BIGTALK

地球儀外交の成功には 中立の視点からの 世界観が必要

国内テロの時代を乗り越え、二〇〇〇年以降ほぼ全てのG八サミットにアフリカ代表として招かれたり、二〇〇四~五年には国連安保理非常任理事国を務めたりと現代アフリカをリードする国へと進化したアルジェリア民主人民共和国。駐日大使のシド・アリ・ケトランジ氏にアルジェリアと日本の関係の未来についてお聞きしました。
シド・アリ・ケトランジ氏
1983年アルジェリア外務省に入省。インドや本省での勤務を経て、1996年には駐ケニア大使に就任。その後外務副大臣や大統領府担当副大臣の補佐を経て、2005年に駐日大使に就任。

廃墟から復興した日本をアルジェリアはお手本に

元谷 今日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。三年前にワインの会にはお越しいただいたことがあって、一度ビッグトークにと思っていたのですが、なかなか実現できませんでした。今お聞きしたら、一月に大使の任期を終えられて、帰国されるとのこと。丁度良いタイミングにお招きできました。
ケトランジ 私も最後にここに来ることができて、良かったと思います。代表とのビッグトークは私が日本を去る前に行っておきたいことの一つでした。お招きありがとうございます。
元谷 日本を去るにあたっての今のお気持ちは、どんな感じでしょうか。
ケトランジ 九年半日本にいましたから、友人も沢山できました。帰国はとても寂しいです。日本にいる間にこの国の歴史や経済、文化を理解することに努め、また同時にアラブのことを日本に伝えることにも力を入れました。もっとアラブ世界やアルジェリアと日本は連携を深めることができるはずです。もう少しこの仕事を続けていたいという思いがあって、去り難いですね。
元谷 帰国されても、今後も日本とアルジェリアの架け橋になっていただきたいです。
ケトランジ はい、私もそのつもりです。半生を外交官として過ごし、他のアフリカ諸国やインドなどにも赴任しました。日本に来る直前は大統領執務室でも働きました。今後は、日本とアルジェリア間のプロジェクトに関わる仕事をしたいと考えています。そうすれば、私もまた日本に帰って来れますから(笑)。せっかく築いた日本での人脈を今後も生かした活動をしたいと考えています。
元谷 ホテルビジネスも将来性があると思いますよ。あと一年半で私の新しい家が完成しますから、来日した際にはぜひ寄ってください。
ケトランジ もちろん、喜んで訪問させていただきます。私は代表とお知り合いになってから、Apple Townも毎号欠かさず読んでいます。そして懸賞論文や勝兵塾など誇れる日本再興の活動に非常に共感すると同時に、代表の行動力や意志の強さに感銘を受けています。
元谷 ありがとうございます。どこの国の人も同じだと思うのですが、日本人は日本人であることを誇りに思うべきなのです。しかし先の大戦後、アメリカに貶められて誇りを持てない国になってしまいました。それは日本軍が強すぎたためです。日本が再び強国となって東京大空襲や原爆などの戦争犯罪に対する復讐戦を始めては困ると、アメリカは三十項目の禁止事項を設けた新聞編集綱領・プレスコードや日本国憲法、東京裁判やこれに基づく歴史教育で、日本人を徹底的に洗脳したのです。しかし終戦から七十年、冷戦終結から二十五年が経過した今、この洗脳から脱却して日本が真っ当な国になり、アメリカとの対等な関係を築いてこそ、世界にも貢献できるようになるのではないでしょうか。
ケトランジ 私達アルジェリア人は欧米とは異なる視線で日本を見ています。欧米とは全く異なる文化を持った日本が、廃墟から立ち上がって世界第二位の経済大国になったというのは、私達から見ても物凄い偉業であり、感動を覚えるのです。ですから私達は「ルック・ジャパン」を合言葉に、日本からいろいろと学んできました。
元谷 そういうお話を聞くと、自信が湧いてきます。最近の日本の政権は、毎年何かあると首相が変わることもあって非常に不安定でした。二年前に安倍さんが首相になり、参議院議員選挙、先日の衆議院議員選挙を共に勝ち抜き、二〇一五年の自民党総裁選では多分対立候補もなく当選するでしょう。日本は長期政権によって廃墟から復活してきました。安倍さんにはぜひ長期に亘って政権を担ってもらい、オリンピックを自らの手で開幕して欲しい。そうすることで、日本は再び世界第二位の経済大国に返り咲き、繁栄を謳歌することができると思います。
ケトランジ 私も同感です。日本人はそれぞれの能力が非常に高い。そして科学技術も発達しています。近代化を素晴らしいレベルで成し遂げてきたのが、今の日本です。安倍首相の下、ますます発展することが期待できるでしょう。先ほどお話したように、アルジェリアは日本を確かな目標にして、近代化を進めてきました。それはアルジェリアも日本同様、欧米とは異なる文化を持つ国だからです。日本の卓越した近代化や民主主義の確立ぶりなどを、しっかりと学んで実行していきたいと考えています。
元谷 ありがとうございます。
 

コーランの教えの九五%を日本人は普段から実行

元谷 少し読者にアルジェリアの基本的なことを教えてもらえますか。
ケトランジ はい。アルジェリアはスーダンが二つに分裂した今、アフリカ一大きな国土を持つ北アフリカの国で、人口は約四千万人、首都はアルジェです。公用語はアラビア語ですが、その他にベルベル語や旧宗主国がフランスだったことからフランス語も多く使われます。宗教はイスラム教スンニ派を信じる国民が大半です。かつてはフランスの植民地でしたが、一九六二年に独立、いろいろな混乱もありましたが、一九九九年から政権を担っているブーテフリカ大統領によって、国内は安定を取り戻しています。
元谷 アルジェリアもアラブ人によるイスラム教の国と言えると思うのですが、イスラム教国の実態が日本では正しく伝えられていません。その理由は、日本のメディアがアングロサクソンとユダヤに牛耳られていて、イスラム教圏を危険な人々の集団のように真実を歪めた報道を行っているからです。偏見なく世界の歴史を眺めれば、イスラム教徒が平和を乱す危険な勢力だったことはなく、むしろキリスト教徒の方が横暴で残酷な行為を行っている場合が多いですね。
ケトランジ 代表はさすが八十一カ国もの国々を訪れているだけあって、非常に公平な視点をお持ちです。面白い話があって、多くのイスラムの宗教指導者が日本に来ると、異口同音に日本の習慣とイスラムの教えが酷似していることに驚いたと言うのです。例えばイスラムの教えでは、持てる能力の全てを使って仕事をすべきだとか、目上の人を敬い、どんな人にも優しく一生懸命尽くすべきということが書かれています。これら全てを日本人は普通にやっています。宗教指導者によっては、コーランの教えを日本人は普段から実行していると言う人もいます。従って、いくつかの点において、一部のムスリム社会より、日本の社会の方がイスラム教の教えに近いようです。
元谷 日本人がイスラム的な考えや習慣を持つというのは、極めて面白い指摘ですね。キリスト教の労働観は「働くことは懲罰」というものです。エデンの園で働かずに楽しく暮らしていたアダムとイブは、罪を犯したためにエデンの園を出て、働いて糧を得なくてはならなくなったのです。安息日の日曜日は、その罰から開放される日という意味でしょう。しかし日本人は働くことに喜びを見出します。だから定年退職になったら、喜ぶのではなく悲しむのです。
ケトランジ 正にイスラム的です。
元谷 日本人には全く自覚はありませんね。
ケトランジ 身ぎれいにせよ、人に優しく尽くせなどの多くの規範があることを理由に、欧米人がイスラム教を批判することが多いのですが、イスラム教徒も現実と規範の乖離があることはちゃんと理解しているのです。規範はいわば日本の武士道のようなもので、厳格に守るというよりは、常に心がけて目指すものなのです。
元谷 なるほど。そこに誤解があるのですね。
ケトランジ はい。規範を守らないものは排除するというような排他的な思想を持っていると考えられているのですが、イスラムは排他的ではありません。イスラム教の開祖であるモハメッドは、生まれ故郷のメッカからメディナに居を移し、新しい街造りに着手します。キリスト教徒にもユダヤ教徒にも優しくして、共存していこうということで、彼らを「啓典の民」と呼び、税を納めれば信仰を保障する決まりをちゃんと定めています。イスラム教は平和志向の宗教なのです。そもそも代表もご存知の通り、イスラム教もキリスト教もユダヤ教も元を辿れば同根の宗教であり、かつてはこの三つが共存していたのです。これが変質するのは、中世の十字軍からです。
 

欲深い十字軍によって異宗教間の対立が生まれた

元谷 十一世紀にヨーロッパのキリスト教国から始まった十字軍は、聖地エルサレムをイスラム教国から奪還するというお題目でしたが、明らかにイスラム教圏の領地を奪うという経済的な目的が非常に強いものでした。ローマ教皇の呼びかけに応じて行われた十字軍の他にも、イベリア半島では「レコンキスタ」として、キリスト教勢力によるイスラム教勢力からの国土回復運動が行われました。
ケトランジ 八世紀にスペインなどイベリア半島はイスラム勢力下に入りますが、当時のスペインは理想的な共存共栄の国でした。ユダヤ人を排斥することがなく、彼らのコミュニティも存在していました。歴史的にみてもイスラムが他の宗教を弾圧したとか、排斥したことはないのです。逆にキリスト教徒が領土的野心もあって、イスラム教国を侵略したのが十字軍です。今世界中で起こっているイスラム教国絡みの紛争にも、背後になんらかの思惑があると思っています。
元谷 ひとつ考えられるのは、アメリカの軍需産業の暗躍でしょう。冷戦時代に数多くの兵器を開発・製造していた企業群は、冷戦終結に危機を感じたはずです。それまでもアメリカでは戦争が公共事業でした。その典型例がベトナム戦争です。冷戦後は湾岸戦争、アフガン戦争、イラク戦争と軍需産業の求めに応じて、アメリカは次々と戦端を開いていきました。共産主義との対決だった冷戦後のこれらの戦いの「敵役」となったのが、イスラム教国だったのです。戦いを正当化するために、メディアはイスラムに関する偏った報道を続けています。私はモロッコやチュニジア、リビアなどアラブ諸国も何カ国も訪問してきましたから、何が公平で何が偏っているかが良くわかります。
ケトランジ 代表の仰る通りです。しかしこのような報道でのバイアス(偏り)は、今に始まったことではありません。日米経済摩擦が大きな問題になっていた時にも、アメリカは西欧メディアを通じて捏造したニュースを流し、日本がアンフェアだというイメージを人々に植えつけることに躍起になっていました。それは日本の経済力が非常に強かったからです。私は当時から外交官でしたから、その裏側を良く知っています。
元谷 メディアをコントロールして、人々のイメージを操作していたということですね。
ケトランジ その通りです。日本を悪者にしようとしていたのです。
元谷 しかし多くの日本人は、そんなアングロサクソンやユダヤのフィルターがかかった報道を正しいと思っています。だから私のような実態を見て回った人以外は、イスラム教にも悪い印象を持っているのです。またそんなイメージ操作だけではなく、政権の転覆にも欧米諸国は関わっているのではないでしょうか。二〇一〇年にチュニジアから始まったジャスミン革命ですが、エジプトにもリビアにも飛び火して、時の政権を倒しました。私はこの直前にチュニジアやリビアを訪問したのですが、独裁とはいえ、国は豊かで栄えていて、人々は平和を満喫していました。この革命の背後には、CIAなど西側の工作があったのではないでしょうか。
ケトランジ 確かに平和だったのですが、イスラム的には少し問題もありました。「独裁者」というのは、イスラムの教えに反するのです。教えからも人道主義的観点からも、民主化・平等化を進めるべきでしたが、独裁者達はそれを怠ったのです。
元谷 指導者がイスラムの教えに従った統治を行えば良かったのだが、そうではなく自分の利益ばかりを優先する独裁者になったのが問題だということですね。しかしアサド政権が転覆しなかったシリアでは、内戦によって数十万人の犠牲者が出ています。内戦か独裁か、どちらかを選べと言われたら、これは非常に悩ましいことではないでしょうか。
ケトランジ 確かにそうですね。しかし独裁者は教義に反することをやっていました。自浄作用として民衆が蜂起し、新しい国造りが行われることはやむを得ません。
元谷 なるほど、その通りです。自国政権を選ぶ権利はその国の国民にあるはずですから。ただ、他国がこれに介入して政府転覆の手助けをすることは許されないでしょう。アルジェリアが、自らの手でフランスから独立したように。ケトランジさんが仰るように自浄作用であれば問題ないのですが、背後にアメリカのCIAや軍需産業が関わっているとすれば、大きな問題です。特に金儲けのために他国の政権を交代させているのであれば、到底許されることではないでしょう。
 

自国の歴史や伝統を尊重それが真の国際人への道だ

ケトランジ ジャスミン革命後アルジェリアは安定していますが、近隣国、例えばリビア、マリなどは問題を抱えていて、革命発祥のチュニジアはまだましな方です。特にモロッコは旧スペインの植民地である西サハラの領有を巡って、この地で独立を目指すポリサリオ戦線と長く争いを続けています。この争いの原因は、モロッコの欧米列強的な軍事力による西サハラの実効支配にあります。
元谷 モロッコはそれを西欧諸国の支援を受けて行っているのですね。
ケトランジ はい、そうです。一方私達はポリサリオ戦線を支援しています。国際法に従えば、モロッコも西サハラから次第に手を引くと思うのですが…。モロッコの新聞は毎日アルジェリアの悪口を書いていますよ。西サハラ問題もアルジェリアのせいにされています。
元谷 やはり陸続きの国は隣国との問題を抱えるものです。
ケトランジ そうですね。二〇〇七年以降、国連が仲介に入って、アルジェリアやモーリタニアなどの近隣国の観察のもと、モロッコとポリサリオ戦線の間で会合が行われましたが、事態は進展していません。アルジェリアは常にこの紛争を解決する努力を続けています。
元谷 ところでアルジェリア最大の産業は、原油や天然ガスの生産です。国土も大きく、埋蔵量も豊富ですから今後の発展にも期待ができます。日本とアルジェリアは良いパートナーシップが組めると思います。アルジェリア通しでもっとイスラム教圏の情報が入ってきて、日本に広がるといいですね。
ケトランジ そうです。今日本人は、アメリカ人やイギリス人が書いたアルジェリアの記事ばかり読んでいます。おかしなことです。
元谷 安部首相は地球儀外交を提唱していますが、そのためにもキリスト教圏やユダヤ教圏からの報道だけではなく、中立の立場から世界を俯瞰した報道が求められています。日本はアメリカの属国から真っ当な独立国家となって、世界に貢献すべきなのです。
ケトランジ 私も同感です。日本のメディアは、自分なりの手段や方法でアラブとイスラム世界を報道すべきです。
元谷 最後にいつも、「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
ケトランジ 日本に生まれたことは神の祝福だと思います。三十歳以下の人口が七〇%を占めるアルジェリアでは、若年層の失業率の高さが問題となっています。これは世界的な傾向で、ギリシャなどはもっと高い失業率になっています。そんな状況の中、失業率の低い日本に生まれたことは、とても幸せだと思います。日本の若い人が忘れてはならないのは、栄光ある歴史や伝統を大切にすることです。時々は思い出して、誇りを持って欲しいですね。世界各国で国際化が進展していますが、どの国の人間でも根本的に大事なのは歴史や伝統なのです。これがルーツにあれば、世界中で素晴らしい働きができ、もっと日本は発展します。このことを日本の若者には伝えたいですね。
元谷 その通りです。今日はありがとうございました。

シド・アリ・ケトランジ
アルジェリア民主人民共和国 特命全権大使

対談日:2014年12月5日