Essay

藤誠志 社会時評エッセイ234:今年を日本復活の元年としよう

藤 誠志

製造業の新興国シフトで
先進国の財政は赤字化した

   雑誌「選択」一月号に「新興国『成長幻想』の終焉」という記事が掲載されている。その冒頭はこうだ。「二〇一二年、世界経済は厳冬期に突入しかねない。二十一世紀に入って、世界の成長を牽引してきた中国、インド、ブラジルなどの新興国の景気が失速し、新興国需要を追い風にしてきた先進国経済も浮力を失うからだ。低賃金と巨大な人口、地下資源しか強みのない新興国、政権政党が選挙に勝つことしか考えず、財政規律を失った先進国の経済は一一年、ユーロ圏でまず馬脚を現した。中国市場の常軌を逸した急膨張、資源ブームなどの熱狂のなかで見落とされてきた新興国リスクが噴出、世界経済は宴の後始末を迫られつつある」。世界経済の様子が一変したのは一九九〇年前後だ。冷戦の終結により、旧ソ連などの社会主義国は市場経済を取り入れた中国、ベトナムなどを除いて消え去り、東西経済を隔てていた壁が無くなったからだ。「折からの情報通信革命、サプライチェーンの高度化などによって、グローバル企業は世界中で生産や物流の最適地を探せるようになった。選ばれたのが、東欧やアジアであり、とりわけ中国が世界から製造業の投資を吸引した。企業にとって、適地選択の上で最も重要な要素は、人件費の安さと労働力の豊富さだった」「途上国は賃金の安さや地理的優位性を訴えて外資の導入を競い、トルコ、インド、ベトナム、インドネシア、バングラデシュなどが続々、成長軌道を走り始めた」。
 「米欧の製造業は九〇年代初頭から生産拠点を途上国に移し、国内拠点の維持を重視していた日本企業も競争力確保のため後を追った。工場が移転することで、先進国では製造業の雇用が縮小、結果的に先進国の労働者の所得は低下し、先進国のなかでは、金融関係や経営者層、専門職と工場労働者の間で所得格差が急拡大した」「格差への不満や失業者を放置したままでは選挙に勝てない先進国の政府は新興国、途上国に奪われた雇用をカバーするために公共事業の拡大や失業保険、社会福祉制度の拡充を進めざるを得なくなり、今世紀に入って政府の財政赤字は膨張していった。若年層の失業率が三〇%を越えるギリシャで信用不安がまず起きたのは当然だった」。
 更に要約すれば「ユーロ圏でギリシャ、スペインにとどまらず、イタリア、ベルギーにまで信用不安が飛び火する状況」で、要注意なのは「アジアの通貨危機のように投機マネーが特定国の国債、通貨を売り浴びせ、急落させることで莫大な利益を上げようと虎視眈々となっていること」だ。当面世界経済は過去の異常な高成長の反動に悩まされ続けることになるだろうと、この記事は結ばれている。

ヨーロッパもアメリカも
経済への不安が拡大中だ

 スタートしたばかりの二〇一二年だが、まさに今年は世界経済が大きな変動を迎える年だ。過去を振り返ってみると、日本経済は戦後の廃墟の中から復興を始め、朝鮮戦争やベトナム戦争の特需で急成長し、更に米ソ冷戦時代には、アメリカの同盟国としてソ連に対峙する不沈空母となることで、「冷戦漁夫の利」とも言える経済発展を獲得した。一九八〇年代になり、レーガン大統領はソ連に打ち勝つために急激な軍拡を志向し、スターウォーズ計画を高々と掲げ、世界中の国々にドルをばら撒いた。これに経済的についていけなくなったソ連は崩壊への道を進み、東西冷戦はアメリカの勝利で幕を閉じた。冷戦後の世界一極支配を目論んだアメリカは、「グローバリゼーション」という名の下に、「アメリカンスタンダード」を世界中に押し付け始めた。また伝統的にヨーロッパのテリトリーである中東にも触手を伸ばそうと画策し、イラクの石油を手に入れるために湾岸戦争を開始した。これら一連のアメリカの動きに危機を感じたヨーロッパ諸国は、一致団結してEUの権限を強め、ユーロ体制を築き上げてこれに対抗しようとした。一方、アメリカは血と汗と莫大な金を注ぎ込んで冷戦に勝利したものの、賠償金などが獲れるわけでもない。その代わりに、冷戦漁夫の利で太ってきた日本や韓国、台湾、シンガポール、タイなどのアジア諸国にツケを払わせようとして、タイの通貨・バーツの空売りからマレーシアのリンギット、フィリピンのペソ、韓国のウォンなどの空売りによってアジアの通貨危機を創り出し、莫大な富を手にした。その後、情報通信技術の進歩に伴ってIT革命が起こり、アメリカ経済を更に繁栄させた。しかし二〇〇一年に「九・一一」のテロが勃発、対アフガン、対イラクと泥沼の対テロ戦争に突入したり、国内での対テロ対策に膨大な支出を行うことで、アメリカの経済的な強みは、次第に失われていった。
 一方、ヨーロッパでも、そもそも財政が健全ではない国までユーロに加盟させたという過去の失敗が表面化、ギリシャ危機に端を発した信用不安が大きな問題となってきた。また低賃金によって世界の工場となっていた中国は、賃金の上昇に伴ってその地位をベトナムやインドネシア、バングラデシュなどに明け渡し、自らは内需拡大による経済成長を画策した。そのためにインフラに莫大な投資を行い、高速鉄道網なども驚異的なスピードで建設し、バブルを生み出し続けてきた。しかし昨年、高速鉄道が事故を起こすなど、この無理な成長戦略ももう限界だ。世界のあらゆる経済の仕組みが今年を境に変わろうとしている。

考えが同じ政治家が集まり
力強い政権政党の誕生を

 バブルの崩壊から二十年間、日本ではデフレに見舞われ経済成長も滞っていたにも拘らず、世界全体ではインフレと経済成長が続いていた。しかしこれは、中国のバブルを見るまでもなく、国が借金をして内需を創り出すいわば偽りの成長だ。急速な官需による経済成長を見直し、実際の人々の購買力に見合った需要によって世界経済を立て直すタイミングがやってきた。これは日本にとっては千載一遇のチャンスではないだろうか。「ものづくり技術立国」という旗印の下で経済を成長させてきた日本には、世界に誇るべき技術が豊富にあるからだ。
 今年は世界中で選挙があり、ロシアやフランス並びにアメリカと多くの国々でトップが変わる可能性がある。中国も選挙はないが、国家主席が胡錦濤から習近平に変わることが確実視されている。日本では二〇〇九年にバラマキ公約で人々の夢だけを膨らませて政権を獲得、だが結局何も出来なかった民主党が政権崩壊寸前である。現世代が未来の資産を先食いするような年金・福祉政策を立案し、その財源として消費税を二〇一四年に八%、二〇一五年に一〇%と段階的に引き上げを行う方針を示しているが、民主党内でもこれについて賛否が分かれている。この増税を巡る対決が原因で、日本でも今年解散・総選挙が行われ、民主党が下野する可能性が高い。
 世界の状況は悪化するばかりだ。この二~三年で中国のバブルは更に崩壊するだろうし、それに追随して多くの途上国や先進国も経済が停滞するだろう。信用不安に揺れるヨーロッパも、不景気からの脱却に苦しむアメリカも、将来に希望が持てる状態ではない。しかし日本は既に二十年以上もデフレ経済で停滞を続けており、特にこの三年間は民主党政権によって政治も経済も最悪の水準にまで落ち込んだ。党綱領もない選挙当選互助会である民主党が分裂し、真正保守の政策で一致する議員が集まり、大連立を行って、新しい政党が誕生し、選挙による洗礼を受けた上で、衆参ともに多数を獲得し、しっかりとした政策の下、再出発を行えば、世界中が混乱する中で日本が再び経済成長を行うことが出来る可能性が非常に高いのではないだろうか。この政党の中心となるのは、民主党から媚中派の官公労や日教組出身の議員を除き、自民党からも中国派や韓国派やアメリカ派と見られる人達を除いた「日本派」と呼ぶべき人々だ。正しい歴史認識を持ち、「誇れる国『日本』の再興を目指す」ことがこの政党の必要最低条件になるのは、言うまでもない。
 今が良ければ…と赤字国債を乱発する様なことは、未来への責任放棄だ。ギリシャがおかしくなったのも、ユーロ圏入りによって評価が高まった国債をヨーロッパの多数の銀行に引き受けさせ、その金で公務員と年金を増やすという真っ当ではないことをやったからだ。そもそもユーロ圏入りの時の財政報告をギリシャが粉飾していたことが明らかになったのが、今の信用不安の発端なのである。
 不安を煽り、僻みとやっかみの記事を書けばよく売れると言うが、一月十九日の朝日一面トップ記事の大タイトルは、「福島の食事 一日4ベクレル」とあり、一日4ベクレルの数値がいかにも危険なように一面最大文字で書き、その次に台つき文字で「セシウム摂取量 本社・京大調査」とあり、その次に「内部被曝 国基準の40分の1」とあるが、本当の調査結果を書くのであれば、これを一番先に書くべきだし、そもそもタイトルは「福島の食事は全く安全だった」とすべきで、これは新聞一面トップの記事ではない。にも拘わらず朝日は敢えて不安を煽るように書く。よく読めば小タイトルで書かれた「自然放射線よりはるかに低い量」の通りで「この食事を毎日一年間、食べた場合の被曝線量は0・023ミリシーベルトで、国が四月から適用する食品の新基準で、超えないよう定めた1ミリシーベルトを大きく下回っていた。福島でもっとも多かったのは、一日あたり17・30ベクレル。この水準でも年間の推定被ばく線量は0・1ミリシーベルトで、新基準の十分の一になる。原発事故前から食品には、放射性のカリウム40が含まれており、その自然放射線による年間被曝線量は0・2ミリシーベルト(日本人平均)である。セシウムによる被曝線量はこれを下回った。調査した京都大医学研究科の小泉昭夫教授は、『福島のセシウム量でも十分低く、健康影響を心配するほどのレベルではなかった』と話している。一九六三年から二〇〇八年まで文部科学省が調べていた同様の調査では、六十年代に米国、旧ソ連、中国が大気圏内で核実験を盛んに行っていたことから、日本の食卓で含まれていたセシウムの中央値は2・03ベクレル(六三年)だった。今回の福島の水準は二倍程度と言える。一方、東京や千葉、群馬などの関東地方に住む十六家族のうち七家族は、検出限界以下だった」という。福島の食事は全く安全だったということなのに、タイトルだけ見れば真反対の印象を与えて不安を煽っている。
 民主主義は唯一無二の最高の政治形態というわけではない。本来は直接民主主義だったものが、人が増大したために間接民主制へと移行していったのだが、新聞やラジオ・テレビの出現など想定以上のメディアの発達によって、メディアが意図的に世論を操作出来ることとなり、本来の民主主義が機能しなくなった。メディアによって出来もしないバラ色の未来が宣伝されたことで、先の総選挙で一気に民主党政権が誕生した。
 世界の何処の独立国家でも「自分の国は自分で守る」「国の歴史に誇りを持てる教育をする」のが当たり前である。また、どんな国でも税収を上げるために景気を良くしようとする。自国の景気振興を図るべく世界中から投資を受け入れる手立てを色々と工夫する。日本はこの先も、ものづくり大国としての「科学技術立国」と、この美しい国土を活かす「観光立国」を目指して行かなければならない。そのために羽田空港を仁川空港に負けない東アジア一番の二十四時間稼働のハブ空港とし、東京駅と七~八分で結ぶリニア特急新線を作り、羽田空港界隈を経済特区とし、海外からの投資に一定期間の法人所得減税や固定資産税の免除をする。そこでは臨空工業団地として工場誘致をしたり、ホテルやオフィスを作り、空港ビルには一大空港ショッピングセンターを作り、その中には巨大な免税のデューティーフリーショップを入れ、同時にこの区域に国際カジノの建設を認めて、マカオやウォーカーヒル、ラスベガス、最近のシンガポールなどに吸い取られている金を取り返し、観光立国の目玉とする。併せて建物や設備の償却期間を短縮すると共に、最先端技術への投資は初年度一括償却とするなどの加速度償却とし、消費税の増税分を福祉だけに充てるのではなく法人税や所得税の減税にも充てる。こうした政策を掲げる政党に政権を取らせるべきだろう。急速な円高が問題視されているが、これはアメリカよりもヨーロッパよりもこの先の日本経済に期待したいということだ。この強い期待に応える政権が卓越した世界観と歴史観を持つリーダーの下に誕生すれば、日本が飛躍的な成長を回復して、再びGDPで世界第二位の座を奪い返すことも夢ではない。混迷の幕開けとなった二〇一二年だが「乱世にチャンスあり」だ。是非後に今年が日本復活の元年であったと言われるような年にしたいと思う。

1月25日 午後5時20分校了