Essay

藤誠志 旧自民党政権時の事は踏襲せず国益に適う安倍談話を出せ

藤 誠志

日米合同の防衛訓練が中国に対する牽制になる

 野田政権が尖閣諸島の国有化を発表したことに端を発した中国の反発は、世界の常識を超えるものだった。特に中国全土で行われた反日デモは凄まじかったが、これは官製デモだ。それが証拠に、八十一年前に柳条湖事件が起きた九月十八日にデモが最高潮に達した後、当局がデモの自粛を呼びかけると一気に収束に向かい、それから早くも一カ月半が経とうとしている。デモは行われなくなったが、その後も尖閣諸島周辺の日本領海に中国の漁業監視船が侵入を繰り返すなど、海上保安庁との鬩ぎ合いは激しくなる一方だ。
 そんな中、十月十三日の産経新聞の一面には「沖縄離島で奪還訓練」「自衛隊と米軍、来月実施」という見出しが踊っている。「日米両政府は十二日、来月の日米共同統合演習(実動演習)で、沖縄県の無人島を使い自衛隊と米軍の島嶼防衛訓練を行う方針を固めた。事実上の離島奪還訓練で、国内の離島での共同奪還訓練は初めて。中国による離島侵攻の脅威が高まる中、事態が起きる危険性の高い沖縄での訓練が不可欠と判断した。訓練を通じ日米共同対処能力を高め、沖縄県・尖閣諸島をめぐり高圧姿勢を強めている中国を牽制する狙いがある」「共同統合演習十一月上旬から中旬にかけ、九州・南西方面を中心に全国各地で実施する。日本側は陸海空三自衛隊、米側は陸海空軍と海兵隊が参加。主要な訓練は(一)島嶼防衛を含む海上・航空作戦(二)弾道ミサイル対処(三)統合輸送‐になる見込みで、部隊や艦艇、航空機が各基地と海空域に展開する」「島嶼防衛訓練は沖縄県渡名喜村の入砂島で行う。那覇の西北約六〇キロにある無人島で、米軍は島を『出砂島射爆撃場』と呼称し、戦闘機やヘリコプターによる爆弾投下訓練などに使っている。訓練では島嶼防衛の中核である陸自西部方面普通科連隊(長崎)と、在沖縄の主力戦闘部隊の第三一海兵遠征部隊(三一MEU)が中心になる」「島が敵に占拠されたとのシナリオで、洋上からボートに分乗し、上陸作戦や敵部隊襲撃などを訓練する。陸自と米海兵隊は九月、米グアム島やテニアン島で離島奪還訓練を実施。島を使った共同訓練はそれが初めてだったが、今回は舞台を沖縄に移し、尖閣や先島諸島での事態を念頭に部隊の展開方法も確認する」という。これまでアメリカは尖閣諸島は日米安全保障条約の適用範囲内だと言う一方で、領土問題には介入しないと表明するなど、どっちつかずのスタンスを保ってきた。しかし今回米軍が自衛隊との沖縄離島での共同訓練に踏み切ったということは、行き過ぎた中国の反発に歯止めをかけようという意図があるのではないか。

中国の過剰反応を生み出す太子党と共青団の対立

 中国があれだけ暴動を煽ったり、領海侵犯を行ったりと尖閣諸島の国有化に対して反発した背景には、この十一月に予定されている中国共産党大会で、胡錦濤氏の後任として新たな党の総書記に習近平氏が就任することがある。習近平氏は前総書記でここのところ元気を取り戻してきた江沢民氏の流れを汲む太子党(中国共産党高級幹部の子弟グループ)の一員であり、共産主義青年団(共青団)出身である胡錦濤氏とは一線を画する。中国の政治では、常に背後で太子党と共青団との争いが行われているのだ。江沢民氏は国家主席、党総書記から退いた後も、人民解放軍の最高決定機関である党中央軍事委員会の主席の座に二年間に亘って居座り続けた。これに倣って、胡錦濤氏も国家主席と党総書記は習近平氏に譲っても、軍事委主席だけは譲らず権力を維持する可能性がある。胡錦濤体制になって十年、彼は多くの軍幹部を登用することで自らの勢力拡大を行なってきたが、軍部でも強力な太子党の力を一掃するには至らなかった。共青団と太子党は、軍内部でも権力争いを行い、利権を奪い合っている。この争いの一環として、日本に対する厳しい姿勢を示すことで権力を維持したい胡錦濤氏を、結果的に尖閣諸島日本国有化を招いたと江沢民・習近平グループが責め立てているのである。そして両陣営とも最後に行き着くのは、強く出ても反撃してくる恐れのない日本を競うように叩くことだ。この勝敗は共産党大会で胡錦濤氏が軍事委主席を維持できるかどうかで決まる。
 あれだけ反日デモという暴動によって日系企業に被害を与えながら、中国政府は「その責任は日本が負うべき」と賠償に一切応じようとしない。鄧小平氏が松下幸之助氏に嘆願、三顧の礼で迎えたパナソニックの中国工場にも被害が及んだのである。恩知らずと言われても、反論のしようがないだろう。日系企業に対して行われた「破壊工作」に対して、近代国家がやることではないと世界各国で中国に対する不信感が募ってきている。この流れの中での日米共同訓練は、中国に対して大きなプレッシャーになるだろう。中国経済は今年GDPの伸び率が八%を下回り、あらゆる経済指数も悪化してきて、中国バブルの急速崩壊を抑えるために、また金融緩和策をとってきた。その結果、生活物価の上昇が低層社会の人々の不満を生み、抗議デモ・暴動・官民衝突はこれまで八万件とか言われてきたが、最近の状況は年間二十万件以上となってきて、中国共産党政権崩壊前夜の様相を呈してきた。反日デモが格差社会に対する不満のはけ口であり、習近平氏が党主席に就任することは太子党体制を続くことを意味するからである。
 十月に東京で四十八年ぶりに国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会が行われた。中国などの新興国からの要請を受け、二〇一〇年にIMFは改革を行うことを決定、新興国の出資比率を引き上げ議決権を強化、新興国や途上国の理事も増やすことで合意していた。しかし十月十三日の産経新聞の経済面には「米『中国の発言力』警戒」「出資比率など改革先送り」という見出しの記事が掲載されている。「国際通貨基金(IMF)・世界銀行年次総会の全体会合が十二日、東京都内で開かれ、新興国の出資比率拡大などIMF改革の実行については、目標としていた今回の総会に間に合わず、先送りされた。最大の出資国である米国の同意が遅れたためで、改革の実行は十一月の米大統領選後になる見通しだ。手続きに慎重だった背景には、中国の発言力拡大に対する根強い警戒感がある」「米国が同意を遅らせてきたのは、中国が自国の利益を追求し、経済危機などへの対応で歩調を合わせない懸念が消えないからだ。実際、中国は世界経済の重要課題を議論する今回の総会で、日本の尖閣諸島国有化に対抗して閣僚級の参加を見送り、世界経済の主要プレーヤーにふさわしくない無責任さを露呈した。中国の無謀な振る舞いが目立つほど、米国の警戒感は強まり、改革が先送りされる可能性がある」。
 十月に中国海軍初の空母「遼寧」を本格配備するなど急速に軍事力を強化する中国に、アメリカが警戒感を高めていることは明らかだ。同じく十月十三日の産経新聞の国際面には、「米空母二隻インド洋演習」「対中牽制?中国空母は初出港」という記事があった。「米第七艦隊は十二日、海軍横須賀基地(神奈川県)を拠点とする空母『ジョージ・ワシントン』と米本土が母港の『ジョン・C・ステニス』の空母打撃群(空母部隊)をインド洋北東部アンダマン海に展開し、統合軍事演習を行った。インド洋で影響力を強める中国や混乱が続く中東情勢をにらんだ動きといえそうだ」「米海軍は、空母二隻がアンダマン海で統合軍事演習をするのは恐らく初めてとしており、『相互運用性の向上に加え、人道支援から戦闘任務に至るあらゆる軍事行動への準備に不可欠だ』と強調した。演習では、飛行訓練や海上、対潜水艦訓練を行った」「中国は、スリランカやパキスタンなどインド洋周辺国で港湾建設に協力し、艦船を展開する拠点の開拓を進めている」「中国メディアによると、中国海軍の空母『遼寧』が遼寧省の大連港から十二日、初出港した」という。

冷戦終結から二十数年真の歴史に目覚めるべきだ

 このような東アジア情勢の中、先の自民党総裁選において安倍晋三氏が再び総裁に選出されたことで日本維新の会も石原新党もかすんでしまった。中国の理不尽な反日デモがなければ、自民党は覚醒することなく、石破茂氏あるいは石原伸晃氏が総裁に選ばれ、日本の行く末が非常に不安定なものになっただろう。選ばれて安倍氏が総裁になった以上、単独政権を樹立すべく、次の総選挙では圧勝を期すことが自民党には求められている。一度は下野し再び政権を担う立場となる新生安倍自民党政権は、これまでの旧自民党政権時のことは全てリセットし、中国や韓国、北朝鮮、アメリカ、ロシアなど、対外的な配慮で言えなかったことを一気に主張すべきだ。これまで政府を縛ってきた『河野談話』や『村山談話』を踏襲しないことを宣言、『南京大虐殺』や『従軍慰安婦強制連行』もきっぱりと否定すべきである。『旧日本軍の遺棄化学兵器』が中国で問題になっているが、終戦時に日本軍はこれらの兵器を中国軍にきちんと引き渡しており、遺棄したのは中国軍であることを明確にしなければならない。『近隣諸国条項』などで自国の教科書ですら他国に配慮しなければ作ることができない状況からの脱却も図る。これまでのように、靖国だ南京だと一つずつ語って全てのメディアからの総攻撃を受けるより、真実に従ってこれまでタブーとされていた、メディアが批判する全てを明らかとし、一気に全てを争点として取り上げて総選挙に臨めば、メディアの矛先が分散して、多くの国民の支持を受けることができるだろう。総選挙で圧倒的な議席数、出来れば三分の二を超える議席を得て勝つことで、安倍氏が主張する、日本人の多くの人が悲願とする「戦後レジームからの脱却」に大きく近づくことができるのではないだろうか。
 第二次世界大戦がそのまま世界赤化を巡る第三次世界大戦へと発展し全てのヨーロッパもアジアもソ連の傘下とされないために、かつてアメリカは広島と長崎に原子爆弾を投下してソ連の動きを牽制、世界大戦を冷戦に変えた。その冷戦が終結して二十年以上経った。そろそろ日本は真の歴史に目覚めるべきではないか。私がこれまでに会って話した三十カ国以上の大使が支持する真実の主張を、一部の国の一時的な反発を恐れることなく国益に適った安倍談話として発表すべきである。真実の主張をすることで、日本の再興を図るのである。私は日本人に誇りを取り戻すために「真の近現代史観」懸賞論文を四年半前に始め、その第一回目では第二十九代航空幕僚長である田母神俊雄氏が最優秀賞を獲得した。この受賞は田母神氏の航空幕僚長からの更迭などで大きな話題となったが、田母神批判一色の新聞やテレビとは異なり、インターネットでは多くの人々が田母神氏の主張を支持した。これまで、第二回には慶應大学の憲法学講師で明治天皇の玄孫である竹田恒泰氏、第三回には長年に亘って遺骨収集をしてきた戦後問題ジャーナリストの佐波優子氏、第四回には理学博士で放射能防護学を研究する高田純氏が選ばれ、それぞれ大活躍中である。本年の第五回は元海上保安官の一色正春氏が審査委員全員の支持で選ばれ、その時代時代を代表する人が選ばれてきた。また昨年からスタートした『勝兵塾』には、世界二十六カ国の駐日大使や二十三人の国会議員、大学教授、弁護士、ジャーナリストなどの皆さんが講師特待生として入塾。毎月第三木曜日の例会では、五~六人の講師による講話が行われ、参加者が非常に熱心に、真実の歴史を学び、広めようとしている。この『勝兵塾』も四月には金沢支部ができ、十二月四日には関西支部が出来る予定となっている。いずれこの塾生から首相を輩出することが、今の私の大きな目標である。

中国の分裂が迫る今、力の備えが急がれている

 今年のノーベル生理学・医学賞を京都大学の山中伸弥教授が受賞、日本人として十九人目のノーベル賞獲得者となった。これは日本民族の優秀さの現れだ。ノーベル文学賞は中国の莫言氏に決まったが、国家政権転覆扇動罪で服役中の劉暁波氏への二〇一〇年のノーベル平和賞の授与に関して中国政府は猛反発しているため、中国政府公認ということであれば、これが中国人として初めてのノーベル賞受賞ということになる。今回の中国政府の対応は劉氏の場合とは全く異なり、莫氏に対して中国外務省の報道官が敬称をつけるなど、露骨に祝意を表している。しかし莫言氏は記者会見で「劉暁波氏ができるだけ早く自由を得ることを望む」などと発言しており、中国当局は対応に戸惑っているだろう。こんなところにも中国の綻びが見え始めている。共産党一党独裁で中国を治めていくには、もう限界が来ているのではないだろうか。懸命に延命を図っているのは明らかで、その一環として競うような日本叩きを行なっているのである。さらに情勢が悪化し、内乱、分裂となると日本にもっと酷く当たって来る者が政権を取り、大きな悪影響が及ぶことは間違いない。これに対応するために、独立自衛の国を目指して新憲法を作り、国に誇りを持てる教育を行わなければならない。世界はバランス・オブ・パワー、力の均衡によって平和を維持している。「平和を求めるなら、戦争の準備をせよ」とは古代ローマの言葉だそうだが、これが正に今の日本に当てはまる。隣国の分裂騒乱状態が刻々と近づいている。日本はそれに早急に備えなければならないだろう。

10月19日午後2時40分校了