「日本に勝つと、うれしいですか?」
私の意地悪な質問に、説明の流れが一瞬とぎれてしまい、目を宙に泳がせながらも、韓国国民体育基金財団の理事長は、胸を張って言い切った。
「同じアジアの仲間として、わが国も、日本も、中国も、国際大会、オリンピックで活躍することは、民族の誇りであり、国家の名誉です。」
と。
そんな美しいこたえを期待してはいなかったし、韓国がここまでトップアスリートの強化に予算を注ぎ込んでいるとも知らなかったので、その一つ一つの言葉が逆の意味にも解釈できるようだった。いわく、
〈日本にだけは、負けたくない。徹底的に叩きつぶしてやりたい。そうしてはじめて民族の誇りがよみがえり、そうしてはじめて日本をライバルとして直視できる。〉
と。
そもそも古代オリンピックは、相次ぐ戦争の代替措置であったし、近代オリンピックも世界大戦の荒波にもまれ続けた。ベルリン五輪なんてヒトラーの宣伝に利用されたし、聖火リレーのルートはバルカン侵攻のルートに悪用?!されたりした。
建前と本音が交錯するかけ引きの世界。
それもスポーツの本質であり、私は否定したくない。むしろ、笑顔の握手の下でエゴ丸出しの闘争本能のぶつかり合いがあってこそスポーツの、スポーツたるゆえん。
四月二日、JOCの福田富昭副会長(味の素ナショナルトレーニングセンター所長)を団長とした一団が、韓国の金浦空港に降り立った。
目的は、躍進めざましい、韓国の新ナショナルトレーニングセンター視察。
メンバーの内訳は、国会議員(スポーツ議員連盟の役員。自公民から計六名)、JOCの役員、NAASH(日本スポーツ振興センター)の役員、JISS(国立スポーツ科学センター)の役員、文部科学省スポーツ局の幹部。
このメンバーこそ、昨年、議員立法でスポーツ基本法を成立させた中核的な仲間。
法律は作ったけれど、足りないものが、財源。
totoやスポーツ基金の運用益や、文部科学省のスポーツ関連予算はあるけれど、
「一千億円の文化庁予算に比べて三分の一!!」という体たらく。
「じゃあ、韓国のシステムを参考にするために、みんなで視察に行こう。国民体育基金財団の話しも聞いて参考にしよう。新しく増設しているチンチョンのナショナルトレーニングセンターも見てこよう!!」
と福田団長の音頭取りによって、皆が自腹で(あたりまえ)行って来たのである。
わかったことは一つ。
ソウル五輪の剰余金を基金とし、その財団で収益事業を行って財源を生み出している、というのである。
ソウル五輪剰余金の原資は、八十億円。
そんだけもうかったわけだ。
国民が一つになれた、誇りを取り戻した、若い人に勇気を与えた。
だから、次の世代につなぐためのシステム作りをした……という論法であった。
なるほど。スポーツを国策にすえたわけだ。
ナショナルトレーニングセンターの利用料は無料。それどころか日当四万ウォン(約三千円)まで選手に支給される。
さらに、メダル獲得者には、引退後に年金(日本円にして六万円相当)まで支給される。
その財源となっている収益事業には、公営ギャンブルの売り上げも貢献している。
日本でいえば、競輪・競馬・競艇など。
ナショナルトレーニングセンターには、トレーニングパートナー用の宿泊所まで設置されており、徹底的に競争をあおっている。
そのモチベーションは、単なるスポーツ振興とも思われず、冒頭のように、少々失礼なモノ言いで「国策スポーツの意義・ホンネ」を問うたのである。
歴史認識を異にし、竹島問題をかかえるおとなりの国。友好ばかりではない。民族と国家の独立をかけたせめぎ合いの中でのスポーツ強化、という一面も否定できないはずだ。
視察団の結論は出た。
「韓国を見習え!!負けちゃいられない!!」だ。今年はロンドン五輪はあるが、四年に一度の一過性の強化では意味がない。
先立つものは財源。
日本にはスポーツ振興投票法(toto法)がある。せめて現行十カ月分の稼働を、あと二カ月分、他のトップリーグ(ラグビーやバスケットやバレーボールなど)を対象に拡充できないか、とのアイディアである。
いつの日か、こういわれる日が来るかも。
「韓国に勝つと、うれしいですか?」
(了)