BIGTALK

「来し方」をしっかり見据え
「行く末」にも対応する
Vol.332[2019年3月号]

ホンジュラス共和国大使館 特命全権大使 アレハンドロ・パルマ・セルナ
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APAグループ代表 元谷外志雄

政治的な安定から長期的な視野に立った経済成長と持続可能な発展に関する政策を実行中、マヤ文明の遺跡や世界で二番目に大きいサンゴ礁など観光資源も豊富な国・ホンジュラス共和国。特命全権大使のアレハンドロ・パルマ・セルナ氏に、国造りビジョンや地峡を横断する高速道路計画、官民連携の発展計画や観光立国への施策などをお聞きしました。

アレハンドロ・パルマ・セルナ氏

2010年から2015年までユネスコのホンジュラス共和国大使、および内務省の参謀長、2015年から2017年まで国連経済社会理事会のホンジュラス共和国代表およびラテンアメリカ及びカリブ海諸国代表の副議長を歴任。2017年7月に、駐日ホンジュラス共和国大使に任命、2017年12月21日に信任状を天皇陛下に捧呈。

大統領任期が二期制に
安定感を増す政権

元谷 今日はビッグトークにご登場いただき、ありがとうございます。セルナさんには二〇一七年十一月の勝兵塾でもお話をしていただき、日本とホンジュラスが一九三五年からと古くから良い関係を築いてきたことをお聞きしました。また私の故郷である石川県の金沢大学とホンジュラスの大学が深い関係を築いていることも、その時初めてお聞きしました。今後さらに日本とホンジュラスの関係が緊密となり、ホンジュラスの国造りに日本がなんらかの貢献ができるようになるために、日本人が多少ともホンジュラスについて関心を持つことが必要です。今日はセルナさんから、ホンジュラスの現状や今後のビジョンなどをお聞きできればと考えて、お越しいただきました。

セルナ こんな機会をいただき、ありがとうございます。今代表が仰ったように、日本とホンジュラスには八十年以上の関係があり、日本は発展のための大事なパートナーです。私が二〇一七年十一月に日本に着任してから、もう十四カ月が経ちました。この間、代表をはじめ、いろいろな日本の方のお世話になりました。

元谷 このApple Townの二〇一七年十月号で当時の駐日ホンジュラス共和国臨時代理大使メンドーサ・トバルさんと対談を行ったのですが、その時に「ドライキャナル(物流回廊)」の構想をお聞きしました。中米のホンジュラスはカリブ海と太平洋の両方に面していて、それぞれに港を持っています。パナマ運河と同じくカリブ海と太平洋を結ぶ物流ルートとして、両方の海に面する港を繋ぐ高速道路を「ドライキャナル」と呼んで整備するというお話でした。例えばアメリカがシェールガスを東海岸の港から太平洋に運ぼうとする場合は、パナマ運河を使うか、この新しい高速道路を使うことになるでしょう。もうこれは完成したのでしょうか。

セルナ もう少しで完成します。この高速道路はパナマ運河と競合するものではなく、補完し合うものと考えています。完成すれば、カリブ海から太平洋までの約三百五十キロメートルを、片道約三~四時間で移動することができます。

元谷 以前、パナマ運河を訪れたことがありますが、中米の陸路での移動には非常に時間が掛かりました。高速道路による時間短縮には非常に大きな効果があるはずです。二年前に完了した拡張工事によってパナマ運河を通過可能な貨物量は三倍になったと聞いていますが、これにドライキャナルが加われば、輸送力のかなりの増加が見込めますね。

セルナ その通りです。

元谷 国の発展のために最も重要なのは、政治的な安定です。日本も数年前までは毎年首相が代わっていたのですが、今の安倍首相になってから六年が経ち、国が随分安定してきました。今のホンジュラスの政治状態はいかがでしょうか。

セルナ 二〇一七年十一月の大統領選挙でエルナンデス大統領が再選、現在二期目に入っていて、政情は極めて安定しています。

元谷 大統領の任期は何年なのでしょうか。

セルナ 四年で、再選は一回だけ認められています。アメリカと同じです。かつては一期制だったのですが、二〇一五年に最高裁がホンジュラス憲法に準じて再選が可能であるとの判決を下し、大統領の再選が認められたのです。

元谷 一期制の場合には、大統領は最初からそのメリットを懸命に貪ろうとします。二期制ですと、まずは再選のために一生懸命に国民のための政治を行うでしょう。二期制に変えて、正解だと思います。

セルナ また四年は大きな仕事を行うには短すぎます。公約を果たすにも、二期制の方が適しています。

元谷 中米という位置は、アメリカとの関係が国の発展と密接な関係を持ってしまう場所だと思います。日本とアメリカは日米安全保障条約を結んだ同盟国ですが、ホンジュラスとアメリカとの関係はどうなっているのでしょうか。

セルナ 非常に良好です。政治的にも経済的にも良好ですが、安全保障と防衛、ならびに組織犯罪撲滅運動についてもホンジュラスはアメリカと密接に結びついています。

元谷 一方、中国も中米に強い関心を持っています。中国の資本がニカラグアに新しい運河を計画していたと思うのですが、どうなりましたか。

セルナ 詳細は知りませんが、最近その運河の話を聞いていません。

元谷 二〇一七年六月にパナマ、二〇一八年五月にドミニカ共和国、八月にエルサルバドルが、それぞれ台湾と断交して、中国と国交を樹立しました。中国の資本提供の申し入れは、台湾締め出し工作でしょう。

セルナ そのように見受けられます。

元谷 小国に強権的な圧力を掛けるのは、フェアな態度とは言えませんね。

まずは経済成長の達成を
官民連携プランを実行中

元谷 お話いただいた金沢大学とホンジュラスの大学との取り組みなのですが、具体的にはどのようなことが行われているのでしょうか。

セルナ 人類学と歴史学の研究を中心に、緊密な連携を行っています。金沢大学は、考古遺跡の保護と研究を特に担当する政府機関であるホンジュラス国立人類学歴史学研究所と交流協定を締結しており、現在はホンジュラス国立自治大学(UNAH)との関係を強化しています。これにより、多くの研究者や学生がホンジュラスに足を運ぶようになりました。マヤ文明の遺跡として世界遺産に指定されているコパン遺跡には、金沢大学が事務所を開設して研究を行っています。コパン遺跡は観光地としても有名なのですが、五世紀から十六代の王が即位したマヤ文明のコパン王朝の遺跡で、球戯場、先進レベルの文化的および芸術的ディテール、そしてマヤ文明で最も古くから知られる文書のひとつである神聖文字の階段で有名です。

元谷 世界でも有数の文明が中米にあったということですね。熱帯性気候のホンジュラスですが、コパンの場所は高地にあって、涼しかったのでしょうか。

セルナ ホンジュラスには高地や高い山がありません。確かに熱帯性気候なのですが、そんなに暑くないこともあって、文明は渓谷の中で育まれました。ちなみにホンジュラスで最も高い山はセラケ山で、標高は二八五〇メートルになります。

元谷 ホンジュラスの主な産業は何になりますか。

セルナ 農業が依然として主要な収入源のひとつです。作物は伝統的なコーヒーやカカオに加え、トウモロコシ、豆、米や野菜などです。牛や豚肉を飼育し、海岸で獲れる豊富な魚介類からも利益を得ており、エビや白身魚のティラピアの養殖も行っています。また林業も盛んです。工業も速いペースで進展しており、ここ数年で繊維業界だけでなく電子機器や自動車部品などの工場が増えてきました。

元谷 輸出額が最も多いのはコーヒーになるのでしょうか。

セルナ 木材がかつて一番の輸出品で、主にカリブ海一帯に輸出されていました。また高級材はアメリカやヨーロッパに送っています。しかし今ではコーヒーが一番の輸出品となり、バナナとエビがそれに続きます。

元谷 前任者のメンドーサ・トバルさんとの対談時に、首都のテグシガルパは「銀の丘」という意味で、かつては金銀が多く産出したとお聞きしました。植民地時代にスペイン人がそれらを全部ヨーロッパに持ち帰ってしまったとも。

セルナ はい、そうです。でも今でも銀は重要な鉱物資源になっています。

元谷 石炭や石油、シェールガスなどは出ないのでしょうか。

セルナ 石油を探していますが、今のところまだ見つかっていません。

元谷 アメリカがシェールガス、シェールオイルを生産できるようになったことで世界の情勢は変わり、アメリカが中東に関与する必要性が無くなりました。今のアメリカの望みは、シェールガス・シェールオイルを他国に売り込むことでしょう。OPEC(石油輸出国機構)が石油価格維持のための生産調整を行っていますが、抜け駆けして安値で売る国も当然出てきます。そんな市場で勝つためには、流通コストのダウンが必至です。その意味で、ホンジュラスのドライキャナルが完成すれば、大きな意味を持つでしょう。いっその事、高速道路に沿ってパイプラインを通してはどうでしょうか。世界的に流通網が発達する中、とにかく世界は少しでも安いルートを求めているのです。

セルナ 代表のご指摘はその通りだと思います。

元谷 今、ホンジュラスはどのような方向性で国造りを行っているのでしょうか。

セルナ やはり貧困と不平等の削減を重視した経済発展と持続可能な発展をもっと進めていくことでしょう。

元谷 そうなると雇用の場の創造が最重要課題となります。このために必要なのが学校教育です。教育を受けることで労働者のレベルが上がり、工場などの誘致を行いやすくなります。教育が上手く進まなければ、人々は働く場所を失い、他国へ移動して移民になってしまうのです。

セルナ その通りです。今、ホンジュラス政府は初の取り組みとして、二〇二〇年までの官民連携の発展計画を立案しました。民間部門からもインフラ整備の投資を受け入れています。他に技術的な教育機会を増やすなど、国が産業支援策をいろいろと打ち出しています。また二〇一八年に韓国とのFTA(自由貿易協定)が発効するなど、貿易振興策も進めています。未来に向けて、持続可能なエネルギーへの投資も行っています。さらに学校での英語教育にも今力を入れています。

元谷 基本的に言葉はスペイン語ですよね。英語は国民の何割ぐらいの人が話せるのでしょうか。

セルナ 正確な割合は把握していませんが、ホンジュラスは中米で最もバイリンガル化が進んだ国と言われています。今全ての公教育の一部として英語教育を行うかどうかの審議を行っています。

国を挙げての犯罪撲滅が
奇跡的と呼ばれる成果に

元谷 世界が平和になると、人は見たことがないものが見たくなる生き物ですから、海外旅行が増えます。今インドやインドネシア、マレーシア、タイなど日本近郊の国々の所得が上昇、日本への海外からの旅行客が急速に増えていて、英語のニーズが高まっています。アパグループでも次の四月に三百四十人の新入社員が入社しますが、その中の四〇%が英語での接客が可能です。一般的にインバウンドは中国を筆頭にアジアからの人々が多いのですが、特に東京のアパホテルではヨーロッパや北米からのお客様が大半を占めています。アパホテルはカナダを中心として北米に三十九のホテルを展開していますから、アパの名前が北米の人々に知られていることも、理由の一つなのでしょう。アジアからヨーロッパ・北米へのインバウンドの変化に対応して、アパホテル内の案内プレートの表示を、英語をメインにして日本語、中国語、韓国語を付記する形に順次変えていく予定です。日本人でも中国人でも、英語はある程度は皆読めますが、ヨーロッパや北米の方が日本語を読めるケースは極めて稀ですから。

セルナ ホンジュラスも観光における多言語化に取り組んでいます。例えばコパン遺跡のガイドは英語、スペイン語、フランス語で行われていて、まもなく日本語のガイドも始まります。また国立ホンジュラス大学には日本語の講座が開設されています。

元谷 ホンジュラスにもこれから日本人観光客がどんどん訪れると思いますので、日本語のわかるガイドの存在は重要です。日本人はいろいろな国に行ってみたいのですが、いろいろと条件があります。日本語が通じるガイドの他にも治安の良し悪しや感染症の有無、交通機関がスケジュール通りか、気候はどうかなど。ホンジュラスの観光のベストシーズンはいつになりますか?

セルナ 年中快適でいつでも大丈夫です。森や海など自然も豊かで食べ物も美味しく、文化も多彩です。また治安も安定しています。金沢大学との学術交流や国際協力機構(JICA)のボランティアの存在、日本企業から多数の投資案件があったりするのも、その証拠です。

元谷 いいリゾートもあるのでしょうか。

セルナ 世界中からスキューバダイビング愛好家が集まるビーチリゾートがロアタン島です。この島の周辺にはオーストラリアのグレートバリアリーフに次ぐ、世界で二番目に大きいサンゴ礁があるのです。

元谷 海水温が高すぎるとサンゴ礁は死滅するでしょう。ホンジュラスの海は適温なんですね。

セルナ はい、海水温が暖かく透明度が高いことがサンゴ礁には良いようです。

元谷 日本からだとホンジュラスまでどのように行けばいいでしょうか。

セルナ 日本からホンジュラスへの直行便はありませんから、メキシコシティへ直行便で飛び、そこでホンジュラスまで乗り継ぎで。アメリカの都市で乗り継ぐ方法もあります。

元谷 私が二〇一六年にリオデジャネイロオリンピックに行った時には、ドバイで乗り継ぎをしました。

セルナ そのルートもありますね。

元谷 ぜひ一度ホンジュラスを訪れてみたいですね。お話を聞いていると観光立国も十分に可能なように思えます。

セルナ アメリカやスペインをはじめとしたヨーロッパからの直行便もありますから。私達も観光客の増加に期待しています。

元谷 アメリカから中米を通過して南米に至る鉄道というのはあるのでしょうか。

セルナ ありません。

元谷 輸送に関しては船の方が効率的ということですね。

セルナ そうだと思います。ホンジュラスには主要観光クルーズ船が毎週停留します。私達の観光振興に関する懸念はメディアの報道です。ホンジュラスは危険だという記事が多いのですが、それは現実とは異なります。国を挙げて犯罪の減少に取り組んでおり、アメリカ政府の高官が「奇跡的」と表現したほど成果を上げています。

低賃金の競争力を活用して
一気に基幹産業を確立

元谷 駐日大使に着任されて十四カ月ということですが、日本の印象はいかがでしょうか。

セルナ さまざまな文化的瞬間や影響を反映した伝統を持つ魅力的な国だと思います。音楽にも文学にも絵画にも、何百年もの前の歴史が今に影響を及ぼしていることを感じます。また日本の人々が調和と統合の下、自然と共生している姿にも感銘を覚えます。春には桜を愛で、夏には暑さの中の涼しさを求め、秋には紅葉、冬には雪と四季との暮らしが根付いています。同時に多発する災害との共存も、今懸命に学ぼうとしているようにも思えます。ホンジュラスはハリケーンや気候変動の悪影響を非常に受けやすい国なので、日本政府そして特にJICAの支援のおかげで、日本の災害被害に関する予防対策、軽減法、そして回復力から多くのことを学んでいます。

元谷 ホンジュラスでは地震はないのでしょうか。

セルナ お隣のニカラグア、グアテマラ、エルサルバドルでは度々大地震が発生していますが、ホンジュラスでは犠牲者や深刻な被害が出るような地震は起こっていません。

元谷 ホンジュラスは一帯一路への支持を表明しているのでしょうか。

セルナ いいえ、まだしていません。

元谷 それが正解だと思います。マレーシアのマハティール首相が一帯一路関連の事業を中断しましたが、パキスタンやモルディブでも一帯一路路線の見直しが行われています。中国は一帯一路の整備のためにお金を貸しますが、中国自体の信用度の低さから、その提供資金の金利が非常に高くなっています。

セルナ 中国からの資金には多くの条件があるようです。

元谷 これからも一帯一路の前途は多難でしょう。中国の資金に頼らず、様々な問題を克服しながら経済発展を実現していくべきなのです。ホンジュラスの人口は約九百万人ですから、発展に向けて何通りものシナリオが考えられます。まず賃金の安い労働力を使って、工業立国を達成することも可能でしょう。中国の経済発展の原点は農民戸籍の安い労働力を使って世界の工場となったことです。しかし近年賃金が上昇してきた結果、生産拠点がベトナムやミャンマーなど、さらに人件費が安い国へと移動しています。まず賃金を低く抑えられる段階では、それを利用できる産業を急激に伸ばすのです。

セルナ その通りですね。

元谷 国造りの方針が明確な国が発展します。日本は江戸時代からの教育水準の高さをベースに、明治時代になって殖産興業を推進し、強国になって世界の植民地を開放する戦争を起こしたのです。戦争には負けましたが、日本の戦いのおかげで植民地は無くなり、人種平等の世界が実現しました。日本も協力しますので、ホンジュラスも明確な国造りの方針の下に発展していって欲しいと願っています。

セルナ わかりました。

元谷 また周辺国、地域との関係も重要です。中国は事実ではない捏造の歴史(南京大虐殺)で日本を批難し続け、その一方で国家主席の任期を撤廃した習近平は、世界覇権を目指した拡張路線を歩んでいます。

セルナ その一環としての南シナ海の状況を注意深く観察する必要があります。

元谷 そうなのです。そんな状況ですから、自国の安全は自分で守らないと。それは日本もホンジュラスも同じでしょう。日本は憲法を改正して独立自衛の国となるべきなのです。ホンジュラスにはこれからも日本語がわかる人を育ててもらい、日本から観光客が訪れたり、企業が進出したりする土台を築いていただきたい。そして経済的にも文化的にも、日本との良い関係を深めていければ。ホンジュラスを訪れることがあれば、ぜひエルナンデス大統領にもお目にかかりたいと思います。

セルナ もちろんです。必ず会合が手配されるようにします。

元谷 最後にいつも「若い人に一言」をお聞きしています。

セルナ 近代になってから物事の変化が凄まじくなっています。そんな中でこそ、歴史や伝統を見直して、それに力を与えることが大事です。さらに技術革新の流れにも遅れを取らないように。「来し方」をしっかり見据え、「行く末」にも対応する。これを実践して欲しいと思います。

元谷 その通りですね。今日は本当にありがとうございました。

セルナ ありがとうございました。

対談日 2018年12月19日