Essay

藤誠志 社会時評エッセイ232:迫りくる中国の分裂・ 崩壊の危機に日本は備えよ

藤 誠志

住宅バブルの崩壊から
中国経済の没落が始まる

  雑誌「選択」の二〇一一年十一月号に「極めて険呑(けんのん)『中国の不動産バブル』」という記事が出ている。要約すれば「『釣魚台(ちょうぎょだい)七号院』と名付けられたマンション群が完成し、販売され始めた。その『釣魚台七号院』のうち、最も高価格の三号楼は今年五月に完成、当初の売り出し価格は平均一坪約一千三百万円と中国最高価格となった。最高額の部屋の値段は約二十六億二千五百万円だった。一九八〇年代末のバブル期の日本をも遥かに凌駕する中国の住宅バブルであり、この数年はこうした異常な高価格もまかり通っていた。しかし、三号楼はそうした中国のバブル的発想を裏切る様に全く売れなかった。三カ月で当初の半値以下に値下げしても一戸も売れないままだ。中国の住宅価格はこの数年、急騰した。北京、上海などの中心部のマンション価格は百平方メートル(共用部分の面積も含む)で、七千万~八千万円と東京とほとんど変わらなくなった。収入が急増した中国の中流層といえども年収の二十~三十年分にあたり、とても手の出るものではなくなった。それでも崩れなかった市場が今、静かに崩壊を始めている。」という。
 「中国の不動産市場では、かつて政府機関や国有企業に勤め、住んでいた社宅を十三万円~二十七万円といった今では考えられない安値で払い下げされ、払い下げられた住宅のうち、一戸を市場価格で売却し、四千万円~五千万円といった利益を得て、それを原資に銀行からローンを受け、投資用マンションを買って価格が上がったところで転売する、いわゆる『マンション転がし』が多かった。しかし、住宅ローン規制の強化、金利上昇でそうした不動産利殖も困難になり、市場の形勢は『売り』に転じ始めている」。

 

ユーロ圏の運命は
核保有国のフランスが握る

 三年前のリーマン・ショックでは、リーマン・ブラザーズが破綻したことが引き金となって金融危機と景気後退が世界に広がったが、その背景にあったのがアメリカのサブプライムローン問題だ。従来であれば借入が不可能な支払い能力の低い人々への高利の住宅ローンがサブプライムローンであり、借りる側も貸す側も不動産価格の上昇を前提としてはじめて成立するものだった。最初は低利での返済だが数年後に急激に利率が上昇する仕組みになっており、借り手はその低利の間に転売して上昇分の利鞘を稼ぐか、価値の上がった住宅を担保にして、より利率が低いローンへの借り換えを行なっていた。低所得者でも住宅を手に入れることが出来るサブプライムローンによって、住宅価格が更に上昇するという循環で、五~六年の間に1・5倍から3倍とバブルが膨らんできたのだ。当然、住宅価格の上昇に陰りが出てくると同時に、サブプライムローンの返済が滞り始めて急速に不良債権化し、このローンが証券化されて数多くの金融商品に組み込まれていた為に、信用不安が世界中に飛び火したことは私達の記憶に新しく、まだその解決に至っていない。
 信用不安は、今またヨーロッパで大きな問題となっている。冷戦終結後、アメリカは世界一極支配を目指して、グローバルスタンダードという名のアメリカンスタンダードを世界中に強く打ち出してきた。これに対抗すべくヨーロッパが結束して出来たのがEUであり、通貨ユーロへの統一だ。しかし結束の規模拡大を急いだEUは、ギリシャの様な財政が健全ではない国のユーロへの参加まで認めてしまった。ギリシャは財政赤字を実際よりも低く見せる「粉飾」によってユーロへの加盟を認められ、何年間も公務員の雇用や年金を増加させて、束の間の繁栄を享受してきた。粉飾が発覚し、ギリシャ国債の格付けが下がったことによって、国債価格が下がり、ギリシャ国債を持つ多くのヨーロッパの銀行が経営危機に陥り、この銀行の救済で財政危機となる国が続出してユーロ全体への信用不安が高まり、統一通貨体制の崩壊の危機にまで至っているのは報道の通りだ。今後はどうなるのか予断を許さないが、このままの体制を維持出来ない場合、財政の健全な一部の国、例えばドイツ、オーストリア、ベルギー、フィンランド、ルクセンブルク、オランダ、スロバニア、スロベニア、エストニアが残り、これにフランスが加わって、より小さく強固なまとまりとなって残るのか、それともフランスも離れて崩壊してしまうのか、その鍵を握っているのは、やはり核兵器を保有しているフランスの去就だ。核はパワーの源であり、中心にパワーのない組織は成り立たないからだ。フランスの動向を含め、ヨーロッパの今後の動静に注意が必要だ。

多くの国で二〇一二年は
政治的に激変の年となる

 しかしヨーロッパの問題以上にリーマン・ショック以降の「冷えている」世界経済にダメージを与えるのは、この先確実に起る中国での不動産バブルの崩壊だろう。共産党一党独裁体制の維持の為に、絶え間ない経済成長が不可欠な中国は、二〇〇八年の北京オリンピックを頂点に分裂の危機を迎えると思われたが、二〇一〇年の上海万博やアジア大会、二〇一一年のユニバーシアードと国際的なイベントを連発、更に高速鉄道網の性急な建設などを推し進めて、膨大な公共事業による官需を創出し、どうにか経済成長を維持してきた。しかし常軌を逸した性急な高速鉄道網建設には無理があり、二〇一一年七月には高速鉄道の衝突・脱線事故を起こして四十人もの死者を出した。この事故をきっかけに、これまで引退をしたにも関わらず鉄道省を中心に賄賂や利権争いで依然力を誇示していた前国家主席の江沢民は力を失いつつあるが、無謀な高速鉄道網整備に関わるツケはマグマの様に中国の地方政府や銀行に溜まっている。不動産価格の上昇によってどうにか辻褄合わせをしていたこのツケは、不動産市場の冷え込みによって大爆発する可能性が高まってきた。これに拍車をかけているのが、これ以上のバブルの拡大を防ぐ為に行われた中国の銀行の住宅ローン規制だ。中国での不動産バブルの崩壊は、リーマン・ショックでも三~四割しか価格が下落せず、その後は小康状態を保ってきた欧米の不動産価格を更に暴落させて二番底をつけさせる可能性も高い。世界経済の牽引車だった中国経済の転落が、全ての国の経済を崩壊させる危険性がある。このことでこれまでの矛盾が爆発して中国共産党独裁国家が崩壊し、かつてのソ連の様に幾つかに分裂して民主国家となることに期待したいが、民主化の過程で反日・愛国をスローガンに世論を煽って、より過激な反日スタンスをとり、理不尽な要求をしてくる反日政権の誕生の可能性が高い。その時になって、かつての共産党政権の方がよかったと後悔しないようにする為にも、日本はこれに備えて一日も早く憲法を改正し、如何なる理不尽な要求にも屈しない強い抑止力となる独立自衛の出来る軍隊を作りあげなければいけない。
 経済的にも衰退して世界への影響力を次第に失いつつあるアメリカに対して、これまで中国は経済力を背景に軍事力の増強を図り、その勢力を拡大しようとしてきた。まさに今、世界の勢力図が変わろうとしているのだ。しかし今でも年間八万件もの暴動が発生している中国のことであるから、経済成長が止まれば民衆の不満を力で押さえることが出来なくなり、各地でデモや暴動が勃発するのは必至だ。フェイスブックやツイッターなどで見知らぬ多くの人々が連絡を取り合ってデモに参加し、その力がチュニジアのベン・アリ大統領を亡命させたジャスミン革命を始め、エジプトのムバラク大統領失脚やリビアのカダフィ大佐の殺害などで政権を崩壊させてきた。IT(情報技術)の普及によって、あらゆる情報がウィキリークス機密告発サイトによって暴露され、政権が変わる時代になったのであり、中国でも同じことが起きることは十分に考えられる。他国に先駆けてバブル経済の崩壊を経験した日本が、二十年間のデフレの時代を経て、漸く大都市都心部の不動産価格が収益還元法の理論値であるバブル経済ピーク時の十分の一から三分の一ぐらいまで下がったところでバランスしてきた。とはいえ中国でバブルが崩壊した場合には、日本も巻き込まれることは必至だが、その影響は他の国と比べれば小さいと言える。ヨーロッパや中国を震源地に、世界の情勢が大きく変化しようしているのは間違いないだろう。
 来年の二〇一二年は世界で政治的に大きな変化がある年だ。一月には台湾の総統選挙があり、民進党の蔡英文(さいえいぶん)候補が勝利して政権交代の可能性が高い。三月初旬にはロシアのメドベージェフ大統領が四年の任期を終え、再び
プーチン氏が大統領に返り咲く見込みだ。憲法改正によって四年の任期が六年に伸びた為、最大で二期十二年間のプーチン時代が到来する可能性が高い。この間に彼は再び軍事大国となるプーチン帝国をしっかりと完成させることになるだろう。三月中旬には、一党独裁国家で選挙のない中国で国家主席が交代期を迎え、現在の胡錦濤が就いている国家主席のポストが習近平(しゅうきんぺい)副主席に変わる。彼は前主席の江沢民の派閥に属していると言われている。鉄道省などを押さえていた江沢民だが、最近は病気と高速鉄道での事故で力を失いつつあるとも伝えられている。習新主席が誕生した時に、江沢民派と胡錦濤派の勢力がどうなるのかは、非常に興味深い。五月にはフランスの去就で崩壊か分裂かと見られているユーロの未来を決めるフランスの大統領選挙があり、十一月初旬にはアメリカ大統領選挙があり、オバマ大統領が再選されるかどうかが大きな焦点となっている。格差拡大を批判するデモが続いているアメリカだが、オバマ大統領は日本の民主党の様にバラマキ政策を並べ立てて格差批判のうねりを自らの味方とし、再選を果たそうとしている。その他、十二月には韓国の大統領選挙が行われ、李明博(イ・ミョンバク)大統領の再選の可能性は高く、北朝鮮で金正日総書記の院政の下、金正恩(キム・ジョンウン)に政権交代の可能性もある。金正恩体制となれば、日本から莫大な戦前・戦後補償と称する賠償金を脅し取り、核ミサイルの照準を日本に合わせている北と、技術と資金を持つ南が日本の資金で連邦国家を目指すだろう。来年はこれら世界の動きから目が離せない一年であり、この動向から日本の将来展望を見据え、国家戦略を立案しなければならない。

アメリカとの同盟の下
日本は独立自衛の国家に

 日本ではTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に参加するかどうかで、国論を二分する大論争となっているが、今回のTPPで中国が日本の参加に強硬に反対しているのは、日本を中華勢力圏に取り込みたいという意図があるからだ。一方、TPPに参加すればアメリカのいいようにされるという意見もある。しかし衰えがみられるとはいえ、未だアメリカは世界最大の軍事大国であり、日本の強力な同盟国である。中国は日本に核ミサイルの照準を合わせている国だ。日本は一日も早くアメリカなど九カ国との事前協議に参加して、来年にも始まる実質的な交渉に備えなければいけない。どんな対外交渉でも、全てにメリットは取れない。事前協議で十分に議論して、メリットとデメリットの双方を日本全体の国益に沿って判断してそのタイミングで参加か不参加の決断を下すべきだ。
 戦略という名の付いた会議は国家戦略会議を始め、たくさんあるのだが、日本の政治家には戦略がない。国家戦略とは即ち国防であるにも関わらず、その構成員に防衛大臣すら入っていない。泥沼のベトナム戦争から撤退を決意して以来、米国と共産中国は阿吽の呼吸で連携して、冷戦漁夫の利で世界第二位の経済大国となった日本に歴史問題を突き付け、負担を迫ってきた。しかし、アメリカは、ここのところ大国となってきた中国が南シナ海を自国の海及び領土だと主張することに対して、オーストラリアのダーウィンに海兵隊を駐留させることを決定。明らかにアメリカの対中スタンスが変わってきた。日本はアメリカと共に、膨張する中国と中国崩壊分裂の過程で過激な反日スタンスで政権を奪取するであろうポスト共産党独裁国家中国に備えて、非核三原則の廃止や集団的自衛権を認める国内法を整備して、自衛の為のローコストの抑止力としての核武装化をアメリカと協議して承認させ、進めるべきなのだ。その場合、直接核兵器を保有しなくても、独・仏・ベルギー・オランダ・トルコのNATO加盟五カ国が導入している「核兵器共有」のニュークリア・シェアリング協定をアメリカに迫り、これが認められなければ独自で核開発をすると宣言する。そうすれば独立自衛の国家として、日本独自の方針をしっかりと貫けることになる。今の世界の大きな流れをきちんと掴み、将来への明確な戦略と展望を持った政治家が、日本を動かす必要がある。これが出来なければ、早晩日本は中華勢力圏に取り込まれ、中国の属国となってしまうだろう。鳩山政権とも菅政権とも異なる野田政権は、いわば民主党の自民党化だ。この流れが政界再編・大連立に繋がる可能性が高い。その様な流れが起きたならば、少しは真っ当な政権となるよう、日教組の様な左翼勢力と手を切り、独立自衛の国づくりを目指す真正保守の勢力を加えていくべきだ。経済的にも政治的にも、これから波乱万丈が予測される国際社会を生き延びてゆく為には、分裂崩壊の過程で、日本に攻撃的、過激な反日政党が政権を取るポスト共産党独裁国家が中国に誕生する前に、日本はこれに備えた政権を誕生させるべきなのだ。その為に、私は毎月第三木曜日に『勝兵塾』という私塾を開催し、誇れる国日本の再興とその為の真正保守勢力の結集を目指している。十一月は自民党の元幹事長・衆議院議員 中川秀直氏や作家で明治天皇の玄孫の竹田恒泰氏の他、パレスチナとナイジェリアの駐日大使が講演を行った。興味のある方はぜひ『勝兵塾』のホームページを見て、私達の熱い思いを感じて欲しい。
11月28日 午後2時23分校了