Essay

藤誠志 社会時評エッセイ223: 真の近現代史観を確立し、誇れる国「日本」の再興を図れ

藤 誠志

圧政国家の政権を崩壊させるネット革命

 昨年十二月中旬に私は政権崩壊直前のチュニジアとリビアを訪問し、先月号のこの稿に『政権崩壊直前のチュニジアを訪ねて』というエッセイを書いた。チュニジアはベンアリ大統領が二十三年間に渡って政権を握り続け、引き続き憲法を改正して再選を狙っていることと、大統領の権威を利用して夫人が親族企業を使って不正蓄財を行っていることなどへの批判を書いた駐チュニジア米国大使の公電がウィキリークスに流れ、アメリカが現大統領の再選を支持していないことが民衆の知るところとなった。世界不況の影響によって失業者が増加した若年層を中心にツイッターやフェイスブックなどを通じて情報を交換し、抗議デモへの参加の波が広がり、ついには暴動へと発展した。軍出身でありながら治安警察に頼り、軍の掌握を疎かにしていたベンアリ大統領に対し、アメリカの意向を汲んでいる軍トップの参謀長が、「亡命しなければ逮捕する」と大統領に迫った。その結果、ベンアリ大統領はサウジアラビアに亡命、一気に政権が崩壊する事態となった。
『このチュニジアの政変劇が同様な長期独裁体制国の隣国アルジェリアやエジプトなどに与える影響は大変大きい』と先月号には書いたのだが、その予想通り、まるでドミノ倒しのようにネット革命の波は周辺国に反政府デモを広げていった。特にエジプトでは数十万人規模のデモが行われ、三十年間にわたって政権を維持してきたムバラク大統領の即時辞任を求めた。アメリカのオバマ大統領がムバラク政権を見限ったなどの報道が流れ、ムバラク大統領はチュニジアの前例を素早く分析、軍の掌握が一番だと判断した。そのために軍出身であり、長年総合情報庁長官を務め大統領の側近として活躍してきたオマル・スレイマン氏を副大統領にし、また航空大臣だったこれまた軍出身のシャフィーク氏を首相に据えて、軍への支配力を強化した。さらに九月の大統領選には出馬しないと表明するとともに、長男のガマル氏を一切の公職から外すことで国民の懐柔を図る一方、デモ隊に親ムバラク派を紛れ込ませて、治安維持が必要だと思わせるように騒乱を起こさせたり、反政府デモに親ムバラク派を突入させるなどして対決状態を演出するなど、政権維持の時間稼ぎに腐心していた。
ツイッターやフェイスブックなどインターネットサービスが不満の共有やデモの組織化に使われているとして、エジプト政府はインターネットの遮断を断行した。これに対抗して、グーグルはツイッターと協力して、電話による音声でツイッターへの投稿が可能なサービスの開始を表明したのだが、ネット遮断に反対する正体不明のハッカー集団「アノニマス」が世界中からエジプト政府機関にサイバー攻撃をかけてきて、結局遮断は五日間で終わった。

チュニジア・エジプトの政権転換は軍事クーデター

 エジプトでは二、三十万人がデモに参加したというが、全人口の八千万人から見るとわずか0・3%に過ぎない。騒乱が長引くほど、早く事態に終止符を打ちたいと考える人も増えていくはずで、ムバラク大統領はそこを狙って、さまざまな手を打って時間稼ぎをしてきて、最後は自らの引退と引き換えに自らの路線を引き継ぐことを条件に、アメリカの望む軍最高評議会に全権を委譲した。これはエジプト最大野党ともいえるムスリム同胞団のようなイスラム原理主義者の支配する国になることを最も恐れているアメリカの意向に沿うことであって、パーレビ国王を見限るのが遅れてホメイニ革命を成功させてしまったイランの二の舞になることを避けたいアメリカの指示によるものと思われる。エジプト軍にはアメリカに留学した人間も多く、アメリカは影響力を行使できる立場にある。軍は国民の味方であることを巧妙に表明しながら、反政府デモと親ムバラク派の間に入って流血の拡大を防いだ。さらにアメリカのコントロールを受けたエジプト軍がムバラク大統領の円滑な退陣で、イスラム原理主義政権の樹立を阻止しようとしたのだ。エジプトが、イスラム過激派が跋扈するイラクやアフガニスタンのようにならないよう、懸命になっているアメリカの姿がよくうかがえる。チュニジア・エジプトの急速な政権転換はある意味長期独裁政権の世襲を許さないアメリカの意に沿った軍事クーデターであり、本当の意味での民衆革命ではない。そのように考えれば、アメリカが影響力を行使できないリビアの反政府暴動は、あくまで政権を手放さないカダフィが軍事力とこれまで貯めこんだ軍資金を使って、悲惨な内戦となる可能性が高い。

日・米民主党の宥和政策が混乱を拡大させる

オバマ大統領の宥和策がつけ込まれ、今回のチュニジア・エジプトの政権崩壊のほか、いろいろな事件が発生している。崩壊直前ながら核を開発して生き残っている北朝鮮は韓国の哨戒艦を撃沈して四十数人を殺害したり、延坪島を砲撃して民間人を含む三人を爆殺し、韓国との緊張状態を作り出して国内を引き締め、政権維持を図っている。イランはアメリカとの対決姿勢こそ現政権維持に必要と考えて核開発を進めた。アフガニスタンでも七月から撤退を始める米軍に追い打ちをかけるようにタリバンが攻勢をかけ、自爆テロを頻発させている。オバマ大統領はできもしない核の廃絶など理想主義で民主的に世界を良くしようとした結果、現実的には事態の悪化を招いている。それは日本の民主党政権も同じだ。「日本は日本人だけのものではない」と発言したり、友愛の海だの米・中・日は正三角形の関係だなどと理想的なスタンスを強調したために、尖閣諸島では中国漁船が海上保安庁の巡視船に体当たりを食らわせる事件が起ったし、北方領土にはこれまでになかったことだが、ロシア大統領が足を踏み入れ、韓国や中国の資本を入れて開発しようとしている。日本はここでの開発に協力する会社とは以後一切取引をしない等の声明を今すぐ発表すべきである。アメリカも日本も、相手に付け入らせる隙を与えたために、このような状況を作りだしてしまったと言える。
この体当たり事件に関しては、ぶつけてきた漁船の船長を逮捕したまでは良かったが、その後の対応がまずかった。海上保安庁が撮影した映像を速やかに公開していれば、中国で反日デモが起きる余地もなかったのに、中国に不利なことは公表しないという民主党政権の方針と、日本のメディアが日中記者交換協定に縛られた報道しかできなかったことで、結局中国全土で反日デモを激化させる事態を招くことになった。これが反政府運動となることを抑えたい中国の温家宝首相は日本に対して厳しく迫るしかなく、ヒステリックに言いがかりをつけて罪もないフジタ社員四人を拘束、レアメタルの対日禁輸、旅行会社を呼び出して日本への旅行自粛を要請、閣僚級以上の会談の停止にまで発展した。海上保安官の一色正春氏が初めCNN東京支局にビデオを送付したが中国を慮り無視されて、仕方なく動画投稿サイトで衝突映像を公開した。そのことで中国での騒ぎが収まってきたが、彼が公表した部分よりその後の逮捕シーンなどは未だ公開されてはいない。撮った映像の全てを今すぐに公開すべきである。
かつての日中戦争では、中国の情報謀略戦によって、捏造された南京三十万人大虐殺説によって未だに批判され続けているが、その前に本当に起こされた通州事件で、中国保安隊によって見るも無残に女性や子供を含む約二百三十名もの日本人が惨たらしく虐殺されたことはほとんど知らされていない。この事件は、日本と中国国民党を戦わせる罠だったとの説もあるが、その虐殺ぶりがあまりにも残酷だったため、死体の写真の公表が控えられたのだが、その結果がこの事件を歴史の中に埋もれさせてしまった。その時も起った事実をきちんと世界に向けて発信し、中国軍の残虐さを伝えていれば、その後の南京大虐殺の捏造報道はできなかったはずである。尖閣諸島での体当たり事件と同様、情報をすぐに公開しなしなかったことがどれだけ大きなマイナスとなったかは計り知れない。

北の政権崩壊で南北連邦朝鮮が核保有国となることを阻止せよ

アメリカは、イラク情勢の安定化とアフガニスタン戦争、イランの核開発阻止、そしてドミノ革命となりつつある中近東の騒動の沈静化に手一杯となり、北朝鮮や東アジア情勢への関心が薄れている。しかし日本にとっては、離れたアラブ諸国のことより近隣国の情勢をしっかり分析しないと大変なことになる。特に民主党政権になってから、日本が周辺国から甘く見られているのは間違いない。私の予測では中国の容認のもとに早ければ今のアラブの騒動の流れですぐにでも、遅くとも五~六年の間に北朝鮮は崩壊し、韓国と共に親中国の連邦国家を形成する可能性が非常に高い。その際、北の核兵器は新国家に引き継がれることとなる。絶対にこれを阻止しないと北の核と南の資本と技術が加わることによって、より強力な核兵器へと進化し、日本にとって大変に深刻な脅威となる。日本は果たしてアメリカの核の傘があるから、日米安全保障条約があるからといって安心していられるのだろうか。経済成長が続いていることで体制が保たれている中国でバブルが崩壊した場合必ず外に敵を作って危機を作り出してくる。その時は、最も安全な日本叩きをしてくる一方、力の衰退からオーバーコミットメントの修正を余儀なくされたアメリカは「モンロー主義」へと立ち返り、自国の安全以外のことに関心を払わなくなってくるのではないだろうか。軍事大国化を続ける中国や連邦国家となった核を持つ朝鮮、更には再び軍事力を強化し北方領土にまで軍事基地を作ろうとしてきているロシアに対して、経済的に衰退していく日本と孤立主義に走るアメリカ。将来を考えると今のアメリカ依存の安全保障体制のままで良いわけがない。昔も今も世界は力の論理に立脚しており、バランス・オブ・パワーによって平和が保たれている。これが崩れたときが戦争というのが現実だ。東アジアの平和のためにも、日本が独立自衛のできる国となるためにも今すぐ核の保有を真剣に検討しなければいけない。

ネット社会の到来で世界は再び直接民主主義の様相を呈している

 アメリカのスーパーパワーが揺らぎ始めたこの先の世界情勢は今までにない混乱状況が起きることが必至だ。これまでも世界は新しい技術の登場の都度変わってきた。ネット社会となりウィキリークスの登場により機密が保ちにくくなり、不都合な情報もオープン化され、国家機密の保持ができない。ツイッターやフェイスブックによって国民同士、情報交換で結束を固め、ユーチューブに動画を投稿することで国外の人々にも事実を知らせ、支援を呼びかけることができる。国家がどれだけ妨害しようとしてもこれらの新しい情報の流れを断つことは難しい。チュニジアやエジプトのようなことは、今後世界中のどの抑圧国家で起こってもおかしくないだろう。このことを密かに最も心配しているのは一党独裁国家「中国」であるし、その可能性も高い。かつて民主主義はギリシャで直接民主主義から始まり現在の間接民主主義となったが、今や新しいIT技術により再び直接民主主義の様相を呈してきている。
そもそも資本主義・市場経済で民主主義の社会が、共産主義・計画経済で共産党が「民主集中制」と称する共産党独裁体制の社会よりも優れていたから冷戦に勝利しただけのことで、このシステムが最善かどうかはまだ明らかとなっていない。チュニジアではベンアリ大統領夫人の不正蓄財が問題になっていたが、産油国の王族への富の集中はこれらの比ではない。しかしユダヤとアングロサクソンのフィルターを通したものしか報道しない世界のメディアが、このことを取り上げることはない。その代表格がサウジアラビアだ。多くの人がこの国を民主的だと思っているが、宗教的戒律が厳しい閉ざされた国であり、一部王族だけがいい思いをしている。ビンラディンをはじめ、多くのテロリストがこの国の出身であることからも、そのことがうかがえるだろう。しかしアラブの反政府デモ騒動の結果、原油価格は高騰して、これら産油国の王族は笑いが止まらない状況になっていたが今や自らの体制の危機に右往左往している。一方騒動が実際に発生して政権崩壊をした国は産油国ではないチュニジアとエジプトで、観光収入に大きく依存している国だ。政変によって観光収入が激減し、今後一層経済が疲弊していくのではないだろうか。中近東の多くの国の政権は、穏健で世俗派と言われる少数のスンニ派が握り、多数で過激な原理主義のシーア派を支配しているところが多く、そんなところで騒動が起こっている。携帯やパソコンでフェイスブック・ツイッター・ユーチューブなどを介して情報を交換して始まった、イスラム教宗派間における宗教戦争ともいえる様相を呈してきた。今までの世界はマスメディアを支配すれば体制を保持できたのに、ネット社会はこれを許さなくなった、直接民主主義の到来である。
ニュースは裏側を見ないことには、本当に何が起こっているかを掴むことはできない。私は世界七十三カ国を巡り、その国の指導者をはじめとした現地の有力者とディベートを繰り返し、日本では報じられることがない真実を学んできた。それによって時代の先を読み取り、誤りのない事業戦略を立てることができた結果、今東京都心に同時に十五ヶ所のホテルと九ヶ所のマンションの建設を行うことができるまでになったのだ。日本の政治家ももっと世界情勢に詳しくなり、その裏を読み取ることで日本の国家戦略を描くべきだ。軍事大国の道を封じられた日本こそ、もっと情報を重視した情報大国を目指すべきなのだ。いつまでもアメリカにしがみついていては、いつか見放される。独立自衛の国を目標に、政治家も国民も今こそ意識を新たにするべき時ではないだろうか。

平成23年2月23日 23:47校了