一般社団法人 新しい歴史教科書をつくる会 会長 杉原誠四郎
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APAグループ代表 元谷外志雄
1941年広島県生まれ 東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。元城西大学教授 現在「新しい歴史教科書をつくる会」会長
元谷 本日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。杉原さんが「新しい歴史教科書をつくる会」の会長になって、もうどれぐらい経ちましたでしょうか。
杉原 丸四年になりました。
元谷 今年は四年ごとの教科書採択の年です。「新しい歴史教科書をつくる会」の中学校の歴史教科書(「新しい歴史教科書」自由社)は、八社の教科書の中で唯一虚構の「南京事件」を一切記述せずに、文部科学省の検定に合格しました。今年は採択する教育委員会が増えるのではないでしょうか。
杉原 そうですね。四年前よりは良くなることを期待しているのですが…。
元谷 二〇〇八年に田母神俊雄さんが「日本は侵略国家であったのか」という論文で第一回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀賞を獲得してから、世の中の空気が徐々に変わってきました。なので、採択も増えると思っているのですが。
杉原 「南京事件」を書かなかった事について教育委員会がどこまで評価してくれるのか。期待しているのですが、なかなか…。
元谷 真実を教科書に掲載して、子供たちに伝えるという姿勢が大切なのです。「新しい歴史教科書」が多くの学校で使われるようになれば、日本が変わります。
杉原 中国政府は、「南京大虐殺」と「従軍慰安婦」の歴史史料を世界記憶遺産に登録する申請を行っています。そんな中国に対して、日本の中学校の全ての教科書に南京事件が記載されていれば、日本としては反論できなくなります。実際の採択が少ないとしても、南京事件はなかったというスタンスの教科書が一冊はあるべきと考え、これを作りました。日本にとっては大きな意味のある教科書だと思います。
元谷 そうですね。ところが、同じ保守を標榜する育鵬社の教科書(「新しい日本の歴史」)には、南京事件についての記述があります。
杉原 育鵬社の歴史教科書の応援団は、顔ぶれを見ればわかりますが、皆、南京事件はないと主張する人ばかりです。
元谷 そうでありながら、南京事件を記載せざるを得なかった、妥協したということが、育鵬社の情けないところです。教科書作りはお金儲けではないはずです。もっと真実を追究すべきですね。
杉原 まったく同感です。
元谷 私が常々主張しているのは、日本に予算三千億円で三千人の職員を持つ情報省を新設することです。そして世界中のメディアを監視して、間違った主張や報道がなされたら、即座にその国の言葉で反論するのです。日本の対外広報の予算は今年少し増えたようですが、まだ一桁足りません。
杉原 今年の七月末、アメリカのテキサス州にある米国立太平洋戦争博物館に、在米中国領事館員を名乗る男から、展示物の記述を「中国共産党が日本軍に勝利した」など嘘の歴史に改竄するよう、要求する電話があったそうです。博物館側は根拠がないと拒絶しました。このように中国は世界中のあらゆるところでロビー活動を展開しています。
元谷 民間を装っていても、背後に中国政府がいる場合も多いです。小笠原諸島でのサンゴ密漁問題にせよ、あれだけの漁船の動員する場合には必ず政府の意向が働いています。東シナ海でのガス田開発も、採算とは別に軍事転用の可能性を常に探っています。日本も、民間ではなく国としてしっかり対応する必要があります。チャーチルの言葉ではありませんが、自国以外は全て仮想敵国なのです。アメリカの国家安全保障局(NSA)が日本で政府などの電話を盗聴していたとウィキリークスが暴露しましたが、こんなのは当たり前です。
杉原 個人間では「人を騙すこと」は道徳的ではないと看做されますが、国家間では騙すのが当たり前で、騙される方が悪いと看做されるのです。
元谷 国益のためには嘘もつけば、人も殺すというのが世界の常識です。さらにここに宗教が絡みます。キリスト教徒でもイスラム教徒でも、「異教徒は殺せ」なのです。この考えが、先の大戦末期の原爆投下の背景にもあったと私は考えています。ソ連や蒋介石、バチカンなどを仲介にした日本の和平工作で、その降伏の意志を知っていたアメリカでしたが、頭にあったのはポスト第二次世界大戦のことであり、いかにソ連による世界赤化を防ぎ、連続して起こりかねない第三次世界大戦を回避するかということでした。そのためには、原爆を投下してソ連を牽制するしかない。そう考えたアメリカのバーンズ国務長官は、軍などの反対を押し切って無警告で日本に原爆を投下したのです。
杉原 本日はまさにその原爆投下の日ですね。その原爆投下に関してですが、七月にポツダム会談が始まった段階では、日本との本土決戦は必至で、日本への降伏勧告も延期すると考えられていました。しかし原爆実験の成功の報がアメリカの考えを変えます。陸軍長官のスティムソンが対日降伏勧告を出すことを強く主張し、トルーマン大統領が同意したことでポツダム宣言が出されます。私は来年になるかもしれませんが近々、原爆投下に関してアメリカの歴史学者と対話となるものをまとめた本を出す予定です。日本ではソ連を牽制するためにアメリカが原爆を投下したと主張する人が多いですし、もちろんそういう一面もあるのですが、この説には「投下する必要がないのに投下した」という意味が含まれています。しかしアメリカの歴史学者は、原爆投下は必要だったと正当化します。投下せずに本土決戦になっていれば、ソ連の侵攻は北方四島では済まなかったはずで、日本は分断国家になっていたというのです。
元谷 日本は講和の意志をアメリカに伝えていたのですから、本土決戦はなかったのではないでしょうか。
杉原 トルーマンは日本の無条件降伏を求めていましたから、本土決戦の可能性は確実にあったと思います。
元谷 トルーマンはルーズベルトが急死したために副大統領から大統領になった人で、就任まで原爆開発すら知らなかったようです。実権は国務長官のバーンズが握っていました。彼の原爆投下の意図は、ソ連の威嚇に加えて戦後、アメリカ一国の世界覇権を獲得するというものだったのではないでしょうか。
杉原 一九四五年二月のヤルタ会談では、イギリスのチャーチル首相はルーズベルト大統領に、ソ連が対日参戦することを明らかにして日本に降伏を迫ったら、日本は降伏し、戦争を早く終わらせる事が出来るのではないかと進言するのですが、ルーズベルトはこれを拒否します。ここにルーズベルトの悪性極まりないところがあるのですが、これによって戦争が長引くことになります。ルーズベルトは、日本が無条件降伏を認めるまで戦うという方針を堅持したまま四月に亡くなったのですが、そのルーズベルトの敷いた方針はアメリカ国民に定着していました。なのでトルーマンは原爆が完成した以上、また原爆に関する深刻な意味も十分に持っていなかった時点であったこともあり、投下すべきだと思ったのではないかと、私は推測しています。
元谷 確かにそのような国内事情もあったでしょう。スティムソンはポツダム宣言に天皇制の国体護持の項目を入れようとしていましたが、これをバーンズとトルーマンは削除します。つまり日本の拒否が前提の宣言であり、拒否すれば原爆を投下することが規定路線だったのでしょう。さらに誤解を恐れずに言えば、二十万人もの非武装の民間人を殺戮した原爆投下は非人道の極みであり、到底許されるものではないのですが、あれがなかったら…。
杉原 確かに世界中がもっと悲惨な戦争に巻き込まれ、そしてそこで原爆が使用されていた可能性はあります。
元谷 ドイツが強かったために、アメリカは武器だけではなく軍需工場と武器製造ノウハウを提供し、ソ連を一大軍事モンスターにしてしまったのです。このモンスターがユーラシア大陸全域を赤化する可能性がありました。
杉原 しかし原爆の投下によって引き起こされた悲劇が世界共通の認識となって、「熱戦」が「冷戦」と化して第三次世界大戦を防ぐことになった…ということですね。
元谷 一九四九年にソ連が核実験に成功したことで、原爆は使用できない兵器になりました。わずか四年での開発を可能にしたのは、アメリカの核科学者が原爆を使われない兵器にするために行った「情報リーク」でした。しかしソ連の核保有は、一九五〇年の朝鮮戦争を引き起こします。核攻撃される心配がなくなったスターリンは、北朝鮮の金日成をそそのかし、韓国へと南進させたのです。
杉原 代表の最新著作『本当の日本の歴史「理論 近現代史学」』を読みました。その中で代表は、アメリカが原爆投下の呪縛に囚われていると指摘しています。私も全く同感です。
元谷 読んでいただけましたか。アメリカは、原爆投下という人道に反する行為に罪悪感を感じています。その罪悪感を軽減するために、「良い国アメリカが悪い国日本を懲らしめた」という図式を保つ必要がありました。だから東京裁判やウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム、検閲やメディアへのプレスコードなどによって、日本人に自虐史観を植えつけたのです。そして今でも、中国の南京事件の三十万人虐殺説や、韓国の従軍慰安婦二十万人強制連行といった無茶苦茶な主張をアメリカが影で支えています。第三次世界大戦を回避して「熱戦」を「冷戦」に変え、世界中で約一千万人を救ったという原爆投下の正の側面を日本が認めることで原爆の呪縛を解き、アメリカが正しい歴史を語ることができるようにするべきなのです。
杉原 その提言は正しいと思います。
元谷 オバマ政権になってから、駐日アメリカ大使はルース氏もケネディ氏も広島の平和記念式典に参列しています。いずれアメリカ大統領が自ら広島や長崎を訪問し、謝意を表明するでしょう。これが原爆投下の呪縛を解くきっかけになります。結果、世界中から多くの観光客が広島と長崎を訪れることになるでしょう。それを見越して、私は七百二十七室と大型のアパホテル〈広島駅前大橋〉を建設、来年オープンする予定です。
杉原 それは遠大な計画ですね(笑)。また呪縛を解くことで、公明正大に議論できるようになります。
元谷 その通りです。これまで原爆投下の人道的側面で責められることを恐れていたアメリカは、日本擁護に変わるでしょう。慰安婦に関しても、ミャンマーの韓国人慰安婦の尋問記録がアメリカの公文書館に残っています。そこでは、高給を得て、外出の自由もある彼女達を単なる従軍売春婦だと評価しています。このような事実が、アメリカによってもっと世界に発信されることになるでしょう。
杉原 仰る通りです。この「アメリカは原爆投下の呪縛に囚われている」という分析は、代表のオリジナルなのでしょうか?
元谷 はい、そうです。
杉原 それは素晴らしい。
元谷 私は世界八十一カ国を訪問し、各国の要人と会談を行ってきました。また日本においても、多くの駐日大使と対談してきました。そしてわかったのは、誰一人として南京事件や従軍売春婦など信じていないということです。しかしこれらを主張し続ける中国や韓国の意図は理解している。さらに世界各国の人々は、中韓の国益からの主張に日本が有効な反論をせず翻弄され、謝罪を続けていることは「理解に苦しむ」というのです。一九五五年のバンドン会議において、日本がアジア・アフリカ諸国から「日本の犠牲のおかげで独立ができた」と賞賛されたことを忘れてはいけません。先の大戦は侵略ではなく、侵略されて植民地とされていた各国の人々と日本が手を携えて西欧列強と戦った植民地解放の戦争だったのです。
杉原 その通りです。
元谷 その先の大戦の発端ですが、私はメディアが大きな役割を果たしてしまったと考えています。日露戦争勝利の後、アメリカの鉄道王・ハリマンは南満州鉄道の日本との共同経営を提案、日本側も最初は乗り気で桂・ハリマン協定を結びますが、外務大臣の小村寿太郎の反対で実現しません。日清戦争では獲得できた賠償金が日露戦争では獲得できず、メディアが世論を煽ったために、日比谷焼打事件などの暴動となり、日本は騒然としました。さらに鉄道権益の半分をアメリカに譲るなどと決めれば、どんな激しい騒ぎが起きるかわからないというのが、小村の反対の理由でした。結果的にはこの時の日米のしこりが、日米戦争に繋がっていきます。
杉原 桂・ハリマン協定の破棄は、小村寿太郎の失策だったと思います。先の大戦時では、外務大臣の松岡洋右が野村吉三郎駐米大使がまとめかけていた日米了解案を潰したのと同じ失策です。また、独ソ戦勃発の際、全く無策だったことがその後に大きく響きました。自らが構想していた日独伊ソの四国連合案が雲散霧消した以上、次善の策としてアメリカが交渉で折れてくれないと、日本としてはドイツの味方をしてソ連を東側から叩くしかないと主張して、松岡はアメリカからの妥協を引き出すべきでした。
元谷 確かにこの二人の外務大臣の責任は大きいですね。先の大戦に関してさらに言えば、陸軍悪玉、海軍善玉論というのが一般的ですが、私はこれは違うと思います。特に中国大陸では、戦術的に陸軍は終戦まで勝ち続けていました。一方海軍は、マレー沖海戦など緒戦でこそ戦果を収めましたが、真珠湾攻撃などやらされた側面が強く、本来であれば陸軍と協力してハワイを占領すべきでした。陸海軍の対立で協力出来ずその後はジリ貧状態となった。ミッドウェー海戦での戦略上のミスも大きいですし、解読されていた暗号を海軍がそのまま使い続けたというのもおかしい。ちなみに陸軍の暗号は、アメリカには解読されていませんでした。
杉原 そもそも山本五十六が、「初め一年や一年半は存分に暴れてご覧に入れます」など言わず、アメリカとの戦争はできないと断言していれば、日米戦はなかったのです。
元谷 非常に中途半端な態度だったと思います。陸軍大将の東條英機は対米開戦を回避させるために選ばれた首相で、天皇に対して非常な忠臣でもあり、彼だったら昭和天皇の御心の通りに日米戦を回避してくれるのでは…ということで、首相になった。しかし結局海軍ができないとは言わないので、開戦に踏み切らざるを得なくなってしまいます。
杉原 確かに開戦に対する海軍の責任は、非常に大きいと言わざるを得ないでしょう。
元谷 一方今の世界の混乱の発端は、オバマ大統領が「アメリカはもはや世界の警察官ではない」と発言したことです。アメリカがしっかりとしていれば、経済的に弱りつつあるロシアを巡ってのウクライナ、クリミア半島の問題は発生しなかったですし、シリアやイラクでISが蔓延ることもなかったでしょう。今日では国家間の全面戦争が起こる可能性は大幅に低下、代わりに言葉による言論戦が激しくなってきています。これに勝たなければなりません。
杉原 先ほど代表が仰った情報省がベストですが、最低でも日本政府は外務省の中に、情報発信局を持つべきでしょう。
元谷 そのような部局が機能するためにも、国民の啓蒙を進めるべく教科書で本当の歴史を教えないと。真実を記述した教科書の採択率が数%というのは、非常に寂しいことです。
杉原 教育委員会での審議の際、真実が書いてあることを評価して、採択に至るというケースは非常に少ないです。
元谷 自国の教科書に自国を貶めることを記載している国は、他にはありません。文科省と外務省の問題だと思います。
杉原 特に外務省です。海外からの批判にきちんと対応、反論もしていれば、近隣諸国条項などが教科書検定に入り込むこともなかったでしょう。慰安婦問題も起こっていなかったでしょう。またウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムなどアメリカ占領軍の負の遺産を保存し強化することが外務省の仕事になってしまっています。日本の国益を全く考慮していません。
元谷 全く同感です。日本の外交を立て直すには、まずアメリカとの関係をより相互的に、強固にすることです。そのためには先ほどからお話しているように、アメリカの原爆投下の呪縛を解いてあげること、そして集団的自衛権の行使を認めて、日米安保条約を片務条約から多少なりとも相互条約にすることです。急速に拡大する中国の軍事力に対して、アメリカは軍事予算を毎年削減しています。これによって生じる空白をどのように日本が埋めるのか。今国会で審議されている安保法制は絶対に必要です。
杉原 左翼の人は安保法制を戦争法案と呼んでいますが、全く逆で戦争防止法案です。
元谷 まず安保法制を国会で可決させ、次は憲法改正です。しかし全国に九条の会が蔓延る現状では、改憲案は国民投票で否決されるでしょう。まず教科書で教えることを変え、国民の意識を変えていかないと。
杉原 そうですね。ただ教科書が良くなるためには、外務省が海外からの批判を全てシャットアウトしてくれないと。
元谷 外務省には期待できないので、やはり情報省のような別の組織が必要でしょう。
杉原 また代表が仰る原爆投下の呪縛を解くことは、日本のためだけではなく、アメリカにとっても世界にとっても必要なことだと思います。
元谷 同感です。とにかく自由社の教科書がもっと採択されるような世の中にしないと。自由社の教科書だとあまりにも過激なので、東京書籍など他の教科書との間をとって、育鵬社の教科書にしているというケースもあるのではないでしょうか。
杉原 そうかもしれません。自由社と育鵬社の教科書を合わせて考えれば自虐的ではない教科書は、徐々に広がってきていると言えると思います。
元谷 健全な教育のために、今後も頑張ってください。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしています。
杉原 まず、どうしても申し上げておきたいのは、歴史戦を激しく戦っている「つくる会」の会員になって「つくる会」の歴史戦を支えて欲しいのです。若い人は歴史の真実を知るべきです。今はインターネットという非常に便利なツールがあります。これを使ってしっかりと学び、真実に基づいて歴史戦を共に戦って欲しいですね。
元谷 確かに、今の時代、調べようと思えば、いくらでも本当のことを知ることができます。まずは関心を持つことからでしょうか。
杉原 そうですね。広い視野を持てば、代表の原爆呪縛を解く話がいかに重要か、理解できるでしょう。
元谷 今日はありがとうございました。