好業績で世の中を保守に
今年の五月十日でアパグループは四十五周年を迎えた。事業の全貌を改めて眺めてみると、アパホテルネットワークは建築・設計中を含めて全国で三百七十一棟、六万一千四百九十一室となり、東京だけでも六十六棟、一万五千四百六十七室であり、その開業済ホテルのほとんど全てが月間稼働率一〇〇%で稼働している。経常利益も一昨年の百八十一億円から昨年は二百八十二億円、そして本年十一月期の見込みは売上高一千六十九億円に対して経常利益三百三十億円と、利益率は三十%を越えた。日本はもちろん、世界でもこれほどの利益率を出しているホテルは他にはない。この高利益率を出すアパの「新都市型ホテル」という新しいビジネスモデルを求めて、世界各国から引き合いが相次いでいる。日本で十分な収益を上げているアパホテルだが、一千百万人を数えるアパカード会員の利便性を考え、まずはフランチャイズでの世界展開を行う予定だ。日本では東京でトップを取ることで、ナンバーワンホテルとなることができた。では世界進出はどこから展開するか。やはりアメリカのニューヨークだ。ニューアーク空港から車で二十分、マンハッタンから電車で三十分に位置する場所に、世界進出第一弾としてアパホテル〈ウッドブリッジ〉が六月二十日にグランドオープンする。
私は、売上・利益の最大化を求めていく企業はいずれ破綻する、アパは良い会社を目指す、と公言してきた。しかし自分の会社だけ良くなれば良いのではなくて、この国を良い国にしなければならないという思いが私の信念であり、事業と同時に、誇れる祖国・日本を再興する言論活動にも力を入れてきた。一九九〇年七月にこの月刊Apple Townを創刊、今号で二十五年五ヵ月、三〇五号となった、この月刊誌の発行部数は七万八千部であり、毎月ベストセラーを出しているようなものだ。この中の対談記事「BIG TALK」は今号で三〇一回、藤誠志エッセイは二八七回を数える。二〇〇八年には「真の近現代史観」懸賞論文を開始、第一回には現役航空幕僚長の田母神俊雄氏が最優秀賞を獲得した。今、第九回の懸賞論文を募集しているところだ。二〇一一年六月にスタートした勝兵塾は今年で五周年を迎えた。東京では六十一回、金沢で四十九回、関西で四十二回開催し、参加者は延べ一万人を超えている。多くの人々が私や講師の話を聞き、共感の輪を広げている。「真の近現代史観」懸賞論文と勝兵塾を運営するアパ日本再興財団は、昨年六月に公益財団法人へと移行。これは国からも活動を認められたことを意味すると思う。
言論活動と事業は表裏一体であり、事業が好調でないと、私達の主張がどれだけ正しくとも世の中に受け入れられないだろう。そう考えて、事業を発展させてきた。私が作り上げたホテルスタンダード「新都市型ホテル」は、ホテルの価値は部屋の広さではなく、宿泊することで得られる満足にあり、人はそのことにお金を払うと考えている。大型の五十型液晶テレビに、シングルでも一、四二〇ミリの大型オリジナルの寝心地の良いベッド、電灯や空調のスイッチの全てがベッドサイドに集中していて、ベッドに居ながらにしてあらゆるニーズを満たすことができる。お客様とホテルスタッフの関係も伝統的な欧米ホテルの「ご主人に仕える召使」の関係ではなく、誇りを持って宿泊されるお客様を誇りを持ってスタッフがおもてなしをする、ゲストとスタッフは対等であるといった考え方だ。ホテルの概念を一新する新しい業態のため、競合がなく宿泊料金も他と比較のしようがない。また上限(タリフ料金の一・八倍)は決まっているが、需要と供給のバランスからなる市場原理によって、日々宿泊料金が変化するシステムを採用している。それをご理解いただいたお客様が新都市型ホテルの考え方を支持し、それ故に宿泊していただいての、この高収益だと考え、またお客様に感謝をしている。
脱却すべきである
今年十月のオープンを目指して、中四国最大級の七百二十七室を擁するアパホテル〈広島駅前大橋〉を今建設中だが、昨年このホテルの起工にあたっての記者会見で、「なぜこの広島にこんな大きなホテルを建設するのか?」という質問を受けた。「オバマ大統領が広島に来るからだ」と私が答えると、会場には失笑が広がったのだが、今年の五月、実際に彼は広島を訪問した。私の予想は当たったのだ。就任間もない頃の核廃絶演説でノーベル平和賞を獲得したオバマ大統領としては、結局行ったのは核セキュリティサミットの開催だけだったと言われるのを避け、レガシーを築くため、広島を訪問すると私は読んだのだ。そのオバマ大統領の次のアメリカ大統領の共和党候補として、アメリカ第一主義を主張し、場合によっては駐留米軍の撤退や日韓の核武装容認さえも口にしたドナルド・トランプ氏が選ばれた。冷戦終結から二十六年、アメリカだけではなく、世界は今確実に潮目の転換点にあり、どの国でも自国第一主義、ナショナリズムが高まっているように思える。
中国では反腐敗闘争と毛沢東時代を彷彿とさせるような手法で、習近平国家主席が権力の集中を図っており、これまでに軍部を握り、任期の十年を超えても政権を手放さず、習近平帝国化へと進めようとしているのではないだろうか。ロシアのプーチン大統領は民族主義を全面に押し出し、強いロシアの復活を掲げて、国民の大きな支持をバックに、ウクライナでもシリアでも軍事力を背景にした強気の外交を展開し、プーチン帝国を築いている。ドイツでは二〇一三年に結党したばかりの、反移民を主張する民族主義政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が支持率一五%と大躍進している。オーストリアでは五月の大統領選で、ドイツ民族至上主義を掲げる「自由党」の候補が得票率四九・七%を獲得して、当選した緑の党出身の候補の五〇・三%に肉薄した。フィンランドではEUと移民を激しく批判する保守政党「真のフィンランド人」が二〇一五年の選挙で連立与党入りした。フランスでは、左派の政権与党「社会党」に対して、中道右派の「共和党」が巻き返しを図っており、さらに極右とも言われるマリーヌ・ルペン率いる「国民戦線」が支持を広げている。この号が出る時には結果が出ていると思うが、イギリスでは六月二十三日にEUからの離脱を巡る国民投票が行われる予定だが、世論調査では離脱支持が残留支持を上回る結果も出てきていて、離脱の可能性が高まっている。これを警戒して欧米の株式市場は株安に、為替も円が買われユーロが売られる状況になってきている。冷戦終結から二十六年、民主主義と共産主義の対立は解消したが、その後ヨーロッパは民主社会主義に覆われた。それに対抗して今、自国第一主義の保守勢力が支持を伸ばしてきている。このまま進めば、ヨーロッパではEUが解体となり、帝国主義時代の復活となることも絵空事ではないだろう。このような大きな変化が起ころうとしている中、日本は自虐史観に基づく教育や報道のおかしさに早く気付き、目を覚まさなければならない。今回私が出版した「理論 近現代史学Ⅱ」だが、昨年出した「理論 近現代史学」と続けて読むと、正しい歴史観を掴むことができるはずだ。また六月二日に開催した「理論 近現代史学Ⅱ」出版記念パーティーで行った私の挨拶の動画を、アパグループのホームページで閲覧することが可能だ。ぜひ一度見て欲しい。
(https://www.apa.co.jp/newsrelease/5636)。
視野広く戦略的に挑め
かつては考えられなかった方向に、社会は大きく変化しようとしている。今日本はマイナス金利という、想定外の状況下にある。調達コストに運営費用、さらに貸し倒れリスクに利益を加えたものを金利として資金を貸し出すのが金融業だ。しかし、金利が下がると貸し倒れリスクを加えることが難しくなり、金融機関は確実に返済する相手先以外には融資を行わなくなる。低金利が金融引き締めになってしまうのは、そういう理屈だ。貧しい人が銀行に金を預け、信用力のある金持ちが融資を受けて、さらにそのお金を増やしている。その格差はトマ・ピケティの指摘を待たなくても、広がる一方だ。
技術革新は常に社会の変化の原因だ。かつて大英帝国は、インドで多くの職人を使って織物産業を営んでいたが、産業革命によって蒸気機関を使った工場で織物の大量生産が可能になると、職人の手首を斬ってインドの織物産業を壊滅させ、インドをイギリス製の織物の市場にした。今の世界で最大の技術革新はITの進化だ。このために、一強全弱の世界が現出している。どんな商品でもインターネットによって簡単に価格を比較することができ、最も安いところに顧客が集中する。従来は地域ごとに強い企業があったが、今は世界が一つの市場になっている。また顧客が商品を選ぶ基準は価格だけではない。付加価値も重要な要素だ。アパホテルの一泊三万円の料金に批判的な人もいたが、これは需要と供給のバランスで成り立つ市場で決まった価格だ。生鮮食料品が朝昼晩で価格が変動しても文句を言う人はいないのと同じことだ。
ホテルの料金決定方法は変革の時代を迎えている。どのホテルも昔は満室になることを競っていて、早く満室になることが良いことのように言われていた。しかし満室など、当日になればいいのである。それよりも問題は、同じ満室でも既定の料金の上限額内で最高の売上になっているかどうかだ。安く売ってあっという間に満室になっても、売上は低く、そのようなホテルはいつか淘汰される。徐々に値段が上がる中、当日満室になるのが理想だ。このようなレベニューマネジメントを導入するホテルが最近増えており、アパホテルでも一泊三万円の料金を付けることはなくなってきている。絶えず時代を見て戦略的に勝利できるよう、事業を進めていく必要がある。
東京オリンピックに向けて、首都圏を中心にホテル不足が心配されている。最近私が陳情したのは、ホテル建設における規制緩和だ。マンションの場合には廊下やロビーなどの共有部分は容積率には含まれないが、ホテルでは含まれてしまう。住宅の場合は東京の中央区のように容積率の割増もある。建設促進のために、高さ規制や日影規制の見直しも必要だし、ホテルも住宅と同じ容積率の基準や割増の適用を受けさせるべきだ。また都心ではオフィスビルやホテルに住宅附置義務を課している区もある。都心は住宅が余っているのだから、それらはもう撤廃すべきだろう。文教地区にはホテルを建設できないという規則もあるが、今や異文化交流は教育のテーマでもあり、こんな規則も撤廃すべきだ。
副大統領候補選びが鍵
アメリカ大統領選挙はヒラリー・クリントン氏が民主党候補になることが確実になり、トランプVSクリントンがほぼ確定した。一時期クリントン氏を上回る支持率を得ていたトランプ氏だが、六月上旬の世論調査では支持率に差がつき、クリントン氏に一〇ポイント以上も離される結果となった。その原因の一つはオバマ大統領がクリントン氏支持を明確に打ち出し民主党が一本化したことであり、一方トランプ氏はトランプ大学疑惑を巡って、この事件のメキシコ系アメリカ人の判事が「不公平だ」と人種差別指摘発言をしたこと、そして共和党の主流派とトランプ氏とに不協和音が感じられることだろう。しかし選挙戦はまだこれからだ。予備選を勝ち抜くために大衆受けする主張を繰り返し、主流派とは距離を置いてきたトランプ氏だが、ここから組織対組織の戦いになる。オバマ大統領の支持表明で民主党は一枚岩への方向に向かっている。オバマ大統領はサンダース氏にもクリントン氏支持の説得を行うだろう。一方の共和党は副大統領に主流派の候補を立てることで、結束を図ることとなる。トランプ氏の副大統領選びはこの選挙戦を左右するものだ。さらに彼は、発言を徐々に従来の共和党の主張に近い現実路線に沿ったものに変えていくだろう。近年のアメリカで最も高い評価を受けているのは、冷戦を終結させたロナルド・レーガン大統領だ。彼も元々俳優で当初の主張は過激だったが、大統領を目指す中で主張を変えていった。トランプ氏にも同様のことが起きるだろう。
日本を真の独立国家に
たとえトランプ氏が大統領になったとしても、在日米軍を撤退させることはあり得ない。なぜなら、それはペリー提督の黒船来航以来、アメリカの悲願だった太平洋の覇権を手放すことになるからだ。先の大戦後のミズーリ号での降伏文書調印式の場には、ペリー提督の旗艦・サスケハナ号が掲げていた星条旗が飾られていたのは、ペリー来航以来の悲願を達成したという意味だ。それほどまでに太平洋の覇権に拘るアメリカは、中国からの太平洋二分の提案も撥ね付けてきた。一方周囲の陸続きの国全てと戦ってきた中国は、次の進出先を海上に定め、尖閣諸島を含む東シナ海に進出し、南シナ海の南沙諸島では岩礁の埋め立てを行っている。こんな情勢では、なおさらアメリカは日本から撤退できないだろう。
トランプ氏は、大統領になれば主流派のブレーンが付き、多くの機密情報を知ることになる。これまでの世界に対するアメリカのコミットメントを知れば、従来の共和党の路線から大幅に外れた政策は無謀だと悟るのではないだろうか。日米安保条約の双務化を主張するトランプ大統領の誕生は、日本が真の独立国家になるチャンスだ。自民党はこの夏の参院選を圧勝して、改憲勢力で三分の二の議席を獲得、衆院の三分の二と共に改憲の発議を行い、国民投票の過半数に挑むべきだ。憲法改正を行い、トランプ氏の主張通りに日米安保条約を双務的なものに変え、中国の太平洋への膨張をアメリカと一緒に抑えることで、日本は東アジアの安定に貢献するべきではないか。
本来であれば内閣支持率五五%の今がチャンスなのだが、結局衆参同時選挙はなかった。夏の参院選では、自民党は相変わらず手足を公明党に縛られている一方、民進党は共産党に頼らざるを得なくなってきていて、どちらも非常に情けない。それぞれが本来の主張を掲げて真っ向から選挙戦に挑み、その結果、改憲勢力が三分の二を獲得し、憲法改正の発議を行うように持っていくべきだ。その後の国民投票で過半数を獲得することは非常に困難だが、なんとか国民の意識を変えなければならない。一日でも早く日本は真っ当な国にならないと、近い将来中国のひとつの省(日本省)となってしまうだろう。時間はもうあまり残されていない。
2016年6月16日(木)12時00分校了