Big Talk

対談は問題解決の最善策

今年一月に安倍首相が歴代首相として初めて訪問。FIFAワールドカップで対戦したこともあって、日本でも注目を集め始めたコートジボワール。ココア生産世界一の農業国に加えて、石油や天然ガスなどの資源国になろうとしているコートジボワールの駐日大使であるジェローム・クロー・ウェア氏に、国の展望をお聞きしました。

安倍首相のコートジボワール訪問は二国間の可能性を重視したからだ
ワールドカップでの対戦によりコートジボワールの日本における知名度がさらに向上

元谷 本日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。先日は勝兵塾でも講演をしていただいたのですが、非常にわかりやすく好評でした。今日はさらにコートジボワールのことをお話いただければと思っています。
ウェア よろしくお願いいたします。
元谷 五年前の二〇〇九年九月に、ウェアさんの前任の大使、ボア・リリアン・マリー・ロールさんと対談をさせていただきました。その時に独立以来の政治的危機がありましたが、現在はすっかり安定した状態が続いているというお話をお伺いしました。日本ではなかなか詳しく知る人のいないコートジボワールですが、かつての名称「象牙海岸」というと、聞き覚えがある人が多いようです。ボア前大使には、十五世紀、西欧列強が進出してきた時に、交易していた商品が象牙だったと教えていただきました。また今年のFIFAワールドカップ・ブラジル大会で、日本代表がグループリーグの初戦でコートジボワール代表と対戦したことから、お国の日本での知名度がかなり上がったと思います。惜しくも日本が敗れましたが、素晴らしい試合でした。
ウェア 私も良い試合だったと思います。サッカーの国際試合で対戦する際に私が最も大切だと考えているのは、勝負の行方ではなく、お互いに相手の国のことを知ることです。今回のワールドカップの対戦は、日本とコートジボワールの国際交流を築くのに、重要な役割を果たしたと思います。さらに、「Ivory Coast」とは、フランス語の「コートジボワール」を英語に翻訳した名称である点に注目していただきたいです。「コートジボワール」は「象牙海岸」を意味します。我が国の政府は「コートジボワール」という名称を外国語に翻訳するべきではないと判断しました。だから、「コートジボワール」という名称のみを使っているのです。国民のことは「Ivorian」といいます。
元谷 しかし人口約二千二百万人と日本の六分の一なのに、コートジボワールはあのような素晴らしいチームを作り上げてきました。何か選手強化の秘密でもあるのでしょうか?
ウェア 特に秘密があるわけではありません(笑)。個人的に能力が優れた選手を集めることができたことが、一番大きいでしょう。たしかに人口は少ないですが、サッカー人口は日本よりもコートジボワールの方が明らかに多いですから、良い選手も集まりやすくなっています。コートジボワール代表の課題は、個人としては優秀なのですが、まだまだチームとしては弱いというところでしょう。
元谷 なるほど。また今年の一月に安倍首相が、歴代首相として初めて、コートジボワール訪問を行いました。これはコートジボワールと日本との関係に、大きな可能性があると考えている証だと思います。
ウェア 我が国のワタラ大統領と安倍首相は、昨年横浜で開催されたTICADⅤ(第五回アフリカ開発会議)でも顔を合わせ、それを踏まえての一月の会談になりました。ここでは二国間の強い絆が改めて確認されました。首脳会談後に出された共同声明でも、これは色濃く反映されています。さらにワタラ大統領が議長を務めるECOWAS(西アフリカ諸国経済共同体)十五カ国のうち十一カ国の首脳が集まり、日本の支援も受けながら、いかにこの地域の未来を構築するかを話し合いました。この会合では西アフリカ側が、安倍首相の「積極的平和主義」への支持も表明しています。
元谷 それは素晴らしいことです。共同声明を見ると、警察能力強化など平和と安定のためとして、日本がコートジボワールに七百七十万ドルの支援を行うことの他に、経済面での連携が強調されています。これは政治的危機から復活して高い経済成長を実現しているコートジボワールへの期待からだと思うのですが。
ウェア その通りだと思います。実際我が国の経済成長率は、二〇一二年は九・八%、二〇一三年は八・七%、そして二〇一四年には一〇%を超えると見込んでいて、高い水準を維持しています。経済成長の大きな原動力の一端を担っているのが、日本企業の進出です。数々の苦難を乗り越えてきた日本の状況がコートジボワールと似ているのです。
 

世界一のココアの産地これからは資源大国に

元谷 共同声明の中でも、コートジボワールへの日本企業の投資に対する支援を明確に打ち出しています。ボア前大使にもお聞きしたのですが、経済成長におけるこれまでの基幹産業はコーヒーとココアの生産など、農業だったそうですね。それが今や鉱物資源採掘も経済成長の基幹産業となりつつあるように思えます。
ウェア はい、そうです。コートジボワールは世界一のココア生産国として知られていますが、農業としては他にコーヒーやカシューナッツ、天然ゴム、パームオイルも生産しています。さらに近年は、石油や天然ガス、金、銅、ダイヤ、鉄、ウラニウム、ボーキサイト、コバルトなどの鉱物資源の産出量も増えています。私達はこれら未開発の天然資源の採掘のために海外資本の誘致に注力していきました。日本の企業はここに目をつけて、進出してきているのです。
元谷 農業から鉱業へ主力産業が転換してきているということですね。エネルギーの輸入国である日本は、石油の中東依存の高さをリスクと考えていて、これを回避するために輸入先を増やそうとしています。コートジボワールが石油や天然ガスの産出量を増やせば、日本がどんどん輸入することができます。日本の資源の探査・採掘技術は非常に優れていますから、コートジボワールの役に立てることがきっとあるはずです。
ウェア 「転換」というよりは、農業も鉱業もどちらも伸ばしていきたいというのが、正直なところです。コーヒーやココアの輸出も増やしていきたいのです。
元谷 それが一番いいですね。どんな日本企業がこれまでに投資を行っていますか?
ウェア 味の素、伊藤忠商事、三菱商事といった日本企業からはすでに投資を受けていますし、三井物産をはじめとする他の企業も投資に意欲的です。
元谷 それは知りませんでした。
ウェア 先日三井物産の幹部とこの件について話をする機会がありました。また、私も日本との経済連携を強化するために、経済産業省の石黒憲彦経済産業審議官にお会いし、健康や福祉、教育などの引き続きの支援を要請しました。日本など多くの海外からの企業の進出を誘致していますが、まだまだインフラの整備が進んでいません。特に必要なのがホテルです。元谷代表に、ぜひホテル経営のノウハウを教えて欲しいと考えています。
元谷 ぜひそういう機会を作りたいですね。
ウェア 一九六〇年にフランスから独立した時から、コートジボワールは日本を国家建設の見本だと考えてきました。独立してすぐに日本と国交を結び、一九六六年には日本の在コートジボワール大使が任命されていました。当時のボワニ大統領は、日本大使公邸として、最大の都市・アビジャンの一等地を提供したのですよ。日本とコートジボワールの親密な関係には、五十年以上の歴史があるのです。
元谷 以前、ボア前大使からも同様のことをお聞きしました。一九六〇~七〇年代の経済成長は、コートジボワールの奇跡と呼ばれましたね。
ウェア はい。しかし一九九三年にボワニ大統領が亡くなった後、一九九九~二〇一〇には政治的危機に見舞われました。今のワタラ大統領が二〇一〇年に就任、ようやく安定を取り戻し、経済の再興を進めることができるようになりました。

交通機関は時間を、人々は約束を守る日本では思った通りに事が進む
世界一の大聖堂や大都会観光地としても期待

元谷 国情が安定、経済も成長となると、次は人の交流が大切になります。観光などで訪れる場合に一番気になるのは、まず気候なのですが、どうなのでしょうか?
ウェア もちろん平均気温は高いですが、コートジボワール南部にある長さ五百五十キロメートルに広がる美しい砂浜を通過する大西洋からの海風で暑さは緩和されています。特に問題となる病気の心配もありません。まず代表に一度来ていただきたいですね。私の日本人の秘書も、大使館の勤務を始めた時にはコートジボワール未体験でした。その後訪れる機会があったのですが、思っていた国とは全く異なっていたと言っています。
元谷 私は世界七十八カ国を訪問しているのですが、コートジボワールにはまだ行っていません。早めに機会を作って訪れたいと思うのですが…。法律上の首都であるヤムスクロにある「平和の聖母聖堂」は世界最大の聖堂だと聞いています。これはいつ完成したのですか?
ウェア 一九八九年です。一九六〇年にコートジボワールが独立した時の大統領で、その後三十三年間その座を維持したボワニ大統領が私費を投じて建設しました。実質的な首都のアビジャンはフランスの首都になぞらえて「小さなパリ」、あるいは「ラグーンの真珠」とも呼ばれる大都会です。ここでは、西アフリカならではのグルメやショッピングを楽しむことができます。
元谷 その二箇所は、ぜひ行ってみたいですね。日本からコートジボワールを訪問する場合は、どのようなルートがありますか?
ウェア フランスのパリを経由するのが一番楽なのではないでしょうか。それ以外にも、エミレーツ航空を利用してドバイを経由する方法があります。
元谷 ウェアさんのことを少しお聞きしたいのですが、どのような経歴をお持ちなのでしょうか?
ウェア 元々法律が専門で、コートジボワール、ラバト、ローマ、ジュネーブ、パリなどで学んだり、勤務したりしてきました。学校では日本の歴史についても学びました。江戸時代の日本に興味が湧きましたね。名古屋を訪問した時に徳川美術館を訪れるなど、侍や将軍など江戸時代に関連する施設などを見学するのが大好きです。
元谷 来日して二年十カ月になると思うのですが、大使の日本の印象はいかがでしょうか?
ウェア 非常に治安が良い国だと思います。列車などは必ず時刻通りに来ますし、人々は必ず約束を守ります。何をするにしても、思った通りにできるのが素晴らしいですね。
元谷 私も全く同感です。
 

韓国が主張する従軍慰安婦問題についてメディアが本当のことを伝えない
新旧がミックスした日本若者も古きを知る努力を

元谷 ウェアさんをはじめとして、日本を高く評価する人が多いにも拘わらず、日本は韓国や中国から非難されています。世界中どこでも隣り合った国は仲が悪いと言いますが…。特に従軍慰安婦については、韓国が主張する二十万人が強制的に連行されて性奴隷にさせられたというのは、全くの虚構です。根拠がないことで責められているのに、日本がきちんと反論しなかったために、世界中で本当のことだと思われています。ウェアさんは日本に来られて、多くの日本人と会ってこられたと思うのですが、従軍慰安婦に関する韓国の主張は正しいと思われますか?
ウェア 日本に来てから、この問題に関する数多くの文書を読みました。率直に言って、双方それぞれに言い分がある問題のように感じています。
元谷 しかし韓国側の主張には証拠がありません。逆にそれを否定する証拠はあるのに、ずっと主張を続けるのです。ウェアさんには、さらに様々な資料を読んでいただいて、慰安婦の実態がどのようなものだったかを知って欲しいのです。言い分があるのは確かなのですが、果たして妥当な根拠があるのかないのかを、ぜひ見極めていただきたい。世界各地で日本はODA(政府開発援助)を行っているにも拘わらず、いわれなき批判に晒されているのです。だからこのようなお話をさせていただいています。ご理解ください。
ウェア メディアが本当のことをなかなか伝えないことは、私もわかっています。両国が会談を行って双方の主張を調和していただきたいです。私もさらに勉強していくつもりです。
元谷 ぜひ読んでいただきたいのが、Apple Town七月号に掲載している、私と「テキサス親父」と呼ばれているトニー・マラーノさんとの対談です。英訳されていますから、ウェアさんもお読みになれると思います。中で、マラーノさんがワシントンのアメリカ公文書館から入手してホームページに掲載している、アメリカ軍が一九四四年に捕虜として保護した朝鮮人慰安婦に行った尋問の調書について触れています。この調書を読む限り、彼女達は結構自由で高給をもらっていてあくまでも戦時売春婦であって、性奴隷ではありません。このような証拠を示して、日本人はもっと主張をすべきなのですが、これまでは行ってこなかったのです。
ウェア 私は、話し合いをすることが問題を解決するにあたって一番の方法であると思います。代表が多くの方と対談しているというのは、本当に重要な活動だと思います。
元谷 ありがとうございます。最後にいつも「若い人に一言」をお伺いしているのですが。
ウェア 日本の強みというのは、文化にせよ風習にせよ、古いことと新しいことが混在していることです。今の日本に詳しい若者が、日本の歴史や伝統的な文化を学べば、もっと日本は強く魅力的な国になるはずです。
元谷 おっしゃる通りです。日本は本来誇れる国であるはずなのに、それを教えられていないから、自信が持てない。本当の歴史を知れば、もっと誇らしい気持ちになって、国を良くしていってくれるはずです。
ウェア 全く同感です。本当に代表、近いうちにコートジボワールに来てください。
元谷 わかりました。今日はありがとうございました。
 

ジェローム・クロー・ウェア氏
コートジボワール共和国大使館 駐日特命全権大使

対談日:2014年7月31日