BIGTALK

心を開放して、いろいろな
国の文化を学ぼう
Vol.347[2020年6月号]

ブルネイ・ダルサラーム大使館 特命全権大使 ハジ・シャブディン・ハジ・ムサ
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APAグループ代表 元谷外志雄

天然ガスと石油に恵まれたおかげで、医療費・教育費が無料、所得税が掛からない小さくても豊かな国・ブルネイ。特命全権大使のハジ・シャブディン・ハジ・ムサ氏に、飛び地のあるブルネイの概要や歴史、天然ガスで結びついた日本との深い関係、今力を入れている観光立国の基盤となる豊かな観光資源等についてお聞きしました。

ハジ・シャブディン・ハジ・ムサ氏

1961年生まれ。エセックス大学にて経済学学士号(1983年)、サリー大学にてエネルギー経済学修士(1986年)、ストラクスライド大学にて会計学修士(2003年)を取得。ブルネイ・ダルサラーム首相府での経済担当を皮切りに、ブルネイLNG社営業本部長、ブルネイ・ダルサラーム財務省事務次官、ブルネイガスキャリア社常務取締役を歴任。2019年5月より現職。

石油と天然ガスのおかげで
所得税がない国

元谷 本日はビッグトークへのご登場、ありがとうございます。

ムサ ブルネイの大使が登場するのは初めてとお聞きしています。よろしくお願いいたします。

元谷 よろしくお願いいたします。私はこれまで世界八十三カ国を巡ってきました。毎年三〜四カ国を訪問しているのですが、次に訪問する国を探している時にブルネイのことを知り、こんな素晴らしい国が日本の近くにあるなら是非行ってみたい。その前に大使にお話を聞かなければ…ということで、お招きしました。私も含めて多くの日本人がブルネイのことを知りません。この機会に教えていただきたいのです。そもそもブルネイの正式な日本語での国名は、ブルネイ・ダルサラーム国となるのですね。

ムサ このような機会をいただくことができて、大変感謝しています。私も日本人の多くがブルネイについて知らないと思っています。これを伝えるのが私の仕事かと。代表のご指摘の通りブルネイは通称で、正式にはブルネイ・ダルサラーム国となります。ダルサラームとは平和な土地という意味です。世界で三番目に大きい島であるボルネオ島の北部に位置しており、周囲はマレーシアと南シナ海に囲まれています。人口は約四十五万人、うち十万人はブルネイで働いている外国人です。国土の大きさは日本の三重県程度で四つの地区に分かれているのですが、歴史的理由からテンブロン地区だけ他の三つから離れた飛び地になっています。首都はバンダル・スリ・ブガワンです。民族はマレー系が約七割、中華系が一割で、残りは様々な民族から構成、八割の人々が国教であるイスラム教を信仰しています。公用語はマレー語ですが、イギリスの保護領時代があったことから英語も通じます。小さな国ですが、丁度ASEAN(東南アジア諸国連合)諸国の中心に位置していることになります。国土の七割が熱帯雨林というのも大きな特徴です。

元谷 石油と天然ガスの生産が主要産業の豊かな国なのですね。

ムサ はい、小さいですが豊かな国です。ブルネイには国王がいて、今でも立憲君主国なのですが、十五世紀の第五代スルタン・ボルキアの統治時代に領土が最大となり、今はマレーシアとなっているボルネオ島のサバ州やサラワク州、インドネシア周辺の島々やフィリピン南部までがブルネイとなっていました。その後イギリスの保護領となるのですが、一九五九年に内政の自治を回復、一九八四年にイギリスから完全に独立、この時に日本との国交も樹立しています。

元谷 石油と天然ガスはいつ発見されたのでしょうか。

ムサ 一九二九年、世界大恐慌の最中にまず油田が見つかりました。一九六四年に沖合で天然ガスが発見され、さらに一九七〇年には別の場所から天然ガスが見つかっています。

元谷 人口の非常に少ない国ですから、天然資源によって国民は非常に豊かな暮らしをしているのではないでしょうか。税金はどうなっていますか。

ムサ はい、国民一人当りの名目GNIが約三万ドルに達していて、東南アジアではシンガポールに次ぐ経済水準となっています。医療費や教育費が一切掛からず、所得税もありません。

元谷 それは素晴らしい。私も住みたいぐらいです。

ムサ 一九六九年、天然ガスを発見した石油メジャーのシェルとブルネイ政府、三菱商事が共同出資でブルネイLNG社を設立、プラント等の整備を進めた結果、一九七二年にブルネイからの液化天然ガス(LNG)が、初めて日本に届きました。その後安定した供給は半世紀近く続いています。ブルネイのLNGの一番の輸出国は日本なのです。ただ石油と天然ガスで豊かなのは確かですが、これらに依存し過ぎているきらいがあります。

元谷 石油に関しては、新型コロナウイルスの影響で需要が減少しているにもかかわらず、ロシアとサウジアラビアが対立を露わにして原油の増産を決定、そのために原油価格が暴落しています。これには採掘にコストが掛かるアメリカのシェールオイルの減産を余儀なくさせて、そのシェアを奪おうというサウジアラビアとロシアの意図が透けて見えます。

ムサ それがサウジアラビアの一般的な戦略です。前にも同様の行動を行ったことがあります。供給コントロールで力を得ようとしているのです。

元谷 ブルネイの石油の採掘コストは、おおよそどれくらいなのでしょうか。

ムサ 私も詳しい訳ではないのですが…。今原油価格は一バレル五十ドルを切っていますが、最低でも五十ドル以上の価格がついていないと、経営的に掘り出すのが難しいと聞いています。

元谷 サウジアラビアの狙いは、アメリカはもちろんですが、そういった自国よりも採掘コストの高い国のシェアを奪うことなのでしょう。

ムサ サウジアラビアは原油価格が二十ドルを切っても、経営的に成り立つかもしれません。

首都には贅を
尽くした王宮や
モスク等の見所が

元谷 ブルネイは日本と同じ立憲君主国で、イスラム世界での国王を意味するスルタンを国家元首として頂いています。イスラム教が国教となっていると思うのですが、シーア派とスンニ派、どちらになるのでしょうか。

ムサ スンニ派です。

元谷 シーア派のイランとスンニ派のサウジアラビアは、宗教的にいがみ合っています。ブルネイはどちらかと言えば、サウジアラビアに近いということになるのでしょうか。

ムサ はい、その通りです。サウジアラビアに働きに行っている人もいます。国体ですが、スルタンを頂くという点では、ブルネイはオマーンと似ていると言えます。ただオマーンの現王朝は十八世紀に始まったものですが、ブルネイの初代スルタンは十四世紀にまで遡ります。今の国家元首であるハサナル・ボルキア国王は第二十九代スルタンになるのですが、首相と外相を兼任しています。

元谷 少しブルネイを調べてみたのですが、首都のバンダル・スリ・ブガワンに、とても美しい王宮やモスクがあるそうですね。

ムサ イスタナ・ヌルル・イマンというのが王宮になります。一九八四年に総工費四億ドルを掛けて完成したものですが、世界最大の宮殿と言われています。部屋数は千七百八十八室、五千人収容の宴会場、千五百人収容のモスク等、そのスケールは壮大です。

元谷 そこには入ることができるのでしょうか。

ムサ 普通は一般人が入ることはできませんが、毎年ラマダン(断食月)の終わりを祝うお祭りの際には一般開放されています。また黄金のドームを持つ通称「オールドモスク」と呼ばれるスルタン・オマール・アリ・サイフディン・モスクも、一見の価値があります。一九五八年に完成したブルネイの富の象徴ともいうべき建築物です。

元谷 非常に興味深いです。

ムサ また自然を満喫するのであれば、飛び地であるテンブロン地区の国立公園を訪れてください。バンダル・スリ・ブガワンから陸路でも船でも行くことができます。マングローブの木等、熱帯雨林の広がる緑を高い場所から見下ろしたり、ガイドと一緒に森の中を巡ったり。木々の中を流れる川でカヌーを楽しんだり。自然が好きな方には堪らない体験になります。またスキューバダイビングのダイビングスポットとしてもブルネイは世界的に有名。漁礁となっている沈んでいる船を目指して、欧米も含む世界中からダイバーが集まっています。

元谷 ブルネイに行く場合、航空便はどうなっているのでしょうか。

ムサ 二〇一九年三月に成田とブルネイ間のロイヤルブルネイ航空による直行便が就航、週四便、成田空港から五時間ほどのフライトで、バンダル・スリ・ブガワンに到着します。もし代表がお越しになるのであれば、バンダル・スリ・ブガワンから近い海辺にあるブルネイで最高のホテル、「ザ・エンパイア・ホテル」にご案内します。すぐ横に「ザ・エンパイア・カントリークラブ」がありますから、ゴルフも楽しむことができます。

元谷 私も新潟県にアパリゾート〈上越妙高〉、栃木県にアパリゾート栃木の森ゴルフコースと二つのゴルフ場を持っています。他のゴルフ場でプレーするのは、視察目的の時だけだったりするのですが(笑)。私は以前国王の招待を受けてバーレーンを訪問したことがあります。国王との晩餐会や皇太子との晩餐会、首相との晩餐会等、歓待を受けました。バーレーンの王子は、サウジアラビアの王女と結婚しましたね。小さな国ですが、非常に豊かでした。

ムサ カタールとバーレーンは、ブルネイに似ています。

一九八四年の国交樹立から
日本とは深い関係に

元谷 バーレーンはペルシャ湾に浮かぶ三十以上の島からなる国なのですが、橋でサウジアラビアと繋がっています。駐日バーレーン大使の運転でサウジアラビアにも行ってみたのですが、雰囲気が全く違いました。サウジアラビアは戒律が厳しいので、女性が皆肌を隠していました。バーレーンはそんなには厳しくなかった。聞くとサウジアラビアのお金持ちは羽根を伸ばすために、バーレーンに遊びに来るそうです。ブルネイは戒律が厳しいのでしょうか。

ムサ 穏健です。外国人の女性は特に肌を隠したりする必要はありません。ただモスクで礼拝する時は、ヒジャブと呼ばれるスカーフで頭髪を隠す必要がありますが、それはモスクにちゃんと用意されています。

元谷 バーレーンの王宮も立派でしたが、世界一とも言われるブルネイの王宮も是非見てみたいと思います。

ムサ アラブ首長国連邦の首都・アブダビにある大統領宮殿、カスール・アル・ワタンも素晴らしいですよ。二〇一九年三月に一般公開されて、観光の新名所として人気を集めています。

元谷 それもいつかは見てみたいですね。ブルネイを訪問するのに一番良い季節はいつでしょうか。

ムサ 気候は予測がつきにくいので、それにお答えするのは非常に難しいですね。基本的には十一月〜二月の雨季は比較的涼しく、湿度が高い。三月〜八月の乾季はかなり熱く、午後には必ず気温が三十度を超えます。

元谷 例えばケニアのナイロビのように、赤道直下でありながら標高が約千八百メートルもあるので、冷涼という都市があります。首都にはそういう場所が多いと思うのですが。

ムサ バンダル・スリ・ブガワンは海抜ゼロメートルです。ブルネイの国土は、少し丘陵がありますが、大半が緑豊かな平地なのです。

元谷 一九八四年に国交を樹立した日本とブルネイですが、要人が頻繁に行き来しています。

ムサ ボルキア国王は一九八四年、一九八九年、一九九五年、二〇〇三年、二〇〇七年、二〇一〇年、二〇一三年、そして即位礼正殿の儀のために二〇一九年来日、安倍首相との会談も行っています。二〇〇四年には皇太子殿下(当時)がビラ皇太子の結婚式に御出席、二〇一三年には安倍首相がASEAN関連首脳会議でブルネイを訪れています。

元谷 日本はブルネイ最大の貿易相手国です。逆にブルネイからLNG総輸入量の約五%を購入している日本にとって、ブルネイはエネルギーの安定供給を確保するために重要な国となっているということですね。

ムサ はい、その通りです。アパホテルも全国のホテルで電気を消費することで、ブルネイ産のLNGを利用してもらっていることになりますよ。

元谷 日本はブルネイからLNGをたくさん購入しているようですが、石油はどうなのでしょうか。

ムサ ブルネイの石油生産量は多くはありません。また石油を国内で精製していて、品質は非常に高いのですが、高価になっています。日本のように石油精製施設がしっかり整っているところでは、安い石油を購入した方が、メリットが大きいのです。そういう理由があって、ブルネイ産石油はあまり日本では輸入されていません。LGNの輸入量が一〇〇だとすると、石油の輸入量は一ですね。

日本のことを良く知って
誇りと自信を持つべき

元谷 ブルネイには石油と天然ガス以外の資源はあるのでしょうか。

ムサ 自然が何よりの資源だと思います。熱帯雨林を木材に加工して売ることはできますが、ブルネイでは自然を保護するために、そういったことは一切行っていません。国内で使用している木材は全て、マレーシアなど他国から輸入しています。また海洋資源も豊富で漁業も盛んです。それらを使用した加工食品も製造していますが、輸出量はごく僅かです。今、ブルネイが一番力を入れようとしている産業はやはり観光です。そのために直行便を世界各地と結ぶ戦略をとっています。

元谷 お聞きしていると、首都のバンダル・スリ・ブガワンでの王宮やモスク巡りも楽しそうですし、自然を生かしたネイチャーツアーからスキューバダイビングまでのアクティビティも豊富ですので、観光面での魅力は十分だと思います。しかし人口四十五万人の国に定期直行便というのは、凄いことですね。

ムサ 仰る通りだと思います。

元谷 日本以外には、どこの国との間に定期直行便が飛んでいるのでしょうか。

ムサ ASEAN主要国との間には必ず飛んでいます。今ブルネイに来る外国人で一番多い国はマレーシア、次が中国です。直行便で日本からの観光客をどんどん増やしていくことが、私の大使としての重要な任務なのです。

元谷 ところで大使は日本に来られてどれくらいになるのでしょうか。

ムサ 十カ月になります。

元谷 日本の印象はいかがでしょうか。

ムサ 世界最高水準の国だと思います。ホテルも清潔で、街が近代化されていて、文化も豊かです。この辺りはブルネイと似ていますね。人が礼儀正しくて、優しくて友好的です。交通機関等のインフラもしっかり整備されていますし、ゴルフコース等の施設も素晴らしい。唯一文句があるとすれば、物価が高いことでしょうか。

元谷 ありがとうございます。素晴らしいお褒めの言葉をいただいたのですが、それを知らないのが今の日本人です。日本人が日本の良さを理解していません。

ムサ 日常的に接しているために、当たり前だと考えているのではないでしょうか。

元谷 私はもっと日本人が日本の良さを知り、誇れる祖国・日本の再興を行うべきだと、様々な活動を行っています。

ムサ 世界八十三カ国を巡ってきた代表だからこそ、日本の良さが一番良くわかってらっしゃるのでしょう。

元谷 その通りです。最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしているのですが。

ムサ ブルネイと日本はとても良く似たバックグラウンドを持っていると思います。共に古い歴史と豊かな伝統と文化を持っているのです。また共に皇室や王室があり、自然を保護することに努めています。ただ日本の方がブルネイよりも遥かに先進国だと思いますが。これを踏まえて、私からは若い人々に三つの提言をしたいと思います。
 まず一つ目は「学びなさい」。教育機関を生かして、学べる時にできるだけ学ぶのです。また学校で勉強をするだけではなく、いろいろなところへ出掛けていって学ぶことも大切です。心を開放して、日本だけではなく、できるだけいろいろな国の文化を学んでほしいと思います。二つ目は「集中しなさい」。自分は人生で何を達成したいのか。ポップスターなのか発明家なのか、スポーツのトップ選手なのか。その夢の達成に向かって集中するのです。三つ目は「自己鍛錬をしなさい」。法律遵守はもちろんですが、自分を律する強い気持ちも持って欲しい。そして自分達の組織を、社会を良くするために、様々な貢献をしていって欲しいですね。

元谷 付け加えれば、日本の若い人は、日本に誇りと自信を持っていないのです。「もっと自信をもちなさい」と私は言いたいですね。今日はいろいろと興味深いお話をありがとうございました。

ムサ ありがとうございました。

対談日 2020年3月18日