半年で地球を五・五周した。
日本人らしさが残っている
元谷 本日はビッグトークにご登場いただきまして、ありがとうございます。高橋さんには以前からご登場いただきたかったのですが、なかなか日程が決まらなくて。
高橋 今日はよろしくお願いいたします。海外出張などが入っていて、失礼いたしました。
元谷 いえいえ、人間忙しいのがなによりです。先日ブータンの観光庁長官が弊社を訪問されました。その時お聞きしたのですが、高橋さんは日本・ブータン友好議員連盟の副会長をされているそうですね。長官には、ブータンにもぜひ一度来て欲しいといわれたのですが・・・。
高橋 私もまだ訪問したことがありません。人口が七十万人程度の小さな国ですから、常に日本に駐在している大使はいらっしゃらなくて、駐インド大使が兼務をされています。
元谷 昨年十一月にワンチュク国王が来日され、ブータンへの注目が高まりました。国王もそうですが、お顔だけを見ていると日本人そっくりです。
高橋 民族服も日本の昔の服装に似ている気がします。起源が同じなのかもしれませんね。
元谷 標高差の激しい国だそうですが、首都のティンプーの標高は二千三百メートル。標高三千六百五十メートルのチベットのラサよりはかなり低いようです。私は一度ラサを訪れたことがあるのですが、高山病になって、大変な思いをしました。
高橋 四千メートルに近くなるときついですね。
元谷 まだ車や列車などで時間をかけて行くといいらしいのですが、飛行機でいきなり到着すると、血中の酸素がしだいに抜けて行って、五~六時間後が一番つらい。夜は酸素ボンベを抱えて寝ていました(笑)。
高橋 私はリチウム資源の開発の交渉で南米のボリビアに行ったことがあるのですが、標高四千五百メートルのところもあって・・・。あれは辛かったですね(笑)。
元谷 一週間も滞在すれば慣れてくるといいますが、仕事の関係上そんなに長くは・・・。強い方もいるそうですが。
高橋 一般的には男性の方が高山病になりやすく、女性の方がなりにくいそうです。
元谷 外務副大臣もされていた高橋さんですから、海外へもいろいろと行かれているでしょうが、私もこれまで七十五カ国を訪問してきました。一月にはイスラエルを訪れ、念願の死海の浮遊体験をしてきました。ゆっくりと水に入ると、だんだん浮いてくるのです。普通の海水浴のように泳いでみたら、監視員があわてて止めに来ました。塩分濃度が高いので、仰向けに浮かぶのはOKなのですが、うっかり水を飲んだり水が目に入ると非常に危険なので、顔をつけて泳ぐのは禁止されているのです。私の目にもちょっと水が入ったのですが、とても痛かったですね。
高橋 それは貴重な体験です。私も民主党政権になってから経済産業大臣政務官や外務副大臣をやらせて頂き、かなりの数の海外出張を行いました。特に外務副大臣の時には半年で地球を五・五周した計算になります。なんせ十三泊三十六日でしたから(笑)。
元谷 ホテルで宿泊するよりも、機中泊が多かったということですね(笑)。
高橋 酷い時は二泊九日というのがありました。時差ボケする暇もありません。実は先日も南米のパラグアイに行ってきたばかりなのです。
元谷 私はパナマより南の国には行ったことがないのですが・・・。パラグアイは南米大陸のど真ん中にある国ですね。今回の出張の目的は何だったのですか?
高橋 パラグアイのイグアスという街に日本から移民した人々が暮らす移住地があるのですが、そこから東日本大震災のお見舞いにと、豆腐百万丁分の大豆と豆腐に加工するためのお金を送っていただいたのです。その御礼に行ってきました。
元谷 イグアスというと世界最大の滝で有名なところですね。
高橋 はい、そうです。滝はブラジル側から見ることが多いのですが、国境をパラグアイへと越えたところに移住地があります。もう移民三世や四世の方々なのですが、アメリカの日系人とはちがって、皆さん日本語をしっかりと話されるのです。素朴な街並みの雰囲気と相まって、五十年前の日本人の姿を見た気がしました。若い人も多く、日本の五十年前の希望に満ちた若人という印象でした。
外交を日本も模索せよ
元谷 この五十年で日本は大きく変わりました。昔の日本人の方が気骨もあり、教育も当時の方が良かった。そろそろ真っ当な教育を行う真っ当な国にならなければ、日本の先行きが非常に心配です。そう考えて、私は昨年から誇れる国・日本の再興を目指す私塾・勝兵塾を始めました。高橋さんにも今回、講師特待生として入塾していただくことになりまして。塾生には駐日大使が十九名もいらっしゃるのです。
高橋 民間の会合にそこまで大使が揃われるのも珍しいことです。
元谷 民間外交の一環として、積極的に大使の皆さんとお話をする機会を増やすようにしています。
高橋 外務副大臣をやってわかったのですが、外務省の人間は特定の国に偏った行動ができないため、他国の外交官と親しい話ができなくなっています。その部分を元谷代表が埋めてくださっている。
元谷 私から見ると外務省は偏り気味に見えます。とにかく中国とアメリカを慮り過ぎ。もっと日本の国益を考えた主張をしていくべきです。アメリカから毎年要望書をつきつけられ、言われたことにどう対応するかとか、要求にどう応えていくかなど受け身の姿勢ばかりではなく、双方の国益を尊重した独立国家にふさわしい外交の在り方を、日本も模索するべきではないでしょうか。
高橋 おっしゃる通りです。
元谷 民主党は一時期日本、中国、アメリカが正三角形の関係にと言っていましたが、これもどうでしょう。日米は安全保障条約で同盟関係にある一方、中国は核ミサイルの照準を日本の主要都市に合わせています。どう考えても正三角形にはならないでしょう。理想ばかりを追い求めるのではなく、現状認識をしっかりと持つべきです。現実社会はバランス・オブ・パワーで成り立っています。民衆の弾圧を繰り返すシリアに対する国連の対応も、ロシアと中国の反対によって明確なものを打ち出すことができないままです。
高橋 そうです。まさに国際社会は鬩ぎ合いです。
元谷 ですから、日本の国益を全面に出す日本派の政治家がもっと出てこないと。どんな国も国益のために施策を練るものです。しかし日本の場合は国際的な平等を重んじ過ぎて、日本の国益を軽視する傾向が強いように思えるのです。
高橋 厳しいご指摘です。確かに日本の外交は戦後を引きずりながら、外の顔色を窺いながら行ってきた側面があると思います。
元谷 昨年は日米開戦の七十周年でした。もうこの辺で日本は独立自衛の普通の国を目指すべきでしょう。あまりにも相手を慮り過ぎているから、中国もアメリカも逆に不安になって日本を手繰り寄せようとして、無理難題をふっかけてくるのです。もっと芯のある政策をしっかりと行っていれば、どちらの国からも尊敬されるのではないでしょうか。
高橋 そうですね・・・。
元谷 また各国の駐日大使にお会いする時には、いつも国連の旧敵国条項撤廃にご助力をとお願いしています。今は多少は少なくなりましたが、日本は全体の二〇%に近い国連分担金を一国で負担していました。これは昨年GDPで日本を追い抜いた中国の五倍です。多額の分担金を支払ってきたのに、未だに旧敵国条項を撤廃させることができないのは、日本外交の失敗だと思います。
高橋 そうかもしれません。
元谷 この失敗の責任を外務省だけに押し付けるのは少し酷でしょう。世論をリードしてきた日本のマスメディアの責任も大きいと思います。そもそも直接民主主義からスタートした民主主義は、今やメディア民主主義となっています。前横浜市長の中田宏氏が書いた「政治家の殺し方」という本を読んでもわかりますが、メディアが政治家を抹殺することは、いとも簡単なのです。あることないことを書かれ、それに対して名誉毀損で訴えて勝訴しても、その時には世の中からすっかり忘れ去られている。だからどんな政治家もメディアを意識した話しかできなくなっています。一方マスメディアは基本「売れればいい」というスタンスですから報道内容も、不安を掻き立てたり、やっかみやひがみの記事ばかりです。こういうのは売れますが、安心とか幸せを前面に出した記事は売れません。ネガティブな報道ばかりだから、国がおかしくなってくる。メディアの規制を検討するタイミングかもしれません。
自分たちに従わせようとしている。
学校教育に組み込むべき
高橋 確かに日本人がおかしくなっています。パラグアイの日系人からは、「自信を持って胸を張って生きている日本人」という印象を受けました。しかし本国の日本人は、自らを卑下しながら生きています。震災にせよ経済にせよいろいろ大変な状況が続いていますが、今こそ日本人としての誇りをきちんと見せるべきでしょう。
元谷 おかしくなったそもそもの原因は、東京裁判によって歴史をねじ曲げたアメリカの政策でしょう。そのために中国は南京大虐殺、韓国は従軍慰安婦とありもしないことを日本に延々と訴え続けています。また日本政府もそれに対してその場しのぎで謝罪をしたために、「認めたじゃないか」と中国・韓国から追い打ちを受け続けているのです。国際社会では非を認めた場合、謝っただけでは済みません。必ず賠償問題が出てきます。まずはっきりと否定すべきだったのです。揉め事がある場合に、一旦それを認めてその場を納めようとするのが日本人の美徳かもしれませんが、国際外交では通用しないでしょう。
高橋 その通りですね。しかも逆に自らが主張するのが上手くないために、したたかな外交を行ってこなかったのです。
元谷 議論を避けるという国民性からか、ディベートを教育に組み込んでこなかったことが災いしているのでしょう。タフネゴーシエーターは欧米では評価されますが、日本では「ゴネ得」と非難の対象となります。価値観の違いですね。やはり日本でも議論や交渉を行う能力を高める教育をするべきでしょう。お互いしっかり主張しながらバランス良く結論を出していくのがベストであって、言われたことを全て受け入れているのでは、良い人間関係も緊密な国際関係も作ることはできません。
高橋 よくわかります。ただ海外から日本に帰ってくると、皆が優しくて、「ああ日本ってやっぱり居心地いいなあ」と思うのです。こういう国民性が、海外に出た場合には交渉力の弱さとなってしまうのかもしれません。
元谷 個人と国家は分けて考えるべきでしょう。個人的には中国でもアメリカでも、どんな国の人々とも仲良くするべきです。しかし国家間の交渉は主張のぶつかり合いですから、個人的な関係を国家間交渉に持ってくるのはおかしい。中曽根元首相は靖国参拝を中止した理由として、仲が良かった中国の胡耀邦が自分の参拝を理由に失脚しそうになったことを挙げているそうです。しかし彼のその個人的な理由からの行動が将来の日本の国の在り方にどんな影響があるのかを、もっと真剣に考えるべきでした。外交は個を捨てた大きな視点で行わないと、結果的には国を売ることに繋がってしまいます。
高橋 全く同感です。
元谷 一つ外交方針を間違えただけで消滅するような弱小国家であれば違ったのでしょうが、なまじ豊かな日本の外務省は間違った外交をずっと続けてきました。ぜひ高橋さんにも、これを正すために尽力して欲しいです。
高橋 わかりました。
今後大復活を遂げる。
日本の将来のための政治を
元谷 政局を見ていますと、今後の動向次第ですが、今年の衆議院解散の可能性もあるかなと・・・。
高橋 断定はできませんが、議員の皆さんの腰が浮きつつあるのも確かです。
元谷 石原新党や大連立などの動きが出ているのは、今の政局をなんとかしなければという思いが大きくなってきているからでしょう。民主党と自民党の大連立というシナリオもあり得ますが、石原新党を核に真正保守の考えを持つ議員が自民党からも民主党からも結集して、この勢力が他の政党と連立を組むという可能性もあるのではないでしょうか。これまでは保守=アメリカ派、左翼=中国派でしたが、今は皆日本派にならないと。右も左も保守も革新もなく、日本の政治家は日本の将来のために大同団結するべきでしょう。
高橋 そうですね。メディアの影響力を意に介さず、政治家や政府が堂々とした主張を行って国民をリードしていかなければなりません。そのためにも、大同団結した安定した政権が必要です。
元谷 小選挙区制が良くなかった。過半数以上の有権者の支持が必要になりますから、世論に阿る政治家がどうしても多くなります。かつての中選挙区制であれば一部の支持でも当選できますから、政治家がもっと自分の主張を前面に押し立てることができました。国民の方を向くのは良いことですが、それがメディア向きになっていては本末転倒です。
高橋 メディア世論と一般の世論は異なりますから。
元谷 私にはマスメディアが故意に政治を従わせようとしていることに問題があると思っています。しかし今はインターネットが普及し、個人が表明した意見を多くの人が知ることが可能になりました。ひょっとしたら、ネットで皆が意見を出し合うことによって、直接民主主義の復活が可能ではないかと考えることもあります。
高橋 なるほど。
元谷 三年前の田母神事件の時でも、新聞やテレビは一斉に政府見解と異なる論文を書いた田母神俊雄氏を批判しましたが、ネットの世論調査では約五〇%の人々が田母神氏支持を表明していました。メディア世論とネット世論は乖離しているのです。そのネットの力で、わずか一年の間にチュニジア、エジプト、リビアの政権が転覆しました。日本でもこれまでのようにマスメディアを通じて民意を探っていては、間違った方向に向かってしまうかもしれません。
高橋 ITや携帯電話など日本はガラパゴスと呼ばれる独自の進化をしていますから、世界の変化にどれだけついていくことができるか、推移を注意して見守る必要があるかもしれません。
元谷 政治学者のハンチントンは世界を八つの文明に分けましたが、日本は一国のみの日本文明として扱われています。日本は二千年以上の歴史を持つ尊い国。これを理解せずに、日本の良さを否定し、他国のものばかりを賛美して取り入れようとするから、変な国柄になってしまうのです。日本は中国から漢字や仏教など多くの文化を吸収しましたが、纏足や宦官、階級制度などは受け入れなかった。ちゃんと良いもの、日本に合うものを選択しているのです。かつて推古天皇は大国・隋に「日出ずる処の天子、書を日没する処の天子に致す」という国書を送り、自ら誇りを持って天子と称しました。今の政治家もこの故事を思い出し、誇れる国・日本の復興の一翼を担っていただきたい。
高橋 おっしゃる通りです。ただ日本にいると日本の良さがわからなくなります。
元谷 私も海外に行って、キューバのカストロや韓国の金泳三らとディベートを行うことで真実を追求していくうちに、日本のマスメディアがおかしいと気づいたのです。アジアやアフリカの国々は日本を「人種平等を実現してくれた国」と考えています。
高橋 私もインドネシアを訪れた時に、日本の戦いに対して感謝する人が多いことに驚きました。オランダからの独立戦争でも、多くの旧日本兵がインドネシア側で戦いましたし。これらもほとんど日本で報道されることはありません。
元谷 アジアが日本を見る目がまた最近変わってきています。膨張する中国に対する警戒から、日本を中心に結束しようというものです。
高橋 アフリカでもその動きがありますね。昨年二月にあるアフリカの国の要人から、もっと日本に積極的に進出して欲しいという要請を受けました。中国からのODAには問題が多いと気づき始めているようです。日本にとってはチャンスです。
元谷 中国資本がアフリカで現地の人々に過酷な労働を強いていることで、暴動が発生したりしているようですね。中国の進出に批判的な人が増え、逆に日本に期待する声が高まっているようです。この好機にアジアやアフリカとの連携を強め、アメリカにも中国にも支配されない国家として、日本は独り立ちをするべきです。
高橋 その通りです。
元谷 経済でも今が復活のチャンス。日本はここ二十年でバブルの精算を行ってきましたが、アメリカのバブルはリーマンショックで弾け、中国もバブルが崩壊し始めたばかり。精算にはまだまだ時間がかかり、経済成長が間違いなくスローダウンします。日本はGDPでいずれ中国を抜き返すことになるでしょう。そのためにも自信を持って、日本を良い国にしていかなければなりません。高橋さんの今後の活動に期待しています。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
高橋 下を向かずに前を向いて、私もそうですが、若い人には突き進んで欲しい。
元谷 坂本九ですね。「上を向いて歩こう」(笑)。
高橋 上ばかりではなく、前を向いて(笑)。しっかりと歩いていって欲しいです。
元谷 同感です。今日はありがとうございました。
高橋千秋氏 Chiaki Takahashi
1956(昭和31)年三重県生まれ。1980(昭和55)年明治大学を卒業、三重県経済農業協同組合連合会、株式会社新東通信などを経て、2000(平成12)年参議院・三重選挙区補欠選挙にて初当選。以後当選3期。民主党政権において、経済産業大臣政務官や外務副大臣を歴任。現在経済産業委員会筆頭理事、民主党広報委員長。
対談日:2012年2月8日