BIGTALK

国の安全保障のためには指導者に強い決断力が必要だ

何度か戦火を交えたインドや中国、イラン、アフガニスタンに囲まれ、幾度か国家存亡の危機に晒されながらも、核武装を行うなど指導者の果断な決断によって国を守ってきたパキスタン。一九五二年の主権回復直後に国交を結ぶなど、日本とも非常に関係が深いパキスタンの商務大臣であるカーン氏に、日本とパキスタンの経済協力の未来について、お話をお聞きしました。

日本には正しい歴史認識が必要 そのために人々を啓蒙し続ける
厳しい周辺国との関係を
巧みに構築したパキスタン

元谷 今回は駐日大使のアーミルさんの「ぜひとも」というご好意もあって、非公式ですがパキスタンにご招待いただき、大変嬉しく思っています。パキスタンは、私の七十八カ国目の訪問国になります。

カーン ようこそお越しくださいました。七十八カ国目というのは凄いですね。元谷さんの企業の総帥としての発想力や戦術の素晴らしさには、感銘を受けています。私共パキスタン政府としても、元谷さんの今回の訪問にとても感謝しています。

元谷 昨日は歓迎会を兼ねた晩餐会にもお招きいただき、またマムーン・フセイン大統領と同じメインテーブルに座らせていただいて…。

カーン 大統領と同じテーブルになるよう、私の方で手配させていただきました。

元谷 やっぱりそうでしたか! ありがとうございます。またこの特別対談へのご登場も快諾していただき、感謝しております。私が発行している「月刊Apple Town」の発行部数は毎号六万三千部です。三万室以上ある全国のアパホテルの客室に置かれていて、年間七百万人の宿泊客が読んでいます。また日本にあるほとんどの大使館にも送付していて、多くの大使館関係者に読んでもらっています。Apple Townの対談には、キューバのカストロ前議長や台湾の李登輝元総統にもご登場いただいています。

カーン そんな中に私も入れていただき、大変光栄です。

元谷 私がアパグループを創業して四十二年。これまで一度の赤字もなく一千億円を超える税金を納める一方、一人のリストラも行わず、今では日本有数のホテルグループとなることができました。と同時に、日本を再び誇れる国とするためには正しい歴史認識が必要と考え、このApple Townを発行したり、「真の近現代史観」懸賞論文制度を創設したり、勝兵塾という私塾を開講したりして、人々の啓蒙を図ってきました。

カーン それはとても意義のある活動だと思います。

元谷 パキスタンはインドのみならず、アフガニスタン、イラン、中国と国境を接し、またアメリカとも深い関係を築きながら、巧みな国家運営を行っているというのが私の印象です。しかし日本ではパキスタンについての報道が少なく、日本人はこの国のことを良く知りません。今日はこの機会に、いろいろと教えていただければ…と思っています。

カーン 一九五二年に国交を樹立してから、日本とパキスタンとの関係は常に良好でした。ただ政府間の外交関係としては緊密なのですが、民間レベルではまだまだです。ビジネスや文化などの交流をもっと盛んにしていく必要があると感じています。

元谷 そのためにも、お互いもっと相手の国のことを知らなければならないですね。

戦前から続いていた日本とパキスタンの関係

カーン パキスタン・イスラム共和国は、一九四七年、ベンガルやパンジャブなどイスラム教徒が多数を占める地域が、インドと共にイギリスから独立した国です。しかしここは、その前から古い歴史を持つ場所でもあります。紀元前二千五百年からのインダス文明では、今のパキスタン領にあるモヘンジョダロとハラッパーという町が最も栄えていました。高いレベルの絵画や工芸、そして文字もありました。この二つの町では同じ形の道具、同じ形のれんがで作られた公共の建物が見つかっており、その他公共の沐浴場、道路、水路が整備されていました。二つの町共通のレベルの高い文明の下で暮らしていたことが窺えます。

元谷 インダス文明は日本でも学校の世界史で学びます。そんな古い時代から文明が栄えていた地域なのですね。

カーン はい。その後も様々な王朝の支配を受けるのですが、特に有名なのは紀元一?五世紀に全盛を迎えたガンダーラ王国の美術でしょう。インドやローマなど東西の文化が融合した美術は、今でも高い評価を受けています。その後八世紀にイスラム教が伝えられ、イスラムの文化が南アジアにも広まっていったのです。

元谷 その流れが今のパキスタンを築いているのですね。

カーン はい。イスラム教は国教になっています。

元谷 今の人口はどれくらいですか。

カーン 一億八千万人です。国土の面積は日本の約二倍になります。首都はイスラマバードです。公用語としては英語が使われますが、国の言葉としてはウルドゥ語が話されています。一九三〇年にはすでに東京大学と拓殖大学、大阪大学にウルドゥ語研究の学部が設定され、日本でパキスタン研究が進んでいたのですよ。

元谷 先の大戦の前から、日本とパキスタンの結びつきがあったのですね。

カーン はい。そしてパキスタンは、インドが出席しなかった一九五一年のサンフランシスコ講和会議に南アジア唯一の主要国して参加し、日本の立場を擁護しました。そして翌年日本が主権を回復するとすぐに国交を結び、日本も即座にカラチに大使館を置きました。

元谷 そこが緊密な関係の始まりでしょう。

カーン そうです。一九六〇年にはアユブ・イブハル大統領が日本を、翌年には日本の池田首相がパキスタンを訪問し、円借款制度と交換留学生制度を始めることになりました。その後八十名のパキスタン人学生が日本に留学し、千葉大学を中心にいくつかの大学で言葉や技術を学び、自国に持ち帰りました。この技術がパキスタンの産業に大きな改革をもたらしました。また円借款によってパキスタンは日本の良質の製品を買い入れることが可能になり、日本は南アジアや中東諸国のマーケットへの足掛かりとして、パキスタンを利用することができたのです。

元谷 そんな歴史の上に、今の二国間の関係が成り立っているのですね。

冷えつつある中国との経済連携 代わりとなる国の登場が求められている
新政権発足によって
諸外国との連携を強化

元谷 現在、産業は何が盛んなのですか。

カーン 農業と繊維産業がメインになります。近年技術力も向上してきていますので、今回それらもぜひご覧になっていただきたいです。

元谷 パキスタンとのビジネスは、日本ではまだまだ主流ではありません。これまで日本は中国に進出して、かなりの投資を行ってきました。しかしカーンさんもご存知のように、尖閣諸島問題の影響で日中関係が冷え込んでいるために、日本は次のビジネスの場を求めている最中なのです。パキスタンももちろんその候補の一つです。

カーン そのような話を聞くと、とても嬉しいです。将来に希望が持てます。

元谷 アパホテルもこれまで中国製のリネンを購入していたのですが、この機会に変えようということになっています。このパキスタン訪問は、リネン調達先の視察という意味合いもあるのです。その他、タオルや金物にも、良い製品があるようですね。

カーン しっかりご覧になっていってください。アパホテルで私達の国のリネンが使われるようになれば、日本でのパキスタンの大きなイメージアップに繋がります。

元谷 しっかり検討してみます。

カーン パキスタンでは今年総選挙が行われ、シャリフ氏が首相となりました。彼が政権を担当するのは、三回目です。この政権が推進しようとしているのは、友好国との関係の強化です。特に貿易を盛んにすることでパキスタンを発展させることが、大きな目標となっています。私達政府はこれまで以上にオープンなスタンスで、諸外国との緊密な関係構築に努めているのです。

元谷 日本との連携をぜひ深めていただき、一緒に発展していければいいですね。

カーン 私が担当している商務省では、ビジネスでパキスタンに進出しようと計画している企業を全面的にサポートしています。何かご希望があれば、どんどんおっしゃってください。それを叶えるべく、全力を尽くしますから。

元谷 それは頼もしい! シャリフ体制でパキスタンが発展することは、日本にもメリットのあることだと思います。

両国の若い人々が中心となって お互いの国を高め合っていくべき
バランス・オブ・パワーが
地域の安定の鍵となる

カーン 経済的には、今のパキスタンは先の大戦直後の日本のような状況です。現状はまだまだですが、これからの伸びしろに期待できます。成長に向けて、パキスタンはもちろん、日本など諸外国が積極的に勢いを持って関係構築を進めていければ良いのではないでしょうか。例えばアパグループとの関係を突破口にして、日本とパキスタンの民間レベルでの経済連携を深めていければ…と考えています。

元谷 その通りです。しかし政治・外交的にはパキスタンは非常に難しいポジションにいるにも拘わらず、巧みに生き抜いています。何度か戦火を交えたインドはもちろんのこと、イラン、そしてアフガニスタンとの関係も難しい。パキスタンをこの地域の安定の要と見ているアメリカも、無断でパキスタン国内でビン・ラディンを殺害するなど、主権を侵す行為を平気で行ったりします。一方日本は核の傘の下で、これまでぬくぬくと平和を貪ってきました。しかしロシア、中国に加えて北朝鮮が核保有国となり、日本周辺の状況も緊張感を増してきています。膨張する中国と撤退するアメリカの間にあって、力の空白域を作らないために日本はどのように行動するべきなのか。そのためには核武装も必要なのではないかと私は考えています。力の空白域が生じることが戦争に繋がるのです。私はパキスタンはバランス・オブ・パワーを良く理解していて、空白域をなくすことで平和を維持することを実践している国だと思っています。

カーン ありがとうございます。シャリフ首相は二回目に首相となっていた一九九八年、インドの地下核実験に対抗して核実験を行う決断をし、パキスタンが世界で七番目の核保有国であることを宣言しました。リーダーシップをしっかり発揮できる、決断力のある指導者です。

元谷 インドの核実験からすぐでしたから、その決断力は素晴らしいです。

カーン 経営者としてはもちろん、国家・外交・軍事に関しても造詣が深い代表には、ぜひこれからも頻繁にパキスタンにお越しいただきたいですね。多角的に戦略的に二国間関係を築いていくには、代表のような人材が不可欠です。

元谷 もちろんです。日本としても先ほどお話したように中国べったりからの脱却、リスク分散が必要なのですから。このタイミングでのApple Townへのカーンさんとの対談の掲載でも、いろいろと反応が期待できると思います。

カーン パキスタンの投資委員会委員長のズパさんにも話をしておきます。パキスタン国内でのパートナー選びのお手伝いもできますし、新しいアイデアや商品をご紹介することもできます。何でもご相談ください。

元谷 アパホテルは日本で一番保有している部屋数が多いホテルチェーンです。単体のホテルとしては日本最高層のアパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉も保有していますし、今東京で五十のホテルを建設しようとしています。その次は世界進出の可能性も十分あります。パキスタンにアパホテルを作ることも、検討に値することだと考えています。

カーン それはぜひ実現させたいですね。またすぐにいらっしゃって、もっといろいろとご覧になっていってください。

元谷 わかりました。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

カーン パキスタンはとても美しい国であり、古くからのインダス文明の流れも汲む、文化の豊かな国です。若い人達が中心となって、日本の大学とパキスタンの大学の交流を行い、お互いを高め合うという試みがあってもいいでしょう。とにかくまず日本の若者には、一度パキスタンに来て欲しいです。

元谷 その通りですね。今日はありがとうございました。

クーラム・ダスティギール・カーン氏

パキスタン・イスラム共和国 商務大臣

対談日:2013年9月26日