元谷 今日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。
アーミル お招きいただきまして、大変光栄です。
元谷 アーミルさんは来日して何年になりますか?
アーミル 丁度二年になりました。
元谷 二〇一三年にはお招きによりパキスタンを訪問することができ、大変光栄なことでした。晩餐会ではマムーン・フセイン大統領と同じテーブルに席を設けていただきました。
アーミル 昨年はパキスタン最大の都市・カラチで毎年開催される国際総合展示商談会である、エキスポ・パキスタンに合わせてご夫婦で訪問していただき、ありがとうございました。代表にとっても、私達にとっても非常に有意義な訪問だったと思います。何よりも代表が日本人としての視点でカラチを見て、また評価していただいた。そのことが私は非常に嬉しかったです。
元谷 商務大臣のカーンさんとのビッグトークも手配していただき、本当にお世話になりました。
アーミル ぜひ代表にはまたパキスタンに来ていただきたいですね。先ほどお話したように、私が日本に来て二年になるのですが、時間が経つにつれ、どんどん日本のことが好きになってきました。代表も何度か訪問することによって、もっとパキスタンのことが好きになると思います。
元谷 昨年はあまり時間がなく、カラチ以外の場所を巡ることができませんでした。次回の訪問時には、観光もしてみたいと考えています。
アーミル 沢山見る価値のある場所がありますよ。パキスタンは自然が非常に美しい国です。世界の山をその標高でランキングした場合、二十位までにパキスタンの山が九つも入るのです。最も有名なのは、世界で二番目に高い山、K‐二でしょう。このK‐二など八千メートル級の山が五つ、七千五百メートル級の山が二十九、七千メートル級の山が百二十一あって、世界中から登山家が集まってきます。
元谷 それは凄いですね。
アーミル その他にも、世界で二番目に大きく、世界最古の森・ジュニバー森を擁するジアラット谷などの美しい自然や、モヘンジョダロやハラッパーなど太古に栄えた文明の遺跡、ムガール帝国治世下に作られた建築物や庭園、そして様々なお祭など風光明媚な場所から楽しいイベントまで、観光資源が非常に豊富です。
元谷 昨年の訪問で素晴らしい国というのはよくわかりましたが、次にはぜひいろいろと今おっしゃっていただいた名所を巡ってみたいと思います。
元谷 アーミルさんは日本では、どこに行ったことがありますか?
アーミル 二年間で日本全国、いろいろな場所を訪れています。私が東京に赴任してきて最初に向かった先は、福島でした。パキスタン政府を代表して、私達パキスタン人も、日本の人々をサポートしていく強い意志があることを示すためです。
元谷 そうでしたか。ありがとうございます。パキスタンも日本も、共に非常に地震の多い国です。先端科学技術立国である日本は、耐震技術にも優れています。その技術をパキスタンにどんどん輸出すれば、両国共にメリットがあるはずです。
アーミル 仰る通りで、私達は耐震技術について日本から学びたいと考えています。また、来年(二〇一五年)の三月に、仙台で国連防災世界会議が開催されます。その場でも有益な意見交換ができるのでは…と期待しています。
元谷 その通りです。
アーミル 二〇〇五年のパキスタン地震では特に北部が大きな被害を受け、九万人もの犠牲者を出しました。また二〇一〇年にはパキスタンは大洪水に見舞われ、二千五百人以上が死亡し、数千万人が家を失い、数十億ドルのインフラの損害が発生しました。国連の調査によると洪水があった地域の面積は、イタリアと同じ大きさにまで及んだということです。この時、国連事務総長の潘基文さんがパキスタンを訪れ、「これは洪水ではなく津波だ」と言いました。地震の時も洪水の時も、日本をはじめとする多くの国々から支援をしていただき、本当に助かりました。感謝しています。
元谷 今、東京の三田綱町に新しいマンションを計画していますが、地震が来ても揺れない免震構造を採用することになっています。こういう分野では日本は世界でも一番進んでいるのではないでしょうか。パキスタンでも重要な建築物には、この技術を導入してはどうでしょう。
アーミル そういう技術を日本は持っていますよね。大変素晴らしい。そういう技術をパキスタンは日本から学びたいのです。
元谷 お話しているとアーミルさんは技術系のお話にも明るい印象があります。どのようなキャリアを経て、日本に来られることになったのでしょうか。
アーミル 元々私は航空業界に就職したいと考えていました。世界中のできるだけ多くの人に会ってみたいと考えていたからです。しかし不況で仕事の口がありませんでした。そこで公務員試験を受けて一九八四年にパキスタン外務省に入省しました。その結果、理想通り沢山の国を訪れて多くの友人を作ることができました。人間はこの小さな地球に一緒に暮らしている仲間です。共に手を携えて、共通の課題に挑戦している…そういう感覚を常に持っています。
元谷 私も全く同感です。
アーミル 日本には実は幼い頃より親近感を持っていました。八歳か九歳だった頃、富士山の前を新幹線が走る姿の写真が大きく入ったカレンダーをもらったのです。この写真を私はとても気に入り、何年も壁に貼っていました。それぐらいの年齢の男の子は、みんな自動車や列車など動く乗り物が大好きで、そのおもちゃで遊ぶものでしょう? この流れで、私の興味は特に新幹線に集中しました。誰がどこでどういう方法で作ったのか。知りたいことが山積みでしたね。また同じ頃、ゴジラが登場する映画にも夢中になりましたし、今でも大好きです。モスラという悪役も好きですが。
元谷 そんなに小さい頃から日本に関心を持っていただけていたのですね。ありがとうございます(笑)。そのカレンダーの当時は東海道新幹線しかなかったかもしれませんが、その後は日本中に路線を伸ばし、来年(二〇一五年)三月十四日には北陸新幹線が開業し、金沢・東京間が二時間半で結ばれることになります。一九六四年の東海道新幹線の開業以来、事故による死者を一人も出していない新幹線は、日本が世界に誇る技術の代表格でしょう。また二〇二七年の東京・名古屋間の開業を目指して、十二月十七日に着工するリニア中央新幹線にも私はとても期待しています。そこまで大使を…というのは難しいでしょうから、開業したらまた日本に来ていただいて。
アーミル 新幹線に乗るためにぜひまた来日したいと思います(笑)。
アーミル 日本の世界に対する最大の貢献は、磨いてきた最先端技術を他の国へと広めていくことです。パキスタンもさらにインフラを整備して国家として飛躍するために、日本からの技術移転に期待をしています。特に交通インフラの発達は都市間の物流を効率化し、国の発展にダイレクトに結びつくと考えています。子供の時に新幹線に強く興味を持ったのが高じて、私はロンドンのウェストミンスター大学で交通運行管理学を学び、修士号を獲得しました。鉄道や道路だけではなく、空港や橋など関連するインフラを全てトータルに整備することで国家を発展させることに、強い関心を持っています。
元谷 アーミルさんは交通インフラの専門家なのですね。世界に冠たる日本の技術がパキスタンをはじめ、多くの国の役に立つことは、日本としても本望です。日本は今、先の大戦後アメリカから禁止されていた航空技術をまた花開かせようとしています。ひとつは二〇一七年に初号機の納入を目指しているMRJ(三菱リージョナルジェット)です。また同時に国産初のステルス実証機、通称「心神」の開発も進んでいます。ボディーにはカーボンファイバーを使用するなど、今日本が持つ技術の粋を集めた機体になっています。こういったことを、もっと世界にアピールしていくべきだと私は考えています。
アーミル その通りです。日本は才能と技術の国です。どんな物でも開発するスキルがあります。
元谷 日本は先端科学技術立国であると同時に、観光大国にもなるべきです。パキスタンと日本も技術を通じた交流だけではなく、お互いに多くの観光客が行き合う関係になれればいいですね。
アーミル はい。新聞で日本への海外からの観光客が昨年は一千万人を超えたと報じられていました。日本は自然や文化など見るべき観光資源も多く、まだ上手く活用されていない観光資源もまだまだ沢山あります。また、ホテルなどの宿泊施設のおもてなしも非常に優れています。世界中からもっと多くの観光客を惹きつけることができるはずです。私も多くのパキスタン人が日本を訪問できるようになることを期待してます。特に二〇二〇年には東京オリンピックが開催されます。これを機会に、両国の人的な交流がさらに活発になれば。
元谷 オリンピックが起爆剤になればいいですね。
アーミル 私は日本に赴任してから、福島、札幌、福岡、別府、広島、富山などを訪問しました。先日は長野に行ってきました。JICA(国際協力機構)の草の根技術協力事業として、二〇〇四〜二〇〇五年、二〇〇八〜二〇一〇年の二回に亘って長野県の飯島町がパキスタンのフンザのムルフン村の農民を受け入れ、マンツーマンでりんごの栽培方法を指導してくれたのです。このおかげで、ムルフン村でのりんご栽培は、徐々に軌道に乗りつつあります。こういう技術移転にも、価値があると思いました。
元谷 そういう支援もあったのですね。
アーミル 日本の最先端技術には、人類に貢献しているものも多いです。例えば十二月三日に「はやぶさ二」が打ち上げられる予定ですが、あのような宇宙探索も日本が優れた技術を持っています。その成果として、先代の「はやぶさ」は、世界で初めて小惑星から物質を持ち帰りました。科学技術が発達しているのは、日本の社会や国民がしっかりとしているからなのでしょう。日本が科学技術を用いて得た成果を利用していくことができれば、もっと世界は住みやすい場所になるはずです。
元谷 家電や自動車の分野でも、日本は独自の技術で世界マーケットを席巻してきました。アメリカにようやく認められた中型ジェット機の分野においても、日本はどんどん世界に製品を輸出して、マーケットシェアを高めていくことになるでしょう。私は世界七十八カ国を訪問してきましたが、日本ほど素晴らしい国には出会ったことがありません。もちろん日本人の私から見た評価ですが(笑)。アーミルさんは日本をどう評価されていますか?
アーミル どの国も山や海など持っている自然によって語られることが多いですが、真に国を定義するものは国民です。その点、日本人の礼儀正しさと親切さは、私にとっては驚異的です。日本人と一緒にいると、我が家で寛いでいるような安心感を感じるのです。脅威など一切感じません。地下鉄で移動する時には、私はスーツではなくカジュアルな服装のことが多いです。当然誰も私が駐日大使だとは思いません。それでも誰もが私に親切なのです。ちょっとしたことなのですが、幸せを感じる経験を何度もしています。
元谷 そう言っていただくと、うれしいです。
アーミル 何よりも素晴らしいのは、子供達の学校に対する姿勢です。施設を自分の家のように大切にし、備品などをとても大事にします。それらのふるまいに私は感銘を受けました。子供の頃からのその習慣が公共施設を大切に維持することにつながり、社会コミュニティを大切に、さらには国を大切にすることに繋がっています。平和を愛し、年配の方を尊敬するのはアジアに共通する価値観だと思うのですが、日本ほどこれを重視している国はないでしょう。
元谷 非常に高い評価をいただきました。その文化を日本人は守っていかなければならないですね。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしています。日本の若い人に向けた助言をお願いします。
アーミル 世界の子供達に伝えたいのは、二十一世紀になって地球が小さくなってきているということです。これは交通や通信の発達によるものですが、お互いの行動によって影響を受けやすくなっています。ですから共通の課題に関しては、将来を見据えて、皆で考えて解決していく必要があるでしょう。パキスタンの子供達は日本の子供達がどんな風か、非常に興味を持っています。文化や価値観を共有するまとまりのある国として、日本は世界のリーダーたる国です。また長野の飯島町でも話したのですが、世界中の誰もが日本人の内面的な美しさに感銘を受けます。日本の皆さんはぜひこの美しさをいつまでも大切にしていって欲しい。そして若い人は、学ぶことがとても大事です。そして寛容になること。寛容になって愛し合ったり尊敬し合って、将来を見据えて手を携えて、平和に向けて立ち向かっていって欲しいですね。日本にとってもパキスタンにとっても、共に達成すべき究極の目標は、やはり平和なのですから。
元谷 いろいろと考えさせられるお話です。本日は本当にありがとうございました。
ファルーク・アーミル
パキスタン大使
対談日:2014年11月25日