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20150627_1111373二〇一五年八月十二日、恒例「日本を語るワインの会」が代表自邸にて開催されました。詩集など日本に来てから三冊の本を出したトーゴ共和国大使館臨時代理大使のスティーブ・アクレソ・ボジョナ氏、都市部に店舗を集約し、「卸したて」のネタを使った、「握りたて」の寿司に拘る株式会社玉寿司代表取締役社長 中野里陽平氏、企業と企業を繋げるコンサルティングを行うTOP CONNECT株式会社CEOの内田雅章氏、首都圏で投資用の単身者向けマンションの建築・販売を行う株式会社アセットリード代表取締役社長の北田理氏、イチローの実の兄である株式会社SUW(スゥー)代表取締役の鈴木一泰氏、かつては外資系金融会社の敏腕トレーダーだった株式会社LOD&Be代表の三田直樹氏をお迎えし、最新のビジネス環境についての議論を交わしました。
全員が反対するならやる
 大リーグで活躍を続けるイチローは、子供の頃から父親と一緒に野球をし、小学校三年生で野球少年団入りし、六年生と一緒にプレーしていた。高校時代の通算打率は七割と驚異的だ。ストイックに見えるが、実際はそれほどでもなく、気を抜くべきところはちゃんとわかっている。その分、集中力は凄い。その兄である一泰氏はファッションのデザインをやっていたが、今は「コプラクションテープ」という高機能でファッショナブルなスポーツ用のテープの製造販売に力を入れている。発売してから二年半で多くのトップアスリートが使用するようになってきた。三田直樹氏が経営するデトックスサロン「ルフロ」は、秋田の伝統的な温泉蒸風呂の湯治場にインスパイアされた三田氏が、西麻布と鎌倉の一軒家にオープンしたもの。石と強酸性の温泉を使った蒸風呂で、多くの人が体と心を整えていく。
 事業の広げ方にもツボがある。基本は本業をまず大切にして、関連があれば他の事業に手を広げることだ。本業以外に必要以上に神経を使うのは良くない。儲かりますよという甘言にのって、迂闊に新しい事に手を出すのは危険だ。もし上手くいかなかった場合には、本業にまで影響が及ぶ。アパグループの事業の展開の軸は一貫していて、そのキーワードは「居住性」だ。まずは戸建ての注文建売住宅事業からスタートし、宅地造成、建売住宅事業、マンション事業と展開、そしてホテル事業へと進出した。長く住むか、一晩だけかと時間の違いはあるが、住宅もマンションも居住することは同じだ。この居住の快適さにアパグループは拘ってきた。本業に近いところでの事業展開を行ってきたアパグループだが、それでも新しい事業を行う際には、常に社員の反対があった。最初の反対は、マンション事業に進出する時だ。最初のマンションをアパの発祥地である北陸で計画したのだが、「土地が豊富な北陸でマンションが売れるわけがない」と社員全員が反対した。しかし代表は「全員が反対するならやる」と断行、見事に成功させた。二番目の反対は、ホテル事業に進出した時。この時は役員・社員だけではなくメインバンクも反対を表明、止めなければ融資を返済せよとまで言ってきた。それならばと、メインバンクから融資を受けずに他行からの融資で、金沢に第一号ホテルをオープンさせた、そのホテル事業は大成功、今ではポイントによりキャッシュバックを受けることができる会員は九百四十万人と日本一のホテルチェーンとなった。これだけ会員がいて、還元率を日本最大の一一%に設定していると、日本全国どこにアパホテルをオープンしても、翌日からは以前よりも高い稼働率で運営できる。
 三番目の反対はアパへのCIの時だ。サンフランシスコのランドー社という世界一のCI会社に依頼したために数億円もの費用が掛かることで、社員全員が反対する中、代表は世界基準でモノを考えれば、APAというアルファベット三文字というわかりやすいブランドが必ず必要になると断行した。今、アパホテルは日本ではダントツだが、世界におけるブランドは、上位のホテルグループとまだまだ大きな差をつけられている。アパホテルはビジネスホテルでもシティホテルでもない。代表が全く新しく考案した新都市型ホテルなのだ。どのホテルもゲストとスタッフの関係は宗主国と植民地で、「ご主人様」と「召使」のようになっているが、アパホテルでは対等。媚び諂うことなく、ゲストには誇りを持って泊まっていただき、スタッフは誇りを持っておもてなしするよう徹底している。世界のホテルはいずれ新都市型ホテルへと収斂していくはずだ。

漁業は養殖、農業は工場化へ収益安定化が進んでいく
 アパホテルのスタッフは、実力がある人ほど大きなホテルへと異動していく。昇進も早く、最速で入社六年で支配人になる人もいる。そんな若い支配人達が頑張っていて、オープンから一年間毎日、稼働率一〇〇%を続けて新記録を打ち立てたアパホテルもある。高稼働率のため収益性も高く、アパホテルは帝国ホテルの売上よりも少し上なのだが、利益は帝国ホテルの六倍に達している。この高収益を生むためのホテル用地やホテル自体の買収時のポイントは、駅から近いかどうかに尽きる。都心のアパホテルの駅からの平均アクセスタイムは二・七七分と三分を切っている。さらにアパホテルの高収益の秘密は、ほとんど全てのホテルを所有するとともに、自ら運営し、ブランドも自社ブランドで行っていることだ。他のホテルでは、この三つの機能を別の企業が担っていることが多い。アパホテルが製造販売業であれば、他のホテルは販売だけを行っていると言える。また、アパグループは一級建築士事務所を持つディベロッパーでもあり、ホテルの建設も原価で行うことができる。
 どんな事業でも立地は重要だ。回転寿司の普及でマーケットが大きく変化した寿司業界を生き抜くため、築地玉寿司では郊外立地の店舗は切り捨て、駅前・都心部に店舗を集約し、さらに回転寿司との差別化のために「おろしたて」のネタを使った「握りたて」の寿司に拘ることで、順調な業績を維持している。今白衣姿でカウンターに立てる「外国人寿司にぎり体験」が大人気で、インドから百人の予約が入るなどしている。これから第一次産業もどんどん変わっていく。漁業は養殖を中心に、農業も天候に左右されない工業化が進み、収益の波の少ない方向へと向かっていくだろう。

減価償却で節税が可能今は事業用不動産を持つべき
 どんな事業分野でも、百花繚乱の状態から寡占へ、そして独占へと向かっていく。日本のホテル業界のトップを独走するアパホテルの戦略は、ホテル数の確保は提携ホテルである「パートナーホテルズ」で、利益の確保は本体のホテルグループで。地方は「パートナーホテルズ」やフランチャイズホテルで、都心は自社保有するホテルでと切り分けを行っている。宿泊単価の違いから、最近の都心のホテルの収益は地方ホテルの四倍にも及ぶ。各アパホテルの支配人は為替のトレーダーのように、状況に応じて刻々とネットで販売する部屋の料金を変える。ニーズが多ければ高くなり、ニーズが少なければ安くなる。そうやって、最大稼働率×最大単価を目指しているのだ。極端な例だが、隅田川花火大会を鑑賞できる客室があるアパホテル〈浅草 蔵前〉は、大会当日に一泊四万八千円を記録したことがある。
 建売住宅からマンション、そしてホテルと事業を展開してきたアパグループだが、マンション事業の場合、マンションを販売して得た利益にどんと税金が掛かるが、ホテル事業の場合は年間の利益から減価償却費を引いたあとに税金が掛かるので、節税になる。いくら儲けるかも大事だが税金がいくらになるかを考えることもビジネスには大切だ。ホテル業界ではオーナーシップと運営が別の場合が非常に多いにも拘らず、アパグループがホテルの「所有」に拘っているのは、減価償却により節税を行うためだ。

民主党の除染基準が建築費高騰の原因だ
 アパのマンション事業では、代官山からスタートした最高級ブランド「ザ コノエ」が発売すればすぐに抽選申込が入る大人気状態だ。ホテルもマンションも、すぐに完売するのは避けるべき。安いものを急いで安く売っても、一流にはなれない。首都圏では人手不足から建築費が高騰していて、マンション供給量が減少している。人手不足の原因は、震災からの復興事業や原発事故で拡散した放射能の除染作業によって、東北からの出稼ぎ労働者が激減しているからだ。かつては建築物の発注者が建設業者を安く叩いて発注を行っていたのに、今はお願いして発注するなど発注者と建設業者の立場が逆転している。ゼネコンも仕事を厳選して受けている状態で、建築費が高騰するのも道理だ。これらの元凶は民主党政権のあまりにも低い一ミリシーベルトの除染基準だ。ICRP(国際放射線防護委員会)は、その一〇〇倍の一〇〇ミリシーベルト/生涯の被曝でガンの死亡率が〇・五%上昇、それ以下の線量では影響が低いために「わからない」としている。一ミリシーベルトという基準にはほとんど理由がない。二十ミリシーベルトで強制避難、引っ越しさせることなどとんでもないことだ。こんな厳しい基準のために帰還できない人々が沢山出ていて、ストレスによる災害関連死に至るケースが多い。福島原発事故では放射線で一人として死んだ人はいない。新国立競技場のドタバタ劇で民主党が自民党を追求するのはお門違いだ。そもそもザハ・ハディドのデザインに決めたのは民主党政権下だし、建設費高騰の原因も民主党の一ミリシーベルトという除染基準だし、あの迷走は全て民主党の責任なのである。
 事業は谷あり山あり。谷が待ち受けているのだから、山の時に浮かれていると必ず駄目になる。バブル経済の崩壊の後に登場したマンションデベロッパーはファンドバブルが弾けた時にほぼ全滅した。オイルショック後の列島改造ブームの時に森林を中心に日本中の地価が上昇した。しかし代表は付加価値を生まないで譲渡益を取ろうとする土地転がしは一切行わなかった。結局それで儲けていた人々の多くは破綻した。いい時がずっと続くと思うと必ず破綻する。撤退するときも全株オーナーのワンマン企業であれば、決断早く撤退することができる。