馳浩の永田町通信

2015年3月号 第175回初優勝

全国高校サッカー選手権大会。
 決勝戦。
 母校星稜高校が二年連続勝ち上がる。
 前日の石川県体協新年互礼会にて、来賓ごあいさつの中で、森喜朗元総理が語った。
 「去年は富山第一高校との北陸決戦でした。雪国のハンデがある中で、二年連続決勝に進出したことは大変な成果です。去年は富山県知事の石井さんが万難を排して応援にかけつけ、みごと栄冠を勝ち取りました。我が石川県の谷本知事はというと、ベテラン県議の新年会を優先し、県からは教育長と竹中副知事を代理で行かせました。そりゃないんじゃないの。優先順位が違いますよね!?」
 とズバリと核心を指摘。
 日頃から折り合いが良くないと自他ともに認める森先生のこの発言には、多弁で有名な谷本知事(体協の会長)も、顔を真っ赤にして下を向いて苦笑いするばかり。もちろん会場内はスポーツ関係者ばかりであり大爆笑。
 「今年こそは、県民あげて応援し、去年の悔しさを晴らし、忘れ物を取りに行こう!!」
 とのしめの発言で、さらに会場大盛況。
 やっぱり、スポーツの力は、人々を明るくさせるし、意欲的にさせる。
 折しも石川県は今年、百年に一度の大チャンスのときを迎える。
 県民の50年来の悲願である、北陸新幹線の金沢駅開業を、3月14日(土)に迎えるからだ。
 幸先の良いスタートを切るためにも、県民が心を一つにして星稜高校サッカー部の日本一への試合を応援することに、誰も異論をはさむ者はいまい。
 「知事、来るかな?」
 「あれだけ森さんに言われりゃ、来るやろ?」
 「いや。それでも来ないのが谷本さんや!」
 「これで来んかったら、たいしたもんや!」
 「でも、来てほしいよなー。」
 などと口さがない連中はささやき合っていたが。
 運命の日、1月12日、成人の日。
 埼玉スタジアムには上州おろしのからっ風が吹き、体感温度は氷点下。
 しかし、前橋育英高校と星稜高校の世紀の一戦をこの目で見届けようと、4万6千人の大観衆でスタンドは埋まった。
 私は国会でスポーツ議連事務局長をつとめ、スポーツ振興に取り組んでいるご縁で、なんとVIP席にご招待いただいた。
 しかし、この寒風吹きすさぶ中、母校の必勝を願って金沢からバス43台で昨夜から遠路はるばるやって来た在校生、教職員、保護者、同窓生のスタンド席に行かないわけには、いかない。
 「すんません。やっぱりアッチに行きます。」
 と、VIP席を抜けて、黄色に埋めつくされた、にわか同窓会状態のスタンド席へ移動。
 なつかしい、数10年ぶりに合う同級生と会話をはずませながら、キックオフを待つ。
 その空間の居心地の良さよ!!
 試合は、決勝戦にふさわしいシーソーゲーム。
 前半、PKで星稜が先取。
 後半、お手洗いに行っているスキに、前橋育英がたて続けにゴール。
(お手洗いになんか行かなきゃ良かった…)
 昨年も後半に足が止まったところで2点連取され、あげくの果てに延長戦で逆転負け。
 あの一年前の悪夢がチラリとよみがえる。
 しかし。
 延長戦に入り、エースストライカーが、ここまで無得点のうっぷんを晴らすかのような2得点。強烈なシュートが決まるたびに勝利を確信した星稜観客席は大きくゆれた。
 延長20分の終了ホイッスルが鳴りひびくと、それこそ誰かれかまわず抱き合って嬉し涙を流し、昨年の決勝で逆転負けした分までの狂喜乱舞。二年越しの忘れ物を取り返しにきた気持ち。こんなに大喜びしたのはいつ以来か。
 興奮さめやらぬまま閉会式が終了し、干場校長の姿を探してお祝いにスタンドを駆け下りると、びっくりした。
 在校生の先頭に立ち、陣頭指揮をして、スタンドのゴミ拾いをしているではないか。
 あらためて、母校の校訓を思い出した。
 「誠実にして、社会に役立つ人間の育成」
 まさしく、日本一になった星稜高校の、人間教育の真の姿をゴミ拾い中の生徒や教職員の背中に見た思いで、さらに感動を深くした。
 その日の夜遅く、一本の電話があった。
 大会直前の交通事故で入院中の河崎護監督。
 私が国語科教員として星稜高校に30年前に赴任したときの、良き先輩でもある。
 「ハセ、みんなのおかげだよ……」
 しみじみと語っていた。
 スポーツには、プレイヤーばかりでなく、こうして裏方で支え、応援しているたくさんの人が感動を共有し合う、大きな力があるのだと、実感した。俺もがんばらねば!!
(でも、谷本知事は、やっぱり来なかった……。)
(了)