Essay

藤誠志 社会時評エッセイ233:日本は三たび原爆攻撃を受けない備えが必要だ

藤 誠志

先の日米大戦は
アメリカが求めた戦争

   雑誌SAPIOの二〇一一年十二月二十八日号に「日米開戦七十年目の真実」という特集記事が掲載されている。評論家の西尾幹二氏が、「米国が戦後『GHQ焚書図書』指定し歴史の闇に葬った『不都合な真実』を開封する」というタイトルで書いている文章は、次の様な一文で始まる。「戦後の日本人は、『なぜ日本はアメリカと戦争をしたのか』ばかりを問い続け、『日本の歴史に過失があり、それが原因で大きな失敗を犯した』と分析してきた。それとは裏腹に、『何故アメリカは日本と戦争をしたのか』は殆ど問うてこなかった」・・・。要約すれば、戦後GHQが行った「焚書」ともいうべき戦前・戦中の七千点にも及ぶ図書の没収による「洗脳」に触れ、「表題に『満州』ないし『満』の字が入った焚書図書だけでも三百点ほどあり、いかにアメリカが、特に満州をめぐる日米関係の真実を隠蔽したがっていたかが想像できる。」とある。
 アメリカの戦意には歴史がある。「『マニフェスト・ディスティニィ(明白なる運命)』という言葉がある。言うまでもなく、アメリカの白人種がネイティブ・アメリカンを征服し、黒人を奴隷として使役し、西部開拓をするのは神の意志によって定められた運命である、という意味だ。この一種の信仰に基づき、一七八三年にイギリスから独立した東部十三州で始まったアメリカは、原住民居住地の略奪、フランス、スペイン領有地の買収、メキシコ領有地の奪取などにより、十九世紀半ばに西海岸まで領土を拡大した。一八六八年にはロシアからアラスカを買収している。こうした『西進』のエネルギーに駆られたアメリカは更に海―太平洋に出ていった。一八九八年に戦艦メイン号を自ら爆破しておいて始めたスペインとの米西戦争に勝利してグアム、フィリピンを獲得し、同じ年に、東洋との貿易の重要拠点であり、北太平洋における軍事上の枢要な位置を占めるハワイを強制的に併合する。」そして、「太平洋の先には中国大陸があった。だが、日清戦争(一八九四~九五)で清が日本に敗北すると、中国大陸にはロシアとイギリス、更にはドイツ、フランスが進出し、既に国際的な勢力分布図が出来上がりつつあった。そこで特に、ロシアもイギリスも未だ十分に手を出していない満州に狙いを定めた。ロシアの力を抑えるため、日露戦争(一九〇四~〇五)では、時の大統領セオドア・ルーズベルトは日本寄りの立場に立ってポーツマス条約の締結を斡旋した。その条約締結直前に来日したのが、アメリカの銀行家で『鉄道王』と呼ばれたエドワード・へンリー・ハリマンである。日露戦争中、日本が発行した大量の戦時国債を引き受けていたハリマンは、日露戦争後に日本が設置する南満州鉄道の共同経営を桂太郎内閣に持ちかけてきた。小村寿太郎外相の猛反対によって実現しなかったが、その後もアメリカは満州を諦めなかった。南部支那は英仏に、中部支那はドイツによって既に勢力範囲が主張させられていたため、列国中最も資本力の弱い日本の勢力範囲となって日の浅い満州を比較的進出容易の地と考えたのだ。セオドア・ルーズベルトは日露戦争の講和に関して日本側に立ったので、一見『親日的』に思えるが、実はそうではない。」「日露戦争の最中、陸軍長官に宛ててハワイに一、二ケ連隊を駐屯させる必要はないか検討するよう求めたり、一九〇六年、サンフランシスコで起こった排日運動に日本政府が抗議すると、海軍長官に命じて日本を仮想敵国とする戦争のシミュレーション『オレンジ計画』を作成させた。」

アメリカはTPPを使って
中国を太平洋から追い出す

 共に遅れて帝国主義国家となった日本とアメリカだったが、「西へ西へと向かうアメリカの前に立ちはだかったのが、同じく若き大国である日本だった。」「この不可避の対立は」「アメリカの将来はこの太平洋を支配出来るかどうかの一点にかかっている」と述べたセオドア・ルーズベルトの言葉に代表される様に、「どちらかと言えばアメリカ側に原因があった。そして戦前の日本人はそのことを正確に捉えていたのである。」という。この文章は以下の様に締めくくられている。「この様に戦前・戦中の視点で歴史を辿ってくると、アメリカにこそ戦意があり、かの真珠湾攻撃とは、アメリカによる積年の理不尽な圧迫に対する日本の反撃の烽火であり、『西へ、西へ』と膨張してきたアメリカに対し、アジアの民草を代表して突きつけた『NO!』の声だったと言えるのである」と。
 同じ特集記事に、作家の佐藤優氏も、「太平洋への進出国家を叩く米国の論理は二十一世紀、日本ではなく中国を標的とする」という一文を寄せている。アメリカは太平洋を縄張りとする帝国主義国家であり、日本がその縄張りに対する脅威となったために、日米戦を望んだという佐藤氏の見解は西尾氏と共通している。世界中の紛争に手を出したアメリカは今、国力の低下に伴って、太平洋へと回帰しようとしている。更に論は進み、「現在、世界的規模で、国際秩序の帝国主義的再編が展開されている。主要国が核兵器を保有している状況で、国際紛争を戦争によって解決することに対するハードルが、大東亜戦争時と比較すると格段に高くなっている。」そこで使われるのが経済協定だ。佐藤氏は、「TPPが二十一世紀の『オレンジ計画』であり、そのターゲットは日本ではなく中国だ。」と看破する。空母を保有するなど軍事的に太平洋に進出しようとしている中国を、TPPの枠外において牽制しようというのがアメリカの狙いなのだ。「アジア太平洋地域の帝国主義的再編に関して、これまで日本は二股をかけていた。一つが日中を基軸とする東アジア共同体、もう一つが日米同盟を経済面で深化する効果を持つTPPである。野田政権によるTPP交渉参加表明を、国際社会は日本が東アジア共同体形成で中国と連携する路線を放棄し、米国の広域帝国主義政策の一翼を担う決断を行ったものと見ている」と佐藤氏は結んでいる。

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欺の口実で国威を発揚し
戦争を開始するアメリカ

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 鳩山・菅と続いた日中と東アジアの共同体構想だったが、TPPの交渉への参加を表明することで、野田内閣は中国寄りからアメリカ寄りへと外交スタンスを大きく変更した。先月のこの稿にも書いたが、この先に待ち受けている中国経済の崩壊は、日本にも大きな影響を及ぼす可能性がある。巨大国家中国が今統一を保っているのは、毎年二桁にも及ぶ経済成長力のおかげだ。しかしバブルが弾けることによって、これまでの矛盾が一気に噴出し、分裂・崩壊となるかも知れない。この際、ソ連崩壊時の様に幾つかの民主主義国家に分かれるというのは楽観的すぎるだろう。この分裂混乱時に台頭してくる、反日感情を煽り、愛国を掲げて民衆の心を掴む勢力が政権を取る公算が大きいと私はみている。韓国の財閥を代表する李明博大統領は、金正日の死亡により金正恩傀儡政権を担ぐ実質軍事政権と協議して北の安い労働賃金を魅力に連邦国家を目指す。その統一コストを日本に求め、核を持った北と韓国とで作る連邦国家は日本にとって大変な脅威となる。この二つの、連邦朝鮮と中国の反日愛国政権の成立は今後も非常に危険な存在となってくる。日本はこれらの事態に備えなければならない。
 先の大戦後、日本が再度大国に成長して脅威とならないように、アメリカは東京裁判史観を日本国民に植えつけ、その結果、私達はこれまで、「なぜ無謀な戦争を始めたのか」と、日本側の非のみを探し続けてきた。しかし西尾氏も佐藤氏も指摘する様に、そもそもアメリカは太平洋を自分の勢力圏と考えていた。だから日露戦争に勝利し満州の支配権を得て、第一次世界大戦では連合国として敗戦国ドイツが植民地としていたマーシャル諸島などの南洋諸島を委任統治することになり、太平洋上で真正面からアメリカと覇を競うようになった日本を疎ましく考える様になっていた。日本がどれだけ回避しようとしても、アメリカは一方的に戦争を欲していたのだ。折しもヨーロッパでの戦いは、ドイツの圧勝であり、国家の運命が風前の灯となったイギリスのチャーチル首相は必死にアメリカの参戦を要請してきていた。ヨーロッパへの不介入を公約に当選したルーズベルト大統領だったが、日本との戦争を口実に欧州戦線への参戦の道が開けると思い付く。真珠湾攻撃の一カ月も前から戦闘機(一〇〇機)やパイロットを米国政府が用意し、実質的には義勇軍の名を借りた対日戦闘部隊であるフライングタイガースが、中国で日本軍に攻撃を開始していたのに、宣戦布告が遅れたことを理由に、「騙し討ちだ」「リメンバー・パールハーバー」と抗日意識を煽ったのは、アメリカの定石だ。米西戦争の時も戦艦メイン号の沈没をスペインの仕業として、「リメンバー・ザ・メイン号」を合言葉に反スペイン意識を盛り上げた。アメリカの駆逐艦が北ベトナムの領海を侵犯して攻撃されたのに、公海上で攻撃されたと主張しアメリカは北爆を開始した。アメリカは常に欺瞞に満ちた口実を作って戦争を始める。真珠湾攻撃の時も、日本海軍の暗号と外交暗号を解読することで、アメリカは連合艦隊が接近してきていることを知っていた。だから真珠湾から空母のみを避難させたのだ。また「リメンバー~」と言うためには多くの犠牲が必要であり、ハワイの守備隊には解読した暗号の情報を伝えなかった。一千人近い犠牲者を出した戦艦アリゾナの沈没も、海側からの魚雷による穴は無く陸側に爆破口があることから、自ら爆破したのではないかとの疑惑も浮かんでいる。国益の為には自国民を殺すこともやむを得ないと考えるのは自らロシアの高層アパートを連続爆破して二〇〇人もの死者を出し、チェチェンゲリラの犯行だと主張し、チェチェン戦争を始めて選挙に大勝利し、ロシア大統領となったプーチンと同じだ。開戦から七十周年を迎え、日本もそろそろ、何故先の大戦が起こったのかをきちんと解明しなければならない。平和を唱え、自ら始めなければ戦争は起きないということはなく、仕掛けられる戦争もある。世界を眺めた場合、今最も戦争リスクが高いのは、金正日の死による後継体制をめぐる混乱の朝鮮半島や民進党政権の誕生の可能性の高い台湾海峡などがある東アジアではないだろうか。

IT技術の発達に合わせ
サイバー部隊の充実を急げ

 着々と核開発を続けてきたイランの核兵器も完成間近だ。サウジアラビアにも核兵器開発疑惑が持ち上がっている。東アジアでは北朝鮮が核を持ったが、中国分裂のとばっちりを防ぐために台湾も核武装へと走るかもしれない。取り残されることがないよう、日本もきちんと議論と準備を行わなければならない。その際、強く認識しなければならないのは、核の傘など存在しないということだ。自国を核反撃の脅威に晒してまで他国のために敵国に核攻撃をする国は無い。日本は核攻撃に備えないと、広島・長崎に次いで、三回目の核攻撃を受けることになる。
 情報技術の進歩で戦い方も変わってきた。先日報じられていたのは、高度なステルス性能を持つというアメリカの無人偵察機RQ一七〇をイランが「サイバーハイジャック」で奪い取ったというニュースだ。新しい兵器の開発には多くのコストや時間が必要だが、盗めばすぐだ。コンピューターやネットワークの発達によって、技術が盗まれて、すぐに真似をされてしまう可能性が高いという、混沌とした怖い時代になってしまった。弱小国家であっても、コンピューターとネットに長けたサイバー部隊を創設すれば、イランの様に最新兵器を奪取することも出来る。核兵器の技術も漏れ易くなり、核の拡散も進んでいくだろう。偶発的な核戦争の危険性やテロリストが核兵器を保有する可能性も高まっている。従来の様に、「先制使用は絶対にしない」という制御された国家だけではなく、狂気に満ちたテロリストでも、核兵器のコントロールをコンピューターのハッキングによって行うことが出来ることとなれば、大変な脅威だ。自衛隊に高度なサイバー部隊を創設することが急務となっているし、アメリカの核の傘に頼らない核抑止力を持つ必要も高まっている。私がかねてから提唱している様に、NATO五カ国(ドイツ・イタリア・オランダ・ベルギー・トルコ)が既に導入しているニュークリア・シェアリング(核共有)の検討を日本も開始し、関連国内法の整備や非核三原則の見直しなども進めていかなければならない。三つ目の原爆がまた日本に落ちることなど、絶対に避けなければならないのだ。その為にも日本は、金正日の死による混乱を避けて結束を図るために外に敵を作って危機を煽り、反撃される恐れのない日本に核威嚇を行う可能性の高い北と、核を持つ中国で軍管区同士が対立するという分裂内乱の危機に備えて、台湾と連携して、日本・台湾・アメリカとの三カ国でニュークリア・シェアリング協定を締結すべきである。
 戦後の日本は経済的な繁栄だけを求めて安全保障を蔑ろにし、極楽とんぼの様に暮らしてきた。これには非常な不安を覚える。しかしながら、日本は核の平和利用を推進し、高度な原子炉の開発技術も磨いてきた。あの東日本大震災の揺れにも耐え、水素爆発も起こったが一人の死者も出さなかった日本の原発技術を欲しがる国は多い。福島の教訓を踏まえ、日本は自国の為はもちろん、原発の輸出国として世界の為に、より安全な新しい原発を開発する使命がある。この様な今後の国家戦略を描き、ねじれ国会を正して、不安定政権から脱却するためにも大連立は必要だ。資産課税として不動産取得税や固定資産税が課せられている住宅を土地資産と同様に消費税を免税とする必要はあるが、消費税を国際基準に近づける増税で財政の健全化を図る事と、安全な原発輸出の推進と、TPP予備交渉で国益に沿う基準を作って参加する事の三つと個人・法人所得税の減税により景気回復をはかる事を軸とした政策協定を結んだ大連立政権が、「日本人の敵は日本人」という状況から脱して、誇れる国「日本」の再興を目指して行くことを私は願っている。

12月21日 午後0時50分校了