毎週のように爆弾発言を行う菅首相だが、七月十三日のサプライズは「脱原発」だった。翌十四日の読売新聞の一面では、菅首相の発言が次のように報道されている。「今後のエネルギー政策について、段階的に原子力発電に対する依存度を下げ、将来は原発のない社会を目指す考えを表明した。当面の電力不足の懸念については、国民や企業による節電や自家発電などで対応できるとの見通しを示した。首相が『脱原発』方針を明言したのは初めて。エネルギー政策の抜本的な転換となるが、具体的な時期や中長期的な電力供給の道筋は示しておらず、実現の見通しは不透明だ。経済界などに波紋が広がりそうだ」。さらに「電力供給について『国民、企業の理解と協力があれば、ピーク時の節電や自家発電の活用などによって十分対応できる』と述べ、深刻な電力不足は生じないとの見通しを示した。企業の自家発電の余剰分などを『埋蔵電力』として活用する考えとみられる」と報じている。
振り返れば、前原外務大臣が外国人からの献金問題で辞任、その直後に菅首相も同様に外国人から献金を貰っていたことが判明して、辞任騒ぎに…といったタイミングの三月十一日、彼にとっては天の助けとなる東日本大震災が発生した。菅首相はこれをチャンスと捉え、放射能汚染の不安を煽り国民を犠牲にすることで、自らの政権の延命を図り始めた。原発事故に関しては法令に基づかない形で浜岡原発を停止させ、さらに玄海原発の再稼働目前のタイミングで、また法令に基づかないストレステストの実施を言い出した。海江田経済産業大臣は点検のため運転を休止している原発の再稼働の方針を打ち出していたが、菅首相の突然のストレステストの強要により、全ての原発の再稼働がストップすることになった。EU加盟国では、このテストの実施が五月に決まり現在行われている最中だが、再稼働などの条件にはなっておらず、原発の運転自体は平常どおりに行われており、停止させられた原発はない。菅首相は原発の危険性を匂わせて人々の不安を煽り、一方で原発再稼働のハードルを高めることで反原発派の支持を得て、政権を一日でも長く維持しようとしてきたが、更なる延命策が今回の「脱原発」表明だ。今後の道筋や代替エネルギーも明確にしない単なる「個人的意見」というパフォーマンスが、日本中に混乱を招いている。菅首相が指摘する埋蔵電力だが、確かに、企業の自前の発電所などの「埋蔵電力」は約五千万キロ・ワットを超えるとされるが、それは停電時の短時間運転を想定したものであり、その発電コストは高い。
脱原発か反脱原発かという議論が激しさを増しているが、では日本の原発が全て停止したらどうなるかということを現実問題としてはしっかり考えなければならない。定期点検後の再稼働ができなければ、以下のような事態が来年には現実のものとなる。まず燃料費負担の増加だ。六月に海江田経産大臣が発表した試算によると、国内の原発が全て停止、それを火力発電で代替すると液化天然ガスや石油などの燃料費の負担が、年間で三兆円増加するという。さらに、その影響が結局民間企業にのしかかり、日本としての経済的損失は七兆二千億円にも達するという試算がシンクタンクから出されている。原発がなければ、日本企業の国際競争力は大幅に低下することになるだろう。
発電のための燃料費の負担が増えるということは、その分電気代が高くなるということだ。これまでも日本の電気料金は世界から見ると非常に高かった。二〇〇六年のデータだが、日本の産業用の電気料金は〇・一一七ドル/kWhであるのに対して、アメリカは〇・〇六三ドル/kWh、フランスは〇・〇五六ドル/kWh、韓国でも〇・〇六四ドル/kWhと、いずれも日本の約半額だ。これが原発停止によってさらに電気料金が高騰すれば、多くの企業の工場が日本から海外に流出することになるだろう。こういった影響をしっかり考慮した上で、原発の議論は行われるべきではないだろうか。
東京電力と東北電力の管内では七月から電力使用制限令が発動され、昨年比一五%の節電が大口電力需要家に義務付けられ、達成できない場合は罰金が課されることになった。七月十二日付けの日本経済新聞電子版によると、東電の藤本孝副社長がインタビューでこう答えている。電気使用制限令によって「『同じ気温でみた場合に一〇~一五%程度の電力使用量が減り、夏場は乗り切れるメドがつきつつある』と指摘した。その上で、東電よりも需給環境が厳しい西日本の電力各社に対し『要請があれば、応援融通を検討しなければならない』と述べた」
また七月十三日のテレビ朝日系「報道ステーション」で東電の西澤俊夫社長も藤本副社長と同様のことを述べたが、この番組では東電の供給量が七月末には五六八〇万kWに回復する予定であり、しかも東電管内の自家発電一六〇〇万kWの内、まだ一六〇万kWしか購入していないことを、さらにJR東日本の発電所など使われていない埋蔵電力が原発五十基分はあることを指摘している。今でさえ西日本の電力会社に融通できるほど余分の電力があるのに、東電管内の企業は電力使用制限令で苦しみ、一般の人も冷房を我慢して熱中症になるなど、痛ましいことが起こっている。
先月号のこの稿でも少し書いたのだが、今日本に脱原発の機運が高まっている背景には、私はアメリカの影を感じる。国連は先の大戦の戦勝国の集団で、GDPで世界第二位となった中国にはわずか三%の負担なのに日本には二〇%に近い国連分担金を課しながら、未だ旧敵国条項を外さない。その国連安全保障理事会の常任理事国の五カ国はいずれも核保有国だ。彼らは原子力利用の独占を常に狙っており、今回の福島原発の事故をきっかけに日本から原発を取り上げようとしている。かつての枢軸国であるドイツとイタリアでは既に、そのストーリー通りにフランスの原発で作った高い電力を買うことで脱原発が決まってしまった。三国同盟の残る一国である日本でも、その方向に向かっての世論の誘導が着々と進んでいる。アメリカはトモダチ作戦と称して大震災の救援活動を展開したが、一方で福島原発から半径八〇キロ以内からアメリカ人を退避させ、原子力空母も入れなかった。ヘリコプターで被災地から帰ってきた兵士には物々しく放射能除染を行ったが、どれだけの放射線量の場所に行っていたかは、一切公表されていない。これらのことが、日本のみならず世界に原発事故の恐ろしさを必要以上に植えつけることになった。
一家族二名までで二時間以内と厳しい制約の下で行われたあの防護服を付けた一時帰宅の風景を見て多くの人々が不安を感じたはずだが、その自宅での放射線量は全く発表されていない。避難区域も風向きを考えない同心円となっていて、必要がないのに強制的に避難させられた人々の中には、そのストレスで亡くなる方も出てきている。そもそも避難の基準となっている年間二〇mSvの被曝量はCTスキャン三回分で、飲酒や喫煙の発がんリスクよりも小さく、医学的には一〇〇mSvに満たない被曝で人体に影響を与えたデータはない。
アメリカが不安を煽り、それに手を貸す菅政権の施策や、そもそも健康に影響を与える恐れのない非常に低い基準値なのに、その何倍とか何十倍とかと報じ、不安を煽っている。放射能汚染牛騒動などのマスコミの科学的根拠に基づかない不安を煽る報道はまさに自虐的であり、歴史問題と同じ構図で、アメリカによる大きな謀略戦ではないかと私は考えている。二〇〇六年ウェスティングハウスの原子力部門子会社を買収した時、東芝は世界の原発のリーデイングカンパニーを目指すと宣言したこともまた、まだまだ科学的に確定していない二酸化炭素による地球温暖化説により、排出権取引で莫大な費用負担を必要とするような温室効果ガスの二五%削減を世界に約束した民主党鳩山政権がエネルギー戦略として火力発電を控えて電力の五〇%を原発で賄うとしていたことなどが欧米メジャーの怒りを買ったのかもしれない。かつて家電や自動車で日本企業が世界を席巻したように、原子力発電の分野で日本企業が世界をリードし、コストの安い電力を供給することができる原発輸出をベトナムとは基本合意し、ヨルダンやトルコとは交渉中で、震災後においてもリトアニアから優先交渉権を得ていて、この調子で世界の各地に日本製の原発を建設することになれば、石油価格が下がることは必至だ。これは産油国はもちろん、欧米メジャーを脅かすことになる。このことに脅威を感じていたアメリカは、大震災を絶好のチャンスと考え、原発の不安を流布することで、原子力から日本の手を引かせようとしているのかもしれない。
菅首相の強引な居座りの背景にアメリカの後ろ盾があり、菅政権はアメリカの謀略に手を貸し、国益を売り渡すことで延命を図っている。歴史が証明するように、アメリカの意に沿わず日本の国益を追求する首相は、早期に退陣を迫られた。アメリカからアフガニスタンへの陸上自衛隊の派遣やリーマンショックに際し多額の金融支援を求められた福田首相は、これを拒否するために辞任したとの説もあり、安倍首相は「戦後レジームからの脱却」でアメリカの神経を逆撫でしたためにシドニーでの日米豪首脳会談でプレッシャーをかけられ、その後精神的な病で職を辞することになったし、田中角栄首相は石油欲しさにアラブにすり寄り、反イスラエル姿勢を取り、アメリカの反発を買って失脚した。一方、アメリカの意に沿う政策を打ち出した中曽根首相やアメリカからの年次改革要望書を丸呑みしていた小泉首相は、長くその座に就くことができた。菅首相もアメリカの意に沿うことで延命を図ろうと脱原発を主張し、日本を消耗させ、日本国民を苦難の道へと導こうとしている。
私もリサイクルの利かない技術である原発の安全性を一点の曇りもなく信じているわけではないが、石油もガスも、飛行機も自動車も全ての技術にはリスクがあり、人類はこれをコントロールしながらそのリスクと引き換えにメリットを取って繁栄してきたのだ。戦後物づくりで経済大国となった日本がこれからは先端科学技術立国を目指して行かなければならない中、諸外国が安い電力を使って競争を仕掛けてきて、日本だけが「脱原発」と自らの手足を縛り、折からの超円高で国際価格競争力も奪われる。日本は中国に抜かれてGDPで世界第三位になってしまったが、このままではさらに第四位、五位へと低下してしまう。フランスはもとよりこの先中国はどんどん原発を建設し、アメリカもロシアもスリーマイルやチェルノブイリのトラウマから立ち直って自らが支配コントロールできる原発の輸出に力を入れてくるだろう。本当に日本は核保有国の思惑通りに脱原発をしていいのか、よく考えなければならない。
この脱原発に便乗して商売をしようという人間も現れた。ソフトバンクの孫正義社長は自然エネルギー協議会を立ち上げ、その第一回総会には全国三十五道府県の知事が集まったという。日照時間の短い日本には必ずしも向いておらず、発電コストが高く、補助金なくしては成り立たない太陽光発電所を全国に造るという計画だが、その前提は再生可能エネルギーの固定買取法案だ。この法案が通れば必ず買い取ってくれるのだから手堅い儲け話だ。二〇〇四年に固定価格買取制度を導入したスペインでは買取価格をあまりにも高額に設定したために、太陽光発電バブルが発生した。この再来を孫氏は狙っているのだろう。しかしスペインではバブルの結果、発電目標を大幅に超過、買取義務を負った電力会社が巨額の赤字を計上し、大混乱となった。この赤字のつけは、電力料金の値上げか増税でスペイン国民が支払うことになるという。孫氏は本当に日本国民のプラスを考えているのだろうか。
東電の発電能力は五六八〇万kWに達する一方、電力消費はピーク時でも四五〇〇万kW程度に留まっており、まだ二〇%の余力があるのに、現在まだ行われている鉄道の間引き運転などは早急に止めるべきだ。ピーク時も余裕でクリアできている現状を考えると、ピーク時以外の節電は有害である。節電で電力会社の収入は激減しており、賠償金を支払うために税金が投入される可能性を考えると、メディアや東電は昼間の二分の一しか使っていない夜間にもっと電気を使うことを奨励するべきだ。夜間はクーラーを使って快適さを満喫し、街もネオンを点灯して賑やかに。花火大会や盆踊りも中止せずに、どんどん開催すればいい。関電への供給を検討できるぐらいなのだから、全く問題はないはずだ。今すぐ開発すべきは電気自動車のバッテリーと互換性のある家庭用の安価な蓄電池である。安価な夜間電力を蓄電して昼間六時間程度を賄い電力の平準化ができれば、まだまだ電力は余力がある。太陽光発電への補助金をこの蓄電池の購入に充てるべきである。
今回の震災を招いたマグニチュード九にも及ぶ大地震は、これまでの記録上日本最大であり、世界でもまだ一九六〇年のチリのマグニチュード九・五と一九六四年のアラスカのマグニチュード九・二、二〇〇四年のスマトラのマグニチュード九・一しか確認されていないのだ。そんな日本では千年に一回の確率でしか起きないとも言われるものが、すぐにでもまた起こることを想定した高さ十八メートルもの津波堤防を一千億円もかけて浜岡に作ろうとしているが、津波が来てすべての電源が断たれても機能する、原子炉の熱を利用した蒸気機関で冷却する自己冷却装置を開発すべきである。併せて、原発の非常用電源設備を海抜二十メートル以上のところに大至急造り直すべきである。
この大震災は日本が生まれ変わるチャンスだ。メディアが早く科学的根拠に基づく正しい情報で、謀略渦巻く世の中を読み解くことができる賢明なリーダーを選ばないことには、日本は衰退の一途を辿り、いずれ中国の勢力圏に入ってしまうだろう。本来の日本はこんな体たらくの国ではなかった。一日も早く賢明なリーダーの下、誇れる国日本の再興を目指すべきである。そんなリーダー育成のために、私は『勝兵塾』の活動を開始した。原発解散は考えていないと菅首相は言っているが、脱原発に大きく傾いている世論を使って、解散・総選挙に打って出ようとしている姿が垣間見られる。しかし日本国民は、そんなことで菅総理の続投を認めるほど馬鹿ではないと、日本国民の良識に期待したい。
7月27日 午後2時04分校了