BIGTALK

日本は何が何でも
北の非核化を実現すべき
Vol.325[2018年8月号]

駐日エジプト・アラブ共和国大使館 特命全権大使 アイマン・アリ・カーメル
×
APAグループ代表 元谷外志雄

ピラミッドなど歴史的な遺跡が多く、この五月に大エジプト博物館を完成させるなど、観光にも力を入れているエジプト・アラブ共和国。駐日エジプト大使のアイマン・アリ・カーメル氏に、現在の政情や観光政策、エジプトの中東での平和外交などをお聞きしました。

アイマン・アリ・カーメル氏

1965年生まれ。32年近くに亘り職業外交官や外務省公務員を務め、海外における様々なエジプトの外交業務に従事。オーストラリア・シドニーのエジプト総領事や、ヨルダン・アカバでの領事団責任者とアンマンでの代理大使、イタリア・ローマのエジプト大使館での参事官などを歴任。学歴では1994年にジュネーブにて国際関係学のディプロマ、そして米国およびドイツにて外交交渉における専門的研究のサーティフィケートを複数取得。2017年より現職。

歴史的観光資源が多い
エジプトと日本

元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。三月には「日本を語るワインの会」で我が家にもお越しいただき、楽しい時間を過ごすことができました。

カーメル お招きいただき、ありがとうございます。代表のお宅では、非常に可愛らしい奥様のホテル社長ともお話でき、充実した時間を過ごすことができました。代表の各国の駐日大使との交流や、不正確な歴史の記述を正すことで日本の国際的なイメージを高めようとする活動は、常々素晴らしいと思っています。

元谷 ありがとうございます。カーメルさんの前任の大使だったワリード・マハムード・アブデルナーセルさんとは、二〇〇九年六月にビッグトークの対談を行い、その後誘われてエジプトを訪問、考古学者として名高いザヒ・ハワス博士とも会って、お話をすることができました。

カーメル 今年の九月にザヒ・ハワス博士は日本に来る予定です。

元谷 そうですか! その際にはぜひお会いしたいですね。私とザヒ・ハワス博士の意見が一致したのは、自国の誇りを守るためには、歴史の正しい解釈が必要だということです。エジプトも日本も誤った歴史を教えられてきました。その歴史を自分達の手に取り戻そうと。ピラミッドの建設は奴隷が行ったというのがかつての定説でしたが、ザヒ・ハワス博士の研究では、そうではないことがわかってきました。高貴な人と同様にピラミッド建設に従事していた人々も、ミイラにして丁重に埋葬されているのが発見されたからです。つまりピラミッド建設というのは一種の公共事業で、ナイル川の氾濫などで農地と仕事を失った人々に、仕事と食料を与えるためのものだったのでは…というのが、博士の説です。日本も南京大虐殺や従軍慰安婦強制連行など誤った歴史を教え込まれてきました。これを正していかなければならない。この意味で、日本とエジプトには共通の課題があると考えています。

カーメル 国にとって歴史を正していくことは非常に大切なことであり、私も強い関心を持っています。代表は日本の素晴らしさを世界に伝えるという使命感を持って、各国を巡ってらっしゃるように思えます。この五月には三大ピラミッドのあるギザに、大エジプト博物館がオープンしました。これを観に、またエジプトを訪れていただきたいですね。

元谷 はい、ぜひ。実は私は一昨日までウズベキスタンに行っていました。観光大臣と対談を行い、彼からの要請で国営テレビの番組でインタビューも受け、ウズベキスタンの観光政策について語ってきました。シルクロードの中継地として歴史的な観光資源が豊富なウズベキスタンですが、夏は暑すぎ冬は寒すぎと快適な気候の時間が短いのです。年間を通して集客できないと、ホテルやレストランなど観光関連のインフラは運営が難しくなります。そこで私は気候が良くないオフシーズンには、熱気球大会や音楽祭、映画祭など多くの人が集まるイベントを行うべきだと話してきました。ウズベキスタンはとても親日的な国で、日本人はビザなしで入国できます。電車に乗っていて日本人だとわかると若い人が席を譲ってくれたのにも驚きました。エジプトも日本も歴史的な観光資源が多いということは、同じですね。

カーメル はい、日本とエジプトには共通点が多いのですが、観光資源の件はその一つです。ですからぜひアパホテルをエジプトに作って欲しいのですが。

元谷 ウズベキスタンでも同じことを言われました(笑)。東京オリンピックまでは日本国内に特化するというのが、当面の方針なのです。

カーメル その後で結構ですから、検討をお願いします。年間数百万人の観光客が訪れるエジプトは、世界の建築遺産の三分の一が集中する人類のランドマークのような国です。観光スポットが豊富ですし、一年を通じて気候も快適です。地中海や紅海といった海にも面していてサンゴ礁も美しく、ダイビングなどマリンスポーツも盛んです。また国際会議などが開催できる施設の充実を図るなど、政府は観光市場を多様化する政策を実行してきました。ヨーロッパやアメリカ、オーストラリア、そして最近は中国からも多くの観光客がエジプトを訪れています。日本からもかつては毎年十三万人もの方がエジプトに来ていたのですが、近年激減しています。大使としての私の大きな任務の一つは、エジプトへの日本人観光客を復活させることです。

所得水準の上昇に従って
「大旅行時代」が到来する

元谷 世界的に見ると、人口の多い国の所得水準が上昇し、旅行需要が高まっています。日本の周辺には中国をはじめとしてそのような国が多いので、訪日外国人旅行者の数が一気に上昇しているのでしょう。この流れは世界に波及し、全世界的な旅行時代が到来すると私は見ています。そんなトレンドの中、どんな国を訪問したいかと言えば、まず治安が良いこと、次に清潔で感染症などの心配がないこと、三つ目が歴史があることで、四つ目が食べ物が美味しいことではないでしょうか。またビザを不要にするなど、入国手続きの簡素化も重要なポイントだと思います。古代文明の遺跡があり、食も豊かなエジプトは多くの条件を満たしているのですが、日本人が気にしているのは治安でしょう。政治的に安定していたエジプトですが、二〇一〇年にチュニジアで始まった「アラブの春」の影響がエジプトにも及び、デモによってムバラク大統領が辞任しました。その後しばらくは政治的な混乱があったかと思うのですが、今エジプトはすっかり安定を取り戻したように、私には思えます。

カーメル それを今日は説明したいと思っていました。代表が仰るように、エジプトはもう安定しています。しかし来日してから見ていますと、日本のメディアが中東やエジプトに対する誤った報道を行い、世論を混乱させているように思えるのです。今緊張が高まりニュースになっているシリアやイラク、イスラエルからエジプトはかなり離れていますし、エジプトの安全保障政策は万全です。しかしメディアは、中東を一枚岩のようにして、全域で紛争が起こっているかのように伝えているのです。先程少しお話したように、エジプトと日本は文化や伝統を重んじるという共通点があります。価値観も似ています。それもあって、エジプト人は皆親日家です。日本の古い映画も頻繁に上映されて人気です。エジプトを訪れた日本人観光客は、他のどの国よりも歓迎されるでしょう。私は日本の人々にそういうことを知って欲しいのです。昨日NHKの会長にお会いする機会があったのですが、バランスの良い正しい中東・エジプトの報道をお願いしてきました。

元谷 日本のメディアの国際ニュースは欧米偏重です。例えばヨーロッパやアメリカでテロが起き、死傷者が出れば大ニュースとして報道しますが、中東やアフリカで同様のことが起きても、扱いは非常に小さい。テロのリスクや被害は世界中どこにでもあります。公平な報道が求められますね。

カーメル その通りです。NHKの他に、朝日新聞やジャパンタイムズにも同じお願いをしました。私達の国がどういう国なのかを正確に伝えて欲しいので、プレスカンファレンスなどに顔を出し、メディアの人々と話をするようにしています。とにかくバランスの良い報道を心掛けて欲しいのです。

元谷 インターネットの発達によって、メディアの嘘が露呈し易くなりました。それに伴って新聞を読んだりテレビを観る人が減り、マスメディアの影響力が大きく落ちてきています。マスメディアに頼るのではなく、私達一人ひとりが、何が真実かを考えなければならない時代になってきているのではないでしょうか。例えばメディアではイスラム教徒による蛮行が大きく取り上げられますが、歴史を見渡せば、キリスト教徒の方がよっぽど残酷な行いをしています。イスラム教徒の中でもごく一部だけが過激なのだということを、メディアは公平に報道するべきですし、私達も自分で調べて、そのような認識を持つべきです。

カーメル 確かに今の報道はイスラム教徒=過激に終始しています。イスラム教なりキリスト教なり、どの宗教も本来は過激主義とは無縁なのです。

元谷 こんな状況の中ですから、既存メディアを「フェイクニュース」と断じるトランプ大統領のような人が登場するのは、当然のことでしょう。彼の頭の中には今、再選しかありません。トランプ大統領は、コアな支持層を掴んでおくために、TPP脱退、パリ協定離脱、イラン核合意破棄、エルサレムへの大使館移転と公約を次々と実行してきました。さらに再選のためには、今年十一月の中間選挙になんとしてでも勝たなければならない。そのための切り札が米朝会談です。六月の会談が行われるかまだ不透明ですが、十月ぎりぎりまで引っ張って成果を上げ、一気に選挙に勝とうとするのではないでしょうか。

カーメル 同感です。

本気度を見せるためには
武力行使も選択肢の一つ

元谷 米朝会談でも急に中止を言い出すなど、トランプ大統領の動きは読めません。金正恩もこの発言には相当慌てたのでしょう。ただ北朝鮮の件で指摘しておきたいのは、一度核兵器を保有した国がそれを廃棄したのは、これまで人種隔離政策の撤廃という特殊事情のあった南アフリカただ一国です。イラクやリビアなどは、完成前に廃棄しています。私は北朝鮮の核兵器を交渉によって廃棄するのは無理だと考えています。世界中からメディアを招き、五月二十四日に北朝鮮は核実験施設の爆破を行いました。しかし線量計は持ち込めず、核の専門家もいない中での爆破です。これは核兵器隠しではないでしょうか。もし北朝鮮が核兵器を廃棄したと主張する陰で、イスラエルのように潜在的核保有国となったらどうなるか。核によって北朝鮮は韓国を脅して併合、核を持った連邦朝鮮が誕生することになるでしょう。そうなれば、中国はこの連邦朝鮮を利用して、日本を勢力圏に取り込もうとするでしょう。日本にとっては、中国に対する緩衝エリアとしての核抜きの北朝鮮が望ましい。しかしこれを実現するには、力の行使が必要なのではないでしょうか。

カーメル 広島と長崎への原爆の投下がどれだけの悲劇を生み出したか、想像するに余りあります。その経験を踏まえた日本の非核化への意志が大切なのです。エジプトも日本と同じで中近東の非核化を目指しています。この地域で唯一核兵器を保有しているのはイスラエルであり、このような潜在的核保有国は近隣の他の国にとって脅威なのです。

元谷 カーメルさんの仰る通り、核兵器は保有国同士では抑止力が働く究極の防衛兵器なのですが、非核保有国に対しては純粋な脅威です。ただ北朝鮮の核兵器は基本的には中国向けのものです。北朝鮮は「日米は百年の宿敵。中国は千年の宿敵」と豪語しているくらいですから。北朝鮮の最終的な目的は、アメリカとの友好関係を築いて、日本のようになることだと私は見ています。しかしそれには核兵器を廃棄することが絶対条件でしょう。廃棄のためには、アメリカが公開限定空爆を行って、本気度を見せる必要があるのではないでしょうか。

カーメル 核兵器廃棄のためには交渉だけではなく、制裁も必要だということには同意です。しかし軍事力の行使は、制御できない事態を招く可能性があります。

元谷 私は毎年ラスベガスのベラージオというホテルの年越しパーティーに参加しています。ここ数年同じテーブルに、アメリカ空軍の元将軍という人がいて、いろいろと話をしています。彼が言うには、限定的な空爆を行う場合でも、アメリカ軍は全面戦争の準備をした上で行うとのこと。そして全面戦争の準備には五〜六カ月掛かるという話でした。これが昨年末の話ですから、もうアメリカ軍には万全の準備ができているのではないでしょうか。北朝鮮の核兵器とミサイル開発関連施設約百箇所をピックアップして、日時を指定して避難の時間を与え、巡航ミサイル・トマホークやB2爆撃機による攻撃を行うのです。今北朝鮮は核兵器を保有したことで、アメリカと対等になったつもりなのかもしれませんが、軍事力全体としては何万倍もの差があります。公開限定空爆によってこの力の差を示し、関連施設の破壊と秘匿している核兵器情報の提出まで持っていかないと、日本は安心できないのです。また今回アメリカが強気なのは、中国の同意があるからです。中国は将来の朝鮮半島の取り込みを視野に、北朝鮮との距離感を微妙に調整しています。

カーメル アメリカによる軍事介入が行われた場合、必ず日本にも影響が及ぶでしょう。覚悟する必要があると思います。私個人としては、日本の安全のためにも、武力行使は避けるべきだと考えています。

元谷 一九九〇年代、北朝鮮がNPT(核拡散防止条約)を離脱したことに端を発する第一次北朝鮮危機の際、武力行使をほぼ決心していたアメリカのクリントン大統領に対して、当時の韓国の金泳三大統領はソウルが火の海になるから止めて欲しいと必死の説得を行い、攻撃は行われませんでした。しかし数年前、私は金泳三氏に会ったのですが、今の情勢を考えると、まだ核兵器が完成する前に北朝鮮を攻撃するべきだったと、彼はその行動を悔いていたのです。この教訓からも、今やらなければ、核保有国の北朝鮮はこの後何十年にもわたって、日本を威嚇し続けるでしょう。この最悪の事態に備えるためにも、日本は憲法改正を急ぎ、アメリカとニュークリア・シェアリング協定を結ぶ必要があります。非核三原則も見直さなければならないでしょう。北朝鮮の核兵器は核保有国であるロシアや中国、アメリカにはとってはさほどの脅威ではなく、東アジアでは特に日本にとっての脅威だということを認識すべきです。国会でモリカケばかりを追求している場合ではない。今の時代、コスト負担が大きすぎて、大きな戦争はできなくなりました。まず北朝鮮と金正恩には、体制と命が擁護されるのであれば核を放棄してもいいと思えるまでの圧力を掛けること。必要であれば、アメリカと北朝鮮が防衛条約を結んでもいいでしょう。そうやって何が何でも、北朝鮮の非核化を実現する必要があります。

カーメル 私は今の代表の案が一番現実的で良いと思っています。どの国民も指導者も豊かな経済発展を望んでいます。北朝鮮も経済発展を遂げた韓国の様子を見て、同じようになりたいと考えているはずです。経済をフックにした圧力を掛けることが、私は一番効果的だと考えています。

覇権国家を目指す中国は
日本を狙っている

元谷 ただ問題は中国の動きです。中国は北朝鮮にずっと核放棄の圧力を加え続けてきました。それに屈しそうになった金日成を息子の金正日は排除し、核開発を継続したのです。二〇〇四年の龍川駅での列車爆破も、核を断念しない金正日の命を中国の軍事委員会主席の江沢民が狙ったものです。もしこの時金正日の暗殺が成功していれば、中朝国境に待機していた人民解放軍が一気に北朝鮮に入り、傀儡政権を樹立したでしょう。中国は一〇〇年マラソンと呼ばれる国家戦略で、建国百年を迎える二〇四九年までにアメリカを抜いて世界一の覇権国家になることを目指しています。これまでも内モンゴルやチベット、東トルキスタンなどの別民族を自治区として支配下に入れています。アメリカを抜くために、中国は日本の技術力や資金力が喉から手が出るほど欲しいはず。日本を自治区とするために、中国は北朝鮮をフルに利用してくるでしょう。

カーメル 非常に興味深いトピックスですし、代表の忌憚のない意見はとても勉強になりました。北朝鮮の核開発は当初からエジプトも注視してきました。それは中東でも同様の問題が発生していたからです。エジプトの外交スタンスは、常に交渉による平和的な解決を追求するものです。それはイスラエルとアラブの紛争でも、イスラエルやイランの非核化に際しても同じです。中東の不安定さは世界に波及します。現在世界で唯一の武力による占領は、イスラエルによるパレスチナの占領です。南アフリカのアパルトヘイト(人種隔離政策)という不正義は人々の努力によって解消されましたが、イスラエルとパレスチナに関わる不正義はまだ解決していません。エジプトはこれをなんとか平和的に解決して、中東に安定をもたらしたいのです。国連が設定したように、世界が平和で持続的な発展を遂げることは可能なはずです。特に全ての宗教が平和を問いていることは、その大きな力となるでしょう。

元谷 カーメルさんの仰る通り、皆が平和を志向しているのですが、これがなかなか実現できません。戦争をビジネスにしている人もいます。領土的な野心を持って環礁を埋め立てて、軍事基地にしている国もあります。根拠のない南京大虐殺や従軍慰安婦強制連行をいつまでも言い募り、日本の国際的な地位を貶めようとする国もあります。私はこういった歴史戦と呼ばれるプロパガンダに対しては、断固として反論して真実を伝え、日本再興を図りたいと考えています。いつも最後に「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

カーメル 私は極めて前向きで楽天的な性格ですので、今後技術がもっと発達して、将来の世代はより大きなチャンスを得ることができるようになると信じています。特にコミュニケーションの分野の発展は、あらゆる人々を密接に繋ぐことになります。私は外交官として文化を越えた対話を仕事としてきましたが、若い人達はインターネットを使ってもっとカジュアルに異文化コミュニケーションが楽しめるようになってきています。そこに新しい相互理解が生まれることを、私は願っています。

元谷 私もこの先の世界が豊かで過ごしやすいものになることを期待しています。今日はありがとうございました。

カーメル ありがとうございました。

対談日 2018年5月31日