元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。
秋葉 こちらこそ選挙前のちょうど良いタイミングでお呼びいただき、ありがとうございます。
元谷 そもそものご縁は、秋葉さんがホテル専務の大学の先輩にあたることからですね。
秋葉 そうです。私も専務も中央大学のOBなのです。中央大学出身者の経済人の会があり、私もゲストとして出席させていただいて、専務とお知り合いになりました。それから先日、代表邸でのワインの会にも呼んでいただいて。
元谷 私は多くの国会議員と話をしてきましたが、秋葉さんの歯に衣着せぬところが他の方とは違い、大変気に入っています。私に似ているのです(笑)。勝兵塾でも良い話をしてもらいました。秋葉さんは私が非常に期待している政治家ですので、今日はいろいろなことをお聞きしたいと思っています。
秋葉 よろしくお願いします。
元谷 一度エッセイにも書いたのですが、民主党が政権をとれたのは、元官僚と松下政経塾出身者がオブラートとなって党の本質を覆い隠したからです。この二者がいるから、民主党に政権を担当させても、酷いことにはならないだろうと国民が思ってしまった。国民を騙した松下政経塾出身者の罪は重いですよ。あ、秋葉さんは政経塾出身でも自民党ですからいいのですが(笑)。
秋葉 恐縮です(笑)。
元谷 しかし政権交代直前の自民党政権も酷かった。麻生元首相は私が主催する「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀賞を獲得した論文を理由に、航空幕僚長の田母神俊雄氏を更迭してしまったのです。この辺りから世の中がおかしくなってきて、民主党政権の誕生となったのですが、その三年三カ月があまりにも稚拙な政治判断の連続だったので、再び自民党政権となったのです。ただ民主党政権がなければ、自民党の凡庸な首相が続いて、今のような新生自民党は誕生しなかったでしょうね。
秋葉 それはそうかもしれませんね。
元谷 韓国の李明博大統領が竹島に上陸したり天皇陛下を侮辱するような言葉を吐いたり、ロシアのメドベージェフ大統領が北方領土に上陸したり、中国の漁船が日本の海上保安庁の巡視船に体当たりしたり。全て民主党政権下で起こったことです。これらへの対応の不手際が原因で自民党が再登板、安倍政権の誕生へと繋がっていったのです。秋葉さんも今や厚生労働副大臣と復興副大臣を兼任されています。大いに期待していますよ。
秋葉 ありがとうございます。しかしいつも代表の直球勝負のご提言には驚かされます。最近のアップルタウンでも、憲法改正を争点に衆参同時選挙を行えとお書きになっていました。安倍首相もこのアップルタウンが出る七月上旬までには、ご決心がついているはずです。先日ワインの会にお招きいただいた時に代表から初めて衆参同時選挙のお話をお聞きし、それはあり得る話だと思い安倍首相ご本人にもお聞きしたのです。「絶対にやらない」とおっしゃていましたが。
元谷 首相は衆議院解散と金利については嘘を言ってもいいのですから。しかし秋葉さん、では衆議院の解散をいつやるんですか。今でしょ(笑)。
秋葉 (笑)六月二十四日を過ぎると〇増五減の区割り法案が参院で否決でも衆院で再可決されますので、理論上六月中旬には衆院の解散は可能です。解散するとなると、国会会期中の二十六日までになるでしょう。会期中でないと解散できないわけではないのですが、普通はそれがルールとなっています。参院選は七月四日公示、二十一日投票という見通しです。
元谷 私は安倍首相が、例え参議院で店晒しになっても参院選までには衆院で再可決されるよう、時期にこだわって区割り法案を出したとみています。一連の「一票の格差」訴訟の最高裁での判決がこの秋に出るはずです。たぶん昨年十二月の選挙は違憲となるでしょう。今のままの衆議院では、何を決めても後々訴訟を起こされて、違憲だと判断されかねない。違憲状態を回避するという「錦の御旗」があるのですから、必ず衆議院は解散、衆参同時選挙になるはずです。
秋葉 そのお話には説得力があります。確かに衆参同時選挙をやれば、単独政権も夢ではありません。しかし先の総選挙からまだ半年です。衆院では三分の二の議席を持っているので、これ以上は不要…という意識もあります。
元谷 衆参同時選挙のもう一つ大事な目的は、憲法改正に反対する公明党との連立解消です。私は安倍首相が官房長官の時からこの事を言い続けています。この公明党との連立によって自民党は左傾化して、どんどん駄目になっていったのです。公明党のお陰で自民党は五十議席を獲得しているという話もあるのですが、それは過去のこと。思い切って連立を断ち切って単独政権になれば、もっと自民党は支持を得ることができますよ。
秋葉 そうしたご助言をいただくことはありますが、一方で、公明党とも十年を超える信頼関係があります。
元谷 憲法改正を前面に出せば、必ず選挙で勝てます。細かい事を争点にはせず、とにかく憲法改正のみ。自民党内でも改憲に反対する人には刺客を送るというほどのシビアさで、選挙に臨むのです。
秋葉 小泉さんの郵政選挙のようですね。
元谷 六年前の参院選の時も、私は安倍首相に参院の過半数割れを回避するために衆参同時選挙を進言したのですが、小泉郵政選挙で当選して任期半ばの議員の生首は切れないということで、見送られました。しかし今回は違憲という錦の御旗があるのですから。
秋葉 六年前の第一次安倍政権の時は後期高齢者医療制度や年金問題で自民党の支持率が低下、逆風が吹きまくっていましたから、同時選挙という判断は難しかったのではないでしょうか。
元谷 逆風があるから負けるとは限りません。要は戦い方です。二〇〇五年の小泉郵政選挙の時には、森さんが小泉さんを翻意させようとして「干からびたチーズ」談判を行うなど、多くの自民党員が解散に反対でした。誰もが保守分裂で自民党は政権を失うと考えていたのですが、私は逆に自民大勝を予想したのです。それは小泉さんが、郵政民営化賛成か反対かと争点を非常にシンプルにしたからです。蓋を開けたら私が言った通りの結果になりました。
秋葉 結果は確かに代表のおっしゃる通りになりましたが、少なくともあの時の解散時には負け戦の観が強かったのは事実です。
元谷 郵政民営化反対の候補者には刺客を送るという強い決意が大勝を呼び込んだのです。今回も改憲反対の議員には刺客を送るべき。例えば小泉進次郎議員などは、隠れ護憲派です。この間も新聞のインタビューで、参院選の争点は改憲よりも東日本大震災の復興などと言っています。はっきりとは言いませんが、彼は護憲派なのです。その彼に刺客を送ればインパクトは凄い。いい戦法かもしれません。
秋葉 小泉元首相はもちろん改憲派でしたが、進次郎代議士も改憲派だと思いますが…。
元谷 そもそもこういう小泉進次郎氏の新聞記事は、自民党にとってマイナスです。とにかく自民党内の護憲勢力がネック。党是が改憲なのに、隠れ護憲派がいっぱいいますから。これを何とか炙り出さないと。
秋葉 代表、お話は良く分かるのですが、安倍首相がそこまで決断されるかが疑問です。
元谷 馳浩議員も最初に私の衆参同時選挙説を聞いた時は「終わったばっかりなのに。お金がありません!」と言っていました。ところが今は地元の石川県では、参院選候補と並べて同じ顔の大きさの馳氏のポスターが張ってあったりします。金沢で行われた勝兵塾では、馳氏が自ら衆参同時選挙について語っていましたよ。どうも動きがおかしい。安倍首相がかつて所属、馳氏が今所属する町村派の議員には、内々に選挙準備司令が出ているのかもしれません。
秋葉 私は無派閥ですので…(笑)。
元谷 他のとある影響力のある人からも、準備しておくべきと聞きました。
秋葉 そうですか。だんだんリアルに思えてきました。
元谷 しかし日本維新の会などは候補者が立てられないでしょう。供託金を没収される可能性が高いために、資金が集まらないですから。自民党、共産党、公明党、民主党には軍資金がきちんとある。資金豊富な自民党などは、末端まで良い候補を揃えることができるのではないでしょうか。次の選挙後は秋葉さんにはぜひ大臣を目指してもらいたいですね。
秋葉 ご期待をいただき本当にありがとうございます。私も県会議員から国会議員と長く政治に携わっていますが、今のように自民党が三〇%以上の支持を得ているのを見るのは初めてです。こうした高い支持率が維持できるようにしっかりと実績をあげて参ります。
元谷 維新の会は選挙をしたくないでしょうね。とにかく自民党の一人勝ち、一強全弱という状況です。
秋葉 私は単に自分の政党だから自民党政権に長続きして欲しいのではなく、世界的に低下した日本のプレゼンスを回復させる最後のチャンスが、今回の安倍政権なのだと考えています。ここでデフレから脱却しないと、日本は二度と立ち上がれなくなります。そういう危機感がありますよ。そのためにも、衆参のネジレを解消して、衆参ともに単独でも過半数になるのは、確かに理想の姿です。
元谷 他の国でトップの指導者が一年ごとに変わるなどということはあり得ません。政策の継続性が失われてしまいますから。
秋葉 その通りです。サミットなどでも他の首脳は「久しぶり」で挨拶が始まるのに、日本の首脳だけが、いつも「初めまして」ですから。これでは迫力ある外交はできません。
元谷 ただ第一次安倍政権が長続きしなかったのはアメリカの意志です。安倍首相が目指した「戦後レジームからの脱却」は、すなわちアメリカからの独立を意味します。そしてアメリカと日本の官僚勢力は結託していますから、あまりにも抵抗勢力が強力過ぎ、それに対する安倍首相の認識も甘かった。だから退陣に追い込まれたのです。しかしその後の五年間で安倍首相は大きく変わりました。ある意味狡猾に政権運営を進めています。
秋葉 はい、そこは非常に慎重に進めています。それから外交に関しては国会のルールの見直しが必要です。首相が国会に縛られすぎなのです。イギリスでもドイツでも首相が国会に拘束されるのは、年間一カ月もありません。しかし日本の場合は国会の百五十日の会期中、土日祝を除いて、首相は基本ずっと国会にいなければならないのです。大臣も同様です。大臣が出るべき国際会議に、止む無く副大臣が出ることが多いのですが、やはり格下になってしまう。海外とのお付き合いにはカウンターパートが重要であり、大臣には大臣で対応しないと。国会の会期が終了すると、とたんに外遊が多くなるのはこうした理由があるからなのです。
元谷 大臣が自由に外遊できるためにも、圧倒的多数による単独政権が大事です。次の選挙では必ず達成できますよ。
秋葉 私もそう期待しています。
元谷 発議に必要な両院三分の二の賛成を得たとして、さらに憲法改正の壁になるのは国民投票です。メディアは必死に煽って改正を阻止しようとするでしょう。今でもアベノミクスの光と影などと称して、輸出業者は喜んでいる一方、輸入業者は苦しんでいるとか一面的な報道を繰り返しているのです。なんとか一大国民運動を起こして、国民投票で勝利しなければなりません。
秋葉 先進国の中で日本だけが第二次大戦後、ただの一度も憲法の見直しが行われていません。これはむしろ異常なことです。時代の変化に応じて、柔軟に見直してより優れた憲法の中身にしていかなければなりません。
元谷 その通りです。憲法改正によって国防軍を作り日本は強くなる。そうすれば日本の諸外国や国連への発言権がぐんと強くなるのです。その前段階として、安倍首相になって尖閣諸島問題は収束に向かっています。五月に接続水域を潜航する潜水艦について安倍首相は敢えて国籍を伏せて言及しましたが、中国の潜水艦を含む艦船の位置は、日本はアメリカとの連携で全て押さえています。制海権も制空権も今は日本が握っていて、それを中国も知っています。負ける戦争を始める人はいません。日本が優位なことを知っていますから、中国人民解放軍は絶対に攻めて来ません。このことをわかっていない日本のメディアが、むやみに脅威論を叫び続けるのです。
秋葉 確かにそうした傾向がありますね。
元谷 戦争は力のバランスが崩れた時に発生します。日本は撤退していくアメリカと膨張する中国の中で、巧みにパワーバランスをとっていくべきなのです。そのためにも「国防軍」は必要です。独立した軍隊を持たない国は、独立国ではありませんから。そのための憲法改正なのです。また日本国憲法と日米安保がセットになっていることも、ちゃんと認識しておくべきです。日米安保は「瓶の蓋」と称されるように、日本の軍備増強を抑えるものなのです。従って日本が真に独立国家になるためには、日米同盟を日英同盟同様対等互恵のものにしなければならない。アメリカに独立を認めさせながら良い関係を維持し、日米が対等互恵になる…これには大変な労力と時間が必要になるでしょう。
秋葉 まさしくそうあるべきで、政治家はもっとあるべき姿や理想の旗を高く掲げなければいけませんね。
元谷 日英同盟は、イギリスが日本に東アジアにおける英国の番犬になって欲しかったから成立したのです。今、中国が太平洋に進出することを防いでいるのは、尖閣諸島と沖縄と日本列島を結ぶラインです。日本の存在に地政学的な意義があるのですから、これをアピールしながら日本は東アジアのパワーバランスのキーネイションとなり、アメリカとの関係も長い時間をかけて対等にしていくのです。第一次大戦時には日英同盟に基づくイギリスからの要請によって、日本艦隊が輸送船の護衛のために地中海に派遣され、ドイツのUボートとの戦いによって犠牲者も出ました。マルタ島のイギリスの海軍基地の中に、日本兵の墓が今でも残っています。同様にこれからはアメリカは血を流すが日本は流さないということはあり得ません。そこは覚悟すべきでしょう。
秋葉 全く同感です。
元谷 今秋葉さんが関わっている仕事について教えてもらえますか。
秋葉 厚生労働省の仕事は医療から子育て支援・介護と非常に幅広い分野に及びます。アベノミクスは金融緩和と財政出動という第一、第二の矢は力強く射られましたが、問題は第三の矢である成長戦略です。この一丁目一番地がまさに医療分野です。経産省などとも連携しながらも厚生労働省の存在感をしっかりと示していく必要があります。日本の医療機器産業は胃カメラやCT、MRIなどの検査機器などで頑張っているように思われているのですが、実は六千億円の輸入超過すなわち貿易赤字なのです。医薬品に至っては一兆二千億円の輸入超過なのです。これだけ海外からの製品に依存しているのが実情です。五月二十四日に閣議決定したのがiPS細胞などによる再生医療に関する新法案と薬事法の改正案です。再生医療に関しては安全性を十分に確保した上で、承認手続きを簡略化して早期の実用化を推進します。また治験を早める組織の強化や医療機器の承認審査の円滑化などが盛り込まれていて、今国会での可決を目指していますが、国会が延長にならないと難しい情勢です。
元谷 世界七十七カ国を訪れ、四十一人の駐日大使と会談をしてきた経験から言うと、国家として大切なのは教育と医療です。科学技術立国を目指す日本が医療の分野で世界をリードしていくのは、世界貢献でもあるでしょう。
秋葉 はい。二月に内閣官房内に健康・医療戦略室が作られ、厚生労働省からも複数名の職員を派遣しています。ここが中心となり、医療、医薬品、医療機器を成長産業として、世界に打って出る戦略を考えています。
元谷 私は人生の勝者とは、闊達で長生きであることだと思っています。そのためには医療は重要です。
秋葉 正におっしゃる通りです。WHOの二〇一三年版「世界保険統計」によると、日本人の平均寿命は八十三歳。男性は七十九歳、女性は八十六歳です。日本は一九八五年に世界一になって以来、二十八年間連続世界一の長寿国となっています。このことは大変慶ばしいことなのですが、大事なのは、健康で長生きすると言うことです。要介護にならずに、自立して健康に生活できる、いわゆる「健康寿命」では、男性七十歳、女性七十三歳と平均寿命と、随分と乖離しています。そこで厚労省では今年から第二次がスタートした健康日本21において、健康寿命を伸ばすプラン中に数値目標を掲げて推進していきます。
元谷 ホテル社長は最近講演で「新GNP宣言」と称して、「元気で長生きぽっくり死ぬ」を提唱しています(笑)。
秋葉 それはいいですね(笑)。とにかく健康の維持とその延伸は非常に重要です。今、年間で一兆円規模で医療費が増えています。今年で三十八兆円にも及ぶのです。
元谷 それは凄い額ですね。
秋葉 今国内に約四八〇万人の高齢者の認知症の患者さんがいらっしゃいます。残念ながら今は、認知症を完治させる治療薬はありません。今再生医療の分野でも精力的に開発中ですが…。再生医療では日本は世界の最先端を進んでいますから、この分野を厚労省としてもどんどん伸ばしていきたいと考えています。iPhoneの部品の半分が日本製だというのですが、大きな利益を得ているのはアップルのみです。やはり製品自体を企画する側にならないと、大きな利益は得られません。成長産業としての医療分野を政治家としてもっと大胆に支援していきたいと思っています。
元谷 期待しています。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
秋葉 私もまだまだ若いつもりなのですが(笑)。若い人には「どうせ駄目だから…」などとネガティブな言葉に埋没するのではなく、夢や希望を持って、何事もあきらめずに、しっかりと最後まで挑戦する姿勢を保って欲しいですね。
元谷 私も同感です。今日はありがとうございました。
秋葉 賢也氏
1962年宮城県生まれ。中央大学法学部を卒業後、東北大学大学院法学研究科博士課程前期修了。その後、第9期生として宮城県出身者初の松下政経塾生となる。卒塾後、宮城県議会議員を三期務めたのち、衆議院議員となり現在四期目。第二次安倍政権下では、厚生労働副大臣および復興副大臣を務める。
対談日:2013年5月29日