Big Talk

東京裁判史観や河野談話、村山談話など日本の近現代史の全てを見直せ。

小学五年生で政治への道を志し、苦学して早稲田大学を卒業。都議会議員を経て衆議院議員となり五期目を迎えている下村博文氏。安倍晋三自民党総裁の盟友として、安倍政権下では内閣官房副長官に就任。九月の自民党総裁選で安倍氏を擁立、逆風の中見事に当選にまで導いた下村氏に、これからの政治に不可欠なことをじっくりとお聞きした。

森元首相らは時期尚早という考え。しかし時代はそこまで待ってくれない
危機感が原動力となり安倍氏擁立を決断

元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。自民党総裁選ですが、見事に下村さんが支持された安倍晋三さんが当選、二度目の総裁となりました。本当におめでとうございます。
下村 ありがとうございます。
元谷 安倍さんが総裁にならないと日本は変わらないと思っていましたから、私も非常に喜んでいます。当選の後すぐに祝電も打ちました。六年前安倍さんが首相になる直前まで、私は安倍晋三を総理にする会の副会長をやっていました。私の自宅での会にも出席してもらい、大変親しくしていました。
下村 存じ上げています。
元谷 今回の自民党総裁選では安倍さんと町村さんが立候補することで、町村派が二つに分かれました。派閥の元の領袖である森喜朗元首相を中心に、安倍さんに自重しろという声がかなりあったと思うのです。しかしそんな逆風の中、安倍さんの決意を促し、当選にまで導いた下村さんの功績は非常に大きいですね。
下村 当選はまさにミラクルでした。
元谷 下村さんと安倍さんは少なからぬ縁があると聞いているのですが。同期なのでしょうか?
下村 同い年なのですが、安倍さんが今六期目、私が五期目と、政治家としては安倍さんが先輩なのです。
元谷 安倍さんが会長の議連・創生「日本」で副会長を務めるなど、下村さんの考えは安倍さんと共通、ひいては私とも同じ同志だと思っています。私は真正保守という考え方をこのApple Townという雑誌や自らの著作を通じて、二十一年に亘って主張してきました。また「真の近現代史観」懸賞論文の募集を行い、田母神俊雄さんを最優秀賞に選んで世に送り出したり、勝兵塾という私塾を立ち上げたり。現在世界二十六カ国の駐日大使や二十三人の国会議員の皆さんが、この勝兵塾に参加しています。こういうこともあって、今回の安倍総裁の誕生を私は歓迎しているのです。
下村 今回私がなぜ安倍さんを総裁選で担いだかというと、これは元谷代表の原動力にもなっていると思うのですが、今の日本に対して強い危機感を抱いているからなのです。このままでは日本は衰退し、滅びてしまうのではないか。代表もこれを感じられているからビジネス以外の啓蒙活動として懸賞論文や勝兵塾の活動を行われていると思います。私の思いも全く同じです。
元谷 同感です。
下村 六年前に安倍さんが首相になった時に、私は内閣官房副長官に就任しました。そして五年前、体調の問題が原因とはいえ、安倍さんは政権を投げ出してしまった。そして今回です。私は昨年の暮から、安倍さんが総裁選に出馬するべきだと主張して行動していました。森元首相は時期尚早という考え。まず自民党が政権を奪還し、安倍さんは主要閣僚を歴任した後で、その実績を元に首相に返り咲くべきだと。しかし私は時代はそこまで待ってくれないと感じていたのです。
元谷 確かに悠長なことを言っている時ではありませんね。
下村 日本は今国家の体をなしていない。そんな折の昨年の東日本大震災です。これは天からの啓示です。このままだと日本は潰れるぞ。国会議員よ、覚醒せよという…。この大惨事を正面から受け止めて、ピンチをチャンスに変えていかなければ、なんのために国会議員をやっているのかわからないでしょう。
元谷 その危機感は私も同じ。最近の中国や韓国ののさばりようは目に余ります。
下村 その通りです。今の民主党政権の外交防衛政策では、尖閣諸島や竹島が掠め取られてしまいます。これを指をくわえて見ているようでは、何のために国会議員バッチをつけているのかと非難されてもしょうがない。こういう時にこそ国会議員は立ち上がるべきであり、その先頭にしっかりとした国家観、歴史観、世界観を持った安倍さんを立てるべきだと考えたのです。この国を立て直す能力がある政治家は、安倍さんしかいないでしょう。
元谷 そう思います。しかし、前回の唐突な辞任は…。
下村 その失敗を糧にして、より良い政権が作れると考えたからこそ、安倍さんを擁立したのです。最初は当選できるという確信は全くありませんでした。しかし先程お話した危機感から、どうしてもやらなければと思ったのです。

歴史問題に明確な意志を打ち出せば一気に国民を味方にすることができる
公務員制度改革への着手で官僚を敵に回してしまった

元谷 当初は石破VS石原ということで、安倍さんが当選できる空気はありませんでした。
下村 はい。安倍さんは派閥を超えて共通の理念を持つ議員の支持は集めていたのですが、前回の辞め方があり、全国の自民党員の共感をいただける状況ではなかった。しかし安倍さんの「前回の反省を踏まえてこの国を立て直す」という真摯な言葉が次第に人々の心に響き、大きな流れが生まれ、最終的に総裁選で勝利を得ることができたのでは…と考えています。
元谷 辞任した後病気の治療に専念され回復、安倍さんが再び政権を担いたいという意志を明らかにしていた頃、第一回目の「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀賞を田母神俊雄さんに送ることに決定しました。私は最優秀作品を公表する前に直接安倍さんと会い、この論文を見せたのです。一度首相を務めた人間が二度目になるのは非常にハードルが高い。かなりきちんとした主張を打ち出す必要があるでしょう。そこで私が作る真の近現代史観を確立する会の会長になって、もう一度日本を背負ってくれないかとお願いしたのです。結局今引き受けるのは難しいということで、安倍さんは辞退したのですが。
下村 そういうことがあったのですか。
元谷 その後政権交代があり三・一一があり、尖閣諸島での中国漁船による巡視船への体当たり事件とか李明博大統領の竹島上陸や天皇陛下に対する侮辱発言など、民主党政権となってからの中国や韓国などとの関係が急速に厳しくなるということがなければ、安倍さんの総裁当選は難しかったでしょう。今回の出馬は非常にタイミングが良かったのです。
下村 中国や韓国がそういった行動をとることは、日本にとっての国家の危機だと思うのです。前回の安倍政権が掲げた「戦後レジームからの脱却」は、東京裁判史観や河野談話、村山談話など日本の近現代史の全てを見直すということです。この戦後六十七年は日本の滅びの軌跡です。立て直すのは今しかない。それに必要なのは、安倍さんのような本物の政治家です。特にタイミングを見計らったわけではありません。
元谷 安倍さんが前回一年で首相の座を辞することになったのには、アメリカと官僚からの圧力があったのではないでしょうか。「戦後レジームからの脱却」とは、すなわちアメリカからの独立です。また日本はステルス複合体と呼ばれる東京大学法学部出身者のネットワークに支配されています。官僚から大手企業、マスコミに至るまで、このステルス複合体が阿吽の呼吸で連携しています。彼らはアメリカとも通じている戦後敗戦利得者ですから、今の状況がとても居心地がいい。「戦後レジームからの脱却」とは、そんなステルス複合体を敵に回すことを意味するのです。手を付けた公務員制度改革にも相当の抵抗があったでしょう。
下村 アメリカからの圧力はどうでしょうか…。将来は真の独立国を目指して日米安保を見直す時が来るにせよ、安倍政権は当面の方針として日米同盟の強化を打ち出していましたから。安倍首相が道半ばにして辞任に追い込まれた理由は二つです。一つは戦後レジーム体制の思想にどっぷりと浸かっていたマスメディアが安倍叩きを行ったから。朝日新聞や毎日新聞を中心としたマスメディアは、社会主義的な考えをベースに現状を肯定し続けているのです。
元谷 そもそもアメリカが占領時代に社会主義的な思想を持つ知識人をメディア検閲などで重用したことが、日本のメディアが偏向するに至った根本的な原因なのです。
下村 そうかもしれません。ただ「戦後レジームからの脱却」にメディアの抵抗があったとはいえ、NHKや朝日新聞を必要以上に敵に回してしまったという思いもあります。これは反省して今後に活かさなければと思っています。
 もう一つの退陣理由は、代表も今指摘したように公務員制度改革です。天下りの禁止など実質的に霞が関の解体にあたるため、おっしゃるとおり官僚は激しく反発しました。メディアと霞が関、安倍政権はこの二つに潰されたのだと思います。
元谷 今もその構図は変わっていませんから、安倍さんも自民党総裁ならまだしも、首相になったとたん再び圧力がかかってくるはずです。私に一つ提案があります。いろいろな課題を一つずつ処理しようとすると、またメディアが一つずつ争点を追求してくるでしょう。ですから全てを一気に行うのです。河野談話も村山談話も踏襲せず、南京大虐殺もなかったし従軍慰安婦など存在しなかったと明言。東京裁判史観は全て否定です。そして靖国神社にも参拝する。一度下野して再度政権を獲得したのですから、これまでのことをご破算にして、新しいスタートだと宣言するのです。こうすれば国民を味方にすることもでき、メディアも叩けなくなると思います。
下村 それは一理ありますね。私も自民党が野に下ったことをチャンスとするべきだと主張しています。それは、再び政権を得た場合、以前の政策の延長線上で物事を行う必要がないからです。いいものは継承しながらリセットするべきものはリセットする。これがまさに戦後レジームからの脱却になるのだと考えています。メディアとの対決もあるかもしれませんが、戦後体制の意識や東京裁判史観からの脱却は、新しい日本の立て直しのためにはどうしても必要なのです。公務員制度改革は安倍さん以降の政権も取り組み、徐々に改革が進んできています。ここまで進展すれば、官僚が政権を潰すという行動には出にくくなっています。
元谷 もう一つ安倍さんが前回首相になっていた時から変わっているのは、ITの普及度合です。新聞を読んでいる人の数が減少する一方、インターネット上でニュースを読んだり意見を表明する人が増え、ネット世論が力を持ってきています。第一回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀賞を獲得した田母神俊雄さんが航空幕僚長を更迭された時も、大手メディアは全て田母神叩きを行なっていましたが、ネット世論では田母神支持が非常に多かった。今でも田母神さんの講演は大盛況ですよ。安倍さんも今、ネットでかなり多くの支持を集めています。マスメディアや中国や韓国、アメリカなどの反発を怖れず、捨ててこそ浮かぶ瀬もあれと、今後の日本について思うところを全て最初に宣言する。ぜひそうすべきだと思います。
下村 おっしゃる通りです。
元谷 アメリカとの関係も考えなおす必要があります。日米同盟が最重要だったのは冷戦まで。アメリカは血と汗と金を費やして冷戦に勝利しましたが、勝っても戦後賠償など経済的な利益はありません。むしろその間、冷戦漁夫の利で日本が大きな経済発展を成し遂げてしまった。冷戦に勝って経済で負けては意味がないので、冷戦終結から日米経済戦争が始まり、アメリカはエシュロンなどあらゆる情報収集手段を用いて集めた情報を企業にリークするなどで、自国の経済を支援してきたのです。
下村 多軸的に考えていくべきでしょう。アメリカとの関係はきちんと構築していく必要がありますが、さらに中国や他のアジア諸国との関係も強化していかなければなりません。
元谷 将来的には日米関係を対等にしたいという思いは下村さんも私も変わらないと思うのですが、今の憲法の制約下では非常に困難です。しかし憲法改正のハードルは非常に高い。占領下で不当に作られた憲法ということで現在のものを一旦破棄し、新たに憲法を制定するしか道はないと思うのですが。
下村 私はそれは現実的ではないと考えています。戦後一度も改正していないため、今や日本国憲法は世界最古の憲法といわれています。いいか悪いかは別にして、現実に現行憲法を六十七年間守ってきたのです。それを破棄するということは、日本の戦後六十七年を全て否定することになります。まずは憲法九十六条を改正して三分の二条項を変え、日本人の手によって憲法改正を可能にすること。これが国民の意識改革に繋がると思うのです。
元谷 日本を真の独立国家としないために、アメリカは日本国憲法の改正を困難にしたと考えています。日本が再び大国となり原爆投下の責任を追求することがないよう、アメリカは徹底的に「日本は悪い国」という洗脳を日本人に施しました。東京裁判史観の植え付けはその一環です。
下村 戦後レジームからの脱却とは、第一義的には東京裁判史観の破棄です。周辺国との領土問題によって、国家とは何かという命題が今国民につきつけられています。国の基本要素は領土と国民と主権ですが、戦後の日本はこれらを疎かにしてきた。これが今のような体たらくを招いた原因なのです。
元谷 全く同感です。戦後レジームからの脱却とは、洗脳からの脱却であるべきですね。

自虐装置を一つずつ外して、日本本来の姿に立ち返るべきだ
田母神論文がきっかけで世の中の空気が変化

下村 財団法人日本青少年研究所が行った日米中韓の中高生の意識調査が衝撃的です。「自分はダメな人間だと思う」と答えた中学生の割合が日本は五六・◯%と、アメリカの一四・二%、中国の一一・一%、韓国の四一・七%のいずれをも大幅に上回っていたのです。これだけ多くの子供達に自信を喪失させている教育とは一体何なのか。自虐史観によって、国も個人もダメだと思い込まされているのです。まさに今の日本は、終戦直後アメリカが望んだ精神的な敗戦国の姿そのものだと思います。
元谷 時限爆弾のように時を経て効果を発揮するのが教育でしょう。六十七年前にアメリカは非常に巧妙に、将来的にも日本が再生する道を断っていたのです。宮家を減らしたのもその一環。このために天皇制は存亡の危機に晒されています。
下村 今が最悪の状態です。
元谷 しかし左傾化する一方だった社会の雰囲気が、次第に変わってきているのを感じています。田母神さんが多くの人々の共感を得たこともそうですし、今回安倍さんが多くの支持を集めたこともその表れでしょう。
下村 中国や韓国がのさばる中、こんな日本でいいのかと思う人々が増えています。
元谷 私はブッシュ政権の国務副長官だったリチャード・アーミテージさんと対談したことがあります。アメリカのリーダー層と話していて感じるのは、アメリカは日本の洗脳状態をもう望んでいないということです。ですからアメリカとの関係を大切にしながら、時限爆弾のように仕掛けられた自虐装置を一つずつ外して、日本本来の姿に立ち返るべきなのです。その最たるものが日本国憲法だと思います。安倍さんであれば、これらのことに着手できると大いに期待しています。
下村 総選挙を経て政権を奪回した暁には、戦後三年程度しかなかった真っ当な保守政権をしっかりと構築していくつもりです。
元谷 私も全力で支援しますよ。
下村 ありがとうございます。ところで代表は中学二年生の時にお父様を亡くされたとお聞きしていますが、私は九歳の時に父を失いました。奨学金を貰いながら、また新聞配達もしながら高校、大学を卒業しました。親や親戚に政治家がいたわけではないのですが、世の中を良くしていくのは政治ではないかと小学校五年生の時に思い立ち、その思いを実現させて現在に至っています。
元谷 私は実業家なのですが、売上や利益の最大化だけを求めている企業は、いずれ必ず潰れると考えています。この国をいい国にしなければ、我社もいい会社にはなれないという思いから、本や雑誌を出したり懸賞論文の募集をしたり、私塾を開いたりしているのです。
下村 世の中のために何かをしたいというのは、まさに日本精神なのです。三・一一の被災地を取材したワシントン・ポストの元東京特派員ポール・ブルースティン氏が、こんなことを書いていました。「被災した高齢者が『ボランティアの人からおにぎりなどをもらって感謝しているが、私は与えられるよりも社会に貢献したい』と話したことだ。私はこれが日本精神だと思った」。
元谷 日本精神はまだしっかりと残っています。震災後に暴動や略奪が起きないというのは、日本ならではのことでしょう。
下村 その通りです。自分が世の中のために何かを行いたいという思いを大切にし、もっと広げていくようにしないと、この国は生活保護だらけの、アジアの四流、五流の国に成り下がってしまうでしょう。手当より仕事です。雇用を増やしながらさらにどうやって国民が自らと国に誇りを持てるようにしていくか。これが今政治に求められている仕事だと思います。
元谷 頑張ってください。いつも最後に「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
下村 私は日本はこれからよみがえる潜在力を持っていると信じています。私も代表も誰かに頼ることなく自らの力でここまで這い上がってきました。誰にでも沢山のチャンスがあり、努力する人にはいくらでも可能性が開ける国が日本なのです。これをしっかりと守っていくべく、私も頑張っていきます。
元谷 大きな夢を追って欲しいですね。私は小学校の時、卒業文集で将来何になりたいかとの問いに「世界連邦大統領」と書いて卒業しました(笑)。叶いそうにない夢ですが。
下村 それは大きい(笑)。そこまでではないですが、代表は十分夢を叶えてらっしゃいますよ。
元谷 今日はありがとうございました。

下村 博文氏 Hakubun Shimomura
1954(昭和29)年群馬県生まれ。1979(昭和54)年早稲田大学教育学部卒業。1989(平成元)年から2期東京都議会議員を務めた後、1996(平成8)年に衆議院議員に初当選。現在5期目。内閣官房副長官、文部科学大臣政務官、法務大臣政務官などを歴任。現在自由民主党シャドウキャビネット文部科学大臣。著書に「下村博文の教育立国論」等がある。

対談日:2012年10月3日