タイガーマスクが活躍している。
十二月二十五日、クリスマス。
群馬県の中央児童相談所(前橋市)に、伊達直人(劇画タイガーマスクの本名)を名乗った寄付が届けられた。
ランドセル一〇個。
以来、わずか三週間のうちに、四十七都道府県全てにタイガーマスクが現れた。
善意の寄付は、判明しているだけで以下のとおり。
ランドセルは七五〇個あまり、現金や金券は三二〇〇万円に達し、その他文房具など多数。
昭和の一世を風靡したタイガーマスクのストーリーは、現代にもつながる日本人の美徳だったのか?
匿名の寄付、そして社会的な地位を得た人たちによる社会貢献。
このタイガーマスク運動を一過性のブームに終らせてはならないと、国会議員有志が勉強会を企画した。
有志は、河村建夫元官房長官を会長とし、小宮山洋子厚生労働副大臣(子ども政策担当)を中核メンバーとするチャイルドライン支援議員連盟。
超党派(民、自、公、社、共)で十五名ほどが、国会閉会中にもかかわらず出席した。
議題は三つ。
(一)タイガーマスク運動の現状
(二)児童養護施設の課題
(三)児童福祉法や児童虐待防止法の改正論点
児童養護施設の所長や厚生労働省の担当者に現状や課題をお聞きすると、いろんな問題が浮かびあがって来た。以下列挙してみる。
・相談体制が弱過ぎる!
児童相談所で働く職員が少なすぎる。職員一人で八〇~一二〇件あまりをかかえていて、十分な相談体制を取れていない。職員の加配をしなければ、激務に耐え切れずに優秀な若い職員が次々と辞めてしまっている。職員配置基準を見直し、増員すべきである。
・生活費が少なすぎる!!
施設での生活費給付額は、四万七千円~八千円。高齢者の施設生活費と比べても、はるかに低い。
・大学進学や就職支援の充実を!!
児童福祉法において施設で生活できるのは十八歳まで(高校卒業時点)。施設の子どもの大学進学率は十三%(全高卒者では五十四%)専門学校進学率は一〇%(全高卒者では二十三%)就職率は六十七%(全高卒者では十六%)。自立をさせようにも、一時金負担、アパート契約、自動車免許証取得、未成年後見人選定などなど、ことごとく条件が不利。
・都道府県別里親委託率の格差が激しい。
施設の大部屋で育てられるよりも、里親委託で家庭的な雰囲気の環境で育った方が良いのに、地方によって委託率の差が激しい。最小の愛媛県で四.六% 最大の新潟県で三十二.五%。なんと八倍の格差。日本では施設と里親の在籍比率が九対一であり、欧米は半数以上が里親。
……
意見交換に参加されたチャイルドライン支援議員連盟の皆さんは、結成以来一〇年、児童福祉法改正や児童虐待防止法成立の立案をしてきたメンバーであり、超党派の横のつながりを大切にして来た仲間意識が強い。
こういう問題にこそ、イデオロギーを超えて、
「社会全体での子育てを!!」
「まずは親としての責任を果たすこと!!」
「社会的養護体制の強化!!」
というテーマで取り組むべきだとあらためて政策の方向性を確認する。
劇画のタイガーマスクは、孤児だった。
自分が育った「ちびっ子ハウス」の子どもたちのために、プロレスラーとなり覆面をして本名を隠し、悪と闘った。
そして、子どもたちに仕送りを続けた。
悲しくも切なくも、昭和の時代の一側面をあぶり出したドキュメンタリー的なアニメとして、テレビでも人気を博し、何と実際に、新日本プロレスのマットにも登場し、日本人にとっては心のヒーローとして語り継がれた。
それが、平成二十二、二十三年の現代によみがえって来たのは何故か?!ということだ。
もしかしたら、子どもの貧困(とりわけ一人親家庭)の増加、児童虐待事件の増加(一〇年で通報が五倍)、何よりも、自覚のない親や、無責任な親、いつまでも大人になり切れない日本人の精神構造や、倫理観の欠如が、新たなタイガーマスクを現出させているのではないかと思えるのだ。
児童虐待防止法の見直しでは、以下三点を何とかするつもりだ。
・親権の一部一時停止制度の創設
・こうのとりのゆりかごの法的位置付け
・未成年後見制度の充実
しかし、本当は、日本人全員が伊達直人になってほしい。そしてタイガーマスクのように、悪に強く、奉仕と犠牲の精神を発揮してほしい。
それこそが日本人の美徳ではないだろうか。
(了)