛していたつもりだったが、彼らの辛い歴史を考えると、行き過ぎた表現だったと考え、ホームページから該当箇所を削除した。なお、一部の報道では、捏造の南京大虐殺説を否定したことを中国人が批判したことと今回のユダヤの件を、同列に扱おうとするものもあるが、南京の問題は無かったことの根拠を挙げて捏造の歴史を正そうとするものであるのに対して、ユダヤの件は対談の中での賞賛のつもりで発した発言とは言え、配慮が足りず行き過ぎた表現であったということで、全く次元の違う問題である。

建国記念日を
正当に評価しないメディア

 二月十一日は建国記念の日だった。五年前の本稿で、私は「何処の国でも最も盛大な祝日は建国記念日」というタイトルで文を書いた。さて五年後の今年はどうなっているか、二月十一日の新聞各紙朝刊をチェックしてみた。
 題字周りの扱いは各紙、五年前と全く同じに、産経新聞だけが日の丸の下に「建国記念の日」と表記していたが、他紙には「日の丸」がなく、日経新聞に至っては全く「建国記念の日」の表記すらない。社説は産経新聞と朝日新聞が建国記念日に関連する主張を展開していた。産経新聞の社説のタイトルは「明治一五〇年の意義考えよう」だ。「明治元(一八六八)年から数えると、今年はちょうど『明治一五〇年』にあたる。その年に迎える一一日の『建国記念の日』を、とりわけ意義深く感じる人も多いことだろう。日本の創建を顧みることで、先行き不透明な現代を乗り切るための教訓をつかみたい。日本書紀によれば、紀元前六六〇年、初代神武天皇が橿原宮(奈良県)で即位した日が、現行暦では二月一一日となり、この日をもって日本の国造りが始まる。その後の日本は一系の天皇を戴きながら、営々と国を守り育ててきた。
 中世の元寇のように他国の侵攻も受けたが、民族が一丸となって国難をはね返した。明治六年、政府は二月一一日を紀元節と定め、国を挙げて祝うことにした。西洋列強の力を目の当たりにした当時の日本は、植民地にされるかもしれないという脅威の中で近代化が急がれていた。紀元節の制定には、いま一度建国の意義を学ぶことによって、国民に一致団結を呼びかける意味があったことに改めて思いを致したい」「欧米諸国でも一国主義が広がるなど、世界情勢は全く先が見通せない。今こそ国民一丸となって、新しい『日本のありよう』を見つめ直すときではないか」と結んでいる。
 朝日新聞の社説は「歴史に向きあう誠実さ」というタイトルだ。「来年は明治元年から数えて満一五〇年にあたる」とこちらも明治一五〇年から書き出し、政府の記念の施策を批判している。結びはこうだ。「昨年亡くなった三笠宮崇仁さまは、神武天皇即位の日とされた戦前の紀元節を復活させる動きを、学問的根拠がないと厳しく批判したことで知られる。歴史をひと色に塗り固め、科学や理屈を排し、美しい物語に酔った先にあるものは何か。曲折の末、旧紀元節の日に制定された五一回目の建国記念の日を機に、歴史に誠実に向きあう大切さを改めて確認したい」と、建国記念の日に異論があるというスタンスだ。新聞社の態度は五年前とほとんど変わっていない。

首脳会談の朝日の予想は
大外れに終わった

 この建国記念の日にタイミングを合わせたように、日本時間の二月十一日未明に安倍首相とトランプ大統領が初めての首脳会談を行った。十一日の朝刊では新聞各紙ともこの会談が一面トップ記事だ。記事が作られた段階ではまだ会談の成果は発表されていなかったが、見出しでそれぞれのスタンスが明確にわかる。産経新聞の見出しは「核・通常戦力で日本防衛」「揺るがぬ日米同盟」と、今回の会談の安全保障面での成果を強調した。読売新聞も安全保障を強調し、「日米 強固な同盟示す」「『尖閣に安保』確認へ」という見出しだ。日本経済新聞はメインの見出しこそ「日米同盟強化 確認へ」だが、サブ見出しは「通商・為替 駆け引き」と経済問題での成果への疑念を露わにしている。朝日新聞も同様で、「日米首脳 同盟強化確認へ」「車貿易や為替 焦点」という見出しに加え、リードでトランプ氏は自動車貿易を重要課題とする構えで、二国間の貿易協定や為替政策に言及する可能性もある」とし、この会談での経済面での懸念を強く表明していた。しかし実際蓋を開けてみると、尖閣諸島防衛の明言など強固な同盟が確認される一方、為替や貿易不均衡について語られることはなく、安倍政権にとっては満額回答の大きな成果を挙げた首脳会談となった。

明確な科学的根拠の下に
災害対策を行うべきだ

 二〇一一年三月十一日の東日本大震災からもう六年となる。地震と津波によって多くの家屋が破壊され、多くの人々が命を失ったのは大変痛ましいことだ。さらに海抜の低い所に電源があった福島第一原発が津波による全電源喪失で冷却水を送ることが出来なくなり、炉心が高温となりメルトダウンを起こし、核燃料被覆材のジルコニウムが還元されて出来た水素がベントされず爆発濃度となり、原発の建屋が水素爆発で吹き飛び、放射能が飛散することになった。放射能への不安は民主党政権下の、根拠の少ない避難計画でより高まった。被曝線量が年間二〇ミリシーベルトになりそうな地域と、福島第一原発から風向きに関係なく、二〇キロメートル圏内は強制避難となり、老人ホームのお年寄りや病院の重篤な患者も含めて、早急な避難を強要された。これらの強制避難によるストレスや十分な治療が出来なくなって死に至った災害関連死は、二〇一六年九月末現在で福島県だけでも二千八十六人に上った。放射能による死亡や障害は、数千倍から数十万倍と単位の違う瞬間被爆によるものであり、二〇ミリシーベルトは低線量長期被爆の年間被曝放射線量なので、一週間や十日そこにいたところで、被爆によるガンの発生率が高まる恐れは全くない。年間二〇ミリシーベルトの被爆の影響は、全く心配がないレベルと言える。
 日本の自然放射能被爆線量は、平均二・一ミリシーベルトで、一ミリシーベルトを超えた所を除染するという基準も全くおかしい。人はすでに自然放射線として、世界の年平均で二・四ミリシーベルトの放射線に被爆している。世界には極端に自然放射線の高い地域もあり、例えばイランのラムサールでは、最高で年間二六〇ミリシーベルト(平均でも一〇・二ミリシーベルト)にも及ぶ自然放射線の下、三万人の人々が暮らしており、むしろ長寿で知られている。国際線のパイロットやCAも放射線量は多いし、宇宙飛行士もそうだ。しかし彼らがその職業によって、ガンで亡くなる確率が高くなったということは聞いていない。この除染基準も多くの人の不安を掻き立てると同時に、全国から建設関連の人手を奪うことになった。避難基準にせよ除染基準にせよ、民主党政権下での非科学的な基準で人々の不安を煽り、ストレスを高めたことで多くの死を招き、大きな人災となり、多くの人に苦難を与える結果になってしまっている。
 地震の際に、耐震性能の高い最近のホテルは一番安全な避難場所だ。飛んでくる物や落ちてくる物を避けるために、地震があればすぐにベッドか机の下に潜り込んで、揺れが収まるのを待つべきであり、倒壊することはまずない。仙台のアパホテルでは一人のけが人も死者も出なかった。東日本大震災が発生した直後に仙台の全てのホテルが営業停止となり、宿泊客の退去をお願いしたホテルもあった中、アパホテルは営業を続けた。電気・水道・ガスが使用できないことを伝えた上で、個人のボランティアとして宿泊する人には無料、企業などからのボランティアの人などにも格安で部屋を提供した。国境なき医師団も、雨風を凌げることさえできれば十分であり、テントよりは格段に快適だと、仙台のアパホテルに宿泊した。また宿泊者だけではなく、近隣の人々にも一階と二階を開放し、毛布や食料を提供して避難できるようにした。さらに大手コンビニエンスストア本部からの申し出で、ホテルを支援物資や商品の中継基地とした。既存の基地が震災で失われ、コンビニエンスストアの食品などの商品が、極端に不足する事態が発生していたからだ。これらのことは、多くの人々に大変感謝された。

復興支援の思いから
福島駅前にホテルを建設

 被災地域に対する復興支援にも様々なものがある。被災によって地域から人が減り観光客が減って、経済が成り立たなくなっていく。そうであれば、反対意見もあったが、ホテルを建設して人々を地域に呼び戻し、需要を創造することが、私ができる最大の復興支援だと考えた。被災地にホテルをと、震災直後から用地の選定に取り掛かり、新幹線の福島駅から徒歩一分の場所に、借地だが条件の良い土地を見つけ、福島市で最大の三百六十二室となるホテル建設の計画を立案した。このホテルを最も環境に優しいホテルにと、世界初の全面断熱一体工法(APA ECO UNIT SYSTEM)を協力業者と共同で開発した。通常のホテルで採用されるのは構造体の内側に断熱材を入れた内断熱工法だが、今回導入した全面断熱一体工法は高断熱特性を持つ新素材の外壁に、外装仕上げや樹脂サッシなど必要な要素を工場で一体化させ、現場で効率良く取り付けるというもの。断熱性能の向上と工期の短縮を実現する画期的な工法だ。このアパホテル〈福島駅前〉は、今年三月一日にオープンする。福島経済の活性化の一助になれば、これほどうれしいことはない。

今回の日米首脳会談は
緊密な日米同盟の幕開け

 震災時に海外から高く評価されたのは、被災地で支援物資を順序よく並んで分け合う日本人の秩序正しさと団結心だ。海外での被災地で支援物資を巡って争いが起きることがあるが、日本では一切なかった。これが日本精神というものだろう。建国記念日はそうした精神を古くから養ってきたことを日本人が再確認し、国が成立したことを祝う重要な日だ。メディアも、この祝日の意義を認め、人々が盛大に建国記念の日を祝えるような役割を果たして欲しい。またこの日に日米首脳会談を設定したことに安倍首相の深い思いを感じる。明治百五十年を迎えた年の建国記念日ということで、第二の建国という気概があったのではないだろうか。そしてその気概に応えるように、経済問題より先に、緊密な同盟関係を確認することができた今回の日米首脳会談は、大成功だったと言える。しかも安倍首相とトランプ大統領はフロリダの別荘で週末を一緒に過ごし、親密な関係を築くことができた。この関係を背景に安倍首相の手によって憲法を改正し、独立自衛の国となる第二の建国へと進めて欲しい。

2017年2月17日(金)7時00分校了