Big Talk

日本はあらゆる面で ほとんど完璧な国である

 今年日本と外交関係の樹立して八十周年を迎えるホンジュラス共和国。カリブ海にも太平洋にも面していて地政学的に有利な場所にあり、未開発の地下資源も眠っていて、これからの発展が期待されるホンジュラスの駐日大使、マルレーネ・ビジェラ・デ・タルボット氏に、コロンブスの「発見」から始まるこの国の歴史や文化、今行われている経済プロジェクトなどをお聞きしました。
マルレーネ・ビジェラ・デ・タルボット氏
 1955年ホンジュラスのテグシガルパ生まれ。ホンジュラス国立自治大学法学部学士課程、台北チェン チ大学修士課程修了。ホンジュラス外務省で様々な役職を歴任し、2002~2010年駐台湾ホンジュラス大使に。2010年より現職。

スペイン人が持ち込んだスペイン語とカトリック
元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。タルボットさんには勝兵塾でもお話をしていただいているのですが、今回やっとビッグトークにお招きすることができました。
タルボット このような機会をいただき、本当に感謝しております。よろしくお願いします。
元谷 ホンジュラスと聞いて、中央アメリカの国だとわかる方は多いと思うのですが、実際にどこにあってどんな国かということを、多くの日本人は知らないと思います。まずその辺りから教えていただけますか?
タルボット わかりました。ホンジュラスは、西はグアテマラ、南西はエルサルバドル、南東はニカラグアに面した国です。カリブ海上では、ベリーズ、キューバ、ジャマイカ、ケイマン諸島、メキシコ、コロンビアと国境を接しています。国土の面積は日本の三分の一程度、人口は約八百十万人、首都はテグシガルパになります。公用語はスペイン語です。歴史としては、一五〇二年にコロンブスが四回目の航海でホンジュラスに到来したことが大きいですね。当時中南米には、メキシコで繁栄していたアステカ帝国、中央アメリカのマヤ文明、ペルーで栄えていたインカ帝国がありました。北アメリカと南アメリカの間を移動する人も多く、その経由地として中央アメリカは栄えていました。しかしいずれの帝国、文明も十六世紀にスペインによって滅ぼされました。スペインは王と女王の代理人として副王を任命し、メキシコから中南米に至る広大な土地をヌエバ・エスパーニャ副王領として支配しました。広い領土の効率的な支配のために、副王領はいくつかの行政区分に分けられていました。今のグアテマラ、エルサルバドル、ホンジュラス、ニカラグア、コスタリカにあたる領土はグアテマラ総督領として、グアテマラにいる総督が治めていました。総督領時代にもこれらの国々は州として存在しており、一八二一年にはその五つの州が五つの国として同時に、全く無血で平和裏に独立しました。
元谷 グアテマラ総督領の五つの州は、民族別に分けられていたのでしょうか?
タルボット 民族ではありません。行政上の理由から五つに分けられました。
元谷 ヨーロッパ系と先住民との混血が進み、今では大半の人々がそうだとお聞きしていますが。
タルボット ホンジュラスの場合、国民の九割以上が先住民、スペイン系、イギリス系、アラブ系、アフリカ系です。残りはだいたい九つに分けられる民族の先住民で、純粋なヨーロッパ系は一%しかいません。
元谷 今、中米諸国には民族という概念はないということですね。
タルボット 中米諸国には、さまざまな民族がいるのですが、民族性によって分割されたわけではない五つの国に分かれているということです。
元谷 スペインですから、宗教的にはカトリックということになるのでしょうか。
タルボット かつては、カトリックが国教でしたが、現在のホンジュラスでは、あらゆる宗教が認められています。十五世紀後半、カスティーリャ女王のイザベル一世と、アラゴン国王のフェルナンド二世の夫婦によってスペイン王国が誕生します。一四九二年にグラナダ王国を制圧して、ヨーロッパからイスラム教徒を追い出した二人には、ローマ教皇によって「カトリック両王」の称号が授けられました。そのスペイン人達が、アメリカ大陸にカトリックとスペイン語を持ち込んできたのです。
元谷 日本の場合、一五四九年にイエズス会のフランシスコ・ザビエルが来日して、カトリックの布教活動を開始しました。私はこれは宗教的に感化してから、植民地化を図るというヨーロッパ諸国の戦略だと考えているのですが、中米でもそのようなことはあったのでしょうか。
タルボット イエズス会は南北アメリカ大陸でも活動をしました。植民地化の原動力は、宗教よりはやはり軍事力でした。
元谷 スペインやポルトガル、さらにオランダやフランス、イギリスが加わった植民地を巻き込んだ世界覇権のための戦いが、その数十年に亘って続いていきます。スペイン、ポルトガルの先行組は南アメリカに、イギリス、フランスなど後発組は北アメリカにというようになっていきます。
タルボット そうですね。多くの国が入り混じって争っていました。カリブ海にあるロアタン島は今はホンジュラス領なのですが、イギリス領だった時期が長いので、多くの住民が英語を話しています。イギリスの海賊が、ここを拠点としてスペインの交易船を襲っていたという歴史があるのです。
 
国は国益のために嘘をつくし虐殺も行う

元谷 そういった鬩ぎ合いの歴史が、言語や文化で今でも残っているというのは、非常に面白いですね。スペインが抑えているところにイギリスがやってきて、そのイギリスの十三の植民地がアメリカ独立戦争によって独立します。アメリカ合衆国は西部開拓としてネイティブアメリカンのテリトリーへの侵略を続け、さらに一八九八年にハワイを併合、同年の米西戦争によってフィリピン、グアム、プエルトリコをスペインから奪い、キューバを保護国として、北アメリカから太平洋でスペインに代わって覇権を手に入れます。
タルボット 同時にアメリカは、一八〇三年にルイジアナをフランスから、一八一九年にフロリダをスペインから、一八六七年にアラスカをロシアから、お金を払って購入したりもしています。
元谷 軍事力と買収と両方によって、アメリカは膨張を続けてきたということです。そしてこの一環としてアメリカは極東にも触手を伸ばし始め、一八五三年に黒船が日本に来航します。それまでのカトリックの宣教師は九州からの活動が多かったですが、アメリカは東の江戸から接触を開始しました。日本のカトリックの総本山とも言える浦上天主堂は、九州の長崎にあります。原爆は広島と長崎に投下されました。軍港のあった広島に投下するのは戦略上意味があると思うのですが、なぜ長崎だったのでしょうか。私の仮説なのですが、プロテスタント国のアメリカは、敢えて狙ってこのカトリックの総本山の上に原爆を投下したのではないでしょうか。先の大戦末期、ドイツの敗戦が濃厚となってきた中、アメリカの支援によって軍事大国となったソ連が戦後世界赤化の活動を活発化させることは確実でした。そうなれば、米ソ間で第三次世界大戦が勃発する可能性が非常に高まります。アメリカから見れば、事前にソ連を威嚇して世界赤化の勢いを抑え、第三次大戦を冷戦に変える必要があった。これがアメリカの考えた原爆投下の正義です。そして大義名分として、悪い国・日本にいい国・アメリカが原爆を投下したというイメージが必要となりました。だから戦後、東京裁判やウォー・ギルト・インフォメーション・プログラムによって、内外に日本が悪い国だという印象を植えつけたのです。
タルボット 外交官として戦争を止めることが私の仕事です。そして核兵器を使用することは絶対に反対です。人間として、行ってはいけないことだと思います。
元谷 戦争をしたい人はいません。しかしやむを得ない局面もあるのではないでしょうか。どんな国でも国益のためには、嘘もつけば、原爆投下のような虐殺も行うのです。私はアメリカを一方的に批判すべきではないと考えています。ソ連というモンスターを作ってしまったアメリカが、世界に対する責任としてもっと悲惨な第三次世界大戦を防ぐため、また自国の国民に対する義務を果たすために、原爆投下を行ったのです。日本にとっても被爆者の皆さんにとっても非常に不幸なことでしたが、もし投下されていなければ、日本はもっと悲惨な状態になっていたかもしれません。この戦争末期から終戦後の経緯を冷静に見つめた上で、日本人は目を覚まして、真の歴史を知るべきなのです。
タルボット 人々は自国の歴史を知り、それを受け入れ、そこから学ぶ必要があると私は思います。
 

経済立国を目指して開発プロジェクトが進行中

元谷 話を変えて、タルボットさんのことを少し教えていただけますか?
タルボット 中産階級の家庭だったと思うのですが、祖父は国会議員で、父は弁護士、母は会社を経営していました。私の元々の先祖はバスク人で、非常に個性の強い人物だったそうです。
元谷 バスク人は勤勉で優秀だと聞きます。タルボットさんには、しっかりその血が受け継がれていますね。
タルボット ありがとうございます。父は企業活動専門の弁護士なのですが、元々外交官になりたかったのです。ですから、私には弁護士と外交官の両方になって欲しかったようです。祖父は私に大統領になれと言いますが(笑)。
元谷 それは十分に可能性があるかと(笑)。勉強はどちらでされたのですか?
タルボット ホンジュラスです。外交官目指して、国際法を学びました。事務弁護士の資格に加えて、試験に合格して代理人資格を持つ法廷弁護士の資格まで取得しました。
元谷 またタルボットさんは、ミス・ホンジュラスだったとお聞きしています。
タルボット はい、日本で開催されたミス・インターナショナルとロンドンで開催されたミス・ワールドのホンジュラス代表でした。一九七七年には代表として日本を訪問しました。歌舞伎座や日本橋の百貨店にも行ったのですよ。
元谷 そうでしたか。
タルボット ワシントン勤務を皮切りに外交官としての仕事を始め、二〇一〇年に駐日大使として日本に来る前には、八年間大使として台湾に駐在していました。
元谷 では元総統の李登輝さんをご存知ですね。私は彼と非常に親しいのです。
タルボット もちろん、知ってますよ。ホンジュラスは日本とも台湾とも良い関係を保ってきています。
元谷 ところでホンジュラスは大統領制だと思いますが、任期は何年でしょうか?
タルボット 任期は四年で一期のみです。
元谷 期間を空ければ、再度大統領になることができるのでしょうか?
タルボット 憲法には再選禁止が明記されているので無理です。しかしこれからもそれでいいのか、今正に議論されています。昨年の一月に新しくエルナンデス大統領が就任したばかりです。
元谷 韓国の大統領は任期が五年で、ホンジュラスと同じく再選不可となっています。そのせいか、退任後に逮捕されたり自殺するなど、余生を全うしていない人が多いですね。
タルボット ホンジュラスでは、選挙によって三名の副大統領が選ばれます。
元谷 副大統領が首相役を行っているということですね。
タルボット 今、ホンジュラスで大きな開発プロジェクトが進行しようとしています。ホンジュラスはカリブ海にも太平洋にも面していて、地政学的に非常に恵まれた場所に位置しています。
元谷 パナマ運河を利用する必要がありませんね。
タルボット はい。カリブ海側に二つ、太平洋側に一つ大きな港があります。この地政学的な優位性を利用して、シンガポールや香港のような経済の中心地を目指しているのです。そのために、大幅な自治権も付与した経済特区を創設しようとしています。また三つの港と空港の拡張と、中央アメリカから北アメリカを繋ぐハイウェイの建設も計画されていて、日本をはじめ世界からの投資を求めています。
元谷 エルサルバドルに大きなハブ空港を建設するという話を聞いたことがあります。競争になりませんか?
タルボット エルサルバドルもホンジュラスも中米統合機構に属していますから、共に協力して事業を進めようとしています。この機構にはその他にコスタリカ、グアテマラ、ニカラグア、パナマ、ベリーズ、ドミニカ共和国が加盟しています。
 

主要な輸出産品は高地栽培のコーヒー

元谷 今年の十二月には、パナマ運河の拡張工事が完了します。LNG(液化天然ガス)を積んだ大きな船が通航できるようになり、経済効率がぐっと上がるはずです。またニカラグアも香港系企業の手によって二〇一九年完成予定の運河を作っています。しかし今石油は供給過剰気味なのにも拘らず、サウジアラビアなどOPECは石油生産量を減らさずに、石油価格を下がるままにしています。アメリカのシェールオイルは一バレル百ドルで採算が取れるようになっているのに、今のような五十ドル近辺では大赤字です。サウジアラビアの行動は明らかにシェール潰しですし、同時に産油国のロシア潰しにもなっているのでしょう。支配領域の油田からの石油を売って資金にしているイスラム国も影響を受けていると言います。シェールが破綻すれば、この二本の運河も利用者が少なくなり、通行料収入が激減するはずです。ちなみにホンジュラスの地下資源はどうなっているのでしょうか?
タルボット 最初に日本の企業が調査、その結果を基にイギリスとオランダのエネルギー企業がさらに調査を行ったところ、石油があるということはわかっています。埋蔵量などに関しては、さらなる調査が必要でしょう。石油の他にも天然資源は存在すると思われますが、多くが未開発です。これからまだまだ出てくるでしょう。
元谷 それは今後に期待できますね。
タルボット 今現在、輸出産品として力を入れているのはコーヒーで、ホンジュラスで最も輸出されている農作物です。
元谷 バナナが有名でしたが…。
タルボット はい、昔は世界のバナナの三分の一を栽培するほどバナナは重要な産品でしたが、今は違います。赤道に近く熱帯気候のホンジュラスですが、国土の三分の一が標高二千四百メートルを超える山岳地帯になっているため、丁度コーヒー栽培に適した気候になっています。アラビカ種のコーヒーは産地の標高によってグレードが決められていて、標高千二百メートル以上で栽培されているものが、最高級とされています。とても美味しいですよ。またメロンの栽培も始まっていて、これももうすぐ日本に輸出されるはずです。その他海老やロブスターの養殖も盛んです。日本との貿易額はまだ輸出が約四十億円、輸入が約七十億円程度ですが、これをもっと増やしていきたいですね。
元谷 熱帯気候でありながら、涼しい地域が多いということは、観光で訪れるにも良いでしょう。
タルボット 最も有名な観光地の一つは、世界文化遺産にも登録されているコパンのマヤ遺跡考古学公園でしょう。マヤ文明の様々な建築物を見ることができます。また先ほどお話したロアタン島はリゾートホテルが増えてきていて、世界中から来た人々がスキューバダイビングやビーチを楽しんでいます。
元谷 遺跡はぜひ見てみたいです。
タルボット 行政単位としてホンジュラスは十八の県に分かれていて、十六の県でコーヒーを栽培しています。標高が千~千五百メートルの地域では常春のような気候でとても過ごしやすいですよ。首都のテグシガルパでも標高は約千メートルあります。アメリカから飛行機で二時間程度で到着しますから、日本からも行きやすいです。
元谷 是非一度訪れたいですね。
タルボット はい、ぜひ。代表がホンジュラスにいらっしゃる時には、私も同行して全ての手配をします。また今年は日本とホンジュラスが外交関係を樹立して八十周年です。プロジェクトの提案の件もあって、今年エルナンデス大統領が来日します。これに合わせて、アパグループと共に何かイベントを企画できればいいのですが…。
元谷 それはいいですね。ぜひアイデアを出し合って実現させましょう。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
タルボット 日本の若い人には他の国を見て、その文化やお国柄を学んで欲しい。日本はあらゆる面でほとんど完璧な国です。でも他の国では実情が全く異なるということを、体感して欲しいですね。
元谷 他の国から見て、日本がどれだけ完璧な国に思えるかということを、日本人自身が知らないのです。反日日本人に貶められて、世界で最も悪い国だと考えています。それを私がいくら違うと言っても、聞き入れてくれない。海外の方が言うことの方が、日本人は聞く傾向があります。タルボットさん、また勝兵塾でお話をしていただけないでしょうか。
タルボット もちろん、喜んで。
元谷 今日は本当にありがとうございました。