Essay

崩壊する民主主義新帝国主義時代の到来Vol.292[2017年1月号]

藤 誠志

トランプ大統領の誕生は日本人による日本人の為の政治を行うチャンスだ

 ワインの会では三月二日に、「トランプ大統領の誕生は日本が独立するチャンスだ」と四回、勝兵塾では、三月十七日に「トランプ大統領誕生の可能性が高まっている」と五回話し、BIG TALKでは四月一日に「トランプ氏が大統領になれば、日本の本当の独立を実現する良いチャンスとなるでしょう」と四回、エッセイでは四月二十一日に「トランプ大統領の誕生は日本独立の大きなチャンス」と五回、全部合わせて八カ月で十八回も、Apple Town等で、共和党大統領候補のトランプ氏が米国大統領に選ばれることは、日本にとって独立自衛の国家への転換点になると言い続けてきた。そして開票日の十七時過ぎに、いきなり「おめでとうございます。」と祝福の電話が入った。誰かなと思ったら、本年七月に私とBIG TALKをした、復興大臣の今村雅弘氏であり驚いた。私は今村氏との対談で、トランプ氏の出現は、日本にとって、ある意味ショック療法になると話していたことを思い出した。そのApple Town 10月号の一部を転載する。
 
元谷 トランプ氏は日本と韓国の核保有の可能性に言及していますが、私はアメリカは日本が核兵器を持つことを決して認めないと考えています。あるとすれば、NATO四カ国が導入しているレンタル核協定「ニュークリア・シェアリング」を日本にも導入することです。これでも一定の抑止力は生まれるのではないでしょうか。世界で唯一、広島と長崎に原爆を投下された日本ですが、そのトラウマが余りにも大きすぎて、核兵器だけではなく原発や放射能まで、必要以上に危険だと看做しています。この風潮を払拭するような手立てを、自民党や今村さんにはぜひ考えて欲しいのですが。
今村 そうですね。少し先の世界情勢の変化も読み辛い今の情勢なのに、日本がいつまでもアメリカに守られて、平和ボケしている場合ではありません。その点、トランプ氏の出現は、日本にとってある種のショック療法なのかもしれません。

 
 アメリカの大統領選挙は、その後も投票日が近づくに従って、益々泥仕合の様相を呈していた。三十年前のセクハラなどを取り上げるなど、全ての新聞もテレビも、マスメディアもトランプ個人へ攻撃を繰り返していた。
 終盤になっても、共和党のトランプ候補を(四〜六ポイント)リードしていた民主党のクリントン候補について、彼女の側近フーマ・アベディン氏と、その夫との、共有の電子機器から発見されたメールを、FBI(連邦捜査局)が再捜査すると、十月二十八日(金)に発表したことで、急に両候補の支持率が拮抗する事態となった。オクトーバーサプライズと言われる、このタイミングでの発表に対して、猛抗議を受けたFBIは、膨大な数十万通ものメールを僅か八日間で再捜査して、投票二日前になって、「訴追見送り」と議会に報告したが、このことがかえって、クリントン氏側がFBIに圧力を掛けたと反発され、トランプ候補へ票が流れて、トランプ氏が大統領に当選したと思われる。
 今回のアメリカ大統領選挙は、政策で競うのではなく、罵り合いと暴露合戦ばかりだった。世論調査の発表では、拮抗していると報道されていた支持率だが、あまりにも一方的なメディアの報道が続いていた為、五百万人もの隠れトランプ支持者などが世論調査に誠実に答えなかったことで、世論調査の結果を誤らせてしまったと言える。世界的デフレにより、アメリカ産の商品は高すぎて売れず、不法移民によって職を奪われた白人の勤労者は、衰退していくアメリカに怒り、既得権益層が支持するクリントン氏を批判、「偉大なアメリカを」と叫ぶ白人男性の強い支持が決め手となった。
 トランプ大統領の登場で、今後世界の軍事、金融、為替、税務が一変することとなるだろう、主要な支持者である、白人の労働者層の反対するTPPがこれで一時消滅した。

北方領土問題の解決は
中国包囲網の形成に必要だ

 
 対中国戦略として、地球儀俯瞰外交を進める安倍首相の総仕上げは、ロシアとの関係強化だ。十二月十五日にはロシアのプーチン大統領の山口県訪問が予定されている。日本側の大きな目的は、北方領土問題の解決による、日ロ平和条約の締結だ。かつてプーチン大統領が「引き分け」と表現したように、日本もロシアも面子が立つ落としどころを設定することが肝心だ。領有権と施政権を分けて考える、共同統治を行うなど、叡智を集めた結論にまとめる必要があるだろう。ウクライナ問題で、アメリカやEUから経済制裁を受けているロシアにとって、北方領土問題の解決と、日本との平和条約締結は、今の状態から脱するための唯一の希望であり、北方領土問題解決のために、ロシアへ緩い経済制裁しか行わなかった、日本にとってのチャンスでもある。問題解決となれば、日本からロシアへの経済援助や、シベリアの天然ガスの日本への輸入が活発になるなどで、経済を中心に日本とロシアの結びつきが深まるだろう。伝統的にロシアを脅威と見る、中国の包囲網として、緊密な日ロ関係は極めて有効に機能するはずだ。

米大統領選混戦の背景には
東西冷戦終結の影響がある

 混戦のアメリカ大統領選挙の背景にあったのは、戦後、アメリカの西側世界支配の手段は、IMF、国連、WTO等であったが、東西冷戦終結で、世界の経済支配がアメリカの手を離れ、グローバルスタンダードが善だと主張する国際金融資本に移ったことである。冷戦までは豊かだった、アメリカや西側諸国と、その何倍も貧しい人が多かったロシアや中国など、東側諸国だが、冷戦終結で両者を隔てていた鉄のカーテンが消滅した。間仕切りによって水位の高さに高低差がある水槽の間仕切りを取れば、水位は高いところは低くなり、低いところは高くなる。しばらく水槽の中は大きな波で荒れる状態となる。それが正に今の状況だ。東側の安い労働力のあるところに、工場を移転して作られた安い製品が、西側に流入して物価を引き下げ、デフレを引き起こし、金利を引き下げた。逆に西側の高い賃金で作られた商品は売れなくなり、工場が閉鎖され、失業者が増えていった。最初は商品だけだったが、次には西側の高賃金を求めて、東側から人が流入、失業率の上昇に拍車を掛けるようになった。この状況でメリットを得たのは、安い労働力を歓迎する、国際金融資本で、欧米を股にかける、モルガンやロスチャイルド、アメリカのロックフェラーの、三家族の財閥グループといった、一部の大資本家だけだった。彼らの莫大な利益は、タックスヘイブンを使ってほとんど税を払わず、グローバルスタンダードの名の下に、国家間の垣根が取り払われた金融業界に流れ込み、さらに金利を引き下げたが、その資金は膨大なものとなった。私はこの世界的デフレ・超低金利の後、日本はハイパー資産インフレとなる可能性が高いと思う。これに庶民が対抗できる手段は今の内に、低利住宅ローンで自分の家を持つことだ。資本も資産も持たない労働者はますます疲弊するばかりだ。その結果、「二十一世紀の資本」でトマ・ピケティが主張したように、一%の富裕層と九九%の貧困層を生み出してしまっている。移民が増え続けるアメリカは、白人国家から有色人種国家へ変わろうとしている。トランプ候補を支持しているのは、この流れの中で、構造的に貧しい境遇に追いやられた白人層だ。さらに言えば、今回のトランプ現象の遠因は、八年前のオバマ大統領の誕生だ。安い賃金の移民に職を奪われ貧困に陥り、情報と法律と金融を握り、世界を股に肥え太る国際金融資本を横目で見つつ、彼らが支持する黒人大統領に八年間耐えてきたプアホワイト(貧しくなった白人層)が、これら全ての構造をひっくり返そうとする「揺り戻し現象」が、トランプ支持に繋がったのである。

マスメディアの意図的誘導報道で政策が決まる

 依然、人々に強い影響力を持つマスメディアと、普通の人の発信が多くの人に伝わってしまう、TwitterやFacebookなどのSNSの発達によって、民主主義という政治システムの正しさが問われることが多くなってきている。自らの主張を通すために嘘も厭わない。泡沫候補扱いでしかなかったトランプ氏が、激戦を勝ち抜き大統領となった要因は、敢えて暴言を繰り返し、メディアの話題をさらう、トランプ戦略であり、完成された民主主義の歪みを突いたことだ。冷戦終結まで、民主主義は、社会主義・共産主義の対極にある制度として、「優れている」と見做されてきた。しかし、共産主義の盟主・ソ連が崩壊した後、トランプ現象が起きたように、民主主義という政治制度自体に疑問を感じざるを得ない事が、次々と起こっている。ブレグジットとも呼ばれる、国民投票による、イギリスのEU離脱も、その一つだ。離脱運動を主導した元ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏は、移民が自国民の職を奪い、EUの高給官僚を養う為のEUへの拠出金が、週約四百八十億円にも上ると、国民の反EU気運を煽ったが、国民投票後に、拠出金の額が実際はその三分の一であることを認めた。間違った主張が、メディアとネットで拡散され、人々の感情的な行動を喚起する一方、正しい理性的な反
論を聞く耳を失わせてしまう。そんな、メディアを利用しての、「真実後の政治(Post-truth Politics)」が、イギリスでもアメリカでも世界中で問題になってきている。
 二〇〇三年のイラク戦争では、大量破壊兵器の存在を主張して、アメリカ軍をイラクに派遣し、膨大な戦争特需を創り出し、サダム・フセイン政権を倒した。結局大量破壊兵器はなかったのだが、誰も責任を取っていない。似たようなことが、今築地の移転問題に関して、日本でも起きている。
 盛り土の替わりに、地下室があることから始まったこの騒動は、そもそも空騒ぎだ。盛り土より地下に空間を設けておいた方が、深い地下から、入れ替えた盛り土に毛細管現象で上がってくる有害物質を防御することになり、安全性も高まり、建物の安定性も向上することは、土木・建築の常識だ。地下空間があった方が、問題発生時に対応し易いし、建設コストの削減も可能だ。また、敷地内の地下水がアルカリ性であるとか、有害物質が基準値をわずかに超えたと騒いでいるが、その基準値は、毎日二リットルを七十年間飲み続けても害がない飲料水の基準だ。豊洲の地下水は、飲み水はおろか、洗浄用にも使用される予定はないし、コンクリートの地下空間に染み出てくる水はアルカリ性であるのは常識である。これは推測だが、こんなレベルの専門家会議の面子を潰さずに、実利を取って建設を進めるために、東京都の役人はわざと設計変更を公にしなかったのではないだろうか。まず東京都が行うべきなのは、豊洲が築地や他の市場と比べても、清潔で安全であることを都民に伝えることだろう。全く不要な不安感を煽り、移転が伸びれば伸びるほど、経費だけが嵩んでいく。これが結局都民の負担となる。この体質は福島第一原発事故後の除染も同じで、全く不必要な、一ミリシーベルトを基準とした除染のために、何兆円ものお金が税金や電力料金に転嫁され、今なお国民の負担となっている。当時の菅首相が法的根拠なく、中部電力の浜岡原発を止めたことにより、原発の停止が全国に広がり、それを補う火力発電の石油代として年間四兆円もの国富が海外(石油メジャー)に流出している。これらは全て、政治家やマスメディアが真贋を見極めることなく、間違った情報を流布した為に、一般の人々が苦しんできたという事例だ。

民主主義国家の継続は
国民の判断に掛かっている

 この八年間のオバマ政権の最大の失敗は、世界の警察官を放棄すると宣言したことだ。その結果、ロシアはクリミア半島を併合し、ウクライナでは内戦を引き起こした。アメリカ軍が撤退したイラクではISが跋扈し、南シナ海では、中国が岩礁の埋め立てと軍事基地化を開始した。本来であれば、アメリカはこれら全てを一声で阻止できたはずだ。世界から撤退するアメリカに対して、太平洋の覇権を握ろうと、膨張政策を取ってきているのは中国であり、その狭間にある日本が平和を維持するためには、確固たる長期政権のリーダーシップが必要になる。世界中で長期政権が当たり前となる中、自民党総裁任期の三期九年への延長がようやく実現し、安倍首相の任期が二〇二一年までとなりそうだ。中国の国家主席の任期は不文律だが二期十年であり、江沢民も胡錦濤もこれに従ってきた。しかし今の習近平主席は反腐敗闘争と称する権力闘争で、江沢民派も胡錦濤派も粛清、二期十年経って、国家主席は他に譲ったとしても、党主席と軍事委主席は譲らず、習近平帝国を作る可能性が高い。この中国に最近急接近しているのが、フィリピンのドゥテルテ大統領だ。麻薬犯罪撲滅を強力に推進する彼の下、警察によって射殺された人々は就任した六月以来、二千人を軽く超えている。それを人権侵害だと批判したオバマ大統領に、「地獄に行け」と暴言を吐き、中国訪問時には、南シナ海問題には触れずに、逆にアメリカからの決別を宣言、中国から二兆五千億円もの支援を取り付けた。実は元検察官のインテリであり、親日家ということもあって、来日時は極めて紳士的な振る舞いに徹していたドゥテルテ大統領だが、習近平主席と会う時にチューインガムを噛んだり、オバマ大統領に暴言を吐いたりするのは、ドゥテルテ流のフィリピン国民向けの演出だ。彼のその意図通り、彼の国内での人気は凄まじい。自国第一主義を主張することで大衆の人気を獲得、メディアもそれに従わざるを得ない状況を創り出すところは、アメリカのトランプ大統領の戦略と非常によく似ているが、民主主義の王道からは大きく外れている。
 韓国では、テレビ局のスクープから、朴槿恵大統領と友人・崔順実の関係が暴かれ、大スキャンダルへと発展した。同様に、ブレグジットもトランプ現象もドゥテルテ現象も、民主主義的な体制がマスメディアによって翻弄され、その地位を危うくしている例だ。日本でメディアの強力な後押しによって、実務能力のない民主党政権が誕生し、莫大なコスト負担を今尚続けていることも付け加えて良いかもしれない。マスメディアによって人々が翻弄され続ける中、熱望されるのは、甘い検証で誤った情報を垂れ流すメディアをチェックする第三者機関の発足だ。「真実後の政治」をこれ以上蔓延させないためにも、なんらかの手を今打たなければならない。
 一方、果たして民主主義は独裁主義よりも良い制度なのかという疑念にも、私達は答えなければならない。中国が短期間で経済大国になることができたのは、私は支持しないが、公共事業の用地買収に三十年も四十年も掛ける日本と比べて、時間を掛けなくても良い一党独裁体制だからだ。肥大化した中国は日本を飲み込み、日本は中国の一自治区としてしまうかもしれない。これにどう対抗するのか、世界を見据えた議論が必要になる。
 以前から、対米核抑止能力を有している中国に倣い、北朝鮮も直接アメリカを核攻撃できる能力を獲得しようと実験を繰り返している状況下では、核の傘など最早存在しない。周囲を核保有国に囲まれた日本は、最も核で脅しやすい国になっている。かと言って日本が核兵器を保有することにはトランプが大統領に就任した後でも、日本国内はもちろん、アメリカや中国も大反対するだろう。であればせめて、アメリカが、敗戦国であるドイツやイタリアにも提供している、ニュークリア・シェアリングに関する協定を、日本とも交わす交渉をするべきではないか。日本が今後も民主主義国家であり続けられるかどうかは、安倍政権に高い支持率を与え、トランプ大統領のアメリカと、緊密な日米関係を構築し、一日も早くユートピアの世界から脱して、憲法改正をすることである。トランプ大統領の登場が独立自衛の国家を目指す安倍政権のアシストとなり、任期中に憲法改正を実現することが、日本とアジアの平和と繁栄に直結する。戦争抑止力となる、最先端科学兵器のレールガンやレーザー砲など、防御にも攻撃用にもなる兵器の装備の開発も進めなければならない。今や世界は自国第一主義に基づく「力の論理が支配する」新帝国主義時代の到来となったと考えるべきである。

2016年11月10日(木)2時00分校了