Big Talk

堅実な防衛力をバックに経済力、外交力を充実するVol.303[2016年10月号]

衆議院議員 復興大臣 今村雅弘
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APAグループ代表 元谷外志雄

国鉄時代には民営化に向けて危険も顧みず尽力、国会議員になってからも、自らの信念を貫いてきた衆議院議員の今村雅弘氏。東日本大震災からの復興にも力を注ぎ、この八月の内閣改造で復興大臣として初入閣も果たした氏に、今後の復興の道筋や日本再興への思いなどをお聞きしました。
今村 雅弘氏

1947年佐賀県鹿島市生まれ。1970年東京大学法学部を卒業、日本国有鉄道に入社。平成8年10月に衆議院議員に初当選、以来7期連続当選。農林水産副大臣、自由民主党政調副会長、副幹事長、自由民主党総務会副会長、衆議院東日本大震災復興特別委員長などを歴任。八月の内閣改造で復興大臣として初入閣。

脆弱さを知った上で
エネルギー構成を考える

元谷 本日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。これまでも勝兵塾やワインの会に出席してもらっているのですが、ビッグトークは少し遅くなりました。

今村 よろしくお願いします。

元谷 元々国鉄に勤められていて、民営化の時は大変苦労したと聞いています。

今村 人事・労務担当でしたから、国鉄側の最前線に立って、左翼の過激派と全面的に対決していました。時限発火装置で家を焼かれたこともありました。それでも、現場長よりも総務部長の自分がターゲットになればマシだと考えていましたね。

元谷 それぐらい過激な相手だったと。

今村 それをなんとか乗り切って、中曽根首相の時の一九八七年に民営化が達成できました。

元谷 国会議員になったのは、その辺りがきっかけでしょうか。

今村 そうですね。地元の政情に加え、民営化の時の対応を見た人が、元気なのがいるから、使ってみようかという話になったようです。

元谷 今村さんは衆議院東日本大震災復興特別委員長です。震災からもう五年経ちました。

今村 震災復興は十年が一応の区切りと考えられていますから、今、丁度折り返し地点に来たところです。

元谷 震災の一番の問題は福島の原発事故の処理だと思います。しかし放射能の影響が過剰に報道され過ぎています。除染の基準も厳し過ぎました。震災発生当時の民主党政権が避難などの基準を厳しくしたために、強制避難で多くの人が災害関連死を遂げました。

今村 私は委員長ですから極端な意見を述べるわけにはいきません。しかし一委員として、いろいろ考えていることもある。今回の震災からの復興は自然災害と原発事故から復興するという「戦い」です。これに応じた素早い対応を、国がリーダーシップをとって行い、一日も早い復興を目指すべきだと考えています。

元谷 第四回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀賞を獲得した札幌医科大学教授の高田純さんは、放射能の専門家なのですが、研究のためと言っても、福島原発付近の立ち入り禁止区域に入れない。一方放射能の危険を煽る報道を繰り返すメディアは、頻繁に許可を得て立ち入り禁止区域に入っています。本来は学問的に放射能の調査・研究をするべきなのに、対応が偏っています。そもそも放射能への過剰な恐れが、復興の妨げになっているのです。またあの震災で多くの方が犠牲になった最大の原因は津波です。この対策をまず優先すべき。巨大な堤防を作る工事も進められていますが、私は震災直後から、堤防より防災塔にもなるマンションを作れと主張しています。一〜二階が駐車場で三階以上が住居の六階建てのマンションが二百メートルおきに並んでいれば、いざという時には付近の人全員がマンションの屋上に避難して、津波をやり過ごすことができます。

今村 東日本大震災について、原発事故と自然災害の部分は分けて考えるべきでしょう。しかも三陸は、過去に何度も津波の深刻な被害に遭っています。いかに素早く避難するかが最も重要で、職住分離で仕事場は海辺でも住居は高台にすることも進められています。高台に逃げるための道路整備も必要です。様々なアイデアがあっても良く、代表の仰る職住マンションも素晴らしい解決策だと思います。

元谷 また震災などの後に湧き上がる自粛の波が、様々な業界に二次被害を与えています。弊社でも東日本大震災の数日後に真心笑顔親善大使を決めるイベントが予定されていたのですが、私は自粛で中止しようという社員の声を押し切って、決行しました。決めたことは行って、一刻も早く世の中の安定を取り戻すべきなのです。

今村 その通りですね。

元谷 震災の結果、全ての原発が停止し、火力発電の比重が高まったために原油の輸入が増え、石油メジャーを大儲けさせることになりました。私は国際的な謀略戦にやられたと考えています。トモダチ作戦を展開したアメリカ軍ですが、被災地から帰還したヘリコプターの除染作業の映像を、どれだけ放射能を浴びたかを発表することなしに繰り返し流して、人々の不安を煽りました。当時アメリカではシェールオイルが出回っていて、石油メジャーが保有するサウジアラビアの石油がだぶつき気味だったのです。それを日本に買わせるための謀略だったのではないでしょうか。メディアで報道されていることだけではなく、その裏も読み取って対策を立てないと、様々な勢力に踊らされることになります。

今村 そうですね。今の日本経済がもっているのは、原油価格が安いからでしょう。日本のエネルギー構成がいかに脆弱かを冷静に見た上で、原発の将来も考えるべきです。

元谷 震災後は、日本国内の電力の約三〇%を担っていた原発を全部止めてしまいました。二〇一六年八月現在で、稼働している原発は二基しかありません。原油代や稼働していない原発の維持費など、膨大な国富の浪費が行われています。これをなんとかしないと。

今村 不安定な世界情勢もエネルギー政策を考える際の重要なファクターです。中近東で勃発した事件によって、再び石油ショックが世界を襲うこともあり得ます。

生前退位よりも摂政
皇室存続への議論を

元谷 シーレーンの問題も大きいです。中国は着々と南シナ海の軍事拠点化を進めていて、ハーグの仲裁裁判所の裁定を無視しています。中国だけではなく、トランプ現象が起きたアメリカも、EU離脱を決めたイギリスも、どの国も自国第一主義へと向かっているのです。日本もせめて自分の国は自分で守ることはしないと。この点については、私と今村さんの考えは一致しています。

今村 そうです。

元谷 トランプ氏は日本と韓国の核保有の可能性に言及していますが、私はアメリカは日本が核兵器を持つことを決して認めないと考えています。あるとすれば、NATO四カ国が導入しているレンタル核協定「ニュークリア・シェアリング」を日本にも導入することです。これでも一定の抑止力は生まれるのではないでしょうか。世界で唯一、広島と長崎に原爆を投下された日本ですが、そのトラウマが余りにも大きすぎて、核兵器だけではなく原発や放射能まで、必要以上に危険だと看做しています。この風潮を払拭するような手立てを、自民党や今村さんにはぜひ考えて欲しいのですが。

今村 そうですね。少し先の世界情勢の変化も読み辛い今の情勢なのに、日本がいつまでもアメリカに守られて、平和ボケしている場合ではありません。その点、トランプ氏の出現は、日本にとってある種のショック療法なのかもしれません。

元谷 トランプ現象はアメリカだけではなく、ヨーロッパなど世界的に起こっている現象です。冷戦終結後、新しい枠組みが築かれようとしている過程だからだと思うのですが。

今村 ヨーロッパでの反EUの動きもそうですね。

元谷 EUは冷戦終結後のアメリカ一極支配を阻止するために生まれたものです。その力の源は、フランスの持つ核兵器でした。しかし経済的に見れば、強いマルクを他の通貨と合わせて弱い通貨・ユーロにして輸出を増やし、また労働力として多くの移民を受け入れたドイツだけが大きな利益を得ています。

今村 ギリシャなどからすれば、俺達のような出来の悪い国のお蔭でユーロ安となりドイツの繁栄があるのではないかと。もっと分け前をよこせとも言いたくなるでしょう。ユーロ最大の問題は、通貨は統一されているのに、財政政策はそれぞれの国で行うことになっていることです。

元谷 それに加えて、EUの余りにも巨大な官僚機構も問題です。各国から集められた分担金の中から、組織の運営費用として多額の金が使われています。そんな風に使われるのであれば、EUを離脱して分担金を止め、その分を自分達のために使いたいと考える国が出てきても、やむを得ないでしょう。イギリスではそのように主張した離脱派が国民投票で勝利したのですが、その運動の中心人物だった元ロンドン市長のボリス・ジョンソンが、保守党の党首選を前にまさかの敵前逃亡で出馬しなかったのに、結局外務大臣に収まっています。何がどうなるかわからない状況です。

今村 仰る通り、今後世界がどうなるか、誰にもわかりません。この中で日本は、本格的な内閣が継続して政権を担当し、長期的な視点で思い切った政策を実現させるべきです。今回の参議院選挙で与党は勝利させていただき、また自民党は単独で過半数の議席を獲得しました。衆参両院で安定多数を獲得したこの機会を逃してはならないでしょう。

元谷 改憲勢力も両院で三分の二になりました。ここで憲法改正を行わなければ、この先数十年はできないでしょう。どう読んでも日本語としておかしい前文などから議論を盛り上げ、世論を作り上げ、国会で改憲の発議を行い、まず改憲が可能であることを示すべきです。いきなり理想的な憲法を作るのは無理ですから。ただ現状では公明党が改憲賛成かが不明ですし、改憲勢力共通の改正項目もありません。三分の二獲得したので、あたかもすぐにでも憲法改正が行われるような言説も飛び交っていますが、そんなことはあり得ない。九条の会が国民投票で阻止しようとするでしょうし。一方、日本会議や美しい日本の憲法をつくる国民の会は、一千万人の署名を集めるべく、活動を展開しています。いい方向へと向かっているのですが、国際情勢の変化の方が早い印象もあります。ここは国会議員の皆さんに頑張ってもらわないと。

今村 はい、肝に銘じます。

元谷 正しい物差しがないと社会が狂います。日本の場合、物差しとなる憲法がおかしいので、国民がおかしくなっています。先の大戦で日本が余りにも強かったために、アメリカが日本国憲法で日本を縛ったのです。この強さの根っこにあるのは、天皇の存在です。しかしGHQは、皇室の自然消滅を狙って、戦後十一の宮家を廃止し、現在秋篠宮家、常陸宮家、三笠宮家、高円宮家の四家となりました。彼らの思惑通り皇室の後継問題が深刻となり、女系天皇や女性天皇の話が出てきたり、生前退位の話が出てきたり。これらは全て皇室を自然消滅させる為のGHQの長期戦略なのです。

今村 日本の古くからの知恵は、権威と権力を分けてきたことです。幕府など権力はどんどん変わっていきましたが、天皇という権威はずっと存続してきました。

元谷 要塞化されていない京都御所が何百年も破壊されずに残ってきたのは、その権威のためです。この伝統をなんとか残していかないと。ですからお年で公務が大変そうだから生前退位してもいいじゃないかという流れは、断固断ち切るべき。こういう時のために、摂政という制度があるのですから。私は皇室をなくそうとするなんらかの動きがあるように感じています。

今村 先手をとって、どうやって皇室を守るかを考えないと。

元谷 男系天皇を続けてきたのも、日本人の知恵です。この伝統を、誇りを持って次世代に伝えていく方法を、真剣に考えるべき時だと思います。これができなければ、日本はいつの間にか、中国の日本自治区になってしまうでしょう。

移民導入は慎重であるべき
観光大国化で少子化対策を

今村 その中国ですが、七月のASEAN外相会議では中国の王毅外相が自らの首を賭けて交渉し、南シナ海の仲裁裁判の裁定には、一切触れない共同声明を出して閉幕しました。

元谷 ラオスやカンボジアなど、南シナ海に直接関係のない国を援助を餌に味方につけたのでしょう。

今村 私は日本・カンボジア友好議員連盟の幹事長なのですが、なぜカンボジアが中国とあれほど接近するのかが不思議で不満です。中国がバックにいたポルポトで国が大混乱した記憶があるはずなのに。

元谷 百年計画で長期的に手を打ってきています。援助も金だけではなく人付き。プロジェクトが終われば、人も技術も中国は持ち帰りますから、結局は被援助国のためにはなりません。

今村 そのことがわかってきて、今アフリカでは中国の援助が嫌われてきています。中国と格別喧嘩をする必要はありませんが、国際法など守るべきことは守らせるべきでしょう。

元谷 世界からのお金で技術と人を発展途上国に派遣しようと、中国がバブル崩壊の穴埋めのために作ったアジアインフラ投資銀行(AIIB)に、ヨーロッパはいち早く加盟を表明して、お墨付きを与えました。しかし、この仲裁裁判所の件で、中国を巡る国際世論は厳しくなるのではないでしょうか。

今村 イギリスなどは良くわかっていると思うのですが、多民族国家である中国は統治がなかなか難しい。歴史的には大衆の生活をそれなりに満たしてあげれば、問題は起きないのです。それができなくなる時が怖い。最初は食料の確保が必須でしょうが、人間の欲望には限りがありませんから。

元谷 十三億人の多民族国家という実験を行っている中国は、いずれソ連のように分裂します。貧しい時代は皆一体となって頑張れますが、豊かになった時にそれを共有するのは難しい。核を持つ国が分裂して内戦になったら…と想像するだけで、恐ろしいことです。

今村 マイナスをプラスに変える発想も必要です。南シナ海の件も、アメリカに日本というパートナーの重要さを知らしめる良いチャンスでしょう。中国や北朝鮮、ロシアなどがひしめく東アジアにおいて、日米関係強化が重要なポイントになるはずです。

元谷 多少逆説的ですが、私は中国は日本が強くなることを望んでいるのでは…と考えたりします。もし日本は弱いとなれば、人民解放軍や世論が余計な誘惑に駆られてしまうからです。もちろん軍事力を強化したからといって、日本が軍事大国化して他国を攻めることなど、今の政治の仕組みからはあり得ません。国家間の力のバランスの維持が戦争を防ぐのであって、そのために日本の軍事力の強化が必要なのです。

今村 同感です。通常兵器でさえすさまじい破壊力、殺戮力を有する今日、戦争が勃発しても勝者はいませんから、なんとしても戦争を抑止しないと。日本は確かな防衛力をバックに、さらに経済力、外交力を充実させていく必要があります。

元谷 また日本が強くなるためには、国民の気持ちが強くなることが前提となります。自分の国は自分で守るのは基本です。しかしメディアと教育で、国民の考え方が歪んでしまっています。

今村 メディアと教育から変えていくべきですね。日本は少子化問題に直面していますが、少なくても少数精鋭であればよい。心身共に一人ひとりの力を高める教育が重要だと考えています。

元谷 少子化対策に移民受け入れを主張する人がいますが、私は慎重であるべきだと。移民を受け入れてきたヨーロッパ諸国では、今様々な問題が噴出しています。人口減少による内需の減少は、海外からの観光客の増加で補っていけるのではないでしょうか。この意味からも、日本の観光大国化を推進しなければ。

今村 昔は富士山など知名度がある観光地が外国人旅行者に人気でしたが、最近は文化や歴史など、日本のソフト面やディープな部分に興味を持つ方々が増えています。

元谷 東京〜大阪に集中していた外国人観光客が、地方も訪れるようになってきました。そんな人々がSNSなどを使って、日本の素晴らしさを発信してくれます。観光大国化は日本の国際的な地位を高めることに繋がるでしょう。

今村 その通りですね。

日本人として誇りを持って
活躍のフィールドへ

元谷 ところで今村さんは、リニア中央エクスプレス建設促進国会議員連盟の事務局長もされています。リニア中央新幹線は二〇二七年に品川〜名古屋が開業する予定なのですが、なぜ一気に大阪までの開業ができないのでしょうか。北陸新幹線もそうですが、大阪まで開通してはじめて、巨大地震などで東海道の交通網が遮断された時の代替になると思うのですが。

今村 二〇四五年を予定していたリニア中央新幹線の名古屋〜大阪の開業は、財政投融資も使って、最大で八年間前倒しにすることにしました。代表の仰る通り早く行うべきなので、可能な限り急いで進めていきます。

元谷 今の超低金利を利用して、長期国債を発行してインフラ作りを進めていくべきでしょう。例えば百年という長期での償却にすれば、金利はごくわずかですから、運賃など利用料金で返済していくことが可能になるはずです。景気対策にもなると思います。リーマンショックの後、中国は政府の資金を使って、各国から資材を集めてインフラ整備を行うことで、世界の景気を牽引してきました。その負担の重さに今や中国のバブルは崩壊、いよいよ日本の出番です。積極的なインフラ投資へ、政治の英断が必要でしょう。

今村 その通りですね。ハードソフト両面から世界へのインフラ輸出や投資を進めていきます。さらに言えば、地方自治体の首長が地方交付税に依存しがちです。これを総務省の役人が権力維持に利用している。江戸時代の三百諸侯を見習って、自分達の食い扶持は自分達で創るという自主自立の気概が必要です。

元谷 確かに、そうですね。いつも最後に「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

今村 今、東京の家では下宿人です。孫と同居しています。政治の仕事でストレスが溜まることもありますが、チビ達の姿を見ていると、彼らのためにももっと頑張って、良い仕事を残さないと…と思いますね。若い人は、数々の奇跡を起こしてきた日本人の子孫であるという誇りと自信と、未来への希望を持って進んでいって欲しい。少子化ということは、その気になれば国内でも世界でもいくらでも活躍できるフィールドがあるということです。

元谷 特に最近の若い人が海外に出なくなったと言われています。いろいろな国を訪れることは、日本の良さを再確認する意味からも重要です。今日はいろいろと面白いお話が聞けました。ありがとうございました。

対談日2016年7月27日