Big Talk

ビッグトーク238(BIG TALK) 神道を中心とした日本精神が世界を戦いの繰り返しから救う

アメリカの大学で学んだ後、外交官の父の影響から外交関係の評論・執筆の道へと進んだ加瀬英明氏。福田赳夫、中曽根首相、外相や大手総合商社の顧問を務めるなど、戦後日本の外交史をつぶさに目撃してきた氏に、アラブ各国で起こっているネット革命の今後、イスラム世界とキリスト教世界の対立の根源、日本人としてどうあるべきかをお聞きしました。

リビアが内戦になったのは
いまだ部族社会だからだ

元谷  ビッグトークへのご登場、ありがとうございます。加瀬さんのことは昔からよく知っていて、ぜひ一度お呼びしたいと常々考えていたのですが、今日ようやく長年の夢が実現しました。
加瀬 こちらこそ、ありがとうございます。
元谷 月刊AppleTownもおかげさまで創刊から二十年を迎えました。数年前からこのビッグトークをはじめ、いくつかの記事の英訳も掲載しているのですが、そのおかげで各国の駐日大使に興味を持っていただけるようになりました。アフリカ各国やパキスタン・インドネシア・コスタリカの大使などとも、AppleTownが縁で対談をさせていただいています。
加瀬 コスタリカは私も訪れたことがあります。アリアス大統領の最初の任期のときでしたね。代表もご存知のように、コスタリカは軍備をまったく持たない国です。大統領にお会いする機会があったので、「他国の侵略を受けたらどうするのですか?」とお聞きしたところ、「日本やアメリカの軍隊が助けに来てくれると確信している」との答えでした。私は落胆させてはならないと思って、あえて日本の憲法の説明をしたのですが…(笑)。
元谷 期待していただくのはうれしいのですが(笑)。ただ人口比にして日本の自衛隊ほどの規模を持つ警察軍があるのです。軍隊ではありませんが、一定の重火器も装備しています。アメリカはパナマ運河を非常に重視していますから、コスタリカ周辺の地域の安定には非常に敏感になっています。それを踏まえてのアリアス大統領の発言なのでしょう。
加瀬 でも、大砲は博物館に中世の古い砲が展示されているだけです。
元谷 コスタリカの場合は地域のバランス・オブ・パワーが成立していますから、軍備の必要性が少ない。しかし力の均衡が破れたときに戦争は起こります。「備えあれば憂いなし」というのが、通常の国の感覚です。私もコスタリカを実際に訪れて、高等教育を受けた人も多く、安定した非常にいい国だという印象を受けました。メディアでの報道は、すべてユダヤやアングロサクソンのフィルターを通しているので、彼らに都合の良いニュースだけが流れます。これらだけを見聞きしていると駄目ですね。現地に行って、その土地の人とディベートを行って、生の情報を得ることが大切なのではないでしょうか。
加瀬 そうですね。またそもそも日本の新聞やテレビの報道では、海外のニュースがほとんどないというのも問題だと思います。
元谷 日本のメディアは芸能とスポーツ、ひがみとやっかみばかり。売れるものばかりを追いかけているからでしょうが、非常に情けないことです。

加瀬 世界を俯瞰する場合、どの国も「二〇一一年」にあると考えるのが間違いです。アメリカや日本など先進国はもちろん二〇一一年にいるわけですが、中東諸国では部族社会が継続していて、あたかも十七世紀とかそれ以前と考えた方がわかりやすい国が多い。もちろん中国も北朝鮮もまだ二十一世紀にはなっていません。
元谷 チュニジアやエジプトの政権が崩壊し、誰もが次はリビアだと言っていたのですが、私は政権交代ではなく内戦になると断言していました。チュニジアやエジプトでは一見民主革命が行われたように見えますが、事実は異なります。イスラム過激派が政権を獲得することを恐れたアメリカは、士官の米軍留学などで大きな影響力を持っているチュニジア軍やエジプト軍を使って、実質的な軍事クーデターを起こさせたというのが真相ではないでしょうか。一方まだ真っ当な民主主義国家としての体裁を持っていたチュニジア、エジプトに対して、リビアのカダフィはいわば部族の長のようなもの。革命とはならず内戦になったのも、そもそもあの国が部族同士で争いを続けている、日本でいえば戦国時代のような状態だからなのです。
加瀬 リビアには百四十の部族と氏族があるといわれていますからね。

ジョン・レノンも夢見た
一神教のない平和な世界

元谷 伝統的にアラブの産油国はヨーロッパの縄張りです。湾岸戦争は、冷戦に勝利したアメリカがこの地域にちょっかいを出そうとしたもの。しかしその後のイラク戦争やアフガン戦争でアメリカは疲弊、今回のリビアの件でも航空機の飛行禁止区域などの措置に、なかなか主導権を発揮できないままです。ヨーロッパは反政府側について、内戦後
のリビアの石油利権を獲得しようと虎視眈々と狙っています。石油という観点で今の情勢を分析しないと、なかなか本当のこと
は理解できないと思います。
加瀬 チュニジアの首都・チュニスの中心にある旧市街には、公認された売春宿がありました。チュニジアという国は他のイスラム諸国よりも宗教離れが進んでおり、観光に力を入れていたこともあって、現地の女性のビキニ姿も見られたし、アルコール類を飲むこともできました。売春婦も一人ひとり鑑札を受ける公娼制度がとられており、彼女たちは税金も支払っていました。
元谷  世界最古の職業ともいわれていますからね。
加瀬 十六世紀に北アフリカはオスマン帝国の支配を受けたのですが、イスラム教国でありながら、オスマン帝国では売春が認められていました。チュニジアではこの伝統が残っていたのです。しかし先般のデモの際に熱狂的なイスラム教徒が売春街に向かい、火炎瓶や棍棒で破壊行為を行いました。結果チュニジアの暫定政府は、売春を未来永劫禁止せざるを得なくなったのです。
元谷 そうなのですか…。 
加瀬 酒屋やバーも襲撃を受けました。この状況はイランでの一九七九年のホメイニ革命のときとまったく同じですね。革命以前のパーレビ帝政時代には、イランは女性がベールをかぶることもなく、酒が飲めたりと、非常に開かれた国だったのです。その俗化した国が一気にイスラム原理主義の国になってしまった。チュニジアやエジプトもそうなる可能性があります。
 
元谷   だからそれを阻止すべく、アメリカは軍を操り、ベンアリ大統領やムバラク大統領に引導を突きつけたのでしょう。

加瀬 そういえば、パーレビ時代のイラン軍もアメリカの忠犬でしたね(笑)。それなのに、国がおかしくなったのですが…。

元谷 イラン革命の場合は民衆革命という顔の他に、世俗的なスンニ派と原理主義的なシーア派との宗教戦争という側面もあったように思います。

加瀬 実はアラブ諸国の中で、サウジアラビアが一番の原理主義国なのです。スンニ派の一派であるワッハーブ派というイスラム原理主義がもっとも厳しい宗派を国をあげて信仰しています。イスラム圏全体でみても、約八~九割がスンニ派、一~二割がシーア派であり、この二大宗派がイスラム教圏で対立しているのです。ただ同じ宗教内の対立ならキリスト教も同様です。例えば先進国であるイキリスでも、二十世紀が終わるまで、カトリックとプロテスタントがアイルランドで殺し合っていました。

元谷 一神教国は昔も今も対立が多い。それに比べて八百万の神の日本神道は本当にありがたいものです。

加瀬 私は実はオノ・ヨーコのいとこなのです。だからジョン・レノンとも親しかったのですが…。

元谷 そうですか!

加瀬 ジョンの有名な曲に「イマジン」があります。あの曲の歌詞は要約すると「想像してごらん、天国なんてないんだと、地獄なんてない、宗教もない。ただみんなが平和に生きているって…」というものです。この歌はキリスト教を否定するものだと、キリスト教保守層から攻撃されました。しかし神道には天国や地獄など死後の世界はありません。今私たちの周囲にある森や山や川や海など、地上にあるものが天国なのです。

元谷 その通りです。

加瀬 「宗教」という言葉も江戸時代まで日本にはありませんでした。「宗派」とか「宗門」という言葉はありましたが、religionという新しい概念を表す言葉として、明治時代に造られたのです。それまでの日本では神仏習合と呼ばれるように、神道と仏教が融合されていました。他方西洋のレリジョンという言葉はラテン語で「束縛する」を意味する「レリジオ」からきており、自分の信仰のみが正しく、他はすべて排斥されなければという一神教の概念を表すものです。日本にそれまでない考えだったので、宗教という新しい語を造らざるを得なかったのです。

元谷 なるほど。

加瀬 「自然」も明治以降の言葉です。その原語であるnatureの背景には、人間が最も偉く自然を支配し従えて、どのように利用してもよいという思想があります。自然と人は対立するものです。日本の場合は人と自然は常に一体であって、共生という考え方です。自然という言葉は江戸時代までは「じねん」といって、仏教用語だったのです。「あるがまま」という意味です。

元谷 私はこれらの神道精神というのは、世界に冠たる素晴らしい思想だと思うのです。みんなこれを理解し信じれば、戦争などなくなるのではないでしょうか。今はイスラム教の名の下に行われるテロ行為が目立っていますが、そもそも世界で一番人を殺している宗教はキリスト教なのです。

加瀬 おっしゃる通りで、これは歴史を見れば明らかです。大航海時代からヨーロッパのキリスト教徒は植民地を求めて海外進出を行い、大量虐殺によってインカ帝国など多くの国々を滅ぼしてきました。またヨーロッパのキリスト教圏内でも、異端審問や魔女狩りが行われました。

元谷 ちょっと目立ったり、権威に逆らった人は魔女だ異端だとして殺されましたね。

加瀬 キリスト生誕から一四◯◯年経った頃に、キリスト教がもっとも大量の人を殺していました。イスラム教が始まったのが西暦の七世紀です。イスラムはユダヤ・キリスト教の流れを汲む一神教ですが、その一四◯◯年後の現代、イスラム教によるテロが増えているのは、まだ若い宗教なのですね。

西欧を模倣することで
日本は主要国になった

元谷 日本の世界史の授業では、十字軍をあたかも聖地奪還のための聖戦の戦士というイメージで教えますが、イスラムの側から見れば元寇の蒙古軍のようなものですよ。
加瀬 当時はイスラム勢力の方が力を持っていて、東ヨーロッパはもちろん、イベリア半島のスペイン・ポルトガルもイスラム圏でした。十字軍はキリスト教国の必死の反撃だったのです。
元谷 そうですね。ユダヤ教もキリスト教もイスラム教もそもそも同根の宗教です。だからこそ、いがみ合いが絶えないのかもしれませんが…。加瀬 日本でいえば、新左翼、連合赤軍の内ゲバのようなものですよ(笑)。
元谷 なるほど(笑)。そんな不寛容な宗教に左右されるのではなく、世界の人々が日本の神のようにおおらかな気持ちになればどんなにいいか。
加瀬 本当にそうですね。日本では自然自体が神で、その私たちの神は鎮まっている神です。一方ユダヤ教、キリスト教、イスラム教の神は大変能動的で、人々の暮らしの細かいことにまで干渉するのです。
元谷 そしていつも終末思想を振りかざして、世界がなくなるなど、人々に脅しをかけて…。
加瀬 独裁者に似ていますね(笑)。日本の神は鎮まっておられるから、拍手を打って注意をひかなければならない。二礼・二拍手・一礼で、神様にお聞きくださいとお願いごとをするのです。天皇陛下も日本の神と同じであり、皇居の杜の中で鎮まっておられます。鎮まっておられる陛下にご心配をかけないよう、身を律して正しく生きるのが国民の務めなのです。
元谷 この日本精神の素晴らしさを広めることが、世界平和に繋がると思うのですが、最近は日本の良さを逆に否定する風潮があります。
加瀬 今の日本については私も少し思うことがあります。日本は明治維新を行って世界に向けて開国して、西洋の模倣をすることによって国力の増強を図りました。
元谷 中央集権国家による富国強兵策が必要でしたからね。
加瀬 はい。そして開国から約百年後、一九七九年に東京で日本最初の先進七カ国のサミットが開催されました。大平内閣のときで、私は園田外相の顧問をしていました。赤坂の迎賓館でホストの大平首相が真ん中に立って記念撮影をする姿を見たとき、私は日本も大した国なのだと感じました。主要国の中で、日本だけが白人でもキリスト教国でもない、アジア・アフリカの中で唯一の主要国になったのです。明治維新には三つの目的があったと思います。日本の政治的な独立を守ること、日本の経済的な独立を守ること、日本の文化的な独立を守ることです。
元谷 そもそも維新の志士たちは、アヘン戦争でのイギリスの傍若無人ぶりを見て、清国のようになってはならないという思いで藩を越えて一致団結し、維新を成功へと導き、富国強兵策によって日本を列強の仲間入りさせたのです。
加瀬 そうです。見事に西洋に追いつき並んだわけですが、模倣はそのための手段だったわけです。しかし今日、日本人はその手段を目的と混同して、次第に日本人らしさを失ってきました。
元谷 その通りです。

自らを尊ぶことによって
人も国も独立を果たせる

加瀬 ここでひとつ、樋口一葉(明治の小説家)の日記をご紹介したいと思います。
 「安(やす)きになれてはおごりくる人心(ひとごころ)の、あはれ外つ国(くに 註・西洋)の花やかなるをしたい、我が国振(くにぶり)のふるきを厭(いと)ひて、うかれうかるる仇ごころは、流れゆく水の塵芥(ちりあくた)をのせてはしるが如く、とどまる処をしらず。流れゆく我が国の末、いかなるべきぞ。」
 この国は西洋のものまねをしていて、いずれ駄目になるというのです。これは一八九五(明治二十八)年の日記の文章です。
元谷 当時からそういう認識があったのですね。
加瀬 はい。一葉は本名を奈津といいますが、一八七二(明治五)年に東京で生まれています。父親は甲斐の農家の出身で東京で下級役人をしていた人です。しかしこのお父さんは古典や漢籍に通じていて、奈津は父に教えられて幼いときから学問に親しみました。奈津の学歴は小学校四年です。十七歳のときに父が亡くなり、奈津は仕立てや洗い張りで母と妹の生計を立てながら小説を書き始め、わずか十四カ月で「たけくらべ」「にごりえ」などの傑作を発表しましたが、一八九六(明治二十九)年に二十五歳の若さで肺結核によって亡くなります。
元谷 江戸時代の農家の息子が、自分の娘に古典教育を行うというのは、日本の文化の層の厚さを感じさせる話です。江戸時代から藩校や寺子屋という教育機関を持っていて識字率も高かったからこそ、明治以降の時代の激変にも日本人は対応でき、優秀な人材も育っていったのでしょう。しかし最近の教育は問題だらけ。日本人として誇るべきことを教えていない。そんな教育を続けていては、ろくな日本人は生まれません。
加瀬 奈津は十七歳で身を犠牲にして、一家の生活を支えました。今の十七歳の娘がそんなことができるかどうか…。
元谷 私も中学生の時に父を亡くし、それ以後は主として一家を支えていました。環境が厳しいからこそ、なんとかしようという気概が生まれるものです。それが今日のアパグループを築く原動力となったと思っています。
加瀬 そうでしたか…。素晴らしいことです。
元谷 いつも最後に「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
加瀬 今の日本に一番大切なものは、福沢諭吉の言葉なのですが「独立自尊」です。私は慶応の出身ですが、母校でこの話をしたことがあります。この言葉は「独立」と「自尊」の二つから成るのですが、「自尊」の方が大切です。すなわち自らを尊べば、人も国も独立することができるのです。今の日本が国際的におかしくなっているのは、自尊という考えが薄れているからでしょう。
元谷 私も日本人としての誇りを取り戻すべく、東京を中心に展開しているマンションの新ブランドをCONOE(このえ・近衛)と名づけました。歴史を知らないから、日本人は貶められ続けるのです。だから私は「真の近現代史観」懸賞論文を募集し、そこに現役の航空幕僚長である田母神俊雄氏が応募、今に至る一つのムーブメントを作ることができたのです。
加瀬 これは素晴らしかったですね!
元谷 懸賞論文がきっかけで本当の歴史が広がれば、日本民族に誇りが持てる人がどんどん広がっていくのではないでしょうか。
加瀬 私は世界中を見ても、日本ほど素晴らしい文化を持った国はないと考えています。日本人として生まれた幸せを感謝して、日本人として独り立ちをする。これが大切だと思います。そういえば、ジョン・レノンも神道に惚れ込んで、オノ・ヨーコとともに靖国神社や伊勢神宮を参拝しました。
元谷 そうですか。やはり彼には物事をきちんと理解する感性があって、神道の本質をすぐに感じ取ったのでしょう。日本のメディアもこういうことをもっと世界に発信していくべき。私もAppleTownに英訳を入れることで、世界に理解者を増やそうとしているのです。
加瀬 私もかつて特攻隊を検証する本を書いて、イギリスの出版社から英語で出したことがあります。その後エストニア語、スペイン語、ポーランド語、フィンランド語に翻訳されました。
元谷 そうでしたか。新渡戸稲造が英語で出版した「武士道」を読んだアメリカ大統領のセオドア・ルーズベルトが日本に肩入れし、これが日露戦争勝利の遠因になったという話は有名です。一人の著者の行為が大きな国益につながることがあります。今後の加瀬さんのさらなるご活躍を期待しています。今日は本当にありがとうございました。
加瀬 ありがとうございました。

加瀬英明氏
1936(昭和11)年東京生まれ。父親は外交官の加瀬俊一。慶應義塾大学経済学部、エール大学、コロンビア大学に学ぶ。「ブリタニカ国際大百科事典」初代編集長(株式会社TBSブリタニカ、1967~70年)、日本ペンクラブ理事、松下政経塾相談役などを経て、現在、評論を執筆。東京国際大学特命教授、海上保安庁政策アドバイザーなどをつとめ、海外での講演活動も多い。