馳浩の永田町通信

2013年5月号 第153回「五輪招致」

 補正予算が国会で成立直後、安倍総理から指示が出た。
「馳さん。何としても2020年東京五輪招致を実現したい。ついては、自民党を代表して、五輪招致本部長を引き受けてほしい。101名のIOC委員を説得するために、世界中を駆けまわってくれ!!」
 石破幹事長から直々にお達しが出たので、これは、ことわるわけにはいかない。
 予算委員会の筆頭理事職に責任も未練も感じていたが、すっぱりと気持ちを切り替えた。(筆頭理事はいつでもできるけど、五輪招致に尽力するのは今しかできない)
 そう思って引き受けた。
 さっそく自民党本部内に一室用意してもらい、事務方の女性もつけていただいた。
 そうと決まれば、即行動。
 前回、2016東京五輪招致委員会の事務局長をつとめた河野一郎さん(現、日本スポーツ振興センター理事長)と、現招致委員会の副理事長をつとめる水野正人さんに相次いでミーティングを申し入れ、情報収集に入った。なかなか一筋縄ではいかない事はすぐにわかった。
 現在立候補しているのは三都市。
 東京と、マドリッド(スペイン)と、イスタンブール(トルコ)。
 投票が行われるのは、今年の9月7日、ブエノスアイレス(アルゼンチン)でのIOC総会。
 まず、最下位がふり落とされ、残された二都市での決戦投票が勝負となる。
 一回目投票で上位二都市に入ること。
 それが最初のハードル。
 そのための基礎票固め(101票の総票のうち、第一回投票では、スペイン3票、トルコ1票、日本1票、ロゲ会長1票が投票しないことになっているため、残り95票のうち、3分の1以上の基礎票を固めておかねばならない。つまり、第一回めで、32票以上が必要)の票読みが必要。
 票読みとくれば、我々政治家の、長年のカンとキャリアがモノを言う。
①現状の日本を支援してくれる票読み。
②浮動票対策。
③アンチマドリッド、親マドリッドの票読み。
④アンチイスタンブール、親イスタンブールの票読み。
⑤二回目投票で確実に日本に投票してくれる票の確保。
⑥2024年に立候補を予定している都市のもくろみ。
同じ地域(東京=アジア、イスタンブール=中東、マドリッド=ヨーロッパ)からは連続して開催都市には選ばれない。従って、イスタンブールやマドリッドの同じ地域の国に在住するIOC委員への働きかけも必要。
⑦IOC委員が投票するのだから、個人的な関心事項に明確に対応できるだけの説明能力と情報が必要。
⑧公職選挙法が適用されないとは云え、そこは、IOCの倫理規定があり、ルール違反はしてはならない。
……様々な要因と制約が複雑に絡み合う。
 選挙の票読みと同じで、あまり早い段階で「当たり」をつけていたら、後になってひっくり返されることなど、しょっちゅう。
 自民党の総裁選と似ているところがあるそうで?!、二又、三又なんて、よくあるそうな。
 つまり、キレイ事では済まない世界。
 だとしたら、招致委員会という正攻法のチームをサポートする「オールジャパンチーム」として、戦略を立てて票読みにつなげなければならない。
 3月には、IOC評価委員会が来日し、調査を行なった。
 クレッグ・リーディー委員長からは
「招致委員会のプロフェッショナルな準備と協力に熱意を感じた。政府と経済界の強い支援も知ることができた。」
 とのコメントをいただき、残り招致活動半年への幸先良いスタートを切れた。
 地震、津波、放射能、領土問題、渋滞という、当初から懸念されていた課題にも、適切に回答を行うことができ、事前準備の能力の高さも証明された。
 市民の支持率も70%あることが報告された。
 さぁ、これから、である。
 9月7日に、ロゲ会長から、「トーキョー」という一言を勝ち取るための努力と情熱と、IOC委員101名への発信力が重要。
 それは何か?
 オリンピズムの理解と、オリンピックムーブメントへの参加には、東京しかない、とくり返し訴えることである。
「スポーツを通して心身を向上させ、文化・国籍など様々な差異を超え、友情と連帯とフェアプレー精神で理解し合い、平和でより良い世界の実現に貢献する」=クーベルタン男爵の理念に立ち還ることが、招致への近道なのだ。

(了)