この道しかない
馳 浩 ハセ ヒロシ・衆議院議員
自民党本部4階の総裁応接室。
11月18日午後5時20分。
臨時役員会招集。
「いよいよか」
と身がまえ、待つこと数分。
安倍総理が、にこやかにいつもと変わらぬおだやかな表情で入室。
今まで席についてそわそわしていた役員は、気をつけをして、直立不動。
総裁のイスに腰かけた安倍さんは、おもむろに胸ポケットから三つ折りにした書類を数枚取り出し、目を通し、何かポイントを確認するように目を走らせている。
(やっぱり、解散か)
黙って見つめる役員一同。
すると、顔を上げてこうおっしゃった。
「ちょっと、政治家だけにしてくれないか」
……
脇にひかえていた党職員10数名は、ゾロゾロと退出。数秒間の沈黙。深い沈黙。
室内に役員だけが残った。その空気は、仲間同士だけが共有できる、連帯感に満ちていた。おもむろに書類に目をやりながら、言葉を選びながら、総理は語りはじめる。
「七月〜九月のGDP速報値は、厳しい数値になりました。個人消費の落ち込みがその要因だと考えられます。それは、四月に消費税を8%に増税したからです。2四半期連続のマイナス成長は、デフレ脱却を危うくすることにもなります。」
……やはり。マイナス1・6%の数値は、想定外であったということか。確かに地元企業や商店街を歩いていても、賃金が上がったとかモノが飛ぶように売れるとか、設備投資しようかという明るい話は聞かない。
「馳さん、本当に10%にするの? ダメよ、ダメダメ!!」
と、拒否反応は強い。ようやく政府も認めたということか。さらに安倍さんは続ける。
「二〇一五年、一〇月、10%へと消費税を再増税することを今決めることは、さらに消費を押し下げることになり、モノが売れなくなり、在庫が積み上がることになる。これではデフレ脱却のチャンスをのがしてしまうことになりかねず、18ヶ月間、延期すべきと判断をするに到りました。」
……やっぱり、再増税延期か。やむを得ない。
税と社会保障の一体改革法の修正を担当した私としては、残念な想いが先走るが、ここは現実を受け取めるしかあるまい。
「しかし、財政再建の旗は下ろさない。平成29年4月には、確実に10%への増税を実施する。そのために、法案から景気弾力条項は削除する。三年あれば必ずその状況を作ることができる。その状況とは、賃上げの状況である。そのためにも、緊急経済対策の補正予算編成をする。」
……なるほど。切れ目のない財政出動をして、地方経済や個人消費を下支えしようということか。
「税は、政治そのものです。税に関して大幅な政策変更をする以上、国民に信を問わなければなりません。民主党が政権を失った大きな理由は、マニフェストに書いていない消費税増税を決めたからです。私は、重い判断をする以上、今週中に衆議院を、解散します。」
……解散、この言葉を総理から聞いた公式の会合は、この自民党臨時役員会が初めて。
(解散、って、俺、クビ?!)
思わず自分に突っ込みを入れながらも、その大義と、なぜこのタイミングか、が必要。
大義なき解散は人心を失うし、暮れのかき入れ時に選挙をしたら、さらに消費に冷や水をあびせるようなもの。総選挙の先に明確なビジョンがあることを示さなければ、政治ではない。
「争点は、三つです。まず、アベノミクスを続けるかどうか。二つ目は、増税を延期しても良いかどうか。そして10%への増税を平成29年四月に引き上げて良いかどうか。税制は国民生活と密接にかかわります。増税の前に選挙で審判をあおぐべきです。アベノミクスが論点となります。」
……言い切った。我々も総理が外遊中の一週間のうちに解散風が吹きまくっていたので、そのウワサが本当であったことを確認できてホッとした。と同時に、テンションも上昇。
谷垣幹事長より「皆さん、総理にお聞きすることは何かありますか?」と促されたので、挙手をして以下二つの疑問を指摘した。
「総理、18ヶ月延期した場合の社会保障の穴埋め財源をどう説明しますか。そしてプライマリーバランス目標どうしますか?」
いずれにも総理は、
「すでに財務省に指示しています。アベノミクスによる税収の上ぶれ分も計算できますから。」
……
何もかも用意周到の解散劇のように感じられた。ここはもう、総理を信じるのみ。
決戦は12月14日。争点は、アベノミクスの是非。いざ闘いへ、経済論争だ。
(了)
馳浩の永田町通信