馳浩の永田町通信

2012年7月号 第143回「代表質問異聞」

 ゴールデンウィーク明けの五月十日。
 衆議院本会議場では、代表質問が行なわれた。案件は、「子ども子育て新システム」関連三法案。消費税増税分のうち、わずか五%=七千億円ではあるが、少子化対策に充てようという、民主党政権の目玉政策。
 本会議場でのとなり同士の野田聖子さん。
「胃が痛むわぁ~。あたし、代表質問するのはじめてなのよね……。」
 この思わぬ一言にびっくりしたのが、さらにおとなりさんの鴨下一郎元環境相。
「そっか、聖子ちゃんみたいに早くにエラくなった人(元郵政相&元消費者担当相)には、代表質問なんてさせられないもんね!!」
 とまぜっかえす。
 この代表質問というのは、政府提出法案に対して、与野党各政党の代表が、総理や担当大臣に論点や課題を質問し、答弁を得るという制度。どちらかというと若手や中堅の登龍門であり、大臣経験者はめったにしない。
 しかし、野党転落した自民党は人材不足。
 そこで、五十歳にして高齢出産を体験した野田聖子さんに、少子化対策の課題指摘と、自民党の考え方を本会議で示す、というお鉢が回ってきた次第。
 代表質問者を指名したのは、消費税特別委員会の伊吹文明筆頭理事。ウルサ型。
「野田さんは、政府案のおかしさと、自民党の子育て哲学を中心に質問して下さい。馳さんは、株式会社参入や公的契約など、保育と教育の質低下について具体的に問いただして下さい!!」
 と、何と、おとなり同士の私にまで代表質問の大役が回ってきた。
 ふむ。
 論点整理ならばすぐに洗い出しできるが、でも、せっかくの代表質問。
 本会議で、野田総理や小宮山洋子大臣の答弁をいただけるのだから、いかに「本音」と「建前」の言質を引き出せるかに、質問者のウデがかかっている。そこで二人で打ち合せ。
「野田さん、どうする?」
「あたしはネ、障害児を育てる大変さとか、女性の子育ての負担とか、政府案のキレイ事=絵空事をびしっとえぐり出すわ!!」
 と、嬉々としている。
「だって、小宮山さんは、子どもを社会で育てる、っていってるでしょ。わが党の原点は、親が育てる、家族で育てる。だから、そのことを強調するわよ!!」
 なるほど、そう攻めるか?!
 そこで私は野田さんとかぶらないように、テーマを設定した。なんか、シナリオを練り上げるみたいな気分。
(1)政府案の議論の原点はどこにあるのか?
政権交代マニフェストなのか。それとも、認定子ども園制度の見直しを明確にした、政権交代直前の小渕報告(H二十一年三月三十一日)なのか?
(2)小宮山さんは厚労副大臣だった二年前、自公政
権で創設した「認定子ども園」を、何と「自公時代の盲腸」と発言している。その真意やいかに?
(3)今の制度は、保育所については市町村の措置義務
という、公的責任を重視している。ところが新システムの「総合子ども園」は、施設は指定制だし、利用は施設と保護者の公的契約だし、株式会社参入まで容認。これでは、制度は複雑になるだけだし、保育の公的責任は低下するし、幼児教育の質もカネ次第。どうして自公政権の認定子ども園の改善ではいけないのか? これでは、増税の人質に子育て支援が使われていることにならないか?
……。
 とまぁ、けっこう辛らつに、かといって本音に切り込む質問書を書き上げた。
 さて、当日。
 私は、政府案の総合子ども園には、待機児童の八割を占める〇~二歳児の受け入れ義務がないことも指摘し、野田さんとともに、政府案の取り下げと、認定子ども園の改善と拡充を求めた。
 小宮山大臣は、「二重行政というハードルがあった。許可や財政支援が複雑だ!」と答弁したが、そんなことは小渕報告の頃からのチェックであり、制度や手続きの簡素化で十分対応できる。
 その象徴として、盲腸発言の謝罪も求めた。
 案の定。
 消費税増税に政治生命をかける野田内閣の一員として、あれだけプライドの高い気の強い小宮山大臣も、あっさりと非を認め、小渕報告の踏襲をも認め、今後の修正の土俵をつくるために努力する姿を示してみせた。
 代表質問というと、与野党のセレモニーのようにマスコミは見ているが、そうではない。
 お互いの立場を推し量りながらの、丁々発止のかけ引きがあるのだ。そのかけ引きが、より良い国政推進の役に立つように、と願いながら。

(了)