軍事演習を行っている
このゴビ砂漠の建造物の画像を分析すると、中国人民解放軍のミサイル演習場である可能性が高い。使われているのは、爆発するとクラスター弾として子爆弾が広がるタイプのミサイルだろう。建造物には同心円上に壁が作られているのだが、これは子爆弾の貫通力を測定するためのものだと考えられる。さらに画像を拡大すると、旧式戦闘機であるMiG‐21があるのがわかる。これはミサイルが地上の航空機にどれだけの損害を与えられるかを検証するためだと考えられる。また周辺には滑走路や住宅も作られている。これもそれらの施設がミサイルによってどのように損害を受け、破壊されたり延焼するかを検証するためのものだ。さらに分析を進めると、このゴビ砂漠の施設は三沢基地に似ていたり、横須賀の施設に似ていたりしている。これら四カ所の施設が、特定の日本にある施設を想定していると分析したアメリカのシンクタンクもある。中国はここまで具体的な標的を考えた演習を行っている。これは明らかな脅威だろう。
この流れに乗るトランプ氏
広島でのG七外相会合の広島宣言では、政治指導者が広島と長崎を訪問することを「希望する」とし、出席した各国外相が広島の平和記念公園を訪れ、献花を行った。原爆を投下したアメリカの国務長官がこの公園を訪れるのはもちろん初めてであり、これはオバマ大統領の広島訪問の布石だ。プラハでの核なき世界の演説でノーベル平和賞を得たオバマ大統領は、任期末期で核廃絶への功績を残すべく、初めて広島を訪問した大統領になりたいと考えているからだ。しかしそもそも現在の世界秩序の混乱の原因は、オバマ大統領が「アメリカはもう世界の警察官ではない」と宣言したからだ。これによって、先の大戦後続いてきたアメリカによる世界一極支配体制が崩壊した。シリア内戦など中東問題の解決にもリーダーシップを示すことができなかったオバマ大統領は早々にレームダック化したが、アメリカの著名な軍事戦略研究家のエドワード・ルトワック氏が言うには、弱い大統領の後は強い大統領が誕生するという。この気運に乗っているのが、今のトランプ氏ということだろう。
日本は独立自衛を目指せ
アメリカでは弱い日本を求める勢力と、逆に強い日本を求める勢力がある。日米安保は「弱い日本」派である民主党主導によって結ばれたもので、日本の軍事大国化を防ぎ、半植民地としてアメリカの属国にし続けるための軛だ。一方共和党のトランプ氏は「強い日本」派とは言い切れないが、孤立主義的な考え方から日米安保の片務的な側面を批判し、日韓の核武装容認を主張している。彼が大統領になることは、日本が自主独立の国になるチャンスかもしれない。そのトランプ氏も民主党のクリントン氏も、TPPに反対を表明している。アメリカでも議会でのTPPの承認は大統領選の後になる見込みだが、日本でも大いに揉めている。この問題を突き詰めると、アメリカ側に入るか、中国側に入るかということなのだが、大本のアメリカの大勢が不明なのが心許ない。
膨張する中国と衰退するアメリカの間にある日本は、核保有国に囲まれて非常に危険な状態だ。アメリカ大統領選に拘らず、日本は日米同盟の双務化とニュークリア・シェアリングの導入による抑止力の強化で、東アジアの平和維持に貢献する必要がある。そのためにも先端科学技術立国を志し、これによる最先端兵器によって、日本周辺のバランス・オブ・パワーを保たなければならない。レールガンやレーザー砲などの研究が日本を守るのだ。しかし日本の政治家には、軍事的知識が圧倒的に欠如している。本来政治家は、軍事と経済を知らなければならない。
日本経済は世界全体から考えれば順調な方だ。利上げを行ったアメリカの景気も良い。問題となるのは中国のバブル崩壊の影響だ。二〇〇八年のリーマン・ショックの後の世界的な経済的ダメージを、中国は膨大な国家予算による官需によってカバーしたが、今その煽りが来ている。これが今後どのように展開するかが問題だ。ここ三年、日本に進出しているデンマーク企業は、どこも非常に良い業績を上げている。製薬会社のノボ・ノルディスク、おもちゃのレゴ、陶器のロイヤル・コペンハーゲン、銀器のジョージ・ジェンセンなどが、日本でブランドを確立したデンマーク企業だ。またフライングタイガーやソストレーネ・グレーネなど、低価格な北欧デザインの雑貨を販売するショップが日本でも人気を集めている。さらに農畜産物としては、年間約七億ドルにも上る豚肉を日本はデンマークから輸入している。
日本人は肝に銘じるべき
イスラエルは日本の四国程度の国土に約八百三十四万人の人々が暮らす国だ。日本から観光で訪れる人が少ないイスラエルだが、エルサレムの嘆きの壁や岩のドーム、聖墳墓教会など、その古い歴史を体感することができる観光スポットが豊富だ。代表も訪れたことのあるマサダは、ヘブライ語で「要塞」という意味の遺跡。紀元一世紀、ユダヤ人とローマ帝国が戦ったユダヤ戦争の末期に、約千人のユダヤ人がこの要塞に立て籠もり、これを一万五千人のローマ軍が包囲した。二年がかりの包囲戦の後、ローマ軍が要塞内に侵入すると、中のユダヤ人は集団自決していたという。長年その所在が不明だったマサダだが、一八三八年にドイツ人考古学者によって発見され、今では世界文化遺産に登録され、ユダヤ人の聖地となっている。イスラエル軍はこのマサダで入隊宣誓式を行い、士官学校の卒業生が「マサダは再び陥落せず」と、二度と民族滅亡を招かないことを誓うという。
周囲をアラブという敵に囲まれた中で一九四八年に建国したイスラエルは、四八年、五六年、六七年、七三年と四回の中東戦争を戦い、さらに八二年、二〇〇六年のレバノンとの戦いを経験。マサダの誓いの通りに国を守り抜いてきた。世界中がイスラエルを核保有国だと看做しているが、公式には持っているとも持っていないとも、一切言明していない。非常に巧みな対応であり、これによって抑止力が生じている。徴兵制度があり、三年の兵役後、四十五歳になるまで平時で毎年一カ月の兵役義務のあるイスラエルは、国民全体で国を守る気運がある。そこで根付いている考えは、兵器が人を殺すのではなく、人が人を殺すということだ。日本もこの考えに倣い、安保法制や武器輸出が日本を戦争に導くのではなく、日本人一人ひとりの考えが、日本を平和にも戦争状態にもするということを、きちんと認識するべきだ。