「ご意見番」がいなくなった。
政治家は小物になった
元谷 本日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。
荒井 私の身長ですとスモールトークになるかもしれませんが(笑)、よろしくお願いいたします。一月四日の新聞広告を拝見しましたが、今実行されているアパグループの頂上戦略というのは凄いですね。代表はまさに低迷する日本経済に活力を吹きこんでらっしゃると思います。
元谷 震災の影響でまた都心の地価が下落したこともあり、さらに追加で土地を購入。昨年アパグループは四十周年だったのですが、それに合わせて東京都心で四十カ所の開発を目指します。あと目標まで九カ所です。
荒井 代表をはじめとした財界人に活躍していただいて、日本経済をなんとかインフレぎみに持っていかなければならないですから。
元谷 日本は二十年間もデフレ状態が続いていますが、これは長すぎます。この間日本の名目GDPはずっと停滞を続けており、昨年はとうとう中国に世界第二位の座を奪われてしまいました。しかし中国の今の経済発展はバブルですから、これが弾けた後は日本が再び世界第二位になるでしょう。
荒井 予言ですね(笑)。
元谷 中国のマンション価格も思惑による投資で上昇し過ぎました。上がるから買う、買うからまた上がるというのは日本のバブル期と全く同じですが、実需がついてきていない。買ったマンションに誰も住んでいませんから。もう兆候は出ていますが、この二、三年で中国の不動産バブルは完全に崩壊し、GDPも下がるでしょう。日本が堅実な経済運営を行なっていれば、中国を抜くことは確実です。
荒井 代表のように広い視野を持った実業家が今の日本には少ない。また財界にも政界にも懐の深い「ご意見番」といえる人がいなくなり、残念です。
元谷 少し辛口になりますが、小選挙区制で政治家が小物になりました。以前の中選挙区制度では二〇~二五%の得票率でも当選できましたから、政治家も思い切ってモノが言えました。今は五〇%以上の得票率が必要ですから、自分の考えを抑えて、有権者やメディアに受けが良いことを言わなければならない。情けないことです。
荒井 政治家がサービス業という迎合政治家になってしまっています。
元谷 政治家はメディアが作った世論やその結果である「世論調査」に振り回されています。特に民主党にその傾向が強い。元々党の綱領もない、選挙に当選し政権をとるという目的のためだけに作られた党です。実現を目指す統一の政策がありませんから、政権をとったら所属議員がバラバラの考えを持っていることが露呈して、動きがとれなくなってしまった。バラ色の公約を並べていましたが、結局何も実現していません。
荒井 おっしゃる通りです。
元谷 おもねることで真実を押し殺してしまっているのは政治だけではありません。世の中全体がそう。今日本企業のほとんどが中国からモノを買うか、中国にモノを売っていますから、中国のご機嫌を損ねたくない。これが原因で、日本経済新聞やNHKなどのメディアや経団連などの経済団体までもがおかしくなってしまっています。
荒井 私は中国外交に力を入れて来ました。安倍晋三さんとは同期当選の盟友です。議員になった時に二人で話して、安倍さんはアメリカ。私は英語が苦手で、身長の高い人々には抵抗がありますから(笑)、中国に目を向けることにしたのです。中国や韓国と日本の間には依然として歴史問題等がありますから、誰かが必ず繋がっていて、そのパイプで是々非々を言うことが必要と考えたからです。
元谷 政治も経済もそうなのですが、本来、真実はどうなのかを問うべきなのです。南京大虐殺では約三十万の人々を日本軍が虐殺したと中国側は主張していますが、これは物理的に不可能です。目撃者も一切いないことから虐殺自体がなかったという説が有力になっているのに、日中歴史共同研究で東京大学の北岡伸一教授は、三十万人は多いから二万~二十万人でと犠牲者数を妥協により減らし、虐殺を認めてしまいました。
荒井 なる程。
元谷 東京大空襲や広島・長崎への原爆投下で三十万人を殺戮したアメリカが中国の主張する南京大虐殺を否定しないのは、自己正当化のためです。日本は中国で虐殺を行った悪い国だから、空襲や原爆もやむを得ないという…。このようないわれのないことを妥協して認めるというのが良くない。学者も財界もメディアも中国を慮って、妥協と迎合を繰り返しています。これを中国は利用して、非難・中傷を何度も行うことで、日本からODAなどお金を引き出してきたのです。
人と迎合しない意志が必要
荒井 代表は中国や韓国だけではなく、ズバズバ、アメリカへも物申すのですね。そこは非常に共感します。
元谷 日本の政治家には親米のアメリカ派と親中の中国派はいるのですが、親日の日本派がいないのです。日本で「国益を追求せよ」と言うと右翼というレッテルを貼られるのですが、どこの国に国益を追求しない政治家がいるでしょうか。最大の問題は選挙のために、政治家が有権者とメディアに必要以上におもねっていることです。メディアも国民も間違った教育を受け、間違った報道で育っていますから、これにおもねると政治がおかしくなるのです。
荒井 「聯合艦隊司令長官 山本五十六」という映画が公開されています。半藤一利さん原作ですが、この中で「何に対して忠誠を誓えばいいのか」という問いに、山本五十六は「産んでもらった父母と育んでくれた故郷、つまりは日本を、国を愛して守ること」と答えています。まさにこれが代表の原点にあり、今の私達日本人が大切にしなければならないことでしょう。
元谷 どうも海外で暮らす人の方が愛国心が強くなるようです。日本にいると間違った報道に触れる機会も多くなりますから、考え方がおかしくなっていくのでしょう。レベルが高いといわれる経営者や学者、政治家の中でも根本的な考え方がおかしい人が多いですね。真実を追求せず、迎合してみんなと同じ事を言っています。「出る杭は打たれる」の言葉通り、日本は他人と同じ事を美徳とする国ですが、リーダーはこれではいけません。しっかりと自分の意見を述べる人に、国を引っ張っていってもらわないと。
荒井 私も反省すべきところが多々あります。政治家は、落選すると人格全てを否定されたように思えて、それが怖いのです。だから国家ではなく選挙区ばかりを見ていて、視野が狭くなってしまう。大局でなく政選局優先です。
元谷 市会議員の選挙区のような狭い小選挙区もあるのです。天下国家を論じるべき国会議員が、市町村議会や都道府県会議員と同じレベルの視野しか持てないところが大問題なのです。小選挙区にしたら世の中全て変わるとメディアに思い込まされたのが間違いでした。
荒井 小泉さんの郵政改革の時と同じ。民営化しても結局、日本は良くなってはいませんね。メディアの報道スタンスが一番の問題だと思います。
元谷 結局メディアは記事が評判になればいいのです。やっかみひがみ、不安を煽る記事は世の中に受けます。逆に安全とか成功したという話は人気がありません。
荒井 芸能界では「悪名は無名に勝る」という言葉があるそうです。これが一般的になりつつあるということでしょうか。
元谷 そういえば、荒井さんも昔はよくテレビに出ていましたね。
荒井 退学です(笑)。常にテレビを意識していると、自分がなくなるような感覚に襲われるのです。代表のいわば「元谷史観」は、長年歴史を深く掘り下げた成果だと思いますが、一方テレビなどメディアは上っ面だけ。私もどう自分が格好よく映るかを問題にして、正しい主張は二の次になっていました。
原発事故は日本を苦しめる。
国民の政府不信を招いた
元谷 福島の放射能は第二の歴史問題となりつつあります。科学的根拠がないのに不安を煽るメディア、またそれに迎合する人々がいて、日本の混乱を招いています。昨年の第四回「真の近現代史観」懸賞論文で最優秀賞を獲得した札幌医科大学教授の高田純氏に新年会で講演をしてもらったのですが、低線量の放射線で明確にわかっているのは、百ミリシーベルト被曝すると、致死性のがんが発症するリスクが〇・五%上昇するということだけです。それ以下の被曝に関しては、疫学的に有効なデータがないのです。
荒井 私は被災地ですが、大きな心理的被害を与えるのが原発災害なんです。
元谷 それなのにメディアはさらに低い放射線量でもあたかも健康に害があるような、不安を煽る報道に終始しています。現状では福島で放射線によって死んだ人はいないのです。しかし二〇ミリシーベルトという基準によって強制的に避難させられたために亡くなった方が多数いらっしゃいます。CTスキャンを三回受ければ、被曝量は二〇ミリシーベルトを上回ります。自然放射線によって年間数十ミリシーベルトの被曝をしているにもかかわらず、住民が元気に暮らしている地域が世界にはあるのです。にもかかわらず一ミリシーベルトという低線量を除染の基準にするなどということは、意味なく国家の支出を増やしているだけ。本当に健康に害があるのかどうかを見極めた上で報道を行うべきです。現状は、メディアの煽りに国民が大騒ぎ、それに国会議員が振り回されている状態です。
荒井 私は今、国会がつくった事故調査委員会の報告を見守っています。
元谷 脱原発になれば、石油メジャーが大喜びですよ。高田純さんの研究では、過去最大の核被害があったのは中国のシルクロードであり、最悪の場合数十万人が死んでいるというのです。シルクロードや広島、長崎、チェルノブイリとは異なり、福島原発事故では死んだ人は一人も出ていない。むしろ風評被害で大きな損害が出ています。高田さんのような放射線防護の専門家であり、実証データをきちんと持っている人にはテレビからお声はかからず、もっと不安を煽るような人ばかりがメディアに登場しています。
荒井 本当に。誰を信じるかが問われるのが、原発災害の本質でしょう。
元谷 南京大虐殺も従軍慰安婦も、国外に対してきちんと否定できる政治家に登場して欲しい。相手が強く出ると妥協して・・・を繰り返して追い込まれてきたのが今の日本の状況です。末期の自民党政権も妥協を繰り返して、すっかり左翼政権になっていました。それを如実に表わしたのが、田母神航空幕僚長の更迭でした。日本は良い国だったと言っただけなのに、諸外国からの批判が来る前に、従来の政府見解とは違うという曖昧な理由を付けて、航空幕僚長を辞めさせたのです。その田母神さんも原発事故は第二の歴史問題となって、日本を苦しめると言っています。
荒井 日本の政治家はリーダーの「リ」の字、マスメディアはオピニオンの「オピ」ぐらいです。足元を掘り下げて自分自身を深めていく作業をしないから自信がない。自信がないからノーが言えない、事実を示すことができないのです。私が常に心がけたいのは、明確に判断できる場合には、「違う」ということをはっきりと相手に伝えることです。
元谷 それが言えない人が妥協して、北岡教授のように認めてはいけないことを認めてしまうのです。一歩後退、全面崩壊ですよ。
荒井 政府は昨年九月三十日に福島第一原発から二十~三十キロメートル圏の緊急時避難準備区域を解除し、居住可能としました。しかし、その一週間後に米国は、自国民に対し三十キロ圏内への妊婦、子ども、高齢者の居住は避けるようにというトラベルアラートを出しました。これで被災者はますます混乱。だから、私は、ワシントンで米国政府に撤回を求めました。しかし、改善なし。
元谷 同心円の避難区域という考え方がそもそもおかしかったのです。SPEEDIという莫大な税金を投入したシステムがありながら、全く参考にしなかったのは大失態でしょう。
荒井 政府は、隠していました。知らずに放射線量の高い場所に避難した人も出た。「人災」なんですよ。これは国家の危機管理上、大変な問題です。
元谷 ただ「高い」といっても、避難するような線量ではありません。放射線の報道でさらに間違えているのは、一瞬の線量と累積の線量をごっちゃにしていることです。時間をかけて累積で百ミリシーベルになったとしても、人間には修復力があるので影響はないのです。一トンの重みが一気にかかれば圧死するかもしれませんが、肩たたきが累積で一トンになったとしても、気持ちがいいだけです。
荒井 政府は、なぜ事故直後に安全保障会議を開かなかったのか。大災害にも対応可能です。そうすれば、有事として国のシステムを全て活用することができたはず。コトを小さく納めようとしたり、その能力がないのに事態をコントロールできると国民に思わせたり。その結果政府は信用を失って、科学的に安全な線量と国民の心情的に安心できる線量が大きく乖離してしまったのです。
元谷 荒井さんの立場としては、福島県の有権者に対して「今の基準では駄目。もっと厳しく!」と言わないと、今の状況では支持を得られないでしょう。しかし二十ミリシーベルトで避難したり、一ミリシーベルトや五ミリシーベルトで除染をするのは、科学的には不合理なのです。
荒井 しかし心理的な不安が治まらないことはご理解ください。
元谷 これまでも何かあるとこだわりすぎるのが、日本人の悪いところだったのです。日本では誰も感染しなかったサーズ騒動の時も、どのホテルも一切受け入れなかった中国人をアパホテルではいつも通りに受け入れて、非常に感謝されました。鳥インフルエンザでもこれにかかって死んだ人はおらず、唯一の犠牲者は自殺した養鶏会社の会長夫婦だけで、彼らはメディアが殺したようなものです。過度な反応をしてしまうのは、やはりメディアに責任があります。不安を煽る報道をしないよう、規制する法律を制定する必要があるのではないでしょうか。
メディアリテラシーも重要だ。
復興策を進めるべき
荒井 マスメディアの報道の方法と、受け手である私達のメディアリテラシーといいますか、情報の受け取り方を鍛え直す必要があるでしょう。食品中の放射性セシウムの規制値について五百ベクレル/キログラムから百ベクレル/キログラム(一般食品)に下げて、厳しくしました。IAEAは放射線事故発生時の食品基準をセシウムの場合一千ベクレル/キログラムとしていますから、この新しい規制値は科学的というよりは、心理状態を慮って決めたものでしょう。そこで、一つ提案なのですが、例えば、「安全値」として五百ベクレルは変えずに、「安心値」として百ベクレルを定めるのはどうでしょう。安心値は努力目標であり、これ以上は厳しくしませんが、状況によって緩和できるようにするのです。
元谷 今の五百ベクレルの規制値を超えている食品を食べても、普通の食生活をしていれば何の問題もありません。同じ食品を一度に何キロも食べることなどあり得ないのですから。規制値を超えた作物を廃棄するのではなく、市場を作って格安で販売してはどうでしょうか。そしてそこで買い物をする人をメディアが先導して賞賛するのです。賞味期限を過ぎた食品がすぐに毒に変わるわけではなく、それは放射能の規制値を超えた食品も同じです。規制値と安全の問題を、きちんと理解しておく必要があります。
荒井 勘違いさせられてる人も多い。そこで、安全値と、子どもを思う気持ちや心理不安を考慮して安心値を設定することを提案するわけです。
元谷 一方報道する方は、もっと放射線や放射能のリスクをわかりやすく伝えるべき。ベクレルやシーベルトなど単位が異なるのも混乱の元です。昨年十二月に内閣府の有識者会議が報告書で示したように、「喫煙は年間一千~二千ミリシーベルト、肥満は二百~五百ミリシーベルト、野菜不足や受動喫煙は百~二百ミリシーベルトのリスクと同等」といった比較を広めていけば、もっと人々は安心できるはずです。
荒井 何しろ初めてのことで、体験してないことが災いしてますね。
元谷 あと何かあったらすぐに行政が悪い、誰が悪いという風潮も良くない。これも教育が原因です。
荒井 私は今年の一月四日、福島市の賀詞交換会で「わたしたち福島人は求めすぎてないか、謙虚さや自立する心を忘れていないか」というお話をさせていただきました。怒り出す方がいらっしゃるかな…と思っていたら、みなさん冷静に聴いていただけました。自立を目指す救済と復興にしなければ、成果がでないことになってしまいます。
元谷 それはいいお話をされました。メディアもそろそろそういうスタンスで報道をするべきではないでしょうか。そして先程から指摘しているように、あり得ないことはあり得ないとして、科学的根拠をしっかり持って情報を国民に伝達して欲しいですね。やるべき課題の多い日本ですが、荒井さんにはコツコツとひとつずつ、解決に向けて頑張っていただいて。
荒井 あともう一歩なんですが、政界再編で、草の根保守の政治を行います。
元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
荒井 今の日本の政治がおかしくなったのは、政党助成金と小選挙区制が大きな要因。党の言いなりになっていれば、努力少なく議席を守っていける。私が最初に立候補した時は中選挙区制で、まず無所属で出馬して革新候補を蹴り落として当選しないと、自民党の追加公認をもらえなかった。落選も二度しました。そんな試行錯誤で突き進んできた経験が、私の価値観とエネルギーの源泉です。若い方々には頭でっかちになるのではなく、まずやってみて経験を積む。そして闘う気力を心がけて欲しいです。
元谷 私も世界七十四カ国を訪れ、各国の要人とディベートを行うという経験を積むことで、世界の真の姿をつかもうとしてきました。そして日本は素晴らしい国、誇れる国・日本の再興を目指すという境地に達しました。荒井さんも、今度ぜひ勝兵塾でお話を。今日はありがとうございました。
荒井 楽しかったです。ありがとうございました。
荒井広幸氏 Hiroyuki Arai
1958(昭和33)年福島県生まれ。早稲田大学社会科学部在学中から徳永正利参議院議長の公設秘書を務める。1987(昭和62)年福島県議会選挙に出馬し、最年少で初当選。1993(平成5)年の衆議院議員選挙では自民党公認で初当選。以降三期。2004(平成16)年の参議院選挙に比例区から出馬して当選。2005(平成17)年新党日本を結党。2008(平成20)年改革クラブをつくり幹事長に就任、2010(平成22)年に改革クラブを新党改革に改党。
対談日:2012年1月10日