トーゴ共和国 臨時代理大使 アフォニョン・クアク・セダミヌ
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APAグループ代表 元谷外志雄
1978年両親の仕事の関係でコートジボワールで生まれる。2003年ロメ大学で修士号(公権)を取得、2007年トーゴ国立行政学院(外交専攻)修了。2008年に外務協力省に入省、儀典官室長、駐エチオピア連邦民主共和国トーゴ共和国一等書記官などを歴任。2016年8月より現職。
〈西新宿五丁目駅タワー〉
元谷 本日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。
セダミヌ 今日はお招きいただき、ありがとうございます。
元谷 前のトーゴ大使のボジョナさんにも、このビッグトークにご登場いただきましたし、「日本を語るワインの会」にもお越しいただきました。セダミヌさんは、日本に赴任されてどれくらいになりますか。
セダミヌ 私は今年の八月三日に日本に赴任しました。
元谷 まだ赴任されたばかりなのですね。それなのに九月十六日に行ったアパホテル&リゾート〈西新宿五丁目駅タワー〉の起工式にもご出席いただき、ありがとうございました。
セダミヌ アパグループとトーゴ共和国のこれまでの良い関係を前任者から聞いていたので、ぜひにと、起工式にも出席させていただきました。
元谷 この〈西新宿五丁目駅タワー〉は、アパホテルが計画している新宿の三つのタワーホテルの内、オープン済のアパホテル〈新宿 歌舞伎町タワー〉に次ぐ二番目のもので、二十階建て総客室数七百十室を予定しています。大浴殿や屋外プール、フィットネスジム、レストラン、会議室もあるホテルです。新宿エリアではこの〈西新宿五丁目駅タワー〉や計画中のものも含め、九棟三千百四十一室を予定していますが、既に運営中の四ホテルも高稼働、高収益で、これからも注力すべきエリアだと考えています。セダミヌさんは、起工式に来られてどうお感じになりましたか。
セダミヌ いかにアパグループが高い理想の下、高品質の建物とサービスを追求しているかがよくわかりました。日本には高品質なものが多く、非常に刺激的ですね。
元谷 新宿駅は世界最大の乗降客数を誇っているのですが、飲食店や百貨店が多い東口とは異なり、西口にはオフィスビルが立ち並び、ホテルへのビジネス関係のニーズも非常に強いエリアです。〈西新宿五丁目駅タワー〉は、これから観光客もまだ増加すると見込んで、ビジネス・観光両睨みのリゾートホテル風の作りにしてみました。二〇一八年五月にオープンした時には、またぜひいらっしゃって下さい。
セダミヌ わかりました。そのような話をお聞きしていると、アパホテルが土地や人の流れなど、綿密なリサーチをされた上でホテルを建設されていることがよくわかります。
元谷 そうおっしゃっていただけると、私もうれしいです。ところで、前大使のボジョナさんも三十代半ばと非常にお若かったのですが、セダミヌさんも若く見えます。今、年齢はおいくつなのでしょうか。
セダミヌ ボジョナよりは少し年上になります。
元谷 それでもお若い。駐日大使の中でも、最年少クラスになるのではないでしょうか。大使に若い方が多いというのは、国が若い人に積極的に活躍の場を与えているということでしょうか。
セダミヌ そうですね。トーゴ政府はすべての社会集団に対してさらなる経験を積むチャンスを与え、国家の仕事においてそのスキルを発揮できるよう、継続的に取り組んでいます。政治や外交だけではなく、ビジネスの世界でも同じです。
元谷 それは素晴らしいことです。ボジョナさん同様、セダミヌさんともおつきあいいただければと。
セダミヌ こちらこそ、よろしくお願いします。
元谷 以前、ボジョナさんとビッグトークを行った時にトーゴ共和国についていろいろとお伺いしました。改めて、セダミヌさんからもトーゴについて、教えてもらえますか。
セダミヌ はい。トーゴは西アフリカの国で、北はブルキナファソ、西はガーナ、東はベナン、そして南は大西洋になっています。面積は五万六千六百平方キロメートルで、日本の北海道の約三分の二になります。人口は増加中で今約六百七十万人です。首都はロメ。一九六〇年四月二十七日の独立日以前の宗主国はフランスでしたので、公用語はフランス語、宗教は地場の宗教やカトリックを信じる人が多いですね。国民の八〇%が農業に従事する農業国で、綿花やコーヒー、カカオが主な作物です。またリン酸塩や石灰石などを産出する鉱業も盛んです。
元谷 赤道にも近く暑い国だと思うのですが…。地図で見ると南北に細長く伸びています。過ごしやすい場所もあるのでしょうか。
セダミヌ 全体としては熱帯気候です。地域によっても異なりますが。首都のロメは最も南の海沿いの都市なので熱帯の気温ですね。北部はサバンナ地域で、最低気温が二〇〜二五度、最高気温は四〇度になります。中部辺りの最低気温が一八〜二二度と、一番過ごしやすい地域の一つかもしれません。
元谷 ひょっとして、中部は標高が高いのでしょうか。
セダミヌ その通りです。山岳地帯なので空気も澄んでいて、緑も豊富です。観光にはこのエリアがお薦めですね。また日本には春夏秋冬といった四季があり、雨はどの季節にでも降ると思うのですが、トーゴは乾季と雨季にはっきりと分かれています。二つの乾季と二つの雨季があります。その中でもさらに、強い乾季と弱い乾季、強い雨季と弱い雨季に分かれます。
元谷 なるほど。ボジョナさんに、首都ロメにあるロメ空港が西アフリカのハブ空港になっているとお聞きしました。空港は市街地に近いところにあるのでしょうか。
セダミヌ ロメ空港は街の中心部にあります。民間投資で設立されたASKY航空がエチオピア航空と共同でアフリカ諸国への便を運航していて、仰る通りロメ空港は西アフリカのハブ空港の役割を果たしています。今年の四月二十七日に新しい空港がオープンしたのですが、対応する旅客数が三倍になり、ハブ空港としての能力が強化されました。
元谷 日本からロメへ行くにはどうすればいいのでしょうか。
セダミヌ 直行便はありませんから、フランスのパリ経由かドバイ経由、エチオピアのアディスアベバ経由が一般的ですね。ASKY航空はエチオピア航空と提携していて、アディスアベバ〜ロメ便が就航しているのです。そして、ASKY航空がロメから他のアフリカ諸国に就航しています。
元谷 先日、私はリオデジャネイロオリンピックの開会式に行ってきたのですが、東京からリオデジャネイロまで、ドバイ経由で三十時間も掛かりました。日本からロメまで何時間掛かるでしょうか。
セダミヌ 三十時間は掛からないと思いますが、一日みてもらえると、途中のトランジットでもゆっくりできると思いますよ。パリ経由でもアディスアベバ経由でも所要時間は変わりません。
元谷 ブルキナファソの駐日大使が自国で開催する映画とテレビのフェスティバルが非常に有名で、アフリカ最大の映画祭として世界中から非常に多くの関係者が集まると自慢していたのですが、それは本当でしょうか。
セダミヌ はい、その通りです。二年に一回、ブルキナファソの首都・ワガドゥグで行われるFESPACO(ワガドゥグ全アフリカ映画祭)のことだと思います。全アフリカ的なイベントでコンペティションも行われ、グランプリなどの賞が決められます。もちろんトーゴも参加しています。また、トーゴ自身も、自国内でシネマフェスティバルを開催していて、トーゴや他のアフリカ諸国の映画をピーアールしています。
元谷 FESPACOの時もロメ空港でトランジットして、ブルキナファソに向かう人が多いのでしょうか。
セダミヌ その通りです。ロメが西アフリカにおいて重要視されるもう一つの理由は、港です。ロメ港は西アフリカで最も水深が深く、最新型の船舶がこのエリアで唯一停泊可能です。マリやブルキナファソ、ニジェールなど内陸の国へ向かう貨物も、全てこのロメ港を経由しています。今年の十月十五日にはロメで、アフリカ連合の特別サミット「海洋安全保障とアフリカの開発」が開催されました。ロメがこの会議の開催場所に選ばれたのは、ここが海上輸送の重要拠点だからでしょう。
元谷 アフリカ連合というのは現在何カ国が加盟しているのでしょうか。
セダミヌ 五十四カ国です。
歴史を語る奴隷収容所
元谷 トーゴへ観光旅行に行く場合には、何月に訪れると一番気候が良いでしょうか。私も是非一度、行きたいと思っているのですが。
セダミヌ 一年中良いです。ご都合の良い時にお越しください。お薦めしているのは、気候が理由ではないのですが、七月です。この時期であれば、北部のカラという街で、カビエ族のエヴァラという世界的に人気のあるお祭りを観ることができるのも理由の一つです。また九月には、南の海岸線沿いのアネホという街で、エウェ族のエペエペというお祭りを見物できます。さらにはyèke-yèke zanやtimbam-paabといったお祭りも有名ですね。気候のお薦め時期ですが、暑いですが湿気が少ない乾季が良いと思います。南部では十二〜三月、八〜九月が乾季になります。
元谷 お祭りが面白そうですね。
セダミヌ その他の見どころは、何を観たいかで変わります。ロメであれば、ブードゥー教グッズの市場が面白いですよ。鳥の羽、動物の頭蓋骨、獣の皮や彫刻が施された小さなお守りなどが並んでいます。お土産探しにはぴったりでしょう。値段はその土産物の希少性によります。かつて海外に連れて行かれる数多くの奴隷が入れられた奴隷収容所も観光スポットになっています。またロメから約百二十キロ北西にあるパリメという街はトーゴの職人工芸の中心地で、木彫りや陶芸などの芸術家や職人が数多く住んでいます。自然が好きであれば、北部のファザオ・マルファカッサ国立公園で、スイギュウ、ゾウ、レイヨウなどの野生動物や数多くの種類の植物を観察することができます。
元谷 奴隷に関して、私は一つ疑問を持っています。一千万人とも二千万人とも言われる人々がアフリカから南北アメリカ大陸に奴隷として連れて行かれたのですが、奴隷商人はどうやって奴隷となる人々を集めたのでしょうか。強制的に拉致によって、万単位の人数を集めることができたとは到底思えません。例えば奴隷商人がアフリカ人の有力者に金品などを渡して、奴隷となる人を供出させたのではないでしょうか。
セダミヌ 基本的に仰っていることは正しいと思います。奴隷制度は悲しい歴史です。ロメには「奴隷の道」と呼ばれる有名な場所があります。奴隷収容所はセネガルのゴレ島のものが世界文化遺産にもなっています。
元谷 よくわかりました。大量の人間を強制的に連行することは物理的に不可能です。韓国は日本が先の大戦時に朝鮮半島で二十万人もの女性を強制連行して性奴隷にしたと捏造の歴史で糾弾しているのですが、あろうことか世界の常識になりつつあります。すでに当時はメディアが発達していたのに、強制連行に対して朝鮮半島で抗議があったというニュース記録は一切ありません。まだ売春が違法化される前の時代のことであり、女衒に金をもらい親が娘を引き渡すというのも、貧しい環境の中では当たり前のように行われていました。またそのような形で慰安婦になった女性達もそれなりの給料をもらい、場所によっては兵士達と一緒に遊んだり買い物をしたりという生活を過ごし、借金を返し終われば自由の身になっていたという記録もあります。誰かが美味しい思いをする代償として、辛い境遇に陥れられる人がいたという不幸な歴史は、日本にもあったのは確かです。しかし今それが歪められて世界に広まっています。
セダミヌ いずれにしても過去にしがみついていても、何の進歩も生まれません。とにかく前に進んで未来を作っていくことが大事だと思います。
元谷 全く同感です。トーゴの政治制度についてお聞きします。共和国ですから大統領制で議会もあると思います。それぞれの任期は何年になっているのでしょうか。
セダミヌ 大統領は憲法に従って選出されます。任期は五年です。国会議員も直接選挙で選ばれ、一期は五年です。今のニャシンベ大統領は二〇〇五年に初当選していて、今三期目になっています。
元谷 議員はともかく大統領も再選が無制限というのが、面白いですね。日本の首相の任期は、今は与党の自民党の規則に縛られていますが、二期六年と短いものになっています。アメリカでも二期八年ありますから。
セダミヌ そうですね。トーゴでは現在大統領の所属する与党が議会の多数派を占めていて、首相も与党から選出されています。
元谷 軍隊の規模はどれくらいになりますか。
セダミヌ 陸軍、警察、憲兵、州兵そして海軍を合わせて約一万人です。兵役が二年の選抜徴兵制を採用しています。
元谷 きちんと予算を確保して、軍備を整えているのですね。日本には軍隊はありません。あるのは自衛隊です。トーゴの人口は日本の約二十分の一なのですが、軍隊の規模も自衛隊の大体二十分の一なのですね。世界的にこれぐらいの比率が適当なのかもしれません。規模は良いのですが、自衛隊の問題はその運用です。通常世界の軍隊はネガティブリストで動いており、禁止されている事以外は自由に行動することができます。しかし自衛隊の行動はポジティブリストで縛られており、許されている事しかできず、いざという時に行動できません。安全保障のためには、日本は憲法を改正して自衛隊を世界標準の軍隊にする必要があると思います。セダミヌさんは受け答えも的確で素晴らしい。どちらで教育を受けられたのでしょうか。
セダミヌ 高校生まではコートジボワールにいました。その後ロメ大学に進学して、法律を専攻して修士号を取得しました。さらに国立行政学院で外交を学んでいます。
元谷 エリートコースですね。これから日本とトーゴの懸け橋となって活躍されることを期待しています。いつも最後に「若い人に一言」をお聞きしています。日本の若者にメッセージをお願いします。
セダミヌ 未来は若者が、その行動によって築いていくものです。世界は今、テロリズムなど平和を乱す様々な挑戦に直面しています。そんな中、若者は責任感と寛容の心と、仕事に対する愛情や情熱、世界が平和になって欲しいという強い想いを持って、様々な分野で活躍していって欲しいですね。
元谷 その通りだと思います。この秋にアパホテルは北米に四十のホテルを展開するようになりました。いずれトーゴにもアパホテルを作ることができるよう、世界戦略を頑張って進めていきます。今日はありがとうございました。
セダミヌ ありがとうございました。
対談日2016年9月20日