元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。西村さんは自民党の次代のホープとして活躍を期待されています。次の国政選挙は来年で、しかも衆参同時選挙になるのでは…と私は睨んでいます。消費税政局で民主党は分裂と非常に混乱している状況ですが、今日は今後の見通しなどを教えていただければと思い、お招きしました。
西村
よろしくお願いします。私はかつて石川県の商工課長をやらせていただいたのですが、失礼ですが、当時はアパグループがここまでの会社になるとは、実は予想していませんでした。
元谷
二〇〇二年に東京に本社を移して丸十年。一気に会社の規模が四~五倍になりました。
西村
しかしたった十年でここまで拡大させるとは、やはり代表の直感力やセンスは素晴らしいですね。石川県には二年間いたのですが、製造業もサービス業も農業も水産業も全てあって、非常に良い勉強をさせていただきました。十五年間経済産業省に在籍した経験を生かして選挙に出たのですが、最初は数千票差で落選。政治の世界の難しさを肌で感じました。二〇〇三年に衆議院議員に初当選し、二〇〇九年には自民党総裁選にも出馬して、若手の代表として精一杯のことはやってきたつもりです。
元谷
あの総裁選で西村さんが谷垣さんを破っていれば、自民党はもっと良くなっていたでしょう。今は野党に転落したはずの谷垣自民党が与党っぽい。野党ならそれらしく、攻める時は攻めないと。
西村
おっしゃる通りです。民主党は批判が得意で仕組みづくりが苦手なのですが、自民党はその逆で…。前回の衆議院議員選挙での自民党の大敗直後には、十年は政権は戻ってこないと言われていました。しかし、その後の民主党政権があまりに酷い。外交・安全保障・経済全て駄目です。捻出できると言っていた十六兆円も出せない。失敗の連続の後の消費税増税法案の衆議院通過です。参議院も通過するでしょう。これは民主党の終わりの始まりです。
元谷
とはいうものの、次の総選挙で自民党が単独で過半数を獲得できるかというと、難しいというのが今の見方でしょう。民主党ではなく、他の第三極との連立が必須なのではないでしょうか。私は自民党が第三極と真正保守の考えでまとまって、政権を担当することを期待しています。西村さんにも先日講演をしてもらいましたが、私はこの真正保守の政権を作るために、勝兵塾を主宰しているのです。
西村
非常に意義のある活動だと思います。
元谷
石原慎太郎東京都知事が尖閣諸島を購入すると表明し募金を募っていますが、すでに約十三億円集まっています。日本はまだまだ捨てたもんじゃない。東日本大震災の時にも、日本人の助け合いの精神は遺憾なく発揮されました。アメリカが衰退する一方中国が膨張、その狭間にある日本は、今こそしっかりと自らの力で立ち直るべきなのです。
西村
私もその通りだと思います。尖閣諸島についてですが、日本固有の領土であることは明らかなので、日本国内の売買に関して誰が何と言おうと気にすることはありません。国際裁判所で争っても、間違いなく日本が勝てます。
元谷
それは確かなのですが、中国が実効支配を試みる可能性もあります。例えば中国漁船が遭難したために中国沿岸警備隊が一時的という名目で尖閣諸島に上陸、そのまま居ついて既成事実化することもあり得るでしょう。そうなれば、竹島の再現になってしまいます。
西村
現に中国は一九九二年にフィリピンからアメリカ軍が去った直後の一九九五年に、フィリピンが領有権を主張していた南沙諸島の島を占領、実効支配しています。民主党政権のこれまでの対応を見ていると、毎日領土が狭くなるような思いです。普天間基地移設問題ではアメリカとの関係をこじらせてしまいましたし。力の空白が生じると、必ず中国が進出してきます。自分の国は自分で守るというのが基本です。私は海兵隊のような陸海空の機能を持つ緊急展開部隊を、陸上自衛隊の中に作るべきだと考えています。
元谷
領土に対する意識は非常に大切です。イギリスのサッチャー元首相も、本土から見れば地の果てのようなフォークランド諸島への侵攻に対して、国を代表する客船・クイーンエリザベスⅡまでも徴用したり、アンドリュー王子をヘリコプターパイロットとして従軍させたりし、これらによって国を挙げて団結して戦い勝利することで、国内的にも英国病を克服して今のイギリスの基礎を築きました。労働党政権が続いていて、フォークランド紛争にも弱腰だったなら、イギリスは立ち直れなかったでしょう。
西村
その通りです。
元谷
陸海空の自衛隊は、尖閣諸島が中国に占領された場合の奪還作戦を策定しているそうですが、まずは何名かの部隊を尖閣諸島に常駐させるべきではないでしょうか。万が一にでも中国が武力による上陸を試み、それによって日本側に犠牲者が出た場合には、国際世論は中国批判一色に染まります。これは相当な抑止力になります。自衛隊でも海上保安庁でも警察でも、誰かが常駐すべきでしょう。
西村
私達もさらに研究しておきます。
元谷 いろいろな想定を行っておくべきです。第一列島線、第二列島線を作り、中国は太平洋をアメリカと二分しようとしています。このままでは日本は中国の一自治区へと落ちぶれてしまうでしょう。
西村 私は「新世紀の安全保障体制を確立する議員の会」の事務局長をやっています。民主党の渡辺周さん、長島昭久さん、自民党の中谷元さんなどが参加されている超党派の議員連盟です。この場でも尖閣問題については、どう対応するのか具体的な議論を深めていくつもりです。
元谷 よろしくお願いします。
元谷 日本が勝利を収めた戦跡を訪れようと先日、旅順や大連、さらに二百三高地を巡って来たのですが、数年前にはなかった事実に反する反日的看板や記念碑のようなものが至るところに建てられていて、大変驚きました。それらでは、日本がどのように中国を侵略したかが延々と書かれたものを展示しています。日露戦争は朝鮮半島の覇権を巡る日本とロシアの戦争なのに、いろいろと日本を貶める主張が中国政府によって行われているのです。このような記念館が中国全土に二百を超えて設置されているそうです。日本政府は中国に厳重に抗議すべきです。案内をしてくれたガイドとも話したのですが、すっかり南京大虐殺を事実だと信じていました。そういう教育を受けているのです。日本としては、それらをきっぱりと否定しないと。少しでも認めると、どんどん突っ込まれてさらに多くのことを認める羽目になるのです。
西村 その通りだと思います。
元谷 二〇〇六~二〇一〇年に行われた日中歴史共同研究でも、日本側座長の北岡伸一東京大学法学部教授は、南京大虐殺では二~三万人が虐殺された可能性があると認めてしまっています。上海大学の朱学勤教授は、南京事件には一人の犠牲者名簿もないと言っているのです。中国人の歴史学者がそう言っているのに、日本人学者が三十万人と犠牲者ゼロの中をとって二~三万人などという姿勢をとってはいけないでしょう。今回私が出版した「誇れる祖国『日本』」を一気に読めば、正しいことがわかるはずです。私が検証して書いていることばかりですので、内容に間違いはありません。しかし普通に日本の学校教育を受けてきた人は、「えっ!」と驚くかもしれません。日本の教科書は酷すぎます。
西村 我々大人が正しい歴史を知り、それを子供達に伝えないと。従軍慰安婦問題で日本に賠償請求するなど、韓国は一度決着したことを蒸し返しています。
元谷 国家間での請求問題は決着していることなのですから、犠牲者だと主張する人々が賠償請求を行うなら、韓国政府に対して行うべきなのです。
西村 その通りです。日本は絶対に従軍慰安婦賠償を認めてはいけない。強く出ればすぐに折れると思われてしまいます。
元谷 李明博大統領もわかっていながら慰安婦の件を日本に突きつけているのです。韓国では大統領の地位を守るためには、反日でいる必要があります。私はかつて金泳三元大統領に、「親日派のための弁明」を出版したために国賊扱いになっている金完燮氏が書いたことを、いずれ韓国人皆が真実だと認識する日が来るのでは?と聞いたことがあります。彼は「(しばらくの沈黙の後)……そうなるかもしれない」と言いました。反日で知られた金泳三でも、本心は違うのです。
西村 中国も韓国も日本の資金と技術のおかげで、今の繁栄を築きあげてきたはずなのに…。
元谷 文句を言えば金になることを、すっかり学習してしまったのです。だから事実ではないことで日本は貶められ、金を巻き上げられています。ターニングポイントは自社さ政権ですね。村山談話で一気に左傾化が進んだのです。
西村 中国との交渉では、かならず向こうは強気に出てきます。慣習を無視した習近平の天皇陛下との会見でも、日本政府はまた強く出られると折れるという弱さを晒してしまったのです。ルールは曲げない、ゴリ押しは必ず押し返すを鉄則にしないと。またすでにアメリカやヨーロッパとFTAを結んだ韓国は、日中韓と言いながら中韓二国間の交渉を優先し、日本はずしを狙ってきています。もっと日本もしたたかに対応すべきでしょう。
元谷 同感です。また日本は他国に金融支援を行う際に何の見返りも求めていない。これでは駄目。
西村 EU諸国にも金融支援をしているのに、彼らは福島はともかく東京まで含む十一都県産の食料品に対して、輸入規制を課しているのです。私は「早急に対応すべきだ」と国会でも民主党政権の対応を批判しました。
元谷 外務省はこのようなことがないように、日本の国益に沿って交渉を進めなければならない。しかし、他国に媚びることばかりを考えてきたのです。
西村 おっしゃる通りです。そして民主党政権が弱いのは、全体を俯瞰して見る人がいないからです。財政のこと、農作物の輸出のこと、原発事故処理のこと、全てがバラバラに動いています。
元谷 このまま民主党政権が続いていては大変なことになります。即解散して国民に信を問うべきでしょう。
西村 小沢グループが離党し、野田首相が九月の民主党代表選で再選されることはまず確実です。首相としてあと一年の猶予があると考えているでしょう。代表がおっしゃる通り、来年七月の衆参同時選挙まで延びる可能性が高くなってきました。
元谷 民主党にすれば次の選挙での負けは確実なので、解散を一日でも長く先送りにするのはわからなくはない。しかし野党はこれとは関係なく攻めないと。その点、自民党の谷垣さんは融和策に走りすぎです。
西村 中曽根康弘先生も産経新聞に、野党である自民党は、徹底して民主党政権の政策に反対すべきだと主張されていました。全くその通りだと思います。
元谷 谷垣さんは野党の党首で満足なのかもしれませんが、他の党員が迷惑します。とにかくマニュフェストにできもしないことを並べて政権をとった民主党の罪は重い。しかも四年も続くのです。この政権がどれだけ国民に失望を与え続けているか。
西村 そこで次の政権の話になると思うのですが、第三極として存在感を高めている大阪維新の会は、もともと保守系で自民党と近い考えの人が多い。教育条例にしても、想いは同じです。ただ脱原発とか消費税を全て地方税にするとか、一部の論点についてはもう少し現実的になってほしいと思いますが。
元谷 橋下市長は、もうちょっと国家観や世界観、歴史観を勉強すべきでしょう。人々の人気は集めていますが、この辺りが少し心配です。根っこでの考え方は保守なので、起爆剤として活躍してもらえれば。ただ彼自身が公約を並べて前面に出て当選者を数多く出したところで、民主党と同じになるだけです。
西村 前回の総選挙では、人気というか「風」だけで多数の小沢チルドレンが当選を果たしました。同じことが「大阪維新の会」でも起きて経験のない議員ばかりがただ増えることになっても、あまり意味がないことでしょう。
元谷 原発事故の対応にも問題が山積みです。毎年三兆円づつ原油の代金が上乗せ、貿易収支が赤字になっています。今は円高だから大きな問題にはなっていませんが、円安になったらどうするのか。金利が上昇して国債の利払いだけでも大変な額になり、日本は大混乱に陥ります。日本は世界で最も優れた原発技術を持っているのですから、原発をいつまでも停止しておくのは間違っています。
西村 今回の事故を教訓により安全な原発づくりを行えばいいのです。
元谷 そうです。また自然界からの放射線を年間十ミリシーベルトも受けながら人々が暮らしている場所もあるのに、除染の基準を年間一ミリシーベルトとするのは、基準が低すぎます。がれきの処理も問題になっていますが、これも法律次第でしょう。関東大震災のがれきで横浜の山下公園を作ったように、非常時立法で海の埋め立てにがれきを使用すれば、他都道府県に移動させる必要もなくなります。
西村 がれきを受け入れない全国の自治体のせいで処理が進んでいないようにいわれていますが、そもそも処理は雇用対策も考慮し、被災三県で行うのが基本。全国での処理は全体の二割のみです。処理が進んでいないのは、国と県の調整不足で地元三県で動いていないせいであり、これも野田政権の責任なのです。
元谷 そうですか。メディアが不安を煽るような報道を繰り返し、問題の本質を見えにくくしているのです。
西村 NHKも偏向しています。
元谷 特にNHKと日経の罪が重いですね。中立のふりをして偏向していますから。財界は中国との関係からモノが言えなくなり、それが日経に反映されています。こんなことを言っていると、アパホテルに中国の人が泊まらなくなるのでは?と心配する人がいますが、日本人以外のいかなる国の人も宿泊客全体の一〇%を超えないようにしています。特定の国によって経営が影響を受けないように、リスクコントロールしているのです。どんな企業でも、また外交官でも政治家でも、同様のリスクコントロールをしていかないと、だんだんおかしくなっていきます。力の論理で世の中、回っていることは非常に多いですから。
西村 アメリカの力が相対的に低下していっていますから、日本は国としてもリスクコントロールが必要でしょう。財政事情はありますが軍備拡大も行わなければなりません。例えば、私が外務大臣政務官の時にホワイトハウスと交渉を行い、GPSを補完する準天頂衛星みちびきを日本独自で二〇一〇年に打ち上げることができました。現在あと三機打ち上げることが決定しています。宇宙基本法も変え、この日本独自の準天頂衛星で北朝鮮のミサイルを探知するなど、安全保障の目的にも使用できるようにしています。インドネシアからオーストラリアまで、大きくアジア・オセアニアをカバーしている衛星なので、このエリア内の諸国との防衛協力も進んでいくと思われます。
元谷 現行憲法下の自衛隊は、アメリカ軍と一体となってはじめて力を発揮できます。ここから脱却するのは非常に難しいことです。ただアメリカが手を引きつつあるアジアでは、韓国や台湾などを含めた複数国が地域の安全保障のためにバランスをとっていくことが求められるでしょう。そのためにNATOの四カ国(ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ)が有事にアメリカの核兵器をレンタルすることができる、ニュークリア・シェアリングの仕組みを日本も導入すべきではないでしょうか。独自開発かニュークリア・シェアリングかと問えば、アメリカも受け入れるはずです。
西村 そうかもしれません。この件ももっと勉強させていただきます。ただ安全保障の観点からも、原発を放棄することはあってはならないですね。技術の保持が肝心。声高に言う必要はありませんが、今はともかく将来、世界情勢がどう変わるか全く想像できません。核兵器を持つことも含めてあらゆる可能性を捨ててはいけません。もっとしたたかにならないと。
元谷 その通りです。平和は力のバランスによってのみ成り立つものであり、三発目の原発も投下されかねないほど、今の日本は非常に危険なポジションにいます。さらなる核攻撃を受けないためにニュークリア・シェアリングを導入しないと。またその前に憲法を変えることも必要です。今の憲法は占領下で作られた国際法違反のものですから、一回廃棄して自主憲法を制定すべきでしょう。ぜひ西村さんには自民党を立て直して、真正保守連合政権の中心に立って、全ての案件を進めていって欲しいと願っています。
西村 次の衆院選、参院選で安定多数をとれれば、その後三年間は選挙がありません。憲法改正を行ったり、経済を立て直したり、外交を強化したりと、じっくりと諸課題に取り組むことができます。
元谷 あと教科書の検定方法をぜひ変えて下さい。南京大虐殺の記述がないと検定に通らないというのは、あまりにも酷い。もともとはアメリカが日本が再び強国とならないために行った自虐史観の植え付けですが、日本人の敗戦利得者によって今ではアメリカも驚くほどより悪化した形で残ってしまっています。これも変えていって欲しいですね。最後に「若い人に一言」をいつもお願いしているのですが。
西村 昨年の震災の直後には、私は影の内閣の経産大臣として自民党本部に詰めて、石油など物資の手当に奔走しました。「絆」という言葉は私も大好きで、震災の時ほど家族や地域の人々の絆を強く感じたことはありませんでした。しかし若い人にはあまり内向きになりすぎて絆に安住して欲しくない。代表のように外に目を向けて、絆を大きく広げていくことを目指して欲しいと思っています。
元谷 留学する人が減るなど、若い人がリスクをとらなくなっています。
西村 リスクをとれる逞しい日本人を増やしていかなければならないですね。
元谷 そのために西村さんには頑張っていただいて。勝兵塾からの首相候補ナンバーワンですから。
西村 心して頑張ります。
元谷 今日はありがとうございました。
西村 康稔氏 Yasutoshi Nishimura
1962年兵庫県生まれ。灘高校から東京大学法学部に進み、卒業後は通商産業省に入省。米国メリーランド大学院で国際政治・経済を学び卒業。石川県商工課長も務める。1999年7月政治家を志して退官、2003年衆議院議員総選挙において初当選。2009年には3期目の当選を果たした後、自民党総裁選挙にも立候補した。現在、自民党影の内閣・財務大臣も務める。
対談日:2012年6月27日