馳浩の永田町通信

2011年12月号 第136回 「サポーター外交」

 なでしこジャパンが世界一。すごい。
 以来、テレビやマスコミに出ない日はない。
 スポーツのもつエネルギーは、爆発的な影響力で国民を渦の中心に巻きこんでいく。
 渦の中心には、誇りがあり、感動があり、時には愛国心が育まれていく。
 なでしこリーグなど、かつては選手は生活費すら稼げなかった。世界一となった今では、コマーシャルに出演したりトヨタがリーグスポンサーになったりで、知名度アップ。
 ここで負けていられないのが、お株を奪われてしまった感のある男子サッカー。
 ワールドカップブラジル大会のアジア三次予選が始まっている。主力の本田圭祐選手がヒザのケガで出遅れているが、若手も台頭して来ており、頼もしい限り。
 さて、十一月十五日の決戦が目前である。
 日本代表にとってはアウェー戦となる北朝鮮との試合が、平壌で開催されることが決定した。国交のない北朝鮮では久しぶり。
 日本政府は現在、北朝鮮に対して制裁を科している。
 理由は、拉致、核、ミサイル問題の未解決であり、たび重なる北朝鮮の約束反故や挑発。
 昨年の韓国ヨンピョン島に対する砲撃事件なども記憶に新しい。ゆえに、六ヶ国協議も、二国間協議も暗礁に乗り上げたままだ。
 そんな中ではありながらも、スポーツ交流については少しずつ動きが出始めている。
 七月十四日に東京都内で開催されたアジア・オリンピック評議会総会に、北朝鮮の張雄国際オリンピック委員会委員らが、特例措置として日本入国が認められた。
 九月二日に埼玉で行われた日本のホーム戦にも、北朝鮮選手団の特例入国が認められた。
 IOCやFIFAの非差別規定をふまえれば当たり前のスポーツ交流なのだが、国交のない相手との厳しい外交現場を知る政治家としては、貴重な交流の場と言わざるを得ない。
 制裁は制裁。スポーツはスポーツ。
 超えてはならない一線が、かつてのソ連アフガン侵攻のせいで五輪ボイコット(モスクワ&ロサンゼルス)騒動にまで発展した事実を知る私としては(私は八十四年ロス五輪出場)北朝鮮との関係も慎重にならざるを得ない。
 そこで、だ。
 十一月十五日の北朝鮮でのアウェー戦に、一人でも多くの日本人サポーターを平壌に送り込んでもらいたいと考えている。
 慎重には、慎重を期して、チャーター便一機程度の人数に制限すべきと思う。
 政治家である私が主導するのではもちろんない。
 サポーターの強い希望と、日本サッカー協会の英断があれば、の前提条件付きである。
 サポーター三百名と報道陣五十名ならば、十分弾丸ツアーとして日帰り派遣(渡航)を容認できるのではなかろうか。
 先般、五十年ぶりに改正されたスポーツ基本法においても、スポーツの国際性が明文化された。スポーツの役割には、国際平和と環境保全に貢献する力があるとの理念である。
 国会には、超党派のスポーツ議員連盟があり、私は事務局長を拝命している。
 邦人保護のために必要とあらば、サポーター訪問団に、議員連盟から数名同行する準備もある。
 チャーター便を飛ばすなら国土交通省の許可が要る。サポーターが渡航するなら外務省の許可が要る。
 真剣勝負の場には、両国の応援団が立ち会うことが公平だ。
 九月二日の埼玉での初戦に北朝鮮からのサポーター渡航申請はなかったが、朝鮮総連関係の在日朝鮮人サポーターは多数来場した。
 私は、両国代表の誇りをかけた闘いの場には、誇りをかけたサポーターがそろっていてこそ、スポーツ本来のフェアプレー精神が発揮されると信じている。
 北朝鮮の独裁体制は、周辺諸国との関係においても、国際社会の一員としても、とてもフェアプレー精神が発揮されているとは思えない。
 だからこそ、そういう閉ざされた国家の実態の一端でもよいから、一人でも多くの日本人に直接見てもらいたいと思う。肌で感じてもらいたいと思う。
 今から十六年前、私はアントニオ猪木さんといっしょにプロレス外交で平壌訪問し、二日間で三十万人を超える観客の視線を浴びて試合をした。その記念イベントにも、日本から多くの観光客が同行し、監視された中ではありながらも、複雑な日朝関係を体感した。
 現場に居合わせ、感動を共有するところから生まれる民間外交の力は、政治家をもしのぐ場合がある。
 こういう時だからこそ、今、サポーター外交が求められるのではなかろうか。

(了)