元谷 ビッグトークへのご登場、ありがとうございます。昨年十二月八日の「真の近現代史観」懸賞論文表彰式後のパーティにもご出席いただき、スピーチまでしていただいたことにも、感謝しています。
逢沢 本当に素晴らしい会でしたね。
元谷 私は今、世の中がちょうど変わり目に差しかかっているような気がしています。一昨年に民主党政権が誕生しましたが、あまりの期待はずれに、国民の目が覚めてきました。特に尖閣諸島沖で海上保安庁の巡視船に中国漁船が衝突した事件への対応のお粗末さに、多くの人が呆れたのではないでしょうか。こちらが穏やかに接すれば相手も同じように応じるはずという鳩山前首相の「友愛」スタンスによって、近隣諸国からすっかり日本はなめられてしまっています。世の中は力の論理で動いています。国益を守るためなら、どの国でも人を殺すし、戦争もするというのが、古今東西の現実です。だから自分だけ理想を語っていても駄目なのです。民主党はこの理想と現実の区別がついていないのか、いまだに野党の時と同様、理想ばかりを追っているように感じます。
逢沢 総理大臣というのは、国民の生命・財産、そして国益をしっかりと守るという国家の役割の最高責任者です。そのためには超現実主義者になる必要があります。もちろん理想や大きな夢を持っていることも大事ですが、現実に立脚した内政や外交を行わない総理は、国民を不幸にするだけです。
元谷 その通りです。逢沢さんは今、国会対策委員長という重要な役職に就いています。昨年の参院選において過半数割れとなったことで、与党・民主党の国会運営が非常に難しくなっています。パーシャル連合などさまざまな策を考えているでしょうが、野党第一党の国対委員長である逢沢さんのところには、民主党からいろいろな提案が持ち込まれるのではないですか?
逢沢 そうですね。私たち自民党は国民と国益のためには精一杯協力するつもりなのですが、政権を握っている与党は今は民主党ですから、まずはそちらにしっかりやっていただかないと。しかし菅政権への期待値と信頼度は急速に低下、非常に深刻な状況になってきています。
元谷 民主党の根本的な問題は、そもそも「選挙当選互助会」であることです。政策で一致した集団ではなく、選挙で当選するために入党した人ばかり。だから所属議員の考え方もバラバラなのです。そんな政党が政権を獲得したものですから…。
逢沢 民主党には党の憲法ともいうべき党綱領がありません。だからどういう国を作ろうとしているのかとか、何を目指しているのかがまったくわからない。唯一あるのが、一昨年の総選挙の時に打ち出したマニフェストです。あの時の約束は私にも新鮮に感じられましたし、期待もしました。しかしよくマニフェストを見てみると、実現不可能なことや実行すれば日本が大変になることがたくさん盛り込まれているのです。
元谷 あのマニフェストはバラマキです。国民に期待だけを与えて、実際には実行不可能なことばかりを並べてあるのです。そのおかげで選挙には勝ちましたが、政権を運営しだすと、当然ほころびが出始めました。また、民主党は内紛的な党内対立が絶えることがありません。国民はこれにも飽き飽きしていますよ。
逢沢 おっしゃる通りです。
元谷 民主党は衆議院での三分の二の議席を持っていませんから、過半数割れの参議院で否決された法案を再可決することもできません。このままでは法案を通すことができませんから、逢沢さんのところにいろいろな相談が来るはずです。ここはぜひ上手く立ち回って、菅政権を追い込んでください。まずは内閣改造や総理大臣の首のすげ替えで延命を図るでしょうが、衆議院解散は時間の問題です。次の総選挙での民主党の敗北は確実で、焦点は大敗するか中敗で済むかぐらい。だから当然民主党は二年半後の任期いっぱいまで解散を引き伸ばそうとするでしょう。しかしそれでは国民の意思を反映した政治にはなりません。自民党には何としてでも民主党を解散にまで追い込んでもらわないと。
逢沢 その通りだと思います。
元谷 そのためにいろいろと努力をされていると思うのですが、解散後のことも考える必要があると思います。長く続いた自民党政治に見切りをつけ、一回民主党にやらせてみようというのが、一昨年の総選挙でした。いざやらせてみたら、自民党よりももっと酷かったというのが現状です。しかし、では自民党に再登板…とは、まだ多くの国民は考えていない。では何をしなければならないか。民主党を攻撃するだけではなく、自民党が政権奪還を果たしたあかつきには、このような政治を行うのだということを見せていくのが一番でしょう。そのためにはかつての自民党では駄目で、大きく変わらないと。二年半もこのまま民主党が政権を維持していては、日本が持たないですよ。
逢沢 今の民主党の政治は、日々景気の回復を損ない、国民の力を削いでいます。尖閣諸島や北方領土問題への対応もまずく、国民は日に日に日本の領土や領海が狭まっていく感覚を持っているのではないでしょうか。
元谷 私はこのあたりで、本来の日本の良さをしっかり国民に植えつける必要があるのではと考えています。このビッグトークでも多くの駐日大使と語り合いましたが、口を揃えて日本は素晴らしい国だと評価してくれるのです。しかし日本人自身がそう思っていないのが問題。逆に事実でもない自分たちを貶めることばかりを、学校で教えられています。海外に行っても、他国の人々が自分の国の自慢を滔々と披露しているのに、日本人は何も自慢できないのです。これは教育と報道が間違っているからです。学校で間違ったことを学び、社会に出てからも報道で間違ったことを確認してしまう。だから多くの日本人が間違ったことを信じているのです。
逢沢 同感です。私も外交を長くやってきましたが、日本人による日本の評価が一番悲観的です。一方諸外国からの日本の評価は非常に高い。このギャップがあまりにも大きすぎるのです。日本が高い評価を得ているというのは、それだけ世界から期待されているということです。もっと日本人は自分たちに自信を持ってもよいのではないでしょうか。
元谷 日本では当たり前と思われていることが、世界基準では「凄い!」ということが多いのです。例えば列車の運行。日本では時刻通りに来るのが当たり前ですが、多くの国では遅れるのが当たり前なのです。昨年末にチュニジア、リビアを訪問して、私が訪れた国はこれで世界七十三カ国になりました。これだけ多くの国を見てくると、世界の中の日本という見方ができるようになるのです。メディアもこういったグローバルな視点から、日本について真実の報道を行うべきでしょう。そうすれば、日本人がしっかりと自信を取り戻すことができるはずです。
逢沢 その通りです。
元谷 私には、野党になったはずの自民党がまだまだ与党的に見えるのです。特に谷垣総裁。人柄や育ちもあるのでしょうが、野党第一党の党首としての攻撃力に欠けます。
逢沢 秘めたる闘志をもっと前面に押し出して…ということなのでしょうね。
元谷 多くの国民が期待しています。
逢沢 菅政権の発足から半年が経過しているのですが、実は党首討論会が一度も行われていないのです。総理と各党党首の一騎打ちの議論を、多くの国民が待ち望んでいるのではないでしょうか。それを菅さんは四の五の言って応じないのです。今の民主党政権はすべからくそういう姿勢になっています。
元谷 市民運動出身の菅さんは、攻撃は得意ですが守りは下手ですからね。どうも与党と野党があべこべのような感が拭えません。このままでは国民が政治に不信感を持つことになるでしょう。自民党としては颯爽とした意見を、野党第一党として相手に突きつけるべきです。
逢沢 そうですね。昨年の参院選では谷垣総裁の下、改選後第一党になりました。徐々に自民党に支持が戻りつつある感触も得ています。ただ代表がおっしゃるように、民主党政権には任せられないが自民党に戻すのもどうかという機運があります。国対委員長としては、この機運を打破するための主戦場は、やはり国会だと考えています。公の場で問題だらけの今の政権を厳しく追求していくのです。また政権奪回後の政策もしっかり主張していきます。子ども手当を廃止するにしても、今後どういうサービス給付をどういう理念に基づいて行うのかを明確にするなど、一つひとつの重要政策に対して一つひとつ道筋を示していき、やっぱり自民党だなと評価していただけるような政策を、国会の論戦を通じて感じていただきたいと考えています。
元谷 それを多くの人が望んでいます。
元谷 戦後ずっと平和が保たれてきた日本は平和ボケです。平和になれと唱えれば平和になると思っている人がいれば、日米安保がアメリカの核の傘があるから大丈夫だと考えている人も多い。それは間違いです。今アメリカ自体が、オーバーコミットメントとなっている従来の対外的な約束を、ひとつずつ減らしてきています。一方中国はこういう状況の中で経済力と軍事力を急成長させています。日本はどうすればいいのか、きちんと議論をすべきです。冷戦時はよかったが、もう冷戦終結から二十年経ったのですから、日本がよって立つべき位置づけをしっかりと確立してアピールすべきなのです。
逢沢 その情勢分析は正しいと思います。
元谷 新たな日本の立ち位置を主張する政党がそろそろ登場すべきではないでしょうか。かつての自民党はそんな存在だったはずなのに、妥協に次ぐ妥協ですっかり左傾化してしまいました。野党になった自民党は、政権与党だった時の主張をすべてご破算にして、戦う新生自民党として再生すべきです。
逢沢 一昨年の総選挙で自民党が大敗した一番の理由は、官僚を統制できずに税金の無駄遣いを許し、時にはグルになって甘い汁を吸ってきたと思われたからです。公務員全体としては私は極めて真面目に職務を果たしていると思っています。しかし年金記録問題の社会保険庁の対応には開いた口がふさがらない。これが大きく自民党政権に跳ね返ってきたのです。選挙での敗北の直後、このままでは党がつぶれるという強烈な危機感の中、私たちは新しい自民党の綱領をまとめました。
元谷 それはあまり知られていないですね。
逢沢 そうかもしれません。その綱領に基づき、次の総選挙へのマニフェストの原案を作成しています。その原案の大きな根幹をなしているのは、「自立」と「自律」のふたつの「じりつ」です。国民個人個人が自らの足で立つ一方、今の日本を築き上げてきた家族・地域・社会の助け合いを大切にしつつ、社会的弱者に対しては政治が助ける公助もしっかりと行うというものです。
元谷 家族の絆を大切に…というのはいいですね。私が思うに、戦後日本の歴史は家族分断の歴史でした。かつては親から子、子から孫への知恵が伝承され、家族での助け合いが行われていました。ところが今は進学や単身赴任などで、家族全員がひとりずつ別れて暮らしていることも珍しくありません。かなりの収入があっても、別れて暮らすことでコスト高となり、豊かさを実感できない。例えば固定資産税の優遇によって大きな住まいを持ちやすくすることで、三世代が同居する大家族制度を復活させるのです。一緒に住むことで、家族みんなが無駄なく豊かで楽しい生活をおくることができます。家族を重視する自民党の政策にも合致するのではないでしょうか。
逢沢 家族から日本を再生というのは、私も全く同感です。健全な保守はまず健全な家庭から。ただそのためには長く資産価値を維持できる住宅が必要です。大学を卒業したサラリーマンが結婚して、四十代のはじめにようやく家を買っても、ローンを払い終わる時には資産価値がなくなってしまっています。社会全体の投資効率を考えても、これは問題だと思います。
元谷 そのためにも税の優遇によって、三世代が同居できる大きな住まいを手に入れやすくするのです。今は逆に大きな住まいほど税が高くなっています。資産価値が残り、家族みんなが一緒に暮らせる大きな家を増やす政策を、税の誘導によって行うべきです。
逢沢 代表がおっしゃる政策は東京では時間がかかるかもしれませんが、地方だと実現しやすいかもしれません。事実私の地元である岡山でも、大きな家に住んでいる人が多いですから。
元谷 地方の場合は、大学進学時に大都市に出ていってしまうことに問題があるのでしょう。
逢沢 それに働き口ですね。
元谷 特徴ある地方都市を作らなくてはといわれて久しいですが、実際はどこも小東京的になっています。ならば本当の東京に行ったほうがいいということで、人口の東京集中が止まりません。
逢沢 地方に人や財源を移管して、それぞれの自治体が自主性をもって街づくりを推進していく必要があると思います。
元谷 その通りですね。
元谷 私は自民党はチャンスを迎えていると思うのです。これを活かせるかどうかがこの先自民党が政権与党に復活できるのか、万年野党で終わってしまうのかを決めることになるでしょう。ずっと与党であれば無理だったでしょうが、いったん野党になったのですから、これまでの与党時代の政策や発言をすべてご破算にすることができるはずです。政策を洗い直して徹底的に討論し、二十から三十の重要案件に絞り込んで「ぜひ実行したい」政策として決定するのです。新生自民党として、これらの政策をマニフェストの前面に押し出して選挙に臨めば、かなりの議席を獲得できるのではないでしょうか。
逢沢 なるほど。そういう手もありますね。
元谷 ただ日本の選挙制度は難しい。今の民主党政権もそうですが、自民党政権の末期も衆参のねじれに苦しみました。衆議院で過半数を獲得できても、参議院でも取れるかというのが課題です。まず自民党は衆議院で絶対多数を獲得、そして次の参院選にも勝利を収めてねじれにならないようにしないと。
逢沢 おっしゃる通りです。
元谷 理想は党内での意見が異ならない、政策に基づく政党が誕生することです。例えば大きな政府を志向する政党と小さな政府を志向する政党が政策論争を経て政権を取り合う形にしないと、いつまで経ってもねじれは解消できないでしょう。私の希望は真正保守という旗の下に集まった人々の政党が政権を握ることです。そうなれば、日本はまだまだ期待が持てる国になると思います。
逢沢 民主党でも自民党でもない、明確な理念を持った本格政党ということですね。確かに国民はそういった政党を待望しているかもしれません。
元谷 いきなり過半数は無理にせよ、そんな政党が中核的な役割を果たして、連立によって政権を担当するということもあり得るのではないでしょうか。
逢沢 保守合同から五十五年がんばってきた自民党ですが、ある意味耐用年数を越えたのかもしれません。しかし党綱領もないばらばらの民主党にいつまでも政権を担当させるわけにもいかない。やはり人が重要です。これからの日本を託するのに相応しい核になる人材を、インパクトたっぷりにストレートに前面に出すことができた政党が、これからは強いのではないでしょうか。
元谷 国会議員の数も多すぎます。民主党はマニフェストであれだけ議員定数削減といっていたのに、いざ政権をとったら先送り、先送りで実行する気配がありません。衆議院議員の定数は四百八十ですが、これらの人々が一堂に会して議論をするというのはなかなか難しい。もっと数を減らして議論を活発化すべきなのです。本来民主主義は、住民が直接意思を表す直接民主制でした。国家体制が大きくなった以上、現在の間接民主制はやむを得ないものですが、議員数は今の半分でもいいでしょう。いろいろお話しましたが、私はずっと自民党支持で、まだまだ自民党には日本を引っ張っていく力があるとみています。変質して飽きられて野党になってしまいましたが、あまりにも酷い民主党政権を目の当たりにして、今揺り戻しがきています。過去のしがらみを捨てて新生自民党となり戦う姿勢を見せれば、次の選挙には大いに期待できると思います。ぜひこれからも頑張ってください。
逢沢 ありがとうございます。
元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
逢沢 福沢諭吉の言葉に「一身独立して一国独立」というのがあります。一人ひとりの日本人が自らの力で立つことで、国が未来を切り拓いていける。こういった気概を若い人にはぜひ持って欲しい。夢が持てないという人が増えているとも聞いていますが、人生を有意義で楽しいものにするには、大きな夢や目標が必要です。さらに自立。個人が自立しないと国が立ちゆかないことを、ぜひ理解して欲しいですね。
元谷 海外に留学する人が減っているなど、安全志向でリスクをとりたがらない若者が増えているそうですが、もっとトライする気持ちをもって欲しい。平和ボケでハングリー精神に欠けている人が多いのが、今の日本の現実かもしれません。一番怖いのは、「ゆでガエル」のように気がつかないうちにゆっくりと衰退への道を歩んでいくことです。それを防ぐのが、まさに政治の力でしょう。自民党や真正保守の政党が中核となった連立保守政権を一刻も早く誕生させ、世の中を正しい方向に向け、日本を独立自衛の誇りを持てる国にしていかなければなりません。今日はありがとうございました。
逢沢 こちらこそありがとうございました。
逢沢一郎氏
1954年岡山県生まれ。1979年慶応義塾大学工学部管理工学科卒業。松下政経塾に第一期生として入塾し、1985年に卒塾。1986年に衆議院議員選挙に初当選を果たす。以後当選8回、外務副大臣や自民党幹事長代理などを歴任し、昨年9月より自民党国会対策委員長。