Big Talk

真実に近づくために歴史は修正されるべきだ

東京大学名誉教授 小堀桂一郎
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APAグループ代表 元谷外志雄

昨年の第八回「真の近現代史観」懸賞論文から審査委員に加わった小堀桂一郎氏。保守の論客として知られる氏に、アメリカ上院の軍事・外交合同委員会でマッカーサーが行った証言のことや、アメリカで進行しつつある先の日米大戦に関する歴史修正などについてお聞きしました。
小堀 桂一郎氏

1933年東京生まれ。1958年東京大学文学部卒、旧西ドイツ・フランクフルト大学留学。1968年東京大学大学院博士課程終了。東京大学教養学部に勤務(1994年退官)。東京大学名誉教授。文学博士。專門は比較文化論、日本思想史。著書に『宰相鈴木貫太郎』(文春文庫)、『再検証 東京裁判』(PHP研究所)『靖国神社と日本人』(PHP新書)など

「日本は自衛戦争を戦った」と証言したマッカーサー

元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。小堀先生には昨年の「真の近現代史観」懸賞論文から審査委員に加わっていただいたのですが、お陰様で賞の権威が非常に高まりました。最優秀藤誠志賞がケント・ギルバートさんに決まり、メディアでの話題にもなりました。外国籍の方が発言すると、日本人が同じことを言うよりも関心を持つ人が多いようですね。

小堀 その通りです。ケント・ギルバートさんから素晴らしい論文を応募いただいて、懸賞の水準が又一際高まったと思っています。

元谷 また審査委員会での先生のご発言も素晴らしかった。雰囲気に流されることなく、的確に論文の文言の細部をきちんと捉えて、理詰めで発言されるから反論の余地がありませんでした。今後の審査もよろしくお願いします。

小堀 私も楽しみにしています。

元谷 私は世界八十一カ国を巡り、その国の要人と対談を繰り返してきたのですが、皆が口を揃えて日本のことを賞賛します。しかし日本に帰国すると、マスメディアは日本は悪い国だという報道ばかりを流しています。これはおかしいと思い、私は元々は労働組合の上部団体で副議長をしていてどちらかといえば左翼だったのですが、保守へと変わってきたのです。小堀先生のご出身の東京大学には左翼系の人が多いと思いますが、先生が保守のお考えになったきっかけは、何だったのでしょうか。

小堀 保守的な心情は元来家系から来ているのです。祖父がやまとごころの造形に生涯をかけた大和絵の歴史画家で、幼年時代から尊皇愛国の画題による武者絵に囲まれて育ったからです。大学時代には確かに周囲に左翼思想に傾いた学生が多かったのですが、私には何か違う世界の人のように見えました。大学院在学中、私は一九六一年春にドイツに留学しました。ベルリンの壁ができた年のことです。その時に壁の向こうになった街の悲惨な様子を見て、社会主義国とはこういうものなのかと悟ったことも大きかったですね。実は、私が学んだフランクフルト大学は有名な左翼大学だったのです。しかし私は社会科学ではなく文学専攻だったので、あまり影響を受けませんでした。文学専攻の先生方は穏健な方が多く、大変良い雰囲気の中で学問を行うことができました。

元谷 「真の近現代史観」懸賞論文の審査委員長の渡部昇一先生はイギリスに留学したと聞いています。小堀先生はドイツですか。日本にずっといるよりも、海外で勉強されていた方の方が本当のことが見えているようです。

小堀 そうかもしれません。またドイツ人が日本をどう見ているのかというのも、いろいろと勉強になりました。

元谷 ドイツ文学を研究されたと思うのですが、著書もお書きになっている森鴎外についての研究もこの頃からでしょうか。

小堀 森鴎外はドイツのみならずヨーロッパの歴史と文化を非常に深いところまで理解して吸収していました。彼の事蹟を学んで、そのことにまず感心しましたね。鴎外は軍陣衛生学研究の官命を帯びてドイツに留学したのですが、専門の自然科学の分野ではドイツ観念論の影響を強く受けたために、必ずしも学者として大成したとは評価できません。そのありのままを批判的に辿ってみたことが、又大いに勉強になりました。私が観念偏重の歴史研究に拒否的なのはそこから来ています。文化的には鴎外の保守主義に全面的に心服しているのですが。

元谷 渡部先生とは古くから親しいのでしょうか。

小堀 はい、そうです。昭和四十八年に日本文化会議での同僚会員となった時からです。ところで、去年の十二月二十日から産経新聞に五回連続で、「戦後七〇年〜東京裁判とGHQ」という特集が掲載されました。ここまでメディアが報道するようになったかと感慨を覚える、大変意義のある内容の連載でした。五回目の記事の中に、ダグラス・マッカーサーが一九五一年、アメリカ上院の軍事・外交合同委員会で行った「証言」の話が日刊紙としてはたぶん初めて、簡単ながら出ていました。マッカーサーはここで、「もし原料供給を断ち切られたら一〇〇〇万〜一二〇〇万人の失業者が日本で発生するだろう。それを彼らは恐れた。従って日本を戦争に駆り立てた動機は、大部分が安全保障上の必要に迫られてのことだった」と証言、日本が自衛のために戦争を行ったと認めたのです。かつて渡部先生と私とでこの証言の重要性について話をしたことがあり、新聞などで知って面白い証言だと思ったのですが、原文を確認してみないとこれを根拠にした主張はできないという意見で一致しました。

元谷 それはその通りですね。

小堀 いざ調べてみると、簡単でした。東大の図書館に古いニューヨーク・タイムズのマイクロフィルムがあり、その中に三日間に亘るマッカーサー証言の全文が掲載されていたのです。渡部先生にもコピーを差し上げたところ、たいへん喜ばれていろいろなところでこの原文確認の重要な意義を強調して下さったのです。一九九五年に「東京裁判却下未提出弁護側資料」という本を編纂したのですが、中に付録としてマッカーサー証言のその部分の全文を掲載しました。この本の重要な部分は「東京裁判 幻の弁護側資料‥却下された日本の弁明」(ちくま学芸文庫)にまとめられていますので、今でも読むことができます。この時にNHKや大新聞が、マッカーサー証言を原文から読み解く特集番組や記事をやってくれていれば、その後の世論がどれだけ違ったかと思うのですが。

元谷 大きな反響があったと思います。

小堀 このことは反米か親米かという問題ではなく、研究者として文献から学問的にこれが正しい解釈だということが言いたいだけなのです。戦後七十年、東京裁判の結審から六十八年経ったのですから、そろそろ冷静になって、マッカーサー証言の重みを歴史検証にしっかりと反映させるべきなのです。

張作霖爆殺事件はソ連の特務機関の犯行

元谷 以前に比べると、世の中の状況はかなり変わってきました。きっかけは七年前に現職航空幕僚長の田母神俊雄さんが「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀賞を獲得、大騒ぎになってからでしょう。全てのマスメディアが論文の一部だけを取り上げて田母神バッシング一色になる中で、私は全文を読めば多くの人が田母神さんの正しさを理解してくれると考えました。交渉に交渉を重ねて、ようやく参院外交防衛委員会の参考人招致の日の朝に、産経新聞の東京版・大阪版に田母神さんの論文全文を掲載することができました。すると読者から田母神さんに対する激励の電話やFAXがどんどんやってきたのです。

小堀 それは凄いですね。

元谷 はい。私は国会に向かっている田母神さんの携帯に電話を掛け、FAXも電話も鳴り止まないほど多数の激励が来ていることを伝え、「ラストサムライでいけ」という声を掛けました。この後、世の中の保守傾向が高まり、安倍首相の再登板にも繋がりました。このように、私の活動は社会的な意義を果たしてきたと自負しているのですが。

小堀 全くその通りで、私共にとっては百万の味方を得た心境です。

元谷 通常、事業で成功した人はリスクをとらないものです。私の著作、誰も言えない「国家論」などのような本をホテルの客室に置くと、宿泊客がいなくなるぞと言われたものですが、実際にはそういうこともなく、逆に最近は私の著作を目当てに宿泊するというお客様もいらっしゃいます。世の中変わってきましたね。

小堀 しかし、Apple Townで月に一回、エッセイという形でオピニオンを発表されるのは大変でしょう。

元谷 私にとっては、毎月エッセイを書くことが、一種の頭の整理になっています。事業に関係ないのではと思われがちですが、頭の整理をすることで、的確な未来予測ができます。四十四年間一度の赤字も出さず、一人のリストラも行わずに事業をやってこれたのは、未来予測が正しかったからでしょう。世の中がイケイケの時に資産を売ったり、逆に厳しい時に買ったりと、私の経営は逆張りと評されますが、自分では未来予測に従って、当たり前のことをやっているだけです。毎月エッセイを掲載したApple Townを二十五年に亘って出し続けてきたことで、世の中にいくばくかの影響を与えられたと思います。

小堀 相当な影響を与えていると思います。私は諸方から歴史修正主義者と見られていて、小堀はリビジョニストだからという理由で、国際的な学問シンポジウムの参加を拒否されたこともあります。しかし歴史は修正されるべきであって、それによって真実に近くなっていくのです。

元谷 全く同感です。新しい事実が出てきたら、それを矛盾なく説明できる新しい歴史解釈を行うべきなのに、定説に拘って新しい解釈が行われません。一九二八年の張作霖爆殺事件はその後の日本の中国侵略の発端と言われる事件ですが、これまで定説とされていた関東軍の河本大作大佐による犯行ではなく、ソ連の特務機関GRUの仕業である説がロシアの小説家ドミトリー・プロホロフさんから出されました。二〇〇九年に私は彼に会いにサンクトペテルブルクへ行き、その後日本に彼を呼んで記者会見まで行ったのです。しかしマスメディアはこれを黙殺しました。

小堀 そんなことまでされていたのですか。

元谷 はい。またロンドンのナショナル・アーカイブが二〇〇七年に公開した文書によると、張作霖爆殺直後にイギリス陸軍諜報部の極東課が調査を行い、二度に渡ってソ連の犯行という報告を行っています。ロシアにせよイギリスにせよ、このタイミングで張作霖爆殺事件の真相を暴露したことには理由があります。当時江沢民の下、中国の日本への攻勢が高まっていました。このまま日本が中国に屈服しては困るとロシアやイギリスが考え、わざと情報を流出させたのではないでしょうか。ところが日本のマスメディアはバカなことに、一切食いつきませんでした。

小堀 張作霖爆殺事件については最近日本国内でも新しい研究が出ております。それによるとやはり定説通り河本大佐の企てた陰謀に基づいて、奉天独立守備隊中隊長東宮鐵男大尉が列車爆破を実行した、との細かい考証がなされています。面白いことに、ロシアと日本と、双方の主張が真犯人の究明というよりも、まるで功名争いの様な観を呈しているのです。これは張の存在を除去することが、コミンテルンにとっても関東軍にとっても共通の政治的必要だったことを表しています。この共通の政治的必要性に着目して、その後の満州の歴史についての修正を試みることができると思います。

元谷 ソ連の特務機関は二年前の一九二六年九月にも張の暗殺未遂事件を起こしていたこともあって自らの犯行を隠し、最も相手方にダメージを与えるようにもう一つの暗殺計画を立案、立体交差の上側の線路の橋桁に爆薬を仕掛け、関東軍河本大佐の指示で東宮鐵男大尉に実行させ関東軍の仕業だと思わせたのです。爆破車両の写真から、これは確実に爆殺できる車内での爆破であったのではとの私の話に、ドミトリー・プロホロフ氏は爆弾は車内にあったと考えられると言いました。彼は張作霖爆殺のことはかつての上司であったソ連国防省戦史研究所長ヴォルコゴーノフ氏の本の中で知ったと語った。(詳細はアップルタウン二〇〇九年十二月号のドミトリー・プロホロフ氏との特別対談参照)

米英が共同謀議を行って日本を戦争に引きずり込んだ

小堀 歴史の修正については良い傾向も出てきています。歴史家チャールズ・A・ビーアドの大著「ルーズベルトの責任」が一九四八年の原著刊行から六十四年後の二〇一一年にようやく日本語に翻訳され、また五十年間封印されていて、これも二〇一一年にようやくアメリカで出版された「フーバー回顧録・裏切られた自由」を踏まえた本「日米戦争を起こしたのは誰か ルーズベルトの罪状・フーバー大統領回顧録を論ず」がこの一月に出版されました。本格的な歴史修正がアメリカから始まっているように見えるのは面白いことです。この口火を切ったのは、先ほどお話した証言を行ったマッカーサーでしょう。ルーズベルトの前の大統領だったフーバーの回顧録によって、先の日米戦争はルーズベルトとチャーチルの共同謀議だったことが明らかになりました。殊に興味を惹くのは、フーバーがルーズベルトの政治上の誤りと指摘している十九の「失策」を、ステーツマンシップにもとる、つまり政治家としての道を踏みはずした道徳的欠陥だと断定していることです。端的に「狂人」だと呼び、マッカーサーもフーバーのその意見に同意だったというのです。二十世紀に世界が蒙った甚大な災禍はスターリン、ルーズベルト、ヒトラーという三人の巨悪がその元凶だとの判定になっています。スターリンとヒトラーについては世界が既にそう認めているでしょうが、ルーズベルトの罪状は今後次第にあばかれていくことになりましょう。

元谷 先日、バングラデシュ大使のジバン・マジュムダさんとワインの会でお話したのですが、東京裁判に加わったバングラデシュ出身のパール判事は、日本と米英が開戦する十年前から結託して日本を戦争に導く計画を立てていたという証拠書類を見ていたというのを聞いたと言っています。だからパール判事はA級戦犯の全員無罪を主張したと。「自国以外は全て仮想敵国」とうそぶいていたプラグマティズムの権化のようなチャーチルは、ヒトラーの魔の手からイギリスを守るにはアメリカの助けが必要であり、そのためには厭戦気分のアメリカ世論をひっくり返す必要があると考えていました。そこで日本を暴発させて、三国同盟によってアメリカがヨーロッパ戦線に裏口で参戦するというストーリーを考えたのです。

小堀 その通りだと思います。

元谷 そして原爆です。ドイツに対抗するために米国が一九四七年に武器貸与法を作りソ連に多大な軍事援助を行った結果、軍事モンスターとなってしまったソ連が戦後、地続きの国々を全て赤化し、第三次世界大戦を引き起こすのを防ぐため、そして自国が戦後の世界覇権を握るため、アメリカはどうしても莫大な議会機密費で開発を進めた原爆を戦争中に完成させ投下する必要がありました。だからただ一つの天皇制維持という日本の降伏条件への回答を曖昧にして、さらにポツダム宣言から一旦載せた天皇制維持の文言を削除して戦争を長引かせ、やっと完成した原爆を日本に二発、投下したのです。もちろん残酷な虐殺行為ですが、第三次大戦という熱戦を冷戦に変えたという歴史上の意義を認めることによって、日本はアメリカが背負っている原爆投下の呪縛を解いてあげる必要があると思います。

小堀 アメリカの罪については、全く同感ですね。

元谷 また当時のアメリカのエスタブリッシュメントには、有色人種は人間ではないという感覚があったことも、原爆投下の理由の一つでしょう。ドイツには決して投下しなかった。

小堀 ルーズベルトが実に冷酷な人種差別主義者だったことは日本でも既に十分に知られていると思います。

元谷 また日本がアジアを侵略したという見方は公平ではありません。日本はアジアを侵略して植民地化していた帝国主義国と戦って、追い払ったのです。

小堀 その通り。あれは解放です。追い払われた側からすれば、自分達の植民地権益を奪われたわけですから侵略と呼びたくもなるでしょう。問題はいかに日本のメディアをそこに覚醒させるかではないでしょうか。

元谷 朝日新聞はもともと偏っていましたが、NHKや日本経済新聞は中国が経済成長するに従っておかしくなってきました。特に日経は、中国を生産拠点にしたりマーケットにしたりして重視している財界の影響を受けています。どんどんメディアと世の中の基準が左傾化したので、私のように中道の発言をしても、「右だ」と言われるのです。日経新聞は本来もっとまともになるべきなのですが。

小堀 しかし産経新聞の年末の「東京裁判とGHQ」の記事は、本当によくやったと思います。

元谷 はい。唯一の救いは産経新聞ですが、如何せん部数が少ないのが…。朝日新聞は一昨年の慰安婦誤報問題で随分部数を減らしたとは思います。あの誤報によって、日本の失った国益は数兆円になります。

小堀 そんな朝日新聞でも、もう許してしまっている国民が多いのです。本当にがっかりします。

元谷 ここまで洗脳されていると、元に戻すのが大変です。いくら本当のことを教えても、謀略だと思うのですから。そしてまともなことを言っている人を、歴史修正主義者と非難してきます。欧米のメディアも同じ傾向がありますね。

小堀 心底では結局日本の底力が怖いのです。第二次大戦とその戦後処理であれだけ痛めつけておいたつもりなのに、いつの間にか戦勝国を見下す位置に立ってしまっているのですから。

今求められているのは「SEALDs」の保守版だ

元谷 先月号のエッセイにも書きましたが、日本の先端技術は素晴らしいです。アメリカのF22ステルス戦闘機も頻繁に日本に来て塗装のメンテナンスを行わないと、ステルス性能が保てない。ズムウォルトという最新鋭ステルス駆逐艦に搭載される予定のレールガンも日本の技術が入っています。アメリカの兵器のあらゆるところに日本の技術が使われていますが、日本の持つ優れた技術は使うが日本が独自の兵器を開発することをアメリカは認めません。民間航空機にしても、戦後七十年でようやくホンダジェットやMRJが登場してきました。日本人は優れた民族なのに、それを自覚させないように仕向けたのが戦争直後のアメリカの占領政策で、それが今にまで影響しているのです。アメリカ人の〇・数%には凄い人がいますが、その他は大したことはない。対して日本人は、平均的にレベルが高いのです。

小堀 下町ロケットではないですが、町工場の技術レベルも凄いですね。

元谷 もっと誇りを持たなければ。そのためにもできるだけ安倍政権が長く続くように、保守が支える必要があります。細かいことで保守が分裂している場合ではないのです。

小堀 その通りです!

元谷 TPPや日韓合意について、保守内で賛否が分かれています。中国側につくかアメリカ側につくかと聞かれれば、日本の選択はアメリカ以外にはあり得ないのですから、まずはTPPに賛成すべきなのです。日韓合意も、韓国の朴槿恵大統領が中国の軍事パレードに出席したりと中国に取り込まれそうになっているので、これを取り戻すというのが主目的です。従軍慰安婦の強制連行など朴槿恵も信じていませんが、韓国の中に北朝鮮勢力が入って煽っているのです。従軍慰安婦像の撤去が実現すれば理想ですが、十億円など日本にとっては端金なので、目くじらを立てて保守内で争うべきではありません。まず安倍さんを守ることを優先すべき。自民党党則を変えて、東京オリンピックまでもう一期総裁をやってもらわなければ。

小堀 そうです。党則の改正など憲法改正に比べれば簡単ですから(笑)。

元谷 憲法改正のためには、この夏の参院選は必ず勝たなければなりません。私は衆参「同時期」選挙になると考えています。公明党が反対するので、衆参「同時」は無理です。衆院選を参院選の1~2カ月後にすれば、衆議院議員は参院選も自分の選挙のように熱心に応援するからです。改憲勢力は民主党にもいますし、大阪維新の会もいます。選挙次第で衆参ともに議員数の三分の二を確保できるかもしれません。問題は国民投票ですね。十八歳から投票権がありますから、若い人を掴む活動が求められます。日本が誇りある国であることとか、自分の国は自分で守るものだということを若い人々に理解させていけば、憲法改正は十分に可能でしょう。まず一回改正を行い改正ぐせをつけて、さらに改正を重ねるというのが良いのではないでしょうか。

小堀 そうですね。まず憲法前文の一番酷いところを削除して、それから九条二項の削除でしょうか。

元谷 私もそう思います。世の中の流れは小堀先生のお陰もあって、非常にいい方に向かっています。課題は若い人ですね。「SEALDs(シールズ)」のような保守の団体ができればいいのですが。うかうかしていると中国に取り込まれますから、あまり時間はありません。そろそろ真っ当な国にならなければ。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

小堀 日本の若い人には、是非日本の古典を勉強して欲しいですね。まずは古事記からでしょうか。それは日本民族が、いかに古い昔から、この世界の見方についてすぐれた洞察と見識を育てていたかを知ってもらうためです。続けては「万葉集」と平安朝の物語文学から始めて、日本人の精神的財産としての古典文学の豊かさに眼を開いて頂きたい。実際、現在自分達が使っている国語と同じ言葉で書かれている文学遺産を、こんなに豊かにかかえこんでいる民族は世界に他に例がありません。

元谷 日本の素晴らしさの一因として、日本語の素晴らしさがあると思います。ここまで細やかな表現が可能な言語は、世界の他にはないのでは。色を表現する言葉の多さも凄いですし、一人称の表現も多彩でニュアンスによって使い分けが行われています。

小堀 そうですね。またこの文化や言語を、ケント・ギルバートさんのような外国から来た方がよく理解してくれているのも、嬉しいです。

元谷 こんないい国に生まれたのだから、誇りを持つべき。若い人にこれを伝えるのは、私達大人の責任です。

小堀 だから私は小学校で英語を教えるべきではないと考えています。まず日本語をしっかりと学ぶべきでしょう。これは私の昔からの持論で、既に度々書いたり論じたりしているのですが、初等教育で最も大事なのは唯国語だけなのです。道徳教育の充実をめざして努力している人達の情熱に水をさしたくはないのですが、実は国語読本に戦前と同じ水準を取り戻すことができれば、道徳・公民はもとより歴史や地理の教科化さえ必要なくなるのです。国語力さえしっかり身につければ、算数も理科も、教科書を読むだけで全て理解できてしまうのです。小学校で英語の授業などもっての外です。

元谷 私も同感です。日本語を極めてから第二外国語で良いのではないでしょうか。今日は本当に意義深い対談となりました。ありがとうございました。