日本を語るワインの会157

ワイン156二〇一七年二月二日、恒例「日本を語るワインの会」が代表自邸にて開催されました。日本で九カ月の外交官向けの日本語研修プログラムを受けた在日カザフスタン共和国特命全権大使のバウダルベック・イエルラン氏、いよいよ今年から本格化する地方創生を手がける衆議院議員の木村太郎氏、安倍首相の盟友と言われる参議院議員の衛藤晟一氏、フランスのソルボンヌ大学に国費留学、ギニア大使館の駐日親善大使を務めたオスマン・サンコン氏、お米とりんごが特産の青森県黒石市長の髙樋憲氏、ロシア国籍だが父親はウクライナ人、母親はポーランド人の在日ロシア人会会長のブーラフ・ユーリー氏をお迎えし、日本の外交について、時間を忘れて議論を交わしました。
長期政権の政治的安定で
成長するカザフスタン
 旧ソ連ではロシアに次ぐ広大な国土を持つカザフスタンの人口は約千八百万人。日本からは直行便がなく、ソウルの仁川国際空港を経由することになる。仁川国際空港からカザフスタンの首都にあるアスタナ国際空港までは、約六時間だ。今交渉が行われていて、近い内に日本からカザフスタンへの直行便が飛ぶかもしれない。観光地としてカザフスタンは魅力的であり、また日本人は渡航するのにビザが不要だ。カザフスタンでは頻繁にイベントも行われている。今年札幌と帯広で行われているアジア冬季競技大会は、前回の二〇一一年にはカザフスタンで開催された。また今年は冬季ユニバーシアードも開催。また今年の六〜九月には「未来のエネルギー」をテーマにアスタナ国際博覧会が開催され、日本館も登場する予定だ。首都のアスタナの都市設計を行ったのは黒川紀章だ。二十年間で人口二十七万人だった砂漠の街が、百万人都市に生まれ変わった。カザフスタンは柔道やレスリングなど格闘技系が強く、二〇一二年のロンドンオリンピックでのメダル獲得数は日本に次いで第十二位と健闘した。ナザルバエフ大統領は日本びいきで、安倍首相とはG二〇などで七回会っている。ナザルバエフ大統領が就任してもう二十七年にもなるが、これによって政治が安定していることが、カザフスタンの成長の要因だ。スローガンは経済第一、政治は第二で、これは大統領と同じく長期政権を行ったシンガポールのリー・クワンユーと同じスローガンだ。
 カザフスタンと同じ旧ソ連のウクライナは資源が豊富で、ソ連時代から農業も工業も盛ん。ミサイルから飛行機まで生産していた。そのために政治の力が弱く、二〇一四年からの政治的混乱を招いた。ウクライナの潜在的経済力は非常に大きく、旧ソ連のトップになる可能性があったが、リーダーが弱かった。一方カザフスタンのナザルバエフ大統領は旧ソ連時代に共産党の第一書記を務めた生え抜きで、数多くの民族が混在するカザフスタンを、カリスマ的な力も使ってまとめてきた。中央アジアでは民族問題であったり、麻薬問題があったりで犠牲者が多い国もあり、指導者の強いリーダーシップが求められている。日本では安倍首相が強いリーダーとして登場し、政治的な安定を生み出している。

北方領土問題解決には
基地化しない宣言が必要
 ポストトゥルース(脱真実)の時代と言われ、国民投票でも選挙でも、嘘を言ったとしても勝ってしまえばいいという風潮が出ている。インターネットで出処が怪しいフェイクニュースが拡散している。嘘の報道を行った人には責任を取らせる法律を作るべきだ。アメリカ大統領選挙中も、ローマ法王がトランプ氏を支持という嘘ニュースが流れた。キリスト教には色々な宗派があるが、イスラム教にも色々な宗派があり、特にシーア派とスンニ派の対立は激しい。カザフスタンはイスラム教の国だが、ほとんどがスンニ派だ。しかし中央アジアでは他の宗派や宗教を排除することはない。
 トランプ大統領はそうはいっても父親の財産を引き継いだ富豪だが、プーチン大統領は叩き上げでここまで来た人だ。もしプーチンがいなかったら、ロシアはもっと悲惨な状態になっていただろう。柔道の達人でもあるプーチンは、押したり引いたり、相手の力を利用したりと、外交の天才だ。安倍首相ともウマが合う。北方領土問題は安倍首相とプーチン大統領の時代に解決できるのではないだろうか。一番のネックは日米安保との整合性だ。ロシアのトラウマは、ソ連崩壊後のNATOの行動だ。ゴルバチョフが西側と約束したのは、ドイツから部隊を撤退したら、西側はドイツより東に軍事的影響は及ぼさないということだった。しかし実際にはバルト三国やポーランドまでがNATOに加盟し、ロシアが脅威を感じている。このことからロシアは返還した北方領土に軍事基地を作られることを、非常に恐れている。安倍首相は絶対に基地を作らないと宣言しなければならない。

カルタゴにならないよう
日本にも力が必要だ

 国際政治学者のモーゲンソーが主張したように、国家間の関係はバランス・オブ・パワーが基本であり、これが崩れると戦争になる。軍事力を持つことが戦争を招くのではなく、むしろ適切な軍事力を持たず力のバランスが崩れると戦争になってしまうのだ。また日本の政治家はカルタゴの歴史を学ぶべきだ。紀元前三〜二世紀に商業で栄えたカルタゴはローマ帝国と三度に亘るポエニ戦争を戦った。常にローマの勝利だったが、負けてもカルタゴは経済的に復活しローマの脅威であり続けた。三度目の戦争に勝利したローマは二度とカルタゴが復活しないように、十五万人の市民を虐殺し、五万人を奴隷にし、都市を破壊し、農地に塩をまいて二度と作物が作られないようにしたと言う。この二千数百年前の歴史に日本人は学ばなければならない。平和を唱えれば平和になるのではない。オバマ大統領の八年間、平和は叫ばれたが、ISISが台頭するなど世界の安全は著しく損なわれた。モーゲンソーの力の論理は変わっていない。トランプ大統領の誕生を契機に日本も自国第一主義を貫き、日本を日本人の手で守る意識を高め、憲法改正を実現するべきだ。核兵器を手放したウクライナはロシアに攻め込まれた。やはり防衛の鍵は核兵器だ。日本も同じ先の大戦の敗戦国のイタリアやドイツと同様に、アメリカから核兵器をレンタルするニュークリア・シェアリングを導入すべきだ。日韓の核装備を認める発言をしたトランプ大統領なら、認めるのではないだろうか。
 カザフスタンも加盟している上海協力機構は地域の安全保障と経済協力を話す場でそもそも軍事同盟ではない。ソ連崩壊後、ロシア、カザフスタン、タジキスタン、キルギスと中国の各国で国境を決めるために作られたもので、この共同体が上手く機能したため、国境が決まってからも、中国との国境を持たないウズベキスタンも含めて、経済的に続けていこうということになった。それを西側メディアが対NATOの組織だと伝えたのだが、実体とは異なっている。

ウクライナを巡る紛争は
ロシア視点で見るのも大事
 百年単位のスパンでロシアは日本の脅威では無くなってきた。幕末でも日本にいち早くやって来たのはロシアだった。南下政策を続けるロシアは、日本にとってイギリス、フランス、アメリカ以上の脅威だった。このロシアからの圧力に耐えるために一八九四年に日清戦争、一九〇四年に日露戦争を日本は戦う。日露戦争ではイギリスが日本を全面的にバックアップするが、それはロシアの関心を極東に振り向け、ヨーロッパへの進出を防ぐためだった。それより遡る一八七五年の樺太・千島交換条約もイギリスの提案で結ばれたもので、樺太をロシア領とすることでロシアの南下を留める目的があった。日露戦争においても真面目な日本人は、イギリスにおだてられ一生懸命ソ連(ロシア)と戦った。一九三一年の満州事変もロシアの南下を防ぐものとして、目的がはっきりとしていた。その後の先の大戦、冷戦を経てソ連が崩壊し、ようやく日本にとってロシアは脅威では無くなったが、依然として現有する軍事力で考えると、世界で二番目の軍事大国であることは変わらない。最新の軍事技術も保有しており、核兵器や通常兵器の近代化も進んでいる。しかし今のロシアのGDPは韓国と同様の百五十兆円程度であり、日本の五百四十兆円と比べると大幅に少ない。原油価格が回復しなければ軍事に向ける資金を経済活性化へと振り替えることになり、長期的にはロシアの軍事力は衰退していくだろう。
 クリミア半島はもともとロシアのものであり、軍事的にもこの拠点を失えば黒海・地中海への進出ルートが無くなる生命線とも言える場所だ。絶対にロシアが手放すわけがない。ソ連が解体して生まれたウクライナは、歴史的にもロシアと兄弟とも言える密接な関係を持っていた。そのウクライナに対してEUは甘言を弄して近づいたから、ロシアが激しく反発しているのだ。ウクライナ情勢をヨーロッパ側からだけの視点で見ていると、見誤ることになるだろう。
 満州事変までは対ロシアとして一貫した行動をとっていた日本だが、一九三七年の支那事変の目的は中国を市場化したかったのか、間接統治したかったのか、直接統治したかったのか、まるで不明だ。コミンテルンに中国との戦いに引きずり込まれたという説もあるが、これが一番筋が通る解釈かもしれない。その後の日米戦はルーズベルト大統領が三国同盟を利用してヨーロッパ戦線に参戦したかったこともあるが、アメリカが自分達の市場と見做す中国を日本から奪い返す戦いとも考えられるだろう。
 真珠湾ビジターセンターでの展示が昔とは大きく変わっている。かつては卑怯な不意打ちという主張だったのだが、今は一九二九年の世界大恐慌とブロック経済化から始まり、満州事変、支那事変、三国同盟、対日経済封鎖という背景を踏まえて真珠湾攻撃が行われたという、非常に冷静に歴史を俯瞰した視点からの解説が行われている。日米両国のためにも、このようなスタンスは非常に重要だ。
 農林水産大臣だった中川一郎は日米農産物交渉と日ソ漁業交渉の違いを聞かれ、アメリカは日本を子分だと思っていて理不尽なことばかり言ってくる、ソ連の方がまだ理屈が通っていると言っていた。そのソ連との漁業交渉で中川は「豚は太らせて食べるもの。オレはもっと太るからその後食えばいい。だから今は妥協してオレに土産を出せ」と言い放ったところ、イシコフ漁業相はわかったと言って交渉がまとまった。外交交渉はそれぐらい知力だけではなく、胆力も求められるものだ。