元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。稲田さんのご活躍は以前からいろいろと聞いていまして、私に非常に近い考えを持っていらっしゃる方だと、日頃から尊敬しておりました。
稲田 こちらこそお招きいただき、ありがとうございます。
元谷 稲田さんは小泉郵政民営化選挙で当選された俗にいう「小泉チルドレン」のお一人だと思いますが、民主党が政権を獲得した一昨年の選挙でも、見事小選挙区で当選されました。小泉チルドレンの中でも、これは非常に珍しいのでは?
稲田 はい。小泉チルドレンは八十三名いたのですが、二〇〇九年の衆議院議員選挙で二期目の当選を果たしたのは十名、その中でも小選挙区で勝ったのは四名でした。
元谷 そんな厳しい選挙に勝利して立派に活動されている稲田さんですが、稲田さん同様にしっかりとした真正保守の考えを持った国会議員を今後どれだけ増やすことができるか、そしてその議員達を自民・民主の枠を越えて連帯させることができるか、これが日本の未来を決めると思います。そのためにも、まずは真の近現代史観を、もっと世に広めることが必要なのです。
稲田 まだまだ東京裁判史観を信奉している人が多いのが現状ですから、代表がおっしゃることは非常に的を射ていると思います。
元谷 いまだに間違った歴史が「定説」となっています。日本の場合は高い社会的地位にある真っ当な人の多くが、マインドコントロールに罹っている状況であり、これがずっと続いているのが大きな問題なのです。
稲田 今日四月二十八日は主権回復記念日です。一九五二(昭和二十七)年のこの日にサンフランシスコ講和条約が発効し、日本は独立を回復しました。私が会長を務めている「伝統と創造の会」では、四月二十八日に毎年靖国神社参拝を行っています。自民党の中にも、四月二十八日を主権回復記念日にする議員連盟が発足し、野田毅先生が会長を務められています。これらの活動で、国民の東京裁判史観からの脱却を目指しているのです。
元谷 しかしこの日に果たして日本は本当に主権を回復したのでしょうか。私は憲法を改正しない以上、日本が真の意味で独立国家になったとはいえないと思います。
稲田 おっしゃる通りで、占領下の主権制限時に作られた根本法を、主権回復後にそのまま使い続けているのがおかしいのです。結果は同じになったかもしれませんが、主権回復時に自分達の憲法を制定するステップをきちんと踏むべきだった。これができない国など国家とは呼べません。
元谷 その通りです。そんな状態のまま、日本は大震災に見舞われ、恐れていた原子力発電所の事故が発生してしまいました。
稲田 代表は今回の事故とその対応をどうお考えですか。
元谷 福島第一原子力発電所の事故に関して、経済産業省原子力安全・保安院と原子力安全委員会は、国際原子力事象評価尺度(INES)による評価を四月にチェルノブイリの事故と同じ「レベル七」へと引き上げました。菅首相は事務レベルで決定した話で自分は関与していないといっていましたが、それが大問題なのです。一時期に大量の放射線が出て、何十万人の人が被爆し、数千人の人が犠牲となったチェルノブイリと福島の事故は明らかに異なります。これは放出された放射線量の累計値だけで判断するべき問題ではなかったはずで、菅首相は断固引き上げを阻止すべきだったのです。結局レベル七としたことで、何兆円という日本の国富が失われました。海外では、日本全体が放射能に汚染されているように報じられていますよ。
稲田 だいたい大臣が全員国会の本会議で防災服を着ているのが異様なのです。東京であんな格好をする必要は全くありません。海外に「東京にも危険がある」と発信しているようなものです。また会議ばかりを増やして、責任者がわからなくなっている。危機管理上の「やってはいけないこと」ばかりを繰り返しています。
元谷 菅内閣はウケ狙いのパフォーマンスばかり。やることなすこと、トンチンカンです。広報にせよ、例えば中国ならいつも同じ女性報道官が出てきて、自らの主張をまくしたてる。今回の原発事故の場合は官房長官に経産省、東電、原子力安全委員会が別々に違う話をするから、海外から疑いを持たれるのです。情報の発信を一元化、さらに報道官が英語で発表することが必要でしょう。
稲田 その通りです。ちゃんと情報発信ができていれば、韓国で起ったような「雨で学校が休校」などという馬鹿げたことは、起こら
なかったはずです。
元谷 風評被害というのは、マスメディアの報道とゼロ・リスクを求める国民感覚から生まれます。二〇〇三年に中国でSARS騒ぎが起った時も、報道によってほとんどあり得ない感染の可能性に怯えた多くのホテルが、中国人の宿泊を拒否したのです。しかしアパホテルは通常通りに宿泊の対応を行い、非常に感謝されました。それが評判になり、以降中国人のお客様の数がずいぶん増えました。SARSに感染した人が中国で何万人も出たわけではなく、犠牲者も数百人に留まったのに、メディアの報道により過剰反応が発生したのです。
稲田 そうでしたね。
元谷 今回の放射能の件も全く同じです。年間一〇〇mSvの放射線の被爆を受けて初めて、◯・五%がんで死ぬ人が増えるということが統計学上いえるのです。それ以下ではほとんどがんでの死亡率は変わらない。しかし今回は年間二◯mSvしか被爆しない地域まで計画的避難区域に入っています。少なくとも避難区域以外の人が大騒ぎする必要は全くありません。風向きによって放射性物質の流れは偏るのですから、そもそも避難区域が同心円というのもおかしい。政府はもっと科学的根拠による避難指示を出すべきでしょう。
稲田 まるで思いつきのような避難指示でした。
元谷 一時帰宅のあの物々しさも、非科学的で馬鹿げています。避難区域の放射線のデータを見ると、一番放射線が多い地域であっても、一カ月滞在しても問題ないレベルです。例えば住民一人ひとりに線量計を持たせて、被爆量を自己管理してもらってはどうでしょうか。
稲田 諸施策の責任者がいないのです。昨年の尖閣諸島での事件の時もそうでしたが、政治主導という名の下、誰も責任をとらないのです。
元谷 こんなことなら、非効率とはいえ、官僚主導の方がよっぽどきちんと機能していました。今は政府に従うのが馬鹿馬鹿しいと思っている人が大半ではないでしょうか。
稲田 菅首相の周りも、「なぜこの人に仕えなければならないのか…」と思っているそうです。
元谷 「この人のためなら死んでもいい」と思える人がリーダーになってこそ、部下は勇気を出してがんばって力を出せるのです。伝えられる話によれば、菅首相は「この震災で政権を二年は維持できる」と言ったとか。こんな人のために命を投げ出す気など、誰もおきないでしょう。そもそも震災がなければ、菅首相など外国人からの献金問題で、とうの昔に辞任に追いこまれています。
稲田 しかし今となっては…。ご自身で「運命」とかおっしゃっていますが、絶対に辞める気はないですね。
元谷 恥を知らない人です。小沢抜きの小沢派が民主党を割って出て、野党が提出した内閣不信任案に賛成することで菅おろしを実現するというシナリオが、一番現実的かもしれません。その後に大連立となったとして、首相は誰か。私は安倍晋三さんが最も相応しいと思っています。前回首相の時にも、しっかりと実績を残していますし。
稲田 教育基本法を改正し、国民投票法を制定、さらに防衛庁を防衛省に格上げ。それまでの政権ができなかったことを、一気に実行しました。
元谷 病気による降板は如何ともしがたかったかもしれませんが、日本では首相の再登板は非常にハードルが高い。戦後には一人もいませんから。また自民党という枠の中にいることでの困難さもあります。私は「真の近現代史観を確立する会」を立ち上げ、この会とトップとして同志を募ってはどうかと安倍さんに直接進言したのですが、受け入れられませんでした。安倍さんにもう少し蛮勇というか、創業オーナー的な視点があれば、二度目の首相就任もあり得ると思うのですが…。今からでも遅くはないので、腹を決めて行動していただきたい。
稲田 政治家にはしぶとさも必要ですから安倍先生には、もう少ししぶとくがんばっていただきたいです。
元谷 菅さんのような私欲からのしぶとさでは困りますが(笑)。
元谷 安倍さんにも期待していますが、稲
田さんのような方に、まさに総理の資格があるのではないでしょうか。変える時には思い切った政策を行う人が必要です。イギリスのサッチャー首相は、大胆な政策でイギリス病を克服して栄光ある大英帝国を復活させました。日本にも誇れる国日本の再興を実現させるリーダーが望まれています。
稲田 安倍先生が首相の時におっしゃっていた「戦後レジームからの脱却」ですが、一時期だけのスローガンとするのではなく、自民党がずっと引き継いでいくべき言葉です。自民党の結党精神が、この言葉には込められているのです。
元谷 いつの間にかその結党精神を忘れ、政権与党だけに執着するようになったのが、今の自民党の体たらくの原因です。その自民党政権下では政官業が癒着し、日本を非効率高物価社会にしてしまった。日本ほどの平均所得があれば、本来であればもっと皆が広い家をはじめ、豊かな暮らしを満喫できたのに、政治の非効率さが国民の豊かさを奪ってきたのです。
稲田 そうですね。二年前の選挙で自民党が下野して良かったのは、戦後の自民党政治を総括・反省し、結党精神を取り戻す機会ができたことです。財政再建問題も民主党を批判するだけでは駄目で、自らの政権与党時代を振り返らなければなりません。
元谷 自民党の変質が最もよく表れていたのが、田母神俊雄航空幕僚長の更迭でした。結党精神から考えれば、彼を更迭するなどあり得ないこと。自民党が再び政権を取るというのなら、まず田母神さんに詫びを入れる必要があると思いますよ。
稲田 その通りです。自分の国に誇りを持てない人の集団が、どうやって国を守るのでしょうか。
元谷 そういう真正保守の考えをもった政治家を、自民・民主の枠を越えて結束させるリーダーが必要なのです。男性の多い政治の世界では、男性同士の妬みからの足の引っ張り合いが激しいですが、女性の稲田さんであれば、人々を導くジャンヌ・ダルクになれる可能性がとても大きいと思っています。
稲田 そうおっしゃっていただくと、うれしいですね(笑)。
元谷 東日本大震災で大きな被害を受けた日本ですが、壮大な破壊の後には壮大な建設があります。過去の様々な困難も乗り越えて今の繁栄を築いてきた日本人の力は、世界に冠たるものです。しかしこの二十年間は経済の成長も止まり、その間に飛躍的な成長を遂げた中国にGDPで抜かれることになりました。しかしあんな矛盾を抱えたままでは、中国はいずれ分裂するでしょう。そういった事態に備えるためにも、日本は真の独立国として、独り立ちしなければなりません。アメリカとの関係も、このことを前提としていかないと。
稲田 アメリカは重要な同盟国ではありますが、日本が卑屈になったり、依存しすぎることはないと思います。
元谷 その通りです。震災にあたっても、アメリカ軍はトモダチ作戦を実施して、日本をいろいろと支援してくれています。しかしこれはアメリカにも思惑があってのこと。多くの原子力発電所など核関連施設を持つアメリカは、それら施設に対するテロ攻撃や放射性物質を拡散させる「汚い爆弾」によるテロを非常に恐れており、不測の事態が発生した時の対処策を練るための格好の材料として、今回の福島の事故処理に携わっているのです。実際の放射線の値を数十倍した想定数値に基づいて、アメリカ軍が核関連有事のシミュレーションや演習を行っているのも確かでしょう。こういった国益を考えてアメリカは支援してくれているのですから、日本政府も必要以上に腰を低くすることはありません。
稲田 どの国も自国の国益を冷静に考えて行動するのは当然です。日本だけが、そういったことに情緒的な反応をし、結果国益を損なうことが多いと感じています。
元谷 そうです。日本はもっと国益を意識して、独立国家としてその存在感を世界にアピールすべきなのです。これを実現するリーダーを育成するために、私は今回「勝兵塾」という私塾を作りました。大きくいえば、幕末から明治の指導者を育成した吉田松陰の松下村塾を目指すものです。松下幸之助の松下政経塾は現在多くの政治家を輩出、また稲盛和夫氏の盛和塾は若手経営者を多く集めています。勝兵塾はこれらとは異なり、誇れる国日本の再興を目指す人材を育てる塾です。本当の歴史を知り、本来世界に冠たる国なのに、どうしてここまで貶められたのかを考える勉強会を通して、きちんとした主義主張を持った人を育てていきたいと考えています。あとこの塾ではディベートを重視していきます。
稲田 今の日本の学校では、暗記ばかりで議論することを学びません。偏差値教育の弊害ですね。
元谷 そうです。勝兵塾では議論を通じて、教えられた結論ではなく、自ら答えを見つけ出していく機会を提供したいですね。
稲田 国会議員になって感じたのですが、国会で議論が行われているかというと、ほとんどやっていません。信念のある国会議員も少ないですね。
元谷 政治家の質が低すぎます。
稲田 小選挙区制によって、自らの意見をしっかり持つ人が国会から排除されています。
元谷 票の半分を獲得しようとすると、どうしても大衆迎合的になり、衆愚政治に陥りかねません。
稲田 そうなのです。結果意見をはっきり言う政治家が減り、何のために国会議員になったのかがわからない人が増えてくるのです。
元谷 本来は、まず候補者が自らの思いを伝えて、それに共感する人の投票によって当選し、思いの同じ同士が集まって政党となり、その党に属する議員が議会の半数以上を占めることで政権を取るというシステムになるべきなのに、今の日本ではそうなっていません。
稲田 おっしゃる通りで、政党内の考えがばらばら。自民党も、右からリベラルまで揃っていますから(笑)。
稲田 ところで今日、衆議院で朝鮮王朝儀軌など約千二百冊の図書を韓国に引渡す「韓日図書協定」が通過しました。これも…。
元谷 「ごめんなさい、返還します」ではなく、「貸します」でいいのです。旧植民地から多くのものを収奪した欧米諸国では、皆そうしています。
稲田 昨年八月に菅首相は日韓併合百周年の談話で引渡しを約束したのですが、この談話内では「意に反した植民地支配」などと彼の歴史認識の稚拙さが披露されています。
元谷 日韓併合は韓国側からの要請によって、東アジア地域の安定のために行われたことです。当時の世界情勢を全く視野に入れず、ただ自国の責任にすることがおかしいのです。張作霖爆殺事件にせよ盧溝橋事件にせよ、それぞれソ連の特務機関の工作だったり、中国共産党の劉少奇の謀略だったりが原因であることが明らかになっているのに、メディアは一切報道しません。
稲田 教科書にも嘘が書かれたままですね。
元谷 その通り。最大の欺瞞は、通州事件を教科書に載せていないことでしょう。どの国でも普通は教科書で自国を正当化しているのに、日本の場合は逆で、でっち上げの南京事件など、日本を貶めるようなことばかりが記載されているのです。
稲田 東京裁判で認定されたいい加減な歴史から、早く脱却しなければなりません。東京裁判史観で近現代史を教えられていますから、皆日本は駄目な国だと思い込んでしまっています。だからよくいわれるように、世界に出た時に全く日本のことを語れない。
元谷 情けないことです。
稲田 韓国の教科書には、なぜ竹島が韓国の
領土なのかがきちんと記述されています。日本ではそこまで明記しているものはありません。また、韓国では一つの歴史教科書が全学校で使用されています。日本だって勇気があれば、同じことができるはすです。韓国などが日本の教科書検定についていろいろ言ってきていますが、自国のためにそういう主張をするのは当たり前です。これに対して、日本政府がきちんと反論すべき。かつて「侵略」を「進出」と書き換えたという大誤報によって、日本の教科書政策が韓国・中国に非難されたことがありました。これをみても、マスメディアは本当に毒されています。
元谷 その通りです。
稲田 マスコミの偏向ぶりは映画『靖国 YASUKUNI』補助金問題でも明らかになりました。中国人監督による政治的な映画に文化庁所管の日本芸術文化振興会が助成金を出していたのです。日本が戦時中に行っていない蛮行を行ったと主張する映画を作るのは自由ですが、国のお金が使われているのがおかしいと私は主張したのです。それを全国紙から「検閲」だと問題をすり替えられ名指しで非難されたのです。馬鹿馬鹿しくなりましたよ(笑)。
元谷 そういう報道を主導しているのは、たいてい七◯年安保を経験した団塊の世代です。しかし田母神さんをきっかけに、三、四年もすると状況は急激に変わるのではないでしょうか。勝兵塾がこれを加速する存在になれば…と考えています。稲田さんにもぜひ講師になっていただきたいのですが…。
稲田 もちろん、喜んでお引き受けします。
元谷 ありがとうございます。最後にいつも「若い人に一言」をお願いしているのですが。
稲田 大学を出ても職がないとぼやく若者がいますが、何を甘いことを言っているのかと。親がいて、ご飯が食べられて、大学まで出してもらっていて、国が悪いとか社会が悪いとか言う前に、日本の国のために自分が何ができるかしっかり考えて欲しい。一度、特攻隊で散った若者の遺書を読んでみなさいと。
元谷 まったく同感です。稲田さんには、ぜひ将来の総理大臣を目指してこれからも頑張っていただきたいですね。今日はありがとうございました。
稲田 ありがとうございました。
稲田朋美氏
1959(昭和34)年福井県生まれ。1981(昭和56)年早稲田大学法学部を卒業、司法試験に合格、司法修習を経て1985(昭和60)年に弁護士登録。2005(平成17)年の衆議院議員選挙で初当選、法務委員会委員などを歴任。2009(平成21)年の衆議院議員選挙において、小選挙区で2期目の当選を果たす。現在自民党副幹事長、シャドウ・キャビネット法務副大臣。