BIGTALK

ギリシャと日本の 変わらぬ友好

パルテノン神殿など数多くの史跡が残り、また民主主義やオリンピック、その他多くの西洋文化における制度の発祥地として日本人に人気の高い国・ギリシャ。独自の文化を維持する国として日本と共通点が多いギリシャの駐日大使 ニコラオス・ツァマドス氏をお迎えし、リーマン・ブラザーズ破綻に端を発してヨーロッパを直撃した昨今の財政危機からギリシャがどう立ち直ろうとしているか、また日本とギリシャの共通の利益はどこにあるのかなどをお聞きした。

パルテノン神殿に代表される石の文明と法隆寺に代表される木の文明の競演
共に古い文明を持つ国同士言葉が異なっても理解可能

元谷 本日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。前々からぜひ一度、お越しいただきたいと思っていたのですが、お誘いするのが遅くなってしまいました。

ツァマドス 今日は大使館までお越しいただき、ありがとうございます。駐日ギリシャ大使として、日本の政治家や政府の高官とお会いする機会は多いのですが、一般の人々と会話をする機会はあまりありません。今回はこのApple Townという雑誌を通じて、より多くの日本の皆様にギリシャのことを知ってもらえればと。良いチャンスをいただき、本当にありがとうございます。

元谷 Apple Townはアパホテルの各部屋に置かれていて、年間のべ六百万人のお客様が目にしている雑誌ですから、インパクトがあると思いますよ。ところで日本人はギリシャが大好きで、毎年かなりの数の人々が観光に行っていると思います。まずギリシャで思い浮かぶのは、オリンピック発祥の地だということでしょう。私も二〇〇四年のアテネオリンピックを見に行きました。またギリシャが日本同様、非常に長い歴史を誇っているということも、人気の理由の一つだと思います。

ツァマドス おっしゃる通り、日本もギリシャも共に古くから偉大な文明の地であり続けています。だから非常に楽にコミュニケーションができる気がします。言葉が分からなくても、古い文明という共通項で、いろいろと気持ちが通じてくるように感じています。

元谷 ギリシャ文明というと、アテネのパルテノン神殿のような石の建築を思い浮かべるからか、石の文明という印象があります。日本は木の文明です。法隆寺西院伽藍のように七世紀半ばに造られた非常に古い木造建築物もありますが、紀元前五世紀に造られたパルテノン神殿にはかないません。

ツァマドス それはその通りだと思います(笑)。ギリシャは観光地として、世界中から観光客が訪問します。ここにきて急速な円安傾向ではありますが、日本の皆様にはギリシャに来ていただき、我々の歴史や美しいビーチ、美味しい食事、そして素晴らしい文化を満喫していただきたいですね。

元谷 そうですね、残念ながら円安が海外旅行の妨げになっているかもしれませんね。

ツァマドス ぜひ代表にも、短い滞在でも結構ですからギリシャに来ていただけないかと。アパホテルの中には稼働率が九八%や九九%という驚異的なところもあるとお聞きしていますが、ぜひギリシャにお招きし、そのノウハウをホテルオーナーたちに教授していただきたいと思います。またギリシャの観光大臣が三月に来日しますので、できれば代表にもお会いいただきたいと考えています。

元谷 アパホテルの高稼働率の秘密はいろいろとあるのですが、一つお教えします。それは部屋の料金が二十四時間、市場が受け入れてくれるまで変動するからなのです。多くのホテルは先に料金を決めて部屋を販売していますが、アパホテルの料金は刻々と変化するのです。為替相場みたいなものですね(笑)。

ツァマドス どのようにして料金を決めているのですか?

元谷 まず支配人が近隣のホテルの料金を調べ、それらに勝てる料金の「相場観」を持ちます。この感覚をベースに料金を上下させていくのです。特別人気がある時期は通常の一・三倍~二倍になりますし、逆に正規料金の半分となるケースもあります。

ツァマドス なるほど、合理的ですね。もし二〇二〇年に東京でオリンピックが開催されることになったら、ホテルを増やすおつもりですか?

元谷 ホテルはもう日常的に増やしていますので(笑)。今「頂上戦略」ということで、五年間で五十のホテルを東京都心で建設する計画が進行中です。現在二十五のホテルの設計も済み、オープンしているものもあります。残り二十五のホテルの用地買収・建設をあと二年程度で行なっていく予定です。

ツァマドス アパホテルは全て部屋数や部屋の大きさが同じなのでしょうか?

元谷 全て異なります。ビジネスマンの利用が多いシティホテルが中心となりますが、リゾートホテルや温泉旅館もあります。

ツァマドス 私のような体の大きなものが宿泊しても、快適でしょうか(笑)?

元谷 部屋は確かに大きくはありませんが、ベッドはシングルルームでも幅一四〇〇ミリのものを入れていますから、ゆっくりお休みになれます。またテレビも四二インチの大型液晶テレビが入っているホテルが増えています。また大浴場を完備しているホテルもあるのですが、非常に人気があります。

ツァマドス 素晴らしいですね。私達ギリシャ人には、オリンピック開催時のホテル運営ノウハウがありますから、東京オリンピックが決定した暁には、ぜひコラボレーションして海外のお客様を迎える体制を整えましょう。

元谷 それはいいですね!

冷戦終結後のヨーロッパで一番上手く立ち回ったのはドイツだった
財政再建が進むギリシャに希望の光が見えてきた

元谷 まずは東京への招致を成功させないと。ツァマドスさんも応援をよろしくお願いします。

ツァマドス わかりました。「為せば成る」と言いますので、頑張ってください!

元谷 (笑)

ツァマドス しかしギリシャも他の多くの国と同様に、日本と同じ苦しみを味わっていると思うのです。ご存じかと思いますが、ギリシャは多くの哲学の学派の発祥地であり、その一つがストア哲学です。両親を選んで生まれることができないという現実も含め、ストア哲学では自らの力の及ばないものは甘受すべしと教えています。同じ意味で、国としても隣人を選ぶことができない現実は甘受しなければなりません。

元谷 その趣旨は良くわかります。近隣諸国との平和は力の均衡を守ることによって維持すべき。その点日本は今まで、周辺国に対して弱腰過ぎました。今回安倍さんが首相となり、日本の姿勢をしっかりとした方向に導いてくれることを大いに期待しています。

ツァマドス 代表のことは理解しているつもりですし、代表が多くの政治家の友人であることも良く存じ上げています。安倍首相が代表を満足させられることを願っています。

元谷 そうですね。少しギリシャのことを教えて下さい。

ツァマドス ギリシャという国はある意味ユニークで、言語的・地理的、また宗教的にも他のヨーロッパの国々と大きく異なり、日本に似ているとも言えます。さらに、日本と同様に古代ギリシャは多神教であり、我々は知的により柔軟になることを学びました。これは代々、環境や隣人と巧みに付き合い、平和裏に共存することを助けてきました。

元谷 なるほど、その通りですね。

ツァマドス 日本は明治維新と第二次世界大戦後の二回、奇跡とも呼べる急速な発展を経験しています。ギリシャもその奇跡的な経済発展の初期に貢献したのですよ。ギリシャの船主たちが何百隻にも及ぶ船舶を発注し、日本の造船会社によって建造されたのです。

元谷 海運王のオナシスらが発注したのですね。

ツァマドス はいそうです。最近ではグーランドリスやキャプテン・ツァコスなど、多くを数えます。日本の大きな経済的成功の他の要因としては、過去六十年間において防衛費を低く抑えることができた手腕にあります。

元谷 おっしゃる通り、日本の躍進を造船業が支えてきた部分は大きいのですが、それらの技術の大元は全て帝国海軍時代に養ったものです。戦後の日本はアメリカによって航空機の開発は禁止されましたが、船舶は構わないということで、造船技術は着実に磨かれ、完成されてきました。その結果、ギリシャの海運会社にも購入してもらえるような高品質の船舶を作ることができるのです。

ツァマドス 過去、ギリシャの国防費の対GDP比は五%にも及びますが、これは日本の七倍の水準です。

元谷 そういえば、ギリシャのプライマリーバランスが黒字に転換したというニュースが今日流れてましたね。

ツァマドス そうなのです。これまでギリシャの財政はどん底だったのですが、着実に回復していくと信じています。望むべくは国防費を抑制し、教育や他の社会保障プログラムなどにより多くの予算を使える方法を見つけたいものです。私の理解では、日本はその正反対の戦略を取ることで恩恵を得られるでしょう。

元谷 その通りです。日本は防衛費の上限をGDPの一%としてきたのですが、現在は一%にも達していない状況です。私達はこれを恥じるべきではないでしょうか。毎年縮小してきた防衛費ですが、安倍首相になってようやくこの政策も反転しました。

ツァマドス そうですね。

元谷 ヨーロッパで冷戦後、一番上手く立ち回ったのは、やはりドイツでしょう。ドイツ単体であればマルク高になってしまうところ、ユーロになっていたので、この脆弱な新通貨のおかげで国際競争力を得て、その恩恵をフルに活用しています。日本の場合は逆に円高に苦しむことになりました。今は円安になったというより、徐々に正常な形に戻ってきているというのが正解だと思います。

ツァマドス そうかもしれません。しかし、ご存じの通り、ヨーロッパの一部の国は日本の為替操作を非難しています。

元谷 それまでドイツがユーロ安で助かっていたのに…とは思いますが(笑)、メルケル首相の立場としては当然の反応でしょう。

ツァマドス そう思います。ギリシャはトンネルの向こう側に光を見出し始め、経済面のみならず政治面でのヨーロッパの統合に向けて努力しています。先ほど代表にはギリシャのプライマリーバランスについて触れていただきましたが、私達も経済状態がだんだん良くなってきていることを実感しています。インフレがなかなか止まらないのが、懸念材料なのですが…。

元谷 ギリシャに希望の光が見え始めましたね。

ジョギング・ランニング人口が一千万人 日本はオリンピックに相応しい国だ
多くの人種との交流が将来の成長に繋がる

ツァマドス さてギリシャと日本との深い関係において、語らないわけにはいかない人物がいます。それはラフカディオ・ハーンこと、最後には日本に帰化した小泉八雲です。彼の父親はアイルランド人だったのですが、母親がギリシャ人でした。彼は波乱に満ちた青年期を過ごしましたが、何とか良い教育を受けることができました。ハーンはアメリカで雑誌記者となった後、文明開化の時代を取材するため一八九〇年に日本にやってきました。初めて横浜港に到着した時には、そこがあまりにもギリシャに似ていたので、「日本で故郷を見つけた!」と言ったそうです。

元谷 その後、日本人と結婚したのですね。

ツァマドス 島根県の松江で英語を教えるかたわら、元松江藩の武士の娘と結婚します。彼は日本の神話に非常に興味を持ち、ギリシャ神話と比較研究しました。実質的には彼が日本を英語圏の世界に知らしめ、日本の隔絶された文化を垣間見られるようにしたのです。ラフカディオ・ハーンが一八九六年の明治三陸大津波を英語圏の読者に知らしめた結果、「ツナミ」という日本語が英語の辞書に加えられるようにもなったのです。その後、熊本の旧制高等学校の英語教師となるのですが、ハーンは比較的現代風で新しい時代の雰囲気が漂う熊本よりも、江戸時代の面影を強く残す松江の方が好きだったようです。

元谷 松江に行くと、ハーンが暮らしていた家が史跡として保存されていて、見学もできますね。

ツァマドス はい。ところで日本の皆様にはぜひ、ラフカディオ・ハーンの出生地であるギリシャの美しいレフカダ島を訪れていただきたいですね。さらに付け加えさせていただくと、ハーンの文学における功績は広く認知され、後年に彼は東京帝国大学の講師となります。そして一九〇四年に五十四歳で亡くなりました。彼の教え子たちが月桂冠と共に次のような銘文を贈りました…
「ラフカディオ・ハーンの思い出は、彼が愛して暮らした強き国の剣より彼のペンは強く、その最高の栄誉はその国で市民権と、悲しいかな、永眠の場所も得たことである!」

元谷 早逝でした。彼が紹介した美しい日本は、本来私たち日本人が誇りに思うべきものです。
 さて、やはりギリシャと言えばオリンピック。アテネでは、近代オリンピックの最初の大会と二〇〇四年の大会の二回が行われています。東京も一九六四年に続いて、ぜひ二〇二〇年の開催を実現できるよう、私も応援していますし、ツァマドスさんのお力添えもぜひお願いしたいのです。

ツァマドス 期待しています。日本のジョギング・ランニング人口は一千万人を突破したそうですが、これはほとんどギリシャの人口と同じ。これだけのランニング大国なのですから、オリンピックを開催する資格は十分にありますよ(笑)。もう一点、二〇一四年からギリシャで開催予定のマラソン大会に日本の皆様が参加されることをお勧めします。特に日本人ランナー向けに、ゴールデンウィーク期間中に開催されるものもありますよ。

元谷 その通りです(笑)。もう一つ、いつも各国の大使にお願いしているのは、国連の旧敵国条項の撤廃です。先の大戦から七十年近く経とうとしているのですから、いくら連合国が中心となって作られた国連とはいえ、ドイツや日本を敵国と見做す憲章の条文は即刻削除して欲しいのです。

ツァマドス わかります。私からもお願いがあります。日本とギリシャ間のツーリズムをもっと広めていくことに、力を貸して欲しいのです。民主主義を発明し、西洋文明を形成し、そしてヨーロッパという概念を生んだギリシャという国で、より多くの日本の皆様が夢を叶えられるようにするためにです。そのために、互いにさらに協力していきたいのです。ギリシャの観光大臣は非常に優秀で熱心な人なので、今度の来日の際は代表に是非会って欲しいと思っています。

元谷 わかりました。私も何度かギリシャは訪れていますが、見るべき文化的資産が多い国だといつも感じています。ギリシャに魅力を感じている日本人は非常に多いですよ。

ツァマドス ありがとうございます。もう一つ日本とギリシャの共通点は、魚介類が好物だということでしょう。特に「タコとカラスミ」です。また、ギリシャ料理のベースになるオリーブオイルが日本でますます人気が出てきていることも申し上げておきます。

元谷 確かにギリシャ料理の楽しみもありますね。観光大臣にお会いした時に、その他観光のオススメスポットなどもお聞きしてみます。

ツァマドス 是非そうしてみてください。

元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

ツァマドス 私の一番下の息子は今十六歳で、自宅から地下鉄を使ってフレンチスクールに通っています。彼は日本が大好きで、日本語の読み書きができて漫画マニアです。空手も習っていますが、もうじき黒帯ですよ(笑)。

元谷 すごいですね(笑)。

ツァマドス 日本人はもちろん、友達は韓国人やフランス人、ブラジル人、アメリカ人、その他いろいろな人種です。子供の時から多様なバックグラウンドを持つ人々と付き合うことは、息子や全ての若い人にとって非常に有益なことだと感じています。日本人も若いうちから海外へ行って、いろいろな国の若者と交流することが、将来に関して良い方向に働くのではないでしょうか?

元谷 最近、日本の若者が海外に出かけなくなったと言われていますが、やはりどんどん出て行くようにしなければならないですね。

ツァマドス その通りです。

元谷 今日は本当にありがとうございました。

ニコラオス・ツァマドス氏
1951年ギリシャのアテネ生まれ。パリ第一大学法学部、パリ政治学院(政治学)、高等教育実習院(記号学)、ベルリン自由大学大学院で学び、兵役後の1982年、外務省に入省。レバノン、イタリア、チュニジア、ドイツに総領事、臨時大使などとして赴任。外務省ロシア・CIS諸国局長などを経て、2009年より現職。

対談日:2013年2月5日