馳浩の永田町通信

2015年7月号 第179回就学義務

就学義務。
憲法第26条をひもといてみよう。
「すべて国民は、法律の定めるところにより、その能力に応じて、ひとしく教育を受ける権利を有する。
すべて国民は、法律の定めるところにより、その保護する子女に普通教育を受けさせる義務を負ふ。義務教育は、これを無償とする。」

憲法をすなおに読むと、
①教育を受ける権利は国民すべて有する。
②保護者が子どもに普通教育を受けさせる義務を負う。
③義務教育は、無償。

そう。
子ども一人一人に学習権はあるけれど、就学義務は保護者にある、という構造。
そして、無償。
この構造を裏打ちしているのが、学校教育法であり、その第17条には、(要約)
「保護者は、子どもを6歳~15歳まで、小学校や中学校に就学させる義務がある。」
と、明確に年齢制限まで規定されている。
この憲法と学校教育法のガチガチのルールの中で置き去りにされて来たのが、不登校やフリースクールや夜間中学校の問題だ。
様々な事情で、学校に行けない、行かない子どもたちの学習権の確保をどうするか、ということ。
いじめ、性的マイノリティ、親の事情……
いろんな事情はあろうが、子どもが学校に行くことを拒み続けたら、親には他に選択肢がなかった。
やむを得ず家庭学習やフリースクールや適応指導教室に通わせたとしても、それは義務教育の制度外のこと。
法律で義務教育の場を学校に限った1941年の国民学校令以来、74年間、風穴は開けられてこなかった。
このままでいいのか。
日陰者のあつかいで、それでいいのか。
学校長の裁量権があり、二重学籍という裏ワザを黙認している現状のままで良いのか。
それで本当に子どもの学習権を確保していると言えるのか。
学齢期(6~15歳)を超えてでも、学びたいと思っている義務教育未修了者や形式卒業生の要望に、国は答えを出さないままのあいまいな現状で良いのか!!
……良いはずがない。
毎年、10万人を超える不登校生に、小中学校以外の学びの場を義務教育の制度内に位置づけて、学習支援や経済支援をできるようにしてあげなければいけないのではないか!!
たとえ学齢期を過ぎていても、義務教育としての普通教育を受ける場を夜間中学校として市区町村が設置する場合、国がもっと支援をできるような根拠法が必要ではないか!!
これらの問題点を、超党派の議員連盟(フリースクール支援議連と夜間中学支援議連)で現場視察とヒアリングと文部科学省や法制局との協議を煮詰めて来た、この10年。
結果、一つの方向性が見えて来た。
それが、就学義務のカベを乗り越える法案。
「義務教育の段階における普通教育の多様な機会の確保に関する法律案(仮称)」だ。
略して、
「多様な教育機会確保法」
その内容は、以下の通り。

①目的と基本理念を明確にする。
②国の責務と地方公共団体の責務を明記。
③中教審で、基本方針を定める。
④保護者が子どもの個別学習計画を作成して市区町村教委に申請し、審査の上、認定を受ける。教委は訪問等の方法により学習支援を行う。このシステムで、保護者は就学義務を履行したものとみなす。
⑤学齢超過者の学習機会(夜間学級等)の確保については、都道府県と市区町村の教委が、それぞれ役割分担を決定するために協議会を都道府県ごとに一つづつ設置。
⑥国は、夜間中学等について、広報、調査、研究などを行ない、普及、啓発を行なう。
⑦国や地方公共団体は、必要な財政上の措置を講じるよう努力義務を課す。

ここまで練り上げて論点整理をした。
これは、議員立法で成立を期すべく、超党派で立法チームを編成し、条文化し、なんとしても今国会で成立させるべく、根回しに入ることになった。
これが根拠法として成立すれば、いよいよ次は、政府の出番。
来年の通常国会で学校教育法を改正してもらい、具体的な経済支援策を政府の責任において行なってもらうようにする。
もう20年も国会議員として文教族をやっているが、この就学義務に風穴を開けることができれば、大きな前進である。
子どもたちの学習権の確保のために、今こそ多様性を容認すべきタイミングである。

(了)