Essay

藤誠志 社会時評エッセイ231:ネットで世界に拡がる格差拡大抗議運動。

藤 誠志

多くの人々の怒りを買ったアメリカの「格差」

  十月八日付の「Bloomberg GLOBAL FINANCE」の一面に『金融街デモ 全米拡大』というタイトルの記事が掲載されている。『銀行をはじめとする大手企業との格差拡大に抗議する米市民らによるデモの波は、起点となったニューヨークの金融街から首都ワシントン、西海岸のサンフランシスコへと全米規模に拡大した。ニューヨークでのデモの規模は推定一万人。同市ズコッティ公園に張り出された占拠情報掲示板によると、規模は全米一四七都市、海外二八都市に拡大している」という。抗議運動に参加している市民の声はこんなものだ。「『救済するのは米国民であって企業ではない。最低賃金を引き上げ、海外から仕事を米国に戻し、労働環境を改善する。こうした取り組みが必要だ』『国民は企業を救済した。それでいて今は、銀行は貸し渋りだ。彼らはただ金を抱え込み、従業員には巨額のボーナスを支払い、適切に税金を納めていない』」。各労働組合もこの抗議運動を支持しており、運輸労組のある支部は、「労働者と一般国民はすべての犠牲を払っている。米国経済を破壊した金融業者は無罪放免された」という声明を発表したという。
 アメリカでは、信用度が低い人向けで、非常に高金利の住宅ローンであるサブプライムローンの貸付残高が、十年ほど前から急速に増加した。住宅を購入する人が増えることによって、二〇〇〇年代前半には不動産価格がどんどん上昇していった。基本的にはサブプライムローンを借りる人は、自らが購入した住宅の価格が上昇したところで転売し差額を得たり、担保価値が増えたことでもっと有利なローンへの借り換えを行なっていた。しかし価格の高騰ぶりにも限界があり、二〇〇七年夏頃からの住宅価格の下落によって、転売もできずローンの返済もできなくなる人が続出した。一方このサブプライムローンの債権は証券化され、格付け会社により高い格付を与えられ、他の証券と組み合わせた金融商品として世界中で販売されていた。サブプライムローンの不良債権化に伴って、これが組み込まれた金融商品を保有していた世界中の金融機関が多額の損失を抱えるようになり、破綻が続出し、リーマンブラザーズも倒産、いわゆるリーマンショックが起こった。
 リーマンショックを契機に沸き起こった金融不安に対して、国が公的資金を大々的に投入して金融機関を支援、金融システムの信用の維持を図った。その結果、住宅不動産価格の下落は三〇%から四〇%に留まった。日本ではバブル崩壊から二十年が経ったが、不動産価格は場所によってはピーク時の十分の一、多くの土地が四分の一程度にまで下落してしまっている。これと比べると、わずかの間に二倍にも三倍にもなった住宅価格が三〇%から四〇%の下落で小康状態を保っているが、この先二番底があると考えるのが妥当だろう。
 アメリカの人々が怒っているのは、「格差」の問題だ。税金からなる公的資金を大量に投入され救済された金融機関だが、そこに勤めている人は危機の最中でも高給をもらい続け、景気が若干上向きになった途端に多額のボーナスを得ている。金融機関の役員が公的資金投入の責任をとったという話もない。その一方で金融機関の貸し渋りによって企業が倒産、失業する人の数が増え続けている。この格差に対する不満が、これらの抗議行動のそもそもの理由なのだ。

 

急激な緊縮政策に混乱が深まるギリシャ

 十月八日の読売新聞の総合面は、『英・ポルトガル二一行格下げ』という見出しで、『米格付け会社のムーディーズ・インベスターズ・サービスは七日、ポルトガルの金融機関九行と英国の金融機関一二行について、優先債務と預金の格付けを一?五段階引き下げると発表した』と報じている。これは極度に財政が悪化しているギリシャの国債が、いつ償還不能になるかという瀬戸際にあるからだ。『欧州では財政危機の深刻化を受けて、ギリシャ国債などを大量保有する金融機関の信用力が低下している』ために、金融機関の格付けが次々と低下している。大胆な財政の立て直しを迫られているギリシャだが、そのために打ち出した様々な緊縮政策で失業者が増大しており、市民が反対のデモを行い、ストライキもあって、市内は騒然とした雰囲気になってきている。この騒動の原因は、そもそも地下経済がはびこり税金を払わない人が多いギリシャが、国債をばらまいて金を集め、働く人の四分の一を公務員にして多額の年金を払うなどで美味しい思いをしていたことにある。ユーロで結びついたEU内では、一国の問題がヨーロッパ全体を揺るがす信用不安に発展してしまっている。
 チュニジア、エジプト、リビアなどで市民が立ち上がって独裁政権を打倒したジャスミン革命だが、この流れは中東だけのものと考えるのは間違いだ。世界的な景気の後退と失業率の増加に伴って、好景気の時には隠れていた様々な矛盾が表面化してきた。アメリカでは富めるものとそうでないものの格差の問題。ヨーロッパではギリシャ国債の暴落で銀行経営が悪化。不満のうねりが失業者の増大とともにアメリカ、ヨーロッパでも顕著になってきている。中東でも欧米でもデモで大きな役割を果たしているのは、ツイッターやフェイスブック、ウィキリークスなどインターネットのサービスだ。いろんな情報を誰もが知ることができるし、知らない人間同士が集まって抗議行動を行うことを可能にしている。ネットの力は凄まじく、実際にチュニジアやエジプト・リビアでは政権崩壊まで引き起こしているのだ。
 このうねりが中国へ波及するのもそう遠くないだろう。もともと中国は年間八万?九万件の暴動が発生している国だ。中国政府は北京オリンピックで需要を煽り、その後の経済の失速を恐れて、公営銀行に融資を強要し、不良債権の山を築きながら上海万博、ユニバーシアードなどのイベントを開催し、需要の創造を拡大させ土地と住宅価格を上昇させるバブル経済を続け、さらに中国鉄道部幹部の収賄拡大のためともいえる高速鉄道網の急速な建設を行った。その結果発生した鉄道事故に見られるように、安全面を無視した需要の創造は、当然のように悲劇を招く。日本はかつて地域振興と称して補助金を連発し、地方にドームやホールなど、その収益では維持費も出ない、造った時から壊す時まで赤字を生み続ける「ハコモノ行政」を全国で行った。この公共工事によって需要を作り続けてきたツケがバブル崩壊後に回ってきて、この二十年間のデフレ不況となっているのだ。

依然緊張感を増し続ける日本を取り巻く国々

 三年前のリーマンショックで、米国の住宅バブルの矛盾のつけを全世界で払う事になった。また今行われているアメリカのデモやギリシャのデモで、世界経済は一段と縮小する可能性がある。他にもツケはある。対テロ戦争として、アメリカが毎年多額な国防省予算(二〇一一年度だけでも七千二百四十六億ドル)を投じて、イラクとアフガニスタンで戦い続けてきたことのツケだ。衰退するアメリカは、今後オーバーコミットメントを止めて、かつてのモンロー主義のように、他エリアに干渉することを避け自国に直接関わることのみに専念することになるだろう。リビアではフランスが中心となったNATO軍がカダフィ追放に一役買ったが、イラクとアフガニスタンで手一杯のアメリカはほとんど加担しなかった。中東がヨーロッパの縄張りとはいえ、アメリカの衰退を象徴することだ。一方膨張する中国は矛盾も同時に拡大し、何らかのきっかけで内乱状態になる可能性が十分にある。核兵器を持ち、十三億人もの人口を抱える中国の内乱は、日本にも大きな影響を与えるだろう。ロシアはメドベージェフからプーチンへ大統領が移行することが確実視されている。プーチン大統領の任期は二〇一二年就任から六年であり、最大二期十二年間またプーチン時代が続く可能性が高い。ロシアはいよいよ軍事大国化し、プーチン帝国への道を突き進むだろう。北朝鮮は核の小型化を行なって、かねてから開発している弾道ミサイルに装着してアメリカを直接核攻撃できる能力を身につけるだろう。日本周辺の状況は、このように緊迫感を増しているのだ。
 直接本土が核攻撃される危険を冒してまで、アメリカが日本のために核を使用することはない。核の傘は全く幻想だ。日本は自分たちの国は自分たちで守るという独立自衛の気概を持ち、これに相応しい法体系の整備を行なって軍事力も拡張していかないと、厳しさを増す世界情勢の中では、野原に出た太った子豚のように牙をむく狼たちの餌食になるだけだろう。経済が停滞しているとはいえ、豊かな日本を恫喝して金をとろうという勢力はまだまだ多い。ありもしない南京での三十万人の虐殺を主張したり、武装解除で引き渡した毒ガス兵器を「遺棄した」とか、戦地の女性を慰安婦にするため強制連行したとか、因縁をつけられて日本はODAなどで多額の金を支払う羽目となっている。
 混乱して国力が衰退している時には、甘い言葉を囁く勢力が政権を取る。選挙当選互助会ともいうべき日本の民主党は先の総選挙で、国民の不満に対してバラマキ4K(子ども手当・高校無償化・高速無料化・農家個別補償)と呼ばれる政策を掲げることで政権を奪取した。しかしいざ実行に移そうとすると財源がなく結局撤回、バラマキ政権にも矛盾が続出し限界が見えてきた。あまりの政権の無能ぶりに国民も政治に強い不信感を持つようになり、一種の無政府状態になろうとしているのが現状だ。核を持つ中国や北朝鮮など日本を敵視している国が、日本を核兵器のターゲットにしていることに危機さえ感じない、情けない状態となってしまっている。今こそ日本は一丸となって結束を固めるべきなのだ。

脱原発では貴重な事故経験が無駄に

 日本を取り巻く状況はこの先も非常に厳しいものだ。そんな中で発生した東日本大震災の復興資金を野田政権は増税で賄おうとしている。しかしこういう時こそ、大規模な減税を行うと共に六十年間定額償還の相続税のかからない無利子建設国債を発行して、東京都心山手線地下に大深度地下の公共的利用に関する特別措置法を使って高速道路と地下鉄を造るインフラ投資をするなどの公共事業を興し、需要の創造を図ると共に全ての資産の法定償却期間を半分とし、特に五年未満の機械や事務機、研究開発費などを初年度一括償却とすれば、景気は回復する。そうすれば税収増によって減税分は取り戻すことができ、無利子の建設国債の償還はその利用料の収益で賄うことができる。バブル崩壊後、最初は失われた十年だったものが二十年になってしまった。さらにこれが三十年にならないような経済対策が必要だ。
 かつての日本と同じくバブル崩壊後の混乱期ともいえるアメリカでは、格差拡大への不満から、来年の大統領選挙では税金をさらに安くし福祉を厚くするというありえないバラマキ政策を掲げる政党が勝つかもしれない。しかしその後に待っているのは政治不信による無政府状態だ。冷戦時には共産主義・計画経済陣営と民主主義・市場経済陣営が対立しながら、ある種の秩序を形成していた。共産主義に比べれば民主主義が優れていることを実感することもできた。しかし共産主義の崩壊から年月が経ち、今は民主主義の価値が問い直されている混乱期だ。今後はアメリカ的な民主主義とグローバリズムが破綻し、世界全体が不安定な方向に向かっていくのではないだろうか。
 自らの足で立つ独立自衛の国家建設に向けて、私は三年前に「真の近現代史観」懸賞論文の募集を開始し、さらに今年から勝兵塾という私塾を始めた。駐日外国大使が六名、国会議員十二名も講師・特待生として入塾、その他の一般塾生も増え、大々的な啓蒙活動を開始している。日本は今は貶められているが、本来はもっと力のある国だ。アメリカやヨーロッパをはじめ世界中が困難な状況に陥っている今、日本が世界のリーダーとして牽引車となるべき時だろう。世界でバブルが崩壊して経済危機となっている現状の中で、二十年前にすでにバブル崩壊に遭遇し、そこから失敗しながらもなんとか経済を持ちこたえさせてきた日本の経験がきっと役に立つはずだ。
 不幸にも発生してしまった福島の原発事故だが、原子炉が千年に一回といわれるマグニチュード9の大地震で壊れたことが原因ではない。地震で運転(核分裂)が自動停止した後、津波で全ての電源が遮断され冷却装置が機能を停止し、原子炉が空焚き状態となり、再び核分裂が始まり、水素ガスを発生させメルトダウンが起こり、発生した放射性物質が水素爆発で拡散したという事故なのだ。運転員のミスにより格納容器もない黒鉛炉が核分裂中に爆発し、原子炉そのものが吹き飛ばされ燃えたチェルノブイリの事故とは根本的に違う。今回の事故に遭遇した日本が科学的根拠に基づかない風評被害(年間百ミリシーベルトの被曝で癌の発症率が〇・五%増えるといわれる中、わずか一ミリシーベルトしかないところまで除染、除染と大騒ぎし、対策している)で得た貴重な体験を破棄して脱原発に走るというのは、米国(石油メジャー)の謀略戦に乗ることで、みすみす世界への貢献の機会を逃すことに等しい。この事故をしっかりと分析して、より安全で安価な原発の開発を行い、輸出して世界中に広めるのが日本の使命ではないだろうか。そうしなければもっと不安な原発が世界中に、特に中国の沿海部に立ち並び、一旦事故が起これば偏西風によって日本が被曝し、日本海が汚染される。これを避けるためにも今回の福島原発事故の経験を生かして、より安全で安価な原発を創りだす義務がある。
 バブル崩壊と原発事故の経験を踏まえつつ、日本がいち早く力強い景気回復を行なって需要を創造、世界経済に貢献すると同時に世界のリーダーとなるべき時が来たと思う。勝兵塾の活動により、「日本人の敵は日本人」の象徴ともいえる民主党の売国政権に取って代わることができる真正保守の思想を持つ正しい政治勢力を創り出し、近いうちに政権を奪取できるように育てていきたいと考えている。
10月26日 午後4時22分校了