参議院議員 片山さつき
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APAグループ代表 元谷外志雄
1959年埼玉県生まれ。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1984年フランス国立行政学院(ENA)留学・CSE取得。銀行局中小金融課住宅金融管理機構管理室長、主計局主計官(防衛担当)などを歴任し、2005年退官。同年衆議院議員初当選。2010年参議院選挙の全国比例区で自民党トップ当選。参議院自民党副幹事長、総務大臣政務官などを歴任。2006年の参議院議員選挙でも、約40万票、全党通じて女性1位で再選を決めた。2016年9月より自民党政調会長代理。
早く日本は意思を伝えるべき
元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。片山さんとの対談を非常に楽しみにしてきました。
片山 私もです。よろしくお願いします。
元谷 先の大戦の開戦日となる十二月八日に第九回「真の近現代史観」懸賞論文の表彰式が明治記念館で行われます。第一回の最優秀賞を当時の航空幕僚長の田母神俊雄氏が獲得し、そこから今日の日本の保守化が始まったことを考えると、非常に意義のある懸賞論文制度だと思います。今年の最優秀賞はスタンフォード大学フーヴァー研究所教授の西鋭夫氏の論文に決まりました。西氏の論文は勝者が歴史を作るのは先の大戦後のGHQだけではなく、明治維新においても、それを礼賛する「薩長史観」と言うべきものが今でも主流になっていると指摘したことが高く評価され、審査委員長の渡部昇一氏をはじめ審査委員の全員一致で今回の受賞が決まりました。表彰式のパーティーには総勢約一千二百名の方々が参加する予定です。今日現在で国会議員二十五名に加え、駐日大使十四名が出席との返信をいただいています。民間のパーティーにこれだけ多くの外国大使が参加することは、まずないでしょう。
片山 それは代表が日本の旗を背負った大使の様なホテル王という扱いだからでしょう。海外でもアパホテルは日本のランドマークとなっています。
元谷 北米も四十ホテル体制になりましたし、アパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉は十二月七日に二千七室に増室してのグランドオープンになります。また二〇一九年には日本最大の二千四百室を誇るアパホテル&リゾート〈横浜ベイタワー〉が誕生します。このところ、それなりに頑張っていますよ(笑)。
片山 トランプ次期大統領と代表はきっと気が合います。アメリカでは大統領の政党が変わると、公務員も民間企業の部長職も、五千人ぐらいの人が入れ替わります。通常はその人事が終わるまで政策が決まらないのですが、トランプ氏は違う。政治は未経験なので、ビジネスでの経験を基に動くでしょう。人事を待つことなく、すでに次々とツイッターやユーチューブで自分の考えを発表しています。ですから早めの接触が必要で、日本の言い分を伝えたり誤解を解くのも早く行わなければなりません。ホストネーションサポート(俗に言う「思いやり予算」)として日本は安全保障上真っ当な負担をしていることは、真っ先に伝えるべきことでしょう。
元谷 トランプ氏はビジネスマンですから、交渉に際して最初は厳しい条件をぶつけておいて、相手がどう出るかを見るというビジネスの手法をとっているのかもしれません。
片山 彼は名門と呼ばれるペンシルバニア大学のウォートン・スクールの出身ですから、しっかり教育は受けているはず。
元谷 ちゃんとした考えを持った人だと思います。ただメディアの注目を集めるために、わざと暴言を吐いている。今回の大統領選では、私は最初共和党の候補としてマルコ・ルビオ氏に期待したのです。彼は若くて日本に詳しく、尖閣問題でも日本側に立っていましたから。しかし結局トランプ氏に敗れました。それから私は、トランプ氏が大統領になるのは日本にとって刺激的だけれども、日本が独立自衛の国となるためには良いチャンスだと何度も言い続けてきたのです。ですから彼の当選が確実となった時に、復興大臣の今村雅弘さんが電話を掛けてきて、いきなり私に「おめでとう」と言いましたよ(笑)。
片山 そうですか。私も今村さんも同じ志師会です。
元谷 二階派ですね。今、かなり賑わっている感じがします。安倍首相が二階俊博さんを幹事長にしたのは、さすがとしか言いようがありません。
片山 安倍首相は二階さんの物事を決めて進める力はピカイチだとおっしゃっていましたから。
元谷 二階さんは安倍首相と合わないところもあり、親中派で公明党ともパイプが太く、小池百合子東京都知事とも親しいと言われていますが、敢えて取り込んだところが度量だと思いました。
片山 ここが第一次安倍政権と第二次の差なのだと思います。いろいろな方を上手に使わないと三期九年は無理でしょう。
元谷 憲法改正にも時間が掛かります。一回では無理。今改憲勢力が三分の二だと言っても、改憲したい項目がそれぞれ異なります。まず皆が同意できる前文などの改憲を行って実績を作り、二回目で本格的な改憲を行うべきでしょう。
片山 私も全く同意見です。
税制上の優遇で誘導
元谷 トランプ氏が大統領となったことで、自分の国は自分で守らないといけないのでは…という気運は高まってきました。改憲はやりやすくなってきたのではないでしょうか。そういう意味で、私はトランプ氏が勝って良かったと考えています。クリントン氏が勝っていれば、またビル・クリントン大統領時代同様、ジャパン・パッシング(日本はずし)が行われたかもしれません。
片山 クリントン氏は官僚主義的で面白みがありませんでした。女性だったからではなく、この人が大統領になっても何も変わらないと思われたから、負けたのではないでしょうか。
元谷 女性の人気が高くなかったですね。クリントン財団がサウジ・アラビアから多額の献金をもらっていたという黒い噂もありましたし、決定的だったのがFBIが投票十一日前にメール再調査を議会に報告し、二日前に違法性がないと再度報告したことです。数十万通にも及ぶというメールをそんな短期間で調査できるはずがないということで、逆にヤブヘビとなってクリントン氏への信頼が急速に失われました。
片山 アーカンソー州の弁護士夫妻がなぜ巨万の富を築けたのか。普通のアメリカ人は皆疑問に思っています。その点トランプ氏は分かりやすかった。
元谷 何度も破綻を経験していますが、復活を遂げていますから。
片山 トランプ氏を支えているのは、俗に草の根保守と呼ばれる普通の人々です。銃規制に反対する全米ライフル協会は日本では危険な団体のように思われていますが、自衛を当たり前とするアメリカでは、銃を持つ権利は根源的なものです。むしろ私がショックだったのは、オバマ大統領が同性婚を認めたことです。LGBTの権利は認められるべきだし、彼らへの差別は決して許されるものではありませんが、堂々結婚までとなると、ちょっとレベルが違う。プロテスタントの倫理観に基づくアメリカの保守は、ちょっと立ち止まった状況にあります。
元谷 カルフォルニアのハンティントンハーバーという高級住宅地に家を持っていたことがありますが、そこは運河を掘って小さな島を造って橋一本で繋がっています。泥棒が入ろうとしても逃げる時にはその橋を通らなければいけないので入ってこない。アメリカではセキュリティが重視されていて、そんな安全な家ほど価値が高いのです。大通りに面した土地を好む日本人とは、全く常識が異なります。アメリカにユダヤ人の友人がいて、そんな住宅事情や頭金投資利回り、ノンリコースローンやSPC(特定目的会社)のことなど、当時の日本にはなかった金融の考え方を私に教えてくれました。それぞれ十%ずつ出し合って残りの八〇%をノンリコースローンを借りて共同でビルを建設する事業を行う相談をしていたのですが、結局為替リスクはどうしてもヘッジできないという結論に達して、投資は行いませんでしたが、いい勉強になりました。その後日本ではバブルが崩壊して不良債権が続出し、その処理のために片山さんがSPC法を作ります。それを私は事業に活用させてもらいました。
片山 ご活用頂いたと聞くと私もうれしいです。大蔵省での仕事として、バブル崩壊後アメリカの連邦倒産法第十一章等を勉強して、民事再生やSPCやリートの制度を日本に導入しました。それで日本の不動産業は生き返ったのです。
元谷 SPCを作り、大きなプロジェクトを少ない自己資金で多額の融資を得て、いくつも同時に推進することができました。金融機関は一社に対して多額の融資を行うことは躊躇しますが、SPCを中核とした複数のプロジェクトには同時に融資してくれたのです。またこの融資はノンリコースローンであり、出資した自己資金以上の資金を失うこともありません。この仕組みを利用して大型案件を次々と行うことができました。
片山 官僚時代同様、政治家としてもいろいろプロジェクトを仕掛けています。九月からは自民党政調会長代理となり、災害対策・復興担当として政策をまとめました。災害対策は安全保障と同じくらい重要なことです。現状では民間が津波タワーなどの防災施設を作ってもなんらビジネス上の旨味がないので、防災が充実しない。企業が防災施設を作ると税制上優遇されるという制度をこれから導入しようと検討開始しました。
元谷 私は東日本大震災直後から、海辺に防災マンションを建設することを提唱しています。鉄筋コンクリートで六階建ての防災マンションを、津波の影響を低減するために海岸線と垂直に、二百メートルおきに建設するのです。外には非常階段がついていて、津波の時に誰もが屋上に避難することができます。二百メートルおきにあれば、津波が来るのを目視してから階段を駆け上っても間に合うでしょう。巨大な堤防を作るよりも、この方が建設費も少なく、日頃から使用収益ができて効率的だと思います。漁師が沿岸ではなく高台に住むのは非効率でしょう。
片山 仰る通りです。今度ぜひ自民党の国土強靭化対策本部にいらして、そのお話をしてください。政治家は現実の建物の利用に開明的ではないのです。地方では土地があるので立体駐車場は通常は作らないですが、四、五階建ての立体駐車場を作っておけば、それが防災施設になるのです。
元谷 その際には、鉄骨のような脆弱なものではなく、鉄筋コンクリートのしっかりとしたものを作る必要があると思います。
片山 トランプの経済政策「トランプノミクス」が世界にとって激震になるのは間違いないことです。しかしかつての日米貿易摩擦の再燃とはならないでしょう。自動車産業などの日本企業は、すでにアメリカに生産拠点を作って多くの人を雇い、米ローカルコンテンツ率80%の「米国産車」を製造していますから。
元谷 おそらくトランプ氏は、その辺の理解が不十分なのでしょう。また在日米軍の経費を日本が一〇〇%負担せよと言いますが、この軍隊はアメリカが太平洋の覇権を握るために必要だということがわかっていない。在日米軍は日本を守るためだけではなく、日本を軍事大国となることを警戒するアメリカの目的のために駐留しているのです。本来なら日本は基地の地代を請求することもできるのです。
片山 トランプ氏が国防長官に指名したジェームズ・マティス元中央軍司令官は、明確に在日米軍の維持を表明しています。一方、シェールオイルによって石油輸出国となったアメリカは、もはや世界の警察役からは手を引くでしょう。
元谷 アメリカは石油に関して中東に依存する必要がなくなりましたからね。今回のトランプ勝利は、その爆発と言えるのではないでしょうか。そうでなければ、あれだけ女性蔑視的な発言や暴言を繰り返してきたトランプ氏を、白人女性の五〇%以上が支持するなど考えられません。
片山 九〇年代のITバブルの最盛期一九九九年に政府保有のNTT株の売却を担当しました。一・六兆円にもなろうという売り出しですから手数料も莫大で、外資も含め錚々たる金融機関のトップと話をしました。IT産業の説明をいろいろと聞いたのですが、その実体のなさがいつか露見すると感じました。そして予想どおりに崩壊。次に実体がなかったのは、リーマンショック時に破綻してバレてしまった仕組み債です。この二〇〇八年の衝撃後、本来であれば実体のあることをやらなければならないのに、依然としてドルを刷っているアメリカはチャンピオンだという考えから離れられなかった。これに普通の人々が疲れてきたと思うのです。世界の王様である必要はないから、普通の仕事をくれと。
元谷 また白人国家だったアメリカの人種構成が変化して、有色人種の国になろうとしていることも背景にあるでしょう。その象徴が初の黒人大統領のオバマ大統領だった。これに白人が疑問を抱いたのではないでしょうか。いろいろとトランプ勝利の要因は考えられると思うのですが、私は日本にとっては歴史的に親日的であった共和党政権となって、良かったと思っています。
片山 トランプ氏はレーガン大統領を尊敬しているそうですね。
元谷 レーガン大統領も最初は三流の役者あがりなどと揶揄されていましたが、今はリンカーンに次いで二番目に偉大な大統領だと思われているという調査結果も出ています。冷戦を終結させたという業績は確かに偉大でしょう。
片山 私もそう思います。
元谷 歴史を勝者が作るのはやむを得ないとはいえ、今の日本の状況では、アメリカをはじめとした連合国が日本や世界に植え付けた自虐史観とは異なる主張をすると、それに歴史修正主義のレッテルを貼って亡き者にしようとします。しかし歴史を含む学問の世界では、新しい知見があればどんどん考えを変えていくのが常識でしょう。歴史だけ変更を否定するのは、非常におかしなことだと思います。
片山 代表は日本の保守のオピニオンリーダーのお一人であり、安倍首相のビッグサポーターとして知られていらっしゃいますから。
元谷 私は安倍首相と考えが近いというだけです。韓国で問題になっているように安倍首相に入れ知恵をしたわけではありません(笑)。
片山 朴槿恵大統領の弾劾騒動を踏まえ、日本政府は現在韓国との通貨スワップ協定締結交渉を止めています。今朴大統領に恩を売るのは、その後の良好な日韓関係維持に逆効果です。日韓の軍事情報包括保護協定(ジーソミア)は北朝鮮対策ですから、粛々と締結しました。朴槿恵氏は、そもそも大統領の器ではなく、彼女には約五千万人の韓国国民の安全を守る責任者としての資質がない。それはセウォル号沈没事故の対応を見ても明らかで国民がそれに気付き、支持率2%から追陣の方向となった。
元谷 それは同感です。
抑止力を高めるべきだ
片山 歴史認識を含め、日本人も先の大戦の軛に繋がれているのです。だから安全保障・防衛の議論がタブーになっています。私は防衛担当の主計局主計官だった時に防衛予算を減らしたと怒られましたが、制服組の方々と細かく効率の良い予算配分を相談して決めたのです。イラクへ派遣する自衛隊の装備は安全を考えて原案よりも増やしたほどですよ。今回治安が悪化している南スーダンに派遣する自衛隊にも、しっかりとした装備が必要です。
元谷 自衛官が危険に晒される原因は現行憲法にあります。武器使用に関して警察官と同じ正当防衛の要件を必要とするからです。この問題を多くの人に理解してもらって、憲法改正を進めなければなりません。また現在の東アジア情勢を見るとアメリカの核の傘は幻であり、次に核攻撃を受けるのはやはりまた日本ということになりかねません。国内外の反対もあり核武装は無理ですが、せめてドイツやイタリアなどと協定しているニュークリア・シェアリング(核の共有)を導入するべきだと、私はいつも主張しています。
片山 大蔵・財務省時代にアメリカとの交渉は何度も経験しましたが、共和党政権の方がぎりぎりの要求と自分達の妥協点を明らかにして落とし所を示してくるので、話がしやすかったですね。
元谷 やはりトランプ政権時代が日本にとってはチャンスでしょう。抑止力としては攻撃用兵器を持つことが一番効果があるのですが、ここにも日本には憲法上の制約があります。盾だけでは防衛はできません。鉾も必要です。これも憲法改正が急がれる理由です。
片山 プリエンプティブアタック(preemptive attack)は正確には未然防止的攻撃という意味なのですが、これを先制攻撃と訳したのが間違い。本来は防衛のために他の方法がない時にちゃんと認められているものです。そのためにはステルス機も必要で、だから日本はF35の配備を決めたのです。
元谷 日本は購入しませんがF35には垂直離着陸できるタイプがあります。これとヘリコプター搭載護衛艦であるいずも型護衛艦を組み合わせれば、空母同様の運用が可能になるでしょう。こういった攻撃的な装備を整えることが抑止力になるのです。
片山 そのためには憲法を改正することが王道です。日本では長く水と安全は無料だと思われてきました。しかしこれは迷信です。国家にとって一番大事なことは国民の命と領土領海を守ることです。これを全うするために、日本は日米安保に依拠しなければならなかったし、今後も必要なのは事実ですが、国民ももっと国防意識を持つべきです。
元谷 私も同感です。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
片山 日本は素晴らしい国で国民も優秀です。しかし日本には、アメリカと中国の間にあるという地政学的な運命があります。それをいつも座標軸に置いて判断をしていけば、この国の将来を間違えることはないと思います。
元谷 今日は非常に面白いお話をありがとうございました。
対談日2016年11月25日