日本を語るワインの会157

ワイン156二〇一六年七月六日、恒例「日本を語るワインの会」が代表自邸にて開催されました。アメリカで企業に在籍したり大学で教鞭を執ったりしたこともある在日モルドバ大使のブマコフ・ヴァシレ氏、櫻井よしこ氏が理事長を務める国家基本問題研究所が創設した日本研究賞で奨励賞を獲得したエルドリッヂ研究所代表のロバート・D・エルドリッヂ氏と令夫人の永未子氏、横綱・白鵬と同じダワージャンガルという名前を持つ駐日モンゴル国大使館参事官のルンダー・ダワージャンガル氏、機械工学を専攻、メリーランド州の名誉市民でもあるフリージャーナリストの宮田修氏、逢沢一郎氏や野田佳彦氏と同じく松下政経塾の一期生でもある在日本ルーマニア商工会議所会頭の酒生文弥氏、元CAでロシア滞在も長かった株式会社ユウ・コーポレーション取締役の岩崎優子氏をお迎えし、インターナショナルな話題が交わされました。
国民投票の結果が
常に正しいとは限らない
 六月にイギリスで行われたEUからの離脱か否かをテーマにした国民投票で、離脱派が僅差で勝利した。直前の世論調査の結果で残留派が勝つと思われていたが、結局サプライズで離脱となったことで、為替市場や株式市場が大混乱となった。世界中から百数十兆円のお金が消えたことになる。直接日本には関係のないイギリスとEUとの関係の話なのだが、日本の市場も大きな影響を受け、株安円高への方向へと向かっている。今後の観光客の減少が懸念される。
 このイギリスの国民投票は、民意を直接に反映する投票の怖さが実感できる事件だったと言えるだろう。投票結果を分析すると、ヨーロッパ域内の移動の自由というメリットを重要視している若い人ほど残留に投票しているが、同時に若い人が多い地域ほど投票率が低かった。直前の世論調査などで残留派が勝つと見越して、投票に行かなかった若い人も多いのではないか。
 残留派だったが、今年二月に離脱派に鞍替えしたのが、保守党の下院議員で元ロンドン市長のボリス・ジョンソン氏だった。しかし彼もまさか本当に離脱となるとは思っていなかったのだろう。キャメロン首相辞任後の最有力の保守党党首候補だったのに、急に敵前逃亡で党首選に立候補しなかった。国民投票のやり直しを求める請願への署名が四百万人以上集まったが、イギリス政府は正式にこれを却下した。しかし今後のEU離脱交渉が不調に終わる場合、または大不況がイギリスを襲う場合など、数年以内にまた再度国民投票が行われる機運となる可能性もある。この国民投票のとばっちりを受けたのが、アメリカ共和党の大統領候補であるトランプ氏だ。自分が主張する自国第一主義がイギリスでも認められたとして、離脱派の勝利を祝福していたトランプ氏だったが、そのあと支持率がガタ落ちとなった。正に一寸先は闇と言えるだろう。
 この離脱は英語ではブレグジット(ブリテッシュとイグジット〈離脱〉からの造語)と呼ばれているが、客観的に見てこの選択は間違いだと主張する人が多い。確かに歴史的にイギリスはEUに対して距離感があったが、近年イギリスの産業構造は、すでにEUのマーケットを前提として構築されてきた。保守党のキャメロン首相は国民投票を公約にして昨年の総選挙で勝利を掴んだのだが、そもそもそのような冒険主義的な公約を掲げるべきではなかった。また国民投票の実施を煽ったメディアの罪も大きい。国民投票は民主主義に則って行われたものだが、そもそも政治体制として民主主義は絶対的であるわけではない。共産主義に比べてマシだっただけだ。ヒトラーが総統に就任したのも、国民投票で信任を得た上だったという歴史を忘れてはならない。イギリスはEUからの離脱を決めた後、何を行えばいいのかまったくわかっていない。

世界から見ても高品質
人気のモルドバワイン
 二〇一二年にノーベル平和賞を獲得した通り、先の大戦後六十年以上に亘って平和を維持してきたEUは、ヨーロッパのためには良い選択だった。一方EUにはアメリカによる世界一極支配に対抗するという意味もあった。例えば従来はヨーロッパのテリトリーだった中東へアメリカが手を出したのが湾岸戦争だ。このようなアメリカの行動に、ヨーロッパはEUとして一体となって対抗してきた。EUの大きな特徴は域内の移動が自由であることで、かつて全ての国境で入国審査があったことを考えると、このメリットは非常に大きい。しかし今加盟各国で問題となっているのは、難民や移民の流入だ。シリアなど中東からの難民も、一旦EU加盟国に入れば、その後は域内を自由に移動できることになってしまうからだ。
 先の大戦後、ヨーロッパとアメリカでは全ての国が民主化され平和へと向かったが、唯一の例外がソ連とその後のロシアだった。今でもロシアの影響力は強く、それから逃れるためにモルドバはEU加盟を目指している。モルドバは歴史的にオスマントルコやロシア、ドイツなど周辺各国の鬩ぎ合いの場であり、国内には砦の跡が多数残っている。モルドバでは約三百五十万人の人が九州よりもやや小さい面積の国土に暮らしている。公用語はルーマニア語に近いモルドバ語だが、国民全員がロシア語も話すことができる。大半の人がロシア正教を信じる。五%ほどトルコ系の人々が暮らすのだが、彼らの宗教もロシア正教だ。昔から様々な国がこの地に侵入した民族国家となっていたのだが、その多民族の統合に成功した例だと言われている。またモルドバは、土地と気候の良さから、世界でも最高品質のワインを作っていることで知られている。ワインも農作物の一つだが、その複雑さが魅力。一本のワインから花や果実、さらにスパイスなど様々な農作物のエッセンスを感じ取ることができる。

副大統領候補選びが
トランプの勝利への鍵

 アメリカ大統領選挙がいよいよ民主党、共和党の両候補の一騎打ちのステージに入った。しかし民主党の候補予定のヒラリー・クリントン氏には、公務のメールを個人的なサーバーで送ったという国家機密漏洩罪の疑いが掛けられていたし、共和党のドナルド・トランプ氏にも、自らが創設したトランプ大学による詐欺疑惑が出ている。またトランプ氏には、外国人に政治資金を要請したという疑いもある。これらの疑惑で訴追された場合は、当然大統領候補からは引きずり降ろされる。一応FBIはクリントン氏を訴追しないという声明は出しているが、もし両者とも訴追されれば、民主・共和ともに大統領候補のリセットという事態もあり得るだろう。またどちらも大統領候補だから訴追されていないのであり、普通の市民ならとうの昔に逮捕されているという人もいる。しかし二人同時にアウトになることはない。世の中、本当に正しいか正しくないかではなく、強い人に「正義」は収斂していく。クリントン氏かトランプ氏か、大統領選挙で負けた方が疑惑をさらに追求されることになるだろう。
 トランプ氏は三回離婚をして四回破産をしていて、大統領選挙は今回三回目だ。人生経験が豊富で酸いも甘いも噛み分けることができる人物と考えていいだろう。その彼が大統領予備選を勝ち抜くために考えた戦略は、普通の発言では勝てない、過激な発言を行うというものであり、それが成功して共和党の候補者となることができた。しかし民主党はクリントン氏の私的メール疑惑が訴追されないことになり、またオバマ大統領が支持を表明したことで、クリントン氏を中心にまとまりを見せようとしている。一方のトランプ氏は、イギリス保守党の党首選挙の前に敵前逃亡したボリス・ジョンソン氏に髪型も顔も発言も似ていることもあって、人気が下降気味だ。支持率を再度上昇させるには、共和党を一つにまとめ上げる必要がある。そのためには、共和党主流派の副大統領候補を選ぶことだろう。
 日本の保守の中でも意見が分かれているのはTPPの問題であり、反対する人も多い。しかしTPPに参加するかどうかは貿易・経済の問題のみならず、アメリカと組むか中国と組むかという体制の選択になっていることに、早く気がつくべきだ。中国ではなくアメリカと組むのであれば、当然TPPには参加しなければならない。保守内で細かいことで争っている場合ではない。もっと大きな視野を持って、政策を考えるべきだ。

最先端技術の攻撃兵器で
日本は抑止力を高めるべき
 若い人の精神力を鍛えるためにも、徴兵制度を今日本に導入してはどうかという議論がある。しかし実際には毎年多くの若者が自衛隊に応募している。敢えて徴兵制などを導入する必要はないのではないか。また日本のメディアが報じている以上に自衛隊の実力は高い。中国の人民解放軍と比較しても、海軍力は圧倒的に自衛隊、空軍力は今中国が急速に高めてはいるがまだ自衛隊の方が有利だ。これは中国人民解放軍が元々陸軍に重きを置いていたことに起因する。日本が制空権と制海権を失えば大変なことになるが、そうでなければ人民解放軍は日本海を渡ることはできず、日本本土が攻撃されることもない。日本の海軍力はアメリカに次ぐ世界第二位であり、かつてのイギリスの海軍力を凌駕している。しかし今後はこれでは十分ではない。尖閣諸島の問題で中国の動きが激しいが、最初に中国からの不審船が領海を侵犯した時に撃沈しておくべきだった。北朝鮮の不審船は、撃沈してから一切来なくなった。
 アメリカは毎年五兆円ずつ国防費を削減していくことが決まっていて、沖縄の在日米軍も縮小されていく。それに伴って、日本は防衛費を増額すると共に、その質も変えていくべきだ。軍事力のバランスを考えた場合、防衛力だけで国を守ろうとすると、抑止力が発生しないために多くの装備が必要になり、多額の予算が求められる。これを回避するために、日本は先端科学技術を利用した攻撃兵器を開発・保有を行うべきだ。例えばアメリカの最新鋭駆逐艦であるズムウォルトに搭載される予定のレールガンに採用されたリニア技術や砲身の技術は、全て日本から提供したものだ。日本はこれらの技術を応用して自前の攻撃兵器開発も行うべきだ。また軍事技術が民間技術を作ることも、歴史上明らかだ。軍事を念頭に置いた最先端技術の研究・開発が今後望まれるだろう。AI(人工知能)とIoT(全てのモノがインターネットに繋がること)の発達で、公認会計士や弁護士が将来いらなくなると言われている。しかしコンピューターが可能なことは、過去の分析と現在への適応だけであり、未来の予測は無理だ。ただ軍事面に関しては、サイバー戦の激化とロボット兵器の登場によって、どんどん人間の兵士が必要とされない戦いが展開されるようになっていくのだろう。