元谷 私は以前からイスラエルという国を尊敬していました。建国から六十四年、自らの国の存亡をかけて戦い続け、今の繁栄を勝ち得てきた国だからです。ずっと訪問したいと思っていたのですが、今回ようやく念願が叶いました。
ニール ようこそ、イスラエルへ。元谷代表は日本でも有数のホテルオーナーだとお聞きしております。
元谷 現在東京を中心に建設中のホテルを含めますと、アパホテルの保有客室数は二万八千室になります。私はこれらをすべて所有している日本最大のホテルオーナーなのです。
ニール ぜひイスラエルや世界中にもホテルを展開していただいて、二万八千室を倍にまで増やしていただければ(笑)。イスラエルはもういろいろとご覧になりましたか?
元谷 はい。巧みなスケジューリングのおかげで、死海や嘆きの壁など、名所をいろいろと見てきました。歴史のある国らしい場所が多かったですね。今日はマサダの砦を訪ねました。西暦一世紀に勃発したユダヤ人とローマ帝国との戦いの時に、千人ほどのユダヤ人がこの砦に立てこもり、包囲する一万五千人ものローマ軍の大軍に約三年間にわたって抵抗、陥落直前に後世にこのことを言い伝えるようにと一人を残してそれ以外は全員自決したという話を聞きました。イスラエル魂はかくも素晴らしい。日本の大和魂に通じるものを感じました。
ニール ご存知のようにイスラエルは移民の国です。ユダヤ人はパレスチナの地を二千年前に離れたのですが、また再びこの地に帰って来ました。私の先祖は五百年前に戻ってきましたが、ナチスによるホロコーストが始まってから、ポーランドやロシア、ドイツなどのヨーロッパ諸国から帰ってきた人が多いですね。イスラエルはそれぞれに戻ってくるまでのドラマチックなストーリーを持った人々が集まって、やっと形になった国なのです。
元谷 素晴らしいことです。日本もかつては良い国だったのですが、今ではすっかり貶められています。これではいけないと思い、私は誇れる国・日本の復興運動を行なっています。イスラエルの人々の生き様も、ぜひこの運動の参考にしたいと考えています。
ニール 私達ユダヤ人は、ディアスポラとして全世界に分かれて暮らすことになり、二千年後にパレスチナにやっと戻ってきたのです。日本人はずっと日本に暮らして今日の繁栄を築き上げたのですから、もっと自分達の歴史と未来に対して楽観的になってよいのではないでしょうか。今、世界中から数百万人単位の観光客が毎年イスラエルを訪れています。イスラエルにとって一番神聖な場所はエルサレムです。ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の聖地であるのはもちろん、アルメニア人もエルサレムを聖地だと考えています。このエルサレムをはじめとしたいろいろな場所で、この国の歴史を肌で感じてもらうことが、世界中の人々を勇気づけることに。これが観光の事務次官としての私の誇りです。
元谷 マサダの砦など遺跡できちんと歴史教育を行なっているのが、イスラエルの素晴らしいところですね。日本における歴史の扱いは、教育も報道もどちらも間違っているのです。これを正すために私は「真の近現代史観」懸賞論文を創設しました。第一回の懸賞論文では、元航空幕僚長の田母神俊雄氏が最優秀賞を受賞したのですが、内容が政府見解に反するということで更迭されるという事件が起きました。第二回最優秀賞の明治天皇の玄孫にあたる竹田恒泰氏の天皇論、第三回最優秀賞の佐波優子氏の遺骨収集の物語も高い評価を受けました。昨年の第四回の最優秀賞は札幌医科大学教授の高田純氏の論文に贈られました。その内容は日本国内が大騒ぎになっている原発事故による放射能汚染が、第二の歴史問題となって日本をまた苦しめるというものです。日本に核を持たせたくないアメリカのトモダチ作戦でも、必要以上に除染をしたり、事故原発から必要以上に離れたりと世界中の不安をわざと煽る行動をとり続けました。放射線防護の権威である高田氏は、今回の事故の放射能はそんなに恐れる必要はないと断言しています。ところが不思議なことに、エキスパートである高田氏がテレビや新聞に登場する機会は非常に少ないのです。これから観光立国として多くの人々を受け入れようとしている日本にとっては、海外の人々が感じる放射能の心配を取り除く必要があるのですから、高田氏のような人をもっとメディアで喧伝すべきです。
ニール 海外からの日本への観光客数の推移は、どうなっているのでしょうか?
元谷 日本政府観光局(JNTO)の統計によると、震災のあった昨年で六百二十二万人です。ちなみに一昨年の二〇一〇年は、八百六十一万人でした。約二十八%のダウンですね。
ニール イスラエルは人口が約七百六十万人で大きさが日本の四国ぐらいの小国です。外国からの観光客は昨年で約三百五十万人でした。十年前は約百万人でしたから、これでも非常に増えてきています。二〇一五年には五百万人を目指しています。
元谷 人口の比率から考えると、物凄い数ですね。観光客を増やすために、どのような策をとろうとしていますか?
ニール ホテルの宿泊キャパシティの増強です。昨年は四千室増えたのですが、あと一万五千室増やすのが今の目標です。イスラエル政府もホテル誘致のために、様々な便宜をはかっています。
元谷 アパホテルも今年からフランチャイズによる海外展開を開始します。このような形態でノウハウ提供によるご協力を行うことは可能です。また将来的には直接投資によるホテル所有も検討したいですね。
ニール イスラエルは一昨年OECD(経済協力開発機構)に加盟して、国際的なビジネス習慣に適合した観光ビジネスを展開しようとしています。元谷代表にも安心してぜひ協力していただきたい。
元谷 わかりました。検討しましょう。アパホテルの強みは、なんといっても四百万人のみなさまに会員になっていただいていることです。
ニール それは凄い人数です。イスラエルの人口の半分以上になります(笑)。
元谷 イスラエルを訪れる観光客が増えてきたのは、安心感が出てきたからではないでしょうか。第一次から四次まで続いた中東戦争が、公式には認めていませんがイスラエルが核兵器を保有したことで終結しました。今では街を歩いていても安心が溢れ、若い人々には自信がみなぎっています。一方日本人は今、すっかり自信を失っています。これを払拭したいと思っているのです。
ニール イスラエル人は平和を実現するためにいろいろなことをやってきました。隣人ともうまく付き合うために、エジプトに続いてヨルダンとも平和条約を結びました。アラブとの関係が今後どうなるかはわからないですが、自分達から平和のためにいろいろと手を差し伸べていきたい。基本的に私達は生まれながらの楽観主義者ですので、先のことを考えて不安になるよりも、自分達が必要と思えることを着実に行なっていきたいと考えています。
元谷 ただ、何度にもわたる戦争を勝ちぬいてきたからこそ、平和条約も締結することができ、今の繁栄を得ることができたのでしょう。しかし「戦うこと」を放棄することで、日本は情けない国になってしまいました。
ニール 確かにそういう側面もあります。表面上は平和な顔をしていますが、継続した軍事行動を行なっているからです。予備役もある年齢までは、毎年軍務につく必要があります。私は今四十七歳ですが、昨年まで現役の兵士として最前線に行っていました。私達の理想はスイスです。兵役により強力な軍隊を持っていますが、現在戦ってはいません。
元谷 日本には平和を唱えれば平和になると思っている人が多すぎる。軍事力はアメリカに任せればよいと、日米安全保障条約に頼り切っているのです。自らの国を自分達で守るという精神が息づいているイスラエルに学ぶことが多いですね。観光地でも若い軍人が子ども達を教育している姿がありました。
ニール 自分達の国は自分達で守るというのは、おっしゃる通り私達の基本です。イスラエル軍は質的に世界一だと思っていますが、しかし軍事力をむやみに行使しようとは思っていません。日本もそこは同じ考えでいて欲しいですね。
元谷 わかりました。これからは観光プロモーションにおいて、「安心」の要素の比重が高まりそうです。イスラエルへの観光客ももっと増えることを願っています。
ニール 一つ教えていただきたいのですが、この先イスラエルに観光客を増やすにはどのようにしたら良いと思いますか?
元谷 今回の入国に際し、できれば入国のスタンプを押さないでくださいと言ったら、そのような措置を取って入国させていただきました。他のイスラム諸国への入国に差し障りがでることを恐れて、イスラエルを敬遠していた人もいるでしょうから、非常に大事な措置です。
ニール それをぜひ日本でお知らせください。
元谷 はい。今回私の方から希望を伝えましたが、今後は入管の係官の方からスタンプは押さないでおきましょうかと聞いていただけたらと思います。日本人は自分の方からはそういうことは言えませんので。
ニール わかりました。今後はそのようにするよう指示しましょう。とにかくイスラエルは平和で観光客にやさしくてフレンドリーな国です! ぜひ一度お越しくださいと伝えてください。
元谷 歴史のある国ですから、多くの日本人が来たがるはずです。そうなればアパホテルの建設ももっと現実味を帯びると思います。今日はありがとうございました。