Big Talk

冷戦後の日米関係の変化を日本国民は直視するべきだ

財務官僚として二十九年ものキャリアを積みながら、敢えて政界に転身。霞ヶ関と永田町を知り尽くした政策通として、石原慎太郎氏、平沼赳夫氏のブレインとなって活躍する衆議院議員の松田学氏。日本維新の会が分党して誕生した次世代の党の政調会長代理に就任した氏に、この新党が目指すことなどをお聞きしました。

最近若い世代で保守化傾向が進んでいる

元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。日本維新の会の分党にあたって、松田さんは次世代の党に合流しました。結党大会はいつですか?
松田九月十六日です。
元谷 橋下徹さんの瞬発力というか、破壊力には凄いものがありますが、元々旧太陽の党とは、原発や憲法についての考え方に開きがありました。分党になって、すっきりしたのではないでしょうか。
松田そうですね。自らの考えを忌憚なく主張できるようになりました。
元谷 石原慎太郎さんは我が子のように可愛がっていますが、橋下さんはもう少し歴史を勉強して欲しいですね。松田さんはたちあがれ日本時代から参加していると聞いていますが。
松田はい。ですからたちあがれ日本、太陽の党、日本維新の会、そして次世代の党と、新党結成に立ち会うのは今回四回目です。
元谷 そして日本維新の会になった二〇一二年に、衆議院議員に初当選。元々は財務省にいたのですね?
松田はい。大蔵省時代から二十九年間勤務していました。
元谷 二十代で税務署長というのは本当ですか?
松田本当ですよ。私も二十九歳の時に、兵庫県にある洲本税務署の署長になりました。正に人生修養の場でしたね。父親の世代である市長や警察署長、商工会議所会頭と対等に交流しなければならない。祖父の世代に近い業界団体の方々とも、夜カラオケで一緒に歌うのです。そうすれば、あの税務署長は若いけれど見どころがある。ちゃんと税務申告をしようということになります。日本の行政にはそういう面がありますね。私としては、自身を高める良いきっかけになりました。
元谷 一種のエリート教育ですね。
松田しかし九十年代にメディアから「バカ殿研修」と批判され、この若手税務署長制度は廃止されてしまいました。物凄い損失だと思います。
元谷 その通りです。税金といえば、七割近い個人や企業が税金を払っていません。少額でも皆が払えば、財政は賄えるのです。もっと税を払う意識を国民が持つべきではないでしょうか。
松田 憲法には納税の義務が明記されていますが、一般に日本では国に対する義務や責任の意識が希薄です。また憲法には勤労の義務は書いてありますが、国防の義務はありません。
元谷 憲法九条との兼ね合いでしょうが、国防の義務がなくては、国とは言えないでしょう。そして私達はその憲法を、七十年近く押し頂いているのです。
松田サンフランシスコ講和条約によって一九五二年に日本が独立を回復したあと、自分達で憲法を定めていないというのは、世界的に見ておかしいのです。ところがメディアが「自主憲法制定=軍国主義復活」と人々を洗脳したので、国民はおかしいことに気がついていません。
元谷 国会議員の三分の二の賛成や、国民投票で過半数の賛成など憲法改正のハードルは非常に高く、実質的には改正不能です。私は石原慎太郎さんが言うように、成立経緯に問題があるこの憲法をまず破棄するべきではないかと。安倍首相は「それはクーデターだ」と言うのですが。緊急事態や環境権に関する改正は可能かもしれませんが、安全保障関連の憲法改正は非常に難しいでしょう。
松田難しいのは仰る通りです。
元谷 そもそも今の日本国憲法は、アメリカが日本を属国にするための憲法であることを理解している人が少ないのです。そんな中でも次世代の党は、しっかりと自主憲法制定を党の目的として掲げています。ぜひそれを貫いていただきたいです。
松田はい。私は自主憲法研究会という議員連盟の事務局長をやっています。先日日本青年会議所の自主憲法草案を読んだのですが、国軍と集団的自衛権を明記していました。前文も日本の歴史を滔々と語る名文です。未来を担う若い世代にこういう意識が根付いているのは、心強いですね。
元谷 若い世代で保守化傾向が進んでいます。靖国神社に行っても、若い人が多いですね。
 

原発事故によって日本は「使命」を負った

松田 自主憲法を考える際には、日本がどういう国を目指すのかを明確にしなければなりません。これは戦後の日本人がすっかり忘れていたことです。正に今、日本にはこの点が問われており、自主憲法制定を国民運動として盛り上げていきたいと考えています。また安倍政権と我々では目指す方向は同じです。じゃ一緒に…という方もいるかもしれませんが、政権与党ではできないことがあります。先日、次世代の党の議員六人でフィリピンを訪問し、当地の国会議員と「海洋における法の支配を推進するための協力に関する共同文書」に署名してきました。これは両国の国会議員が超国家議連を結成し、国際法秩序を守るべく行動するという内容です。もちろん中国の無法な海洋進出に対抗するために行ったことなのですが。
元谷 それは大きな成果です。
松田フィリピンの国会議員の本音は、東アジアの安全保障に関して、日本にリーダーシップを発揮して欲しいのです。今、フィリピンからの米軍撤退の隙をついて中国が進出してきている。日本政府は表立っては動けませんが、国会議員なら動けます。次世代の党主導でこの活動をフィリピンだけではなく、東アジア全域に広げていきたいと考えています。
元谷 期待しています。現状認識として必要なのは、アメリカが国防費を十年間で五十兆円減らそうとしていることです。毎年五兆円ということは、日本の年間国防予算とほぼ同額を、毎年減らしていくことになります。この達成のためには、海外に派遣している軍隊を撤退させなければなりません。沖縄の海兵隊のグアムへの移転もその一環です。一方、中国の国防費は、依然として二桁%の伸びを示しています。
松田この現状の中で日本はどうするのかということが問われています。
元谷 その通りです。日本の防衛費はGDPの一%以内という枠がありますが、GDPが増えていないので、この枠も増えない。この二十年で世界のGDPは二・七倍になっていますから、同じように日本の経済が発展していれば、防衛費を二倍以上にすることができたのです。この間の二十六年で中国は防衛費を四十倍にもしています。田母神俊雄さんにも話をしたのですが、日本は軍事大国を目指さなくても、経済大国となることで精強な軍隊を持つことができる。持ったからといって、軍事国家となって、周辺国を侵略するなどということは、今の政治体制ではあり得ないことです。
松田フィリピンの国防費もGDPの一%なのですが、これを倍にしても日本の防衛費の十分の一です。まず経済規模の拡大が必要なのです。
元谷 ただ気をつけなければならないのは、この二十年間GDPが伸びなかった原因は、アメリカにあるということです。血と汗と金を使ってアメリカはようやく冷戦に勝利したのですが、その見返りが何もない。一方冷戦漁夫の利で日本は経済繁栄を謳歌していた。ではその富を返してもらおうということで、冷戦後、アメリカは日本を経済的な仮想敵国としたのです。また豊富な先端技術を持つ日本の潜在能力には、凄まじいものがあります。これをアメリカは怖がっています。
松田しかし日本国民が冷戦後の状況の変化を理解していません。
元谷 そうです。もっと啓蒙しないと。
松田 私は「国力倍増論?もう大丈夫といわれる国にしたい?」という本をこの八月に出しました。この本の中で、自分の強さを自覚して、それを伸ばしていくことが成長戦略には一番重要であり、日本の一番の強さは、世界一の課題解決力だと書きました。
元谷 それは私も同感です。例えば、自動車の排気ガス対策でも、厳しい規制をきちんと技術でクリアしてきました。原発も同じです。元々世界一の技術水準だった日本の原発は、福島の事故を経てさらに安全になりました。
松田 日本維新の会はトルコとの原子力協定に反対の姿勢をとりましたが、私は賛成すべきと主張しました。党内の議論で欠けていたのは、世界に対する使命です。世界一の技術を持つ日本が事故を起こした以上、世界の原発の安全性の向上に徹底的に貢献する「使命」が生まれたのです。そのためには、原発を稼働して、技術を維持しなければならない。トリウム原発など、安全な原発技術もどんどん登場しています。トリウム原発はメルトダウンが起こりにくく、非常に安全です。これを世界に先駆けて、日本が実用化すべきです。
元谷 私も同感です。
 

日本の指導者層には大局的な世界観がない

松田 ウクライナ問題ですが、日本の安全保障にも大きな影響があります。これをきっかけに中国とロシアが手を結んだら、大変なことになるという議論についてはどう思いますか。
元谷 直接国境を接している中国とロシアですから、接近しても仲良くなりすぎることはありません。逆に日本は、中国包囲網にロシアを加えようとしています。今回のウクライナの件はロシアが一方的に悪者になっていますが、私の見立ては異なります。バルト三国も加盟するなど、NATO(北大西洋条約機構)は東ヨーロッパにも大きく勢力を広げてきました。隣国ウクライナはロシアにとって、対NATOの重要な緩衝地帯だったのですが、親ロシア派のヤヌコビッチ大統領が西欧側の支援を受けたデモで追い出されてしまった。ウクライナまでNATOに加入するのではと、ロシアのプーチン大統領は強い危機感を抱き、それが一連の行動を引き起こしたのです。私は西欧側の行き過ぎた謀略が、このウクライナ騒動の原因だと思います。
松田 代表の見立ては説得力があります。こういった独自の情報分析を基に、日本もしたたかな外交を行う必要があります。す。
元谷 問題は日本の指導層に世界観が欠けていることです。偏差値教育によるデジタル記憶勝者が、日本の場合エリートとして君臨しています。
松田 大学受験で良い点を取るためには、難しい問題から手を付けては駄目なのです。やさしい問題から始めて点を確保するのが常道。しかしその癖が付いた人間ばかりが偉くなると、一番重要な問題を先送りしてしまい、問題がさらに膨らんでいくのです。次世代の党は、ストレートに一番難しい問題に答えを出そうとしています。
元谷 国会議員たるもの、国家の骨格に関わる困難な課題に道筋を作るのが仕事です。しかし市会議員と同じ範囲のことしか考えていない国会議員が多過ぎます。
松田 私は三十年近く財務省で仕事をした他、いろいろなことを経験した上で国会議員になりましたから、それなりの知識や経験・ネットワークもあります。すぐに政策も立案できます。国家公務員でも、辞めて若い内から選挙に出る人もいますが、知識や経験が不足しています。しかし一旦国会議員になると、その地位を守るための活動で精一杯で、しかも落選のリスクと常に向き合わなければなりませんから、優れた人材が参入しにくい世界になっています。
元谷 選挙に勝つテクニックばかりを覚えたり、支持層を積み上げることに終始したり。行き着く先は世襲制です。実際、二世や三世の議員ばかりじゃないですか。
松田 私は二世ではありません。二十九年もキャリアを積んだ財務官僚が、辞めて選挙に出ることは最近ではあまりないことだと思います。でも私はこれに賭けました。上手くいけば私に続く人も出てくると考えました。
元谷 国益よりも省益で、生涯面倒を見るのが官僚の世界です。その道を捨てたのは立派です。
松田 財務省でも最後の頃は、組織防衛の仕事が大半だったのは残念なことです。
元谷 官僚機構も政治の仕組みも一旦ご破算にして、もっと効率の良い仕組みを考えないと。
松田 志の高い人にとってもっと魅力的な仕組みにしなければなりません。
 

オーナー企業の悪評は上場企業のプロパガンダ

元谷 現在の日本の状況の責任は、メディアにもあります。朝日新聞は、嘘とわかっていながら慰安婦の強制連行について二十年間も訂正をしませんでした。その結果が今の日韓関係となり、日本は世界中から慰安婦問題で責められています。もう一つ、アメリカが終戦直後に作ったプレスコードを、今でもメディアが自主規制として守り、記事の談合を繰り返しています。朝日新聞社長をはじめ、メディア関係者を国会に呼んで追及するべきでしょう。
松田 そうです。併せて河野談話も見直すべきで、次世代の党幹事長の山田宏は、衆院予算委員会で河野談話の検証を実現させました。私たちは政権与党の前を行く政党です。朝日の誤報が白日の下に晒されて、自民党もさすがに本腰を入れ始めました。
元谷 こういう主張をしていると、事業に差し支えませんかと言われます。私はそういう問題ではない、日本が良くなるためだと答えます。ただサラリーマン社長には、こんなリスクは取れません。創業オーナー社長でも、私が夕刊フジのインタビューに答えて「謝罪するまで広告は出さない」と言ったように朝日新聞と表立って戦争が出来る人は、なかなかいないと思いますよ(笑)。
松田 (笑)そうですよ。しかし戦後創業者も多かった日本の財界は、すっかりサラリーマン社長ばかりになりました。見事に社会主義化された感があります。オーナー資本家が日本にいないから、日本経済に活力が生まれないのです。
元谷 ワンマン経営だの○○商店だのと、上場企業がオーナー企業の悪い点を宣伝してきたからでしょう。しかしリスクに強いのはオーナー企業です。投入している資金も自分のものですから、馬鹿な使い方はしない。任期の決まっているサラリーマン社長は、在任中に美味しい思いをして、問題は先送りです。上場企業が偉くて、そうじゃないところは…という意識は、おかしいですよ。 松田 その通り。欧米では代々財産を引き継ぐオーナーだからこそ、信用されて、そのネットワークの間で優れた情報が共有されるということがあります。
元谷 しかし日本では家督相続が戦後無くなりました。これもアメリカの陰謀です。日本の強みは結束力でしたが、この基礎となっていたのが大家族主義です。占領中にアメリカは、平等相続制度によって、日本のこの強みを徹底的に潰したのです。
松田 確かに。財務省時代、私は大学に教授として出向して、日本の経済史を教えていました。戦前戦後の日本経済を徹底的に勉強したのですが、明治末から大正の頃の経済システムは非常にアメリカ的だったのです。オーナー資本家が多数いて、資金調達は株式で行い、人材も流動的で人々はどんどん勤め先を変えていました。これが戦争中に統制経済に変わり、そのまま戦後の日本は社会主義的な経済制度の中で成長してきたのです。戦後の日本経済はかなり異常です。安倍さんが「日本を、取り戻す」と言っても、どの日本を取り戻すのかが問題なのです。日本らしい日本を、皆で考えて新しく作っていくべきでしょう。
元谷 その日本の骨格を次世代の党でぜひ。
松田 わかりました。私は最近「日本新秩序」を提唱しています。西洋文明によって、人間は地球にとってがん細胞のような存在になってしまいました。これに対して、日本の自然との共生、調和の精神を地球上に広めることが、日本の世界貢献だという考えです。
元谷 確かに文明の発達をグラフにすると、数十万年前からほとんど変わらずに推移してきたのに、この数千年前から変わり始めてこの数百年で急激に変化しています。このままでは、あと百年ももたないでしょう。世界の人口は増え続けていますが、誰もが将来に亘って今の日本人のような暮らしができるような資源は地球にはありません。またPM二・五のような環境悪化の問題もあります。地球人口を適正なレベルに保つ必要があるでしょう。
松田 仰る通りです。西洋文明は、エネルギーにしても石油や石炭などの「ストック」を消費します。しかし地球のエネルギーの源泉は全て太陽にあり、それがいろいろな形に変化しているのです。その変化の過程の「フロー」の状態のエネルギーをいかに使うか、そこに循環型の社会に向けた課題があります。
元谷 ただ当面はストックに頼らざるを得ないが、その中でも効率の良い原発は利用すべきです。
松田 究極のエネルギー体系の構築に向けて、まさに「日出国」(ひいずるくに)の日本は世界を先導すべきですが、それまでの間は人類社会は原発に頼らざるを得ない。日本は原発の安全イノベーションで貢献する国になるべきです。
元谷 原発に関しても、日本に原発市場を占拠されたくないアメリカ・フランス・中国等の核保有国の謀略戦に躍らされて不安を煽るメディアによって多くの人が反対しているために、再稼働が遅れています。メディアをもっとコントロールできるような、強いチェック機構が必要ではないでしょうか。彼らは権力の暴走を防ぐためだというのですが、そのためには何をやってもいいのかと感じます。
松田 欧米では盛んなメディア・リテラシー教育が日本では全く行われていません。メディアの報道を鵜呑みにするのではなく、一人ひとりが自分の頭で考える。それが真の「自立」です。教育もそれを目的にしなければ。私の妻はウィーンを中心に活動するピアニストなのですが、中学生時代、パリでレッスンを受けていました。日本では完璧に楽譜通りに弾くことが評価されますが、それでは見向きもされず、演奏に自分なりの音楽があるかどうかということで評価されたそうです。「主張がないものは見る価値がない」、それがヨーロッパの教育です。
元谷 日本の教育も記憶力重視から改めるべきでしょう。しかし日本には高い技術力があります。現状では防衛予算年間五兆円は、ミサイル防衛システムなど、アメリカからの防御用の兵器に多くが使われています。しかし同じお金であれば、技術力を活かして攻撃用兵器を作れば、遥かに抑止力が増すのです。二十世紀の技術である原爆を持つ必要はありません。例えば、国際宇宙ステーションに毎年物資を運んでいる補給機「こうのとり」のような、高い宇宙技術も日本は持っています。衛星軌道から爆薬も積んでいない、先端をセラミックで覆ったタングステンの弾丸を地上のターゲットにピンポイントで打ち出せば、地上では小型原爆ほどの破壊力があるのです。
松田 それだけで相当な抑止力になりますね。今、次世代の党では、戦後七十周年に三十年先のビジョンを示すということで、来年発表する二〇四五年の構想を描いているところです。代表のそのお話も、戦争なき未来への物語として盛り込んでみたいですね。
元谷 日本人が誇りを持てるような構想をぜひ作ってください。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
松田 若い人が希望や夢を持てない時代だといわれています。次世代の党は、日本の良さを追求していくことで、この国に希望と夢を創っていきます。そのような未来を原点に日本の政治を組み立て直す。若い人にも一緒に考えていって欲しいですね。
元谷 わかりました。今日はありがとうございました。

松田 学氏
衆議院議員

対談日:2014年9月5日