Big Talk

恵まれた日本とは異なり世界は弱肉強食だ

米国カリフォルニア州弁護士 ケント・ギルバート
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APAグループ代表 元谷外志雄

今年の第八回「真の近現代史観」懸賞論文において、最優秀藤誠志賞を受賞したケント・ギルバート氏。弁護士として勤務しながら出たテレビ番組で一躍ブレイク。最近は保守論客として本やコラムの執筆、テレビへの出演など活躍中の氏に、日本人の良さとそれが故の弱点をお聞きしました。
ケント・ギルバート氏

1952年アメリカ・アイダホ州生まれ、ユタ州育ち。1971年大学在学中に19歳で初来日。1980年、大学院を卒業して法学博士号、経営学修士号、弁護士資格を取得。東京の大手国際法律事務所に就職。1983年、テレビ番組『世界まるごとHOWマッチ』にレギュラー出演し、一躍人気タレントになる。近年は企業経営や講演活動、執筆などを行う。近著に『まだGHQの洗脳に縛られている日本人』(PHP研究所)、『素晴らしい国・日本に告ぐ』(青林堂)、『日本の自立』(イースト・プレス)などがある。

間違った考えに洗脳されて間違った批判をするメディア

元谷 本日はビッグトークへの登場、ありがとうございます。「真の近現代史観」懸賞論文の最優秀藤誠志賞受賞、おめでとうございます。

ギルバート ありがとうございます。

元谷 日本人の良い心根が自虐史観に繋がっているという論文の流れが、非常にわかりやすかった。素晴らしい論文で、審査委員全員一致で最優秀賞に決まりました。

ギルバート 日本人の良さは書き出すときりがありません。

元谷 ケントさんが最初に日本に来たのは、一九七一年だったと聞いていますが。

ギルバート はい、その通りです。

元谷 この年の五月十日に、石川県小松市でアパグループが創業したのです。

ギルバート そうですか! 私は小松市のアパホテルに宿泊したことがあります。

元谷 アパホテル〈小松グランド〉ですね。ホテル事業を始める前に、まず住宅事業を始めたのです。それが四十四年前のことでした。

ギルバート 私は十二月十七日に日本に来ました。まだ学生でしたが、しばらく九州にいました。

元谷 一旦アメリカに戻られて、学位や資格を取った後、再度一九八〇年に来日して東京の法律事務所に入って。その後「世界まるごとHOWマッチ」に出演して、ブレイクしたのですね。また最近はいろいろと言論活動の方で本を出したりテレビに出たりと、大活躍ですね。

ギルバート とても楽しいです。

元谷 論文を読んでいると、ケントさんの感覚は日本人以上に日本人で、非常に鋭い視点で日本を見ていると思います。また今回はロバート・D・エルドリッヂさんの論文も佳作に入りました。アメリカ人二人が、外からの視点で日本の歴史観について様々な指摘をすることは、大きな意義がありますし、注目も集めます。今回の受賞も多くのメディアで報道されています。反響はいかがでしたか?

ギルバート はい、たくさんの方からお祝いをいただきました。悪い反響は、私に対してではなかったですが、ジャパンタイムズの外国人記者が、ツイッターでエルドリッヂさんを批判しているのは読みました。

元谷 本当のことがわかってないから、そういう批判をしてしまうのでしょう。

ギルバート 間違った批判をしているのですが、本人達は自分達が洗脳されて、間違った考えを持っているということに気づいていないのです。一流の記者を自認するのであれば、もっと勉強をして欲しい。幸いなことに、今はテレビや新聞だけではなく、インターネットなど新しいメディアが発達しています。以前よりも日本人は活発に歴史や政治を語り合っていると思います。

元谷 そういう気風が出てきたのは、二〇〇八年に田母神俊雄さんが第一回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀賞を獲得してからでしょう。マスコミは一斉に彼をバッシングしましたが、なぜ彼がそこまで批判されるのかを追求することで、真実に近づいた人々が多数いました。結果日本の保守化が進み、安倍首相の再登板へと繋がったのです。戦後これまでメディアは、占領軍が制定した三十項目のプレスコード(新聞編集綱領)に縛られてきました。このプレスコードに従うと、中国や韓国、アメリカなど連合国を批判できないのです。

ギルバート 憲法の制定過程やソ連のシベリア抑留についてもタブーです。そうなると日本政府の悪口しか言えないですよね。

元谷 もう一つ私がメディアに対して疑問に思っていることは、常に論調が一色になることです。独自に取材して、いろいろな視点を読者に提供するメディアがあってもいいはずなのですが、現実は違います。産経新聞が比較的頑張っていますが、如何せん部数が少ないですね。

ギルバート このメディア状況は非常に怖いです。中国がおとなしい間はまだ良かったのですが。

元谷 中国は考えがあっておとなしくしていたのです。建国百周年の二〇四九年に全ての面でアメリカを追い抜くという「百年マラソン」プランを中国が持っていたという本が出版されましたが、今中国がアメリカとある程度までは互角になったと認識しているのは確かです。南シナ海で岩礁を埋め立て、軍事基地化しているのは、その認識の表れでしょう。

オバマ大統領はようやくアジアを理解し始めた

ギルバート しかしとうとうアメリカはイージス艦「ラッセン」を派遣しました。

元谷 正しい対応だと思います。尖閣諸島付近の日本領海に中国の公船が入ることが常態化しています。普通の国であれば、警告の上撃沈しています。太平洋上にある人口二万人のパラオ共和国でも、領海侵犯の中国漁船に発砲、船員を一人殺害して残りを逮捕、中国に罰金を払わせているのです。日本の常識が世界の非常識になっているのですが、その原因はやはりアメリカの占領政策でしょう。先の大戦では日本が強すぎた。再び日本を強国にしないよう、アメリカは徹底的に日本復活の芽を摘んだのです。

ギルバート アメリカ軍にとって、徹底的に戦う日本軍は本当に恐怖でした。この恐怖の理由には、アメリカの勘違いもありました。赤ん坊まで国民全員が更生しようのない軍国主義者だと思い込んでいたのです。そこで占領軍は、日本人を精神的に「潰した」のです。これは人道的に問題のあることですが、大変な成功を収めました。

元谷 占領政策のもう一つの目的は、日本を悪い国にすることです。広島・長崎に原爆を投下するという非人道的な行為をしたアメリカが正義の国であり続けるためには、投下された日本が悪い国である必要がありました。日本の降伏を早めるために原爆を投下したというのは表向きの話で、本当の理由は戦後の世界覇権を握り、世界赤化を阻止するためにソ連を牽制したかったからです。原爆の完成までの時間稼ぎに、日本が早期に降伏しないよう、日本側の唯一の降伏条件の「天皇制の存続」に対する回答を曖昧にし、ポツダム宣言からも天皇制存続を認める項目を敢えて削除しました。これら一連の行動の指揮を執ったのは、国務長官だったバーンズです。私は彼の行為は当然だと思っています。どの国も自国の国益のためなら人も殺すし、嘘もつくのです。

ギルバート 私も同感です。

元谷 真の日米関係構築のためには、日本はアメリカの原爆投下の呪縛を解く必要があります。第三次世界大戦という熱戦を冷戦に変えた原爆投下の意義を認めてあげるのです。その代わりに、南京三十万人大虐殺や朝鮮人慰安婦二十万人強制連行など、捏造の歴史をきっぱりと否定してもらう。テキサス親父ことトニー・マラーノさんの発掘した、アメリカ軍がミャンマーの朝鮮人慰安婦を尋問して、通常の戦時売春婦だと結論づけている報告書など、アメリカは多数の証拠を持っていますから。

ギルバート 最近オバマ政権の日本やアジアに対する態度が少し変わってきました。

元谷 オバマ大統領が世界の警察官の役割を放棄すると宣言したことで、ロシアのクリミア併合やISの跋扈、南シナ海の中国の埋め立てなど、世界秩序が乱れてきたのです。

ギルバート とはいえ、やっと彼はアジアの実態に気がついて、イージス艦を派遣するなどの行動に出ました。

元谷 アジアに詳しくなかったのでしょうか。

ギルバート 中国と韓国と日本の区別もできていなかったのでしょう。ところが友人のリッパート駐韓大使が二〇一五年三月に暴漢に切り付けられました。これで韓国がどういう国なのか、ようやく気づいたのでしょう。そして中国は戦勝七〇周年と称して、九月に軍事パレードを決行、そこで習近平主席は嘘八百のスピーチを行いました。またこのパレードに韓国の朴槿恵大統領がのこのこと出掛けていっている。やはりいちばん信頼できるのは、日本だと改めて認識したはずです。そんな中国に南シナ海を譲るわけにはいかないと、オバマ大統領は決意を新たにしたのでしょう。

元谷 少しずつアジアを理解してきたということですね。

ギルバート そうだと思います。

WASPではないルビオにも大統領候補の可能性がある

元谷 オバマ大統領もそうですが、伝統的にアメリカの民主党出身の大統領は、日本に対して冷たいですね。先の大戦を始めたルーズベルトも、原爆を投下したトルーマンも民主党です。次期アメリカ大統領には、ぜひ共和党から強力な人を…というのが、私の思いなのですが。

ギルバート 私も同感です。しかし共和党の候補者争いは大混乱です。

元谷 民主党の方は、本命のヒラリー・クリントンが、一時期私的なメールアドレスを公務で使用した問題でダメージを受けていましたが、テレビ討論会などを経て最近支持率が復活してきました。しかし共和党は、まだ混沌としています。

ギルバート 民主党の大統領候補はヒラリー・クリントンで九五%決まりです。懸念があるとすれば、健康問題だけでしょう。

元谷 しかしアメリカ国民はこの八年間のオバマ大統領の民主党政権に飽き飽きしているのではないでしょうか。またクリントンとかブッシュという「名前」に、古さを感じている人もいるでしょう。私は多くのアメリカ国民が、新鮮でどんな事態に対しても毅然とした態度が取れる人を求めているような気がしています。

ギルバート かといって、ドナルド・トランプはないでしょう。

元谷 何事も大袈裟に話をするので話題は集めているが、言っていることを自分でも良く理解していないのではないでしょうか。

ギルバート 世論調査では、これまで一位だった支持率が、とうとう二位に落ちました。

元谷 私は共和党の大統領候補はマルコ・ルビオになると言い続けているのです。

ギルバート ルビオは良いですね。政治経験も積んできましたし、言っていることもまともです。ブッシュ大統領の弟のジェブ・ブッシュでも良い。この人はどうも…と思うのは、テキサスのテッド・クルーズです。これから多額の資金を掛けたメディア戦が展開するでしょう。

元谷 メディアにとってはまたとない儲け口です。メディアで勝負が決まるのは昔からで、ケネディ大統領はテレビ映りが良かったから当選したとも言われていますね。政策的には対抗馬のニクソンの方が評価は高かったと。

ギルバート 逆にニクソンは、テレビ出演の際のメイクを断ったから負けたと言われていますよ(笑)。今は候補者一人ひとりにイメージコンサルタントがついて、服の色からメイクまでアドバイスをしています。

元谷 私がルビオに注目したのは、昨年突然中国が言い出した尖閣諸島を取り込む防空識別圏に対して、彼が中心となって中国への非難決議案を上院に共同提出し、可決させたからです。またその前に、日本で安倍首相を表敬訪問し、安保体制強化の取り組みに支持を表明しているように、日本に対する理解もあります。障害は、キューバからの移民の子供でカトリックの彼は、WASP(ホワイト・アングロサクソン・プロテスタント)ではないことです。しかしアイルランド系のケネディもカトリックでしたし、オバマは黒人でした。ルビオにも十分可能性があると思うのですが。

ギルバート 一九世紀の終わりにアイルランドで大規模なじゃがいもの不作があり、飢えから逃れるために多くの人々がアメリカに移民として渡ったのです。アイルランドの人々はカトリックだったということもあって、最初は就職などで過酷な差別を受けました。当時店などの求人は、告知を窓に張り出したのですが、そこに「NINA」と書
かれていることがありました。「No Irish Need Apply」の略で、意味は「アイルランド人はお断
り」です。しかし今はWASPとかカトリックとかに拘っている人は、ほとんどいなくなりました。今のバイデン副大統領もカトリックですよ。

元谷 そうですか。であれば、ディベート能力の高いルビオが出てくる可能性が高まります。アメリカでは、激論を制することのできる人が国民の人気を得て、大統領になることが多いと思います。

ギルバート 確かに議論は上手いですね。表現力も豊かです。

元谷 そして政策通です。今四十四歳ですが、ケネディは四十三歳で大統領に就任していますから、若すぎるということはないでしょう。

ギルバート その点は問題ないと思いますよ。ただ共和党にも民主党にも、今の候補者にはアジアに詳しい人はいません。なんでも中国のせいにするトランプは論外です。

元谷 アメリカは伝統的に中国を自分達の市場だと考えています。だから日米開戦前にアメリカからの義勇兵という名目で中国に戦闘機のパイロットを送りフライングタイガースを結成、日本を攻撃していました。このことは中国の戦争歴史館に堂々と展示されているのですが、日本のメディアはどこも報じようとしません。

ギルバート スタンスが偏向しています。

SEALDs(シールズ)にはしっかりとした考えがない

元谷 日本と中国や韓国との争いのネタは、慰安婦問題も教科書問題も靖国問題も、半分以上日本のメディアが火種になって生み出したものです。WGIP(ウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム)によってメディアや出版社は洗脳され、円滑な占領政策のために、誤った報道や教科書を生み出し続け、それが今にまで続いているのです。そもそも先の大戦で国民の戦意を煽りに煽った朝日新聞は、終戦直後に原爆投下は国際法違反で戦争犯罪という鳩山一郎の談話を掲載したことで、GHQから2日間の業務停止命令を受けます。それ以降は掌を返したように、論調が変わったのです。

ギルバート 変わり身が早い。

元谷 ドイツのナチス党の台頭の例を挙げるまでもなく、画一的なメディアによって国民が真実を見定める力を失ったままだと、権力の暴走を招きます。

ギルバート メディアは監視機関としての役割を果たすべきです。

元谷 そうです。第四の権力なのですから。

ギルバート しかし日本の一部のメディアは当事者というか、活動家になっています。

元谷 二〇〇九年の総選挙で政権交代が起きましたが、あれはメディアが作ったものでした。それを国民が反省しているからこそ、今でも安倍政権の支持率が高いのです。しかしまだ新聞とテレビだけに情報源を頼っていて、ネットで自ら調べることをしない人々が多いのも確かでしょう。

ギルバート かなり啓蒙されてきたのではないでしょうか。安保法制の一連の騒ぎの中で、反対勢力は「戦争法案」というレッテル貼りによる原始的なプロパガンダしかできませんでした。騒動が終わってみると、デモに参加していた人の中からも、可決されて良かったと思い始めている人がいます。安倍政権の支持率は下がるどころが、上昇しています。

元谷 デモを行った学生団体SEALDs(シールズ)が話題になりましたが、昔の安保闘争の学生とは何か違う印象があります。

ギルバート 共産党に上手く利用されているだけなのです。本人達は気付いているのでしょうか。

元谷 シールズ現象もメディアが煽った結果です。

ギルバート 確かにそうです。中心メンバーは百人足らずですから。私は何人かと直接会ったのですが、思想や考えをしっかりと持っていないのです。なぜ安保法制が悪いのかも言えない。ただ反対を口にするのみです。

元谷 ケントさんの今回の論文で私が最も気に入っているのは、「この世の中には、とても残念で、残酷な現実が存在する。この日本人の誇るべき、『空気を読む国民性』は、軍事面を含む外交の分野では、最大の障害になるのだ」という部分です。このことに気がついていない人が多い。恵まれた日本国内とは異なり、世界は弱肉強食なのです。

ギルバート 一九八〇年代、日米は貿易問題で衝突しましたが、当初は通じないと思われていた日本の誠意が、しだいに通じるようになっていきました。しかし特定アジアには通じません。

元谷 慰安婦問題は正にその例です。河野談話やアジア女性基金で誠意も見せても、朴槿恵大統領はまだ虚構の二十万人強制連行を主張し続けます。

ギルバート あり得ない。南京事件も同じで、人口二十万人の都市に対して三十万人の虐殺をやって、一ヵ月後には人口が二十五万人になっていたなど、どう考えたらそうなるのか。誰から算数を習ったのかと聞きたい。

元谷 私もそのことを「本当の日本の歴史 理論 近現代史学」という本に書きました。後ほど、一冊差し上げます。

ギルバート お願いします。早速読んでみたいと思います。

元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

ギルバート 偏向した報道に騙されないで、きちんと自分達で調べて、日本がこれから進むべき道を自分でも考えて欲しいですね。勉強しようと思えば、情報はいくらでも手に入る時代です。勉強すれば、日本が素晴らしい国だということがわかります。

元谷 ネットをフルに活用して欲しいですね。

ギルバート 憲法についても、きちんと学べば改正が必要であることがわかるはずです。ではどう変えるか。日本が世界にどのような貢献ができるのかという視点で考える必要があるでしょう。

元谷 その通りですね。また勝兵塾での講演もお願いします。今日はありがとうございました。