馳浩の永田町通信

2014年9月号 第169回「夜間中学校」


 その少女は、涙が止まらなかった。
 祖父にも相当する同級生が読みあげる作文に耳をかたむけながら、あふれ出る感情をおさえ切れない、という様子。
 すぐに担任の女の先生がそばに寄りそい、背中をなでながら、何も言わず、しばらく少女の気持ちが静まるのを待っていた。
 視察中の超党派の国会議員団10名は、その光景から察することのできる少女の人生模様に、同情の念を禁じえなかった。と同時に、現代社会の理不尽さを克服するための教育のチカラを、何とか発揮させなければならないと、決意を固めた瞬間でもあった。
 大阪府守口市立第三中学校。
 校門の少し離れたところに、看板が。
「 ひらがなから勉強できる
 夜間中学校
⒈ 入学、いつでも相談してください
⒉ 時間、夕方5時40分~8時50分までです
⒊ 授業料は、いりません
 守口市立 第三中学校 夜間学級 」
 漢字にすべて、ひらがなのルビ。
 私たち国会議員視察団は、
「夜間中学校等義務教育拡充議員連盟」
 一行10名。(等、には、フリースクール含む)。
 そもそも夜間中学校とは何か?
 一言で言えば、この日本で、義務教育の小中学校を卒業していないあらゆる世代や、国籍を問わずに通うことのできる教育機関。
 学校に通えなかった理由はさまざま。
●戦争、貧困、差別などで学校へ行けなかった高齢の
 日本人。
●特別永住者である在日朝鮮人で、幼少の頃学校へ
 通えなかった人たち。
●中国帰国者1世、2世、3世で、日本語学習を必
 要とする人たち。
●日系ブラジル人やペルー人などの定住外国人やその
 子弟。また、日本人との結婚で渡日した人たち。
●過酷な低賃金長時間労働につき、派遣やパート等の
 不安定な労働に従事している外国人。
●居所不明等で義務教育を修了できなかった若年の
 日本人生徒や不登校経験した日本人。
 現代の日本社会で、義務教育を終了していない日本人や外国人は、80~100万人も存在している、と言われているが、その実態調査はまだ、全国的規模で実施されていない。
 昭和22年、現在の6・3制の義務教育が始まって以来、昼間は学校に通うのが難しい学齢期の子どものために大阪市生野区で始まった夜間中学校は、最盛期には全国で87校も活動していたのだけれど、現在はわずか31校。
 それも、設置者である市町村区の財政事情に運営費が左右されっぱなしであり、今や風前のともしび。
 そこで、現役や退職した教職員やボランティア団体で自主夜間中学校を運営したり、自治体に対して設置を要望したりしているが、ボランティアの活動には限界がある。
 そこで、3年前から、夏休み中の活動しやすい時期を選んで、国会の議員会館の会議室を使ってのキャンペーン活動として、全国夜間中学校研究会(教職員や支援団体の研究会)がシンポジウムを開始した。
 年を経るごとに参加する国会議員も増え、理解が広まり、とうとう昨年の11月には、衆議院文部科学委員会の小渕優子委員長を先頭に、与野党の委員10数名が、公式な委員会視察として足立区(東京都)の夜間中学校を訪問したのである。
 実態を拝見し、教職員や年代と国籍を超えた生徒たちの声に耳をかたむけ、
「義務教育未修了者がこんなにたくさんいるのだから、法的根拠のもとに、彼らを支える教育機関の整備をし、学ぶ権利を守ってあげるべきではないのか?!」
 と、超党派の国会議員による議員連盟を、今年の四月にようやく設立し、不肖馳浩が会長に任命された次第。
 議員連盟の方向性は明確である。以下4点。
①議員立法を作り、法的根拠のもと、一定の公的支援
 を拡充すべきである。
②せめて全都道府県の県庁所在地には、夜間学級を
 一校でも設置すべきである。
③諸事情で通学日数が足りないまま形式的に中学校
 を卒業した者にも、チャンスを与えるべきである。
④国籍、年齢を問わず、日本社会で生きていくための
 基礎教育、普通教育を学ぶ権利を保障すべきである。
 今回視察した守口市では、夜間中学校をも含む、インクルーシブ教育をも目指す小中一貫校「さつき学園」を、平成28年に開校する予定となっている。一体化施設の学校だ。
 財政事情の厳しい自治体として、英断と言わざるを得ない。首長や議会の理解の賜物。
 冒頭に紹介した、大粒の涙を流した少女。
 親の病気、経済的事情、いじめ、差別、障害など、様々な事情で不登校となり彼女のように涙を流す子どもたちがいる。彼女たちのためにこそ、税金は使われるべきではないのか。
(了)