BIGTALK

自国への誇りと 他国への尊敬が 良い国際関係を生む

世界一の原油埋蔵量を背景に、イスラム教国家として存在感を放つサウジアラビア王国。早稲田大学への留学経験もあり日本語が堪能な駐日サウジアラビア王国大使館のアブドゥルアジーズ・トルキスターニ大使に、今後望まれる日本とサウジアラビアの関係、外国人から見た日本の印象の変化などをお聞きした。

実現に向かって熱意を持って行動すれば
その夢はきっと叶うはず
湾岸諸国の政情不安定は日本にも大きく影響する

元谷 
今日はビッグトークにご登場いただき、本当にありがとうございます。大使とお会いするのはもう三回目です。お会いする度に日本語が上達していて、いつも驚かされます。
トルキスターニ よろしくお願いします。私の日本語はまだまだですよ(笑)。私が中学三年生だった一九七三年、サウジアラビアのファイサル国王と当時日本の総理大臣の会談があり、日本人の林昂さんというアラビア石油の重役だった方が通訳をされていました。林さんは今九十五歳で、まだお元気です。彼のアラビア語が非常に流暢なのに感銘を受け、私は母に日本語を勉強して林さんのような通訳になりたいと言ったのです。すると母は、日本語だけではなくもっといろいろと勉強をして、大使になって日本に行けるようになりなさいと言いました。私もその気になって勉強し、二〇〇六年に国王の日本語通訳を行い、二〇〇九年に駐日大使となることができたのです。夢を持ってその実現に向かって行動すれば、叶うものなのですね。
元谷 私もそう思います。思いが強ければ実現します。サウジアラビアの大学を卒業した後、早稲田大学に留学されていたのですね。
トルキスターニ はい。先日亡くなられた小林太三郎先生に師事して、マーケティングや広告を学びました。非常に熱心で真面目な先生でしたね。広告論は結局人間について学ぶ学問なので、人間に非常に興味がある私にはとても面白いものでした。
元谷 そこで学んだことをビジネスにも、また今の大使の仕事にも生かしてらっしゃる。私は先日バーレーンを訪れ、ハマド国王や皇太子、そして数多くの政府の閣僚の皆さんと会談をしてきました。バーレーンは非常に素晴らしい国でした。そもそもこの国を訪問したきっかけは、私がこのApple Townに連載している「APA的座右の銘」を集めて英語に翻訳した本を、駐日大使のハッサンさんが非常に気に入ったことでした。彼の計らいで、賓客ということでバーレーンを訪れたのですが、空港に到着すると飛行機に迎えのベンツが横付けになって、そのまま街へ。ホテルはスイート、食事は朝昼晩と最高のごちそうで、しかも払いは全てバーレーン政府。滞在中、枕銭しか使いませんでした(笑)。
トルキスターニ それはいい経験をされましたね(笑)。
元谷 ハッサンさんに言われて、座右の銘の本を二十冊ほど先に送っていました。その本を持ってハッサンさんが閣僚の人々に先に話をしてくれたおかげで、私との会談のセッティングが極めてスムーズに決まっていきました。中でも国王の叔父にあたる首相がこの本に大いに感動し、皇太子との会見を設定してくれたのです。そしてさらに皇太子の紹介でハマド国王にお目にかかることができました。
トルキスターニ 物事が上手く流れたのですね。
元谷 はい。国王はあまり喋らない人だと聞いていたのですが、実際に会話は非常に盛り上がりました。きっかけは私がF15戦闘機に体験搭乗した時の写真を見せたことでしょう。元々軍隊にいた国王は、その時覚えたヘリコプターの操縦が今でも大好き。また鷹狩も趣味。私も車など乗り物が大好きで、射撃も趣味ですから、何か通じるものを感じられたのでしょう。
トルキスターニ バーレーンのハマド国王は非常に優しい良い方です。ところでその座右の銘の本はアラビア語に翻訳されているのですか?
元谷 いいえ。英訳はあるのですが。
トルキスターニ では私がアラビア語に翻訳しますよ。実は私は坂本龍馬に関する本を作り終えたばかりで、今、アラビア語で日本のことわざの本を作っているところです。ことわざの場合特にそうなのですが、意味をきちんと汲み取って訳さなければならない。翻訳者の力量が問われるところですね。面白いことに日本と同じようなことわざがアラビア語にもあるのです。
元谷 知恵というのは万国共通なのでしょう。
トルキスターニ ぜひ翻訳やりましょう。
元谷 よろしくお願いします。

単なる貿易の相手国から戦略的パートナーに

元谷 バーレーンでは私は「閣下」と呼ばれていました。それはハッサンさんが、座右の銘の本とともに私の事を一度の赤字もリストラもなく、一代で日本最大のホテルチェーンを作り上げた男として紹介していたからです。「ピンチをチャンスに」という言葉がありますが、確かに私は大きな経済変動を全てチャンスに変えてきました。向かい風でも風が吹いていれば、それを利用してヨットは前に進むことができます。でも全くの無風では手の打ちようがありません。バブルの崩壊もファンドバブルもリーマンショックも全部チャンスになったから、今のアパグループがあります。実際この一カ月で六つのホテルをオープンさせ、さらに明日はアパホテル〈渋谷道玄坂上〉のオープンです。
トルキスターニ 凄いです。
元谷 二〇一〇年四月からスタートしたアパグループの頂上戦略ですが、これも「時を選び、勝てる所で、勝て」という私の座右の銘の一つに従った行動です。リーマンショックで地価が下落したと見て、四十一物件の土地の仕込みを全てキャッシュで行いました。それらが今順番にホテルになったり、マンションになったりしているのです。またこの夏の東京のアパホテルの稼働率平均は九五%を越え、中でも幕張にあるホテル単体では日本最高層となるアパホテル&リゾート〈東京ベイ幕張〉の稼働率は、九八%を越えました。〈東京ベイ幕張〉は今約一千室なのですが、五百室増室することを決めています。
トルキスターニ 絶好調ですね。
元谷 今はいい時期ですから一気にプロジェクトを進めていますが、状況が悪化すればさっと止めることもできます。私がグループの全株オーナーですから。サラリーマン社長では、そうはいきません。
トルキスターニ サウジアラビア大使館は六本木にあるのですが、ここにも新しいアパホテルがあります。
元谷 〈六本木一丁目駅前〉ですね。このホテルもいつも満室です。
トルキスターニ やっぱり(笑)。
元谷 日本人はサウジアラビアの事をあまり知りません。基本的なことを教えてもらえますか?
トルキスターニ はい。サウジアラビアは、アラビア半島の大部分を占める国です。国土の面積は日本の約五・七倍。そこに約二千七百十四万人の人々が住んでいます。国教がイスラム教、言葉はもちろんアラビア語になります。アブドラ国王を元首とする君主制の国で、現在国王が首相を兼任しています。主要産業は石油と石油化学で、日本にも多くの原油を輸出しています。
元谷 日本から電化製品など多くの商品を輸入していますね。
トルキスターニ その通りです。私はサウジアラビアをはじめとするアラブイスラム圏と日本との関係はこれからだと考えています。日本が輸入している原油の三三%はサウジアラビアからのもの。アラブ首長国連邦・バーレーン・クウェート・オマーン・カタール・サウジアラビアからなる地域協力機構・湾岸協力会議(GCC)が日本の輸入原油に占めるシェアは七〇%以上になります。この半世紀、お互い石油や電化製品の貿易先としか見てこなかったのは事実です。この事実を認めた上で、これからどうするか。まず代表のようにアラブ諸国を訪問してくれる日本人を増やす。その逆ももちろん増やす。その上でこれから何をするかを一緒に考えていければいいと思っています。一足す一が二になるのではなく、それを三にする戦略的なパートナーシップが必要なのです。
元谷 全く同感です。

西欧文化と異なることを恥じずに自国の文化に誇りも持つべき
投資先として有望親日的なサウジアラビア

トルキスターニ 私は二十一歳で日本にやってきて、八年間日本の大学で学んでいました。私のような人間を千人規模で増やしていきたい。一方日本人にもビジネスでもその他の理由でもいいので、もっとアラブ諸国に来て欲しいのです。
元谷 バーレーンで私はいろいろなオファーをいただきました。フランチャイズでアパホテルを展開しないかというお話もあったのですが、五年間で十カ所以上展開できる目処があれば、可能性があるとお答えしておきました。私としてはまず日本でダントツのホテルグループとなって、その上で韓国や台湾、中国などアジアを中心にアパホテルを広げていくつもりです。しかしぜひやりたいという方がいれば、湾岸諸国でフランチャイズ展開をしてもよいと考えています。このエリアには高級な五つ星ホテルや非常に安いホテルはあるのですが、アパホテルのような上質でありながら部屋をコンパクトにすることで低価格を実現している、ビジネスマン向けのホテルはほとんどありません。
トルキスターニ 確かにないですね。
元谷 バーレーンにはサウジアラビアから年間五百万もの人が訪れるそうです。ガソリンが一リットル十円とか高くて二十円などというエリアですから、移動費はほとんど気になりません。やはり問題は宿泊費。高級ホテルの三分の一の料金で宿泊できるアパホテルのようなビジネスモデルが、今後重要になると指摘してきました。聞けばバーレーンのホテルの部屋の標準の大きさは二十四平方メートル。アパホテルの場合はその半分以下ですから、料金を下げても収益率は確保できる…という話をすると、バーレーンの大手ホテルの人もかなり乗り気で、出資したいと言っていました。
トルキスターニ バーレーンの人々はアパホテルの進出を一つのモデルとして日本の企業に示し、他の進出の誘い水にしたいという意図があるのでしょう。日本からサウジアラビアへの投資は、まだまだ少ない。日本は怖がっているように思えます。しかしサウジアラビアは今やG二〇の一員であり、二〇〇八年にODAからも卒業しているのです。また多くのサウジアラビアの人々がどんな階層でも、日本に対して非常に良い印象を持っています。日本の人々に、サウジアラビアを投資先として真剣に考えて欲しい思いますし、よいパートナーになれると思います。
元谷 わかりました。このApple Townを通じて、多くの人がサウジアラビアに関心を抱くことを願っています。せっかく日本人に対して良い印象を持ってもらっているのですが、最近の日本人は昔の日本人とはかなり違うのです。本来日本人は自国を誇りにすべきなのに、先の大戦以降、自らを貶める風潮が高まっています。バーレーンをはじめとするアラブ諸国では、公式の場に民族衣装を身につけて堂々と出席する男性が必ずいます。自らの文化に誇りを持っていて、本当に立派だと思います。しかし日本人で公式の場で着物を着ている男性というのは、歌舞伎役者ぐらいではないでしょうか。自国の文化に誇りを持つのが正しい姿勢であって、西欧の文化と比べて違うからおかしいというのは間違った態度です。日本は日本らしく、サウジアラビアはサウジアラビアらしく、それぞれ自国に誇りを持って、そして他国を尊重しながら関係を築いていくべきでしょう。
トルキスターニ おっしゃる通りです。私は日本とサウジアラビアの関係構築の中で、今二つのことを考えています。一つはビジネスのことで、投資の増加や産業、特に川下産業の発展をどう促すかということ。もう一つは人と人との交流をどのように活性化するかということです。例えば文化イベントをもっと開催してもいいのではないでしょうか。空手であったり茶道や生花であったり、日本の文化でサウジアラビアに伝えたいものがたくさんあります。最近着任された駐サウジアラビア大使の小寺さんともお話したのですが、一人の書道家をサウジアラビアに派遣してもらえるだけで、非常に大きな影響があると思うのです。
元谷 そのような相互理解は重要です。日本人でサウジアラビアの人口が三千万人に近いとか、一人あたりGDPが二万ドルを超えているなどと知る人は極めて少ないですから。一昨年末から昨年にかけてチュニジアで沸き起こったジャスミン革命から波及した「アラブの春」で、エジプトやリビアなど多くの国で政変が起こりました。しかしサウジアラビアの政情は安定していました。統治方法が非常に優れているという印象を持っています。

イスラムは「平和」という意味の言葉 日本とアラブが平和の旗振り役に
イスラムという言葉には平和という意味がある

トルキスターニ いわゆる「アラブの春」の根本にある問題は、若い人の失業問題だと、私は思います。
元谷 そうですね。
トルキスターニ この問題は失業率が高いサウジアラビアも同様です。先進国の中でも失業率が低い日本のノウハウをなんとか吸収できないかと考えています。また今日本で学ぶサウジアラビアからの留学生は四百八十人にのぼります。毎月一度、大使館に集まっているのですが、この場でいろいろと日本と日本人の知恵についてレクチャーしたいと思っています。代表にもぜひ一度お話していただければ。
元谷 留学生ですから若い人ばかりですか?
トルキスターニ はい、ほとんどが二十代です。
元谷 わかりました。お話しますよ。
トルキスターニ ありがとうございます。すぐに実現させましょう(笑)。
元谷 あと私が考えているのは、このApple Townに「世界の大使から」というページを設け、毎月リレー形式で各国の大使から自国を紹介してもらってはどうかということです。このApple Townは毎月五万五千部発行しています。アパホテルに年間宿泊する六百万人が見ることになる雑誌ですから、多くの人に大使の主張が伝わると思います。
トルキスターニ それはいいアイデアです。
元谷 ではこちらもすぐに実現させましょう(笑)。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。
トルキスターニ 私は一九八二年、つまり昭和五十七年の四月七日の夕方六時二十分に日本に初めてやってきました。
元谷 よく覚えていますね(笑)。
トルキスターニ はい。山手線に最初に乗った時、若い人たちが、シルバーシートに座っていなくても高齢者に席を譲っているのを見て、驚いた覚えがあります。しかし最近は席を譲る若者が減ってきました。昔の素晴らしい習慣がどんどん廃れてきているのは嘆かわしいことです。良いことは、いつまでも大切にして欲しいのです。それぞれの国の固有の文化をもっと大切にしなければ。
元谷 それは同感です。
トルキスターニ もう一つ、私は日本に来てこの国独特の倫理の尊さを学びました。それは先生や先輩に対する敬いであり、後輩に対する慈しみであり。社会をより良く運営していくためのマナーだと思うのです。
元谷 それも近年の日本では廃れていることです。
トルキスターニ はい。私達はイスラムの戒律の下で暮らしていますから、サウジアラビアにいようが日本にいようが、アメリカにいようが一定の基準を守って行動しています。日本は自らの誇れる文化を忘れているのでは。
元谷 なるほど。日本人と外国人とで視点は全く異なっています。トルキスターニさんにそのような指摘を受けて、はっと気づくことがあった場合は覚醒のチャンス。歓迎すべきことです。
トルキスターニ しかしアラブ諸国にとって日本が非常に大切な国であることは、今も昔も変わりません。
元谷 日本にとってもアラブ諸国は本当に大切な国々です。石油がこれらの国から届かなくなった時には、前回のオイルショックの時のように、日本中が大騒ぎになってしまうでしょう。それだけ大事なのに、日本人がアラブ諸国のことを知らないのは大きな問題です。
トルキスターニ 島国と言われてきた日本は今やすっかり国際化されています。世界の中で日本には平和の旗振り役として進んでいって欲しいのです。イスラムという言葉は、そもそも平和という意味なのですから。
元谷 そうなのですか! イスラムのイメージは逆の暴力とか過激な印象だったのですが…。このお話を広めるだけでも、今日いらっしゃった意味があります。
トルキスターニ ありがとうございます。これからも日本とサウジアラビアの架け橋であり続けるよう、そして二国がwin‐winの関係を築けるよう、精一杯努力していきます。
元谷 期待しています。今日はありがとうございました。

アブドゥルアジーズ・トルキスターニ氏
1958年サウジアラビア・ターイフ生まれ。1979年キング・アブドゥルアジーズ大学卒業、1980年早稲田大学に入学。「広報論」を学んで1984年に修士号を取得。1999年にカイロ大学で博士号を取得。サウジ出版研究グループ部長やキング・サウード大学経営管理部部長などビジネスと学問の世界で多くの要職を歴任し、2009年より駐日大使に。アラビア語や英語による著書多数。

対談日:2012年11月20日